表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
336/408

65:『 2 』ユリシス、またこの場所からあの二人を追いかけている。

5話連続で更新しております。(5話目)

「61:『 2 』ユリシス、ノアと箱船。」が最初の投稿です。

ご注意ください。



ここは、教国の、真っ白な隠れ部屋。

ザーザーと、壁から流れる聖地の水が、床の窪みを伝い、部屋全体に神聖なまじないをかけている。

人口的でありながら緑色の植物も植えられている。

“豊女王の殻”のある空間と隣接した、地下庭園以上の教国の心臓部と言っても良い。


この部屋がどこにあるのか、それは教国の設計図で知る事は出来ない。

様々な複雑な術式のもと、この部屋へ辿り着く結界を通過できるようになっているのだ。


キキルナは、そこに寝かせている。

何重にもかけた、僕の結界の中で。

確か、前にマキちゃんもこの部屋で、乱れた魔力を整えた事があるのだとか。


黒い亀ブラクタータが、のそのそと、その白い床を歩み、溝の水を首を伸ばしていた。



「で、どうだった…………ミラーロード」


「……キキルナの“記憶”には、確かに誰かに呪いの種を植え付けられる言動があったようですが、相手の姿は、まるでマジックで黒塗りにされているかのように見えません。流石に、記憶から消されていますわ」


「……そうか」


肩もとに浮かぶ、鏡を抱いた髪の長い精霊に、僕は問いかけた。

鏡の精霊、ミラーロードだ。

ノアに預けたミラーシードとミラーロードは、合わせ鏡の双子の精霊。


ミラーシードにキキルナの姿とキキルナの人格をコピーさせた際、ミラーロードにキキルナの記憶を少しだけ覗かせた。

しかし、大事な事は何一つ分からず。相手も、最初から様々な手を打っている。


「本当に、キキルナは、目を覚ますかな」


ペルセリスが、若草の上に横たえられているキキルナを見つめながら、不安そうにして呟いた。


「分からない。乗っ取っている肉体が死ななければ、青の将軍の魂は解放されないというリスクがある以上、僕は、可能性的には低いと思っているけれど……」


ただ、青の将軍は、あまり嘘をつかないというエスカ義兄さんの言葉を思い出した。

一つの魂を消失する事で、肉体を解放する事など、方法はあるのかもしれないが……


「ユリシス……行っちゃうのね」


ふいに、ペルセリスが僕を見上げて。

それは、かつての妻エイレーティアにも問われた言葉だ。


「……ああ」


「……」


「だけど、絶対に戻ってくるよ。トール君とマキちゃんを連れて……」


「そうだね。二人が居るんだもんね」


ペルセリスはニコリと笑って、まるで不安な様子を見せる事も無く、僕に抱きついた。


「不思議。“前”は、不安で仕方が無かったのにね。今度は全く不安ではないの。そりゃあ、怪我しないかなって心配はあるけれど……でも本当よ。ユリシスをここに引き止めておく事の方が、もっと不安。何もかも駄目になっちゃいそうで」


「……ペルセリス。だけど、僕は不安だよ。君をここに置いていく事になる……」


「私は大丈夫。母は強いのよ!」


顔をひょこっとあげて、ペルセリスは何だか凄く自信のある表情をした。

その様子は、強いというよりは愛らしい。


「ここで、教国を守るわ。大丈夫……私だって魔王クラスだもの。それにスズマも居るし……オペリアを守らなくちゃ」


「……」


「寂しいけれど……待っているわ。みんなルスキア王国から居なくなっちゃって本当に寂しいけれど……でも、大丈夫。今度は、大丈夫よ。みんなで戻ってきてくれるって信じてるもの」


大丈夫、と言って笑顔を向けながらも、少しだけ潤んでいる彼女の瞳。

さらっと、彼女のオリーブ色の髪を撫でた。あまりの愛おしさに、頬を両手で包んでお互いの顔を近づけ……


「おい、俺が居るぞ!」


「……ん?」


どこからか、この雰囲気の中あまり聞きたく無かった声が聞こえた気がした。

少し向こう側の白い壁をバックに、司教服姿のエスカ義兄さんの姿が。


なんか凄く不快そうな顔をして仁王立ちしているが、僕とペルセリスはぽかん。


「あれ……お兄ちゃん? いつ帰ってきたの?」


「さ っ き 帰 っ て き ま し た !」


ペルセリスの微妙にどうでも良さそうな声音に対し、エスカ義兄さんは断言。


「白賢者が北へ行くって言ったら、シャトマ姫様が、俺に一度教国に帰るようおっしゃられた。まあ……ずっと居られる訳じゃないが、頻繁に俺が帰ってきますよ。ここも心配だし……!」


「……ふーん」


「巫女様の反応薄っ!!」


軽くショックを受けているエスカ義兄さん。

せっかく戻ってきたと言うのに、ペルセリスと来たら。

ただ僕は、少しだけ気になる。


「しかし、エスカ義兄さん、もう怪我は良いのですか? かなり厄介な怪我をしたと聞きましたが……」


「はん。あんなのすぐに治るわ。俺様を誰だと思ってやがる」


イライラした様子のエスカ義兄さんは、鬱陶しいのかその司教装束の一つである帽子を取って、投げ捨てた。

彼の側によちよち寄って来ていたタータ。


「エスカーエスカー」


「はいはい……ったく」


エスカはイライラしつつも、子亀姿のタータを抱き上げた。

なんだかんだ、ここはやっぱり仲がいいよな、と思う。


「しかし、エスカ義兄さんがここに帰ってくてくれるのなら、僕は安心して北の大陸へ行けます」


「はん。本当は俺様が行きたいくらいだがな。戦争は血が騒ぐ」


「……」


「だが、今回はお前じゃないと駄目なんだと、シャトマ姫様も言っておられた。……あの方がそう言うんなら、そうなんだろうよ」


少しだけムスッとしていたエスカ義兄さんの言い草だが、僕は色々な後押しでこの大陸を出て行けるのだと思うと、嬉しい。


それだけで、かつての自分とは違うのだと思わされる。


「ほら、さっさと行きやがれ。ちんたらしてる暇なんて無いんだぞ」


「そうだよユリシス。教国の事は、任せておいて。トールとマキアを、追いかけて……」


エスカ義兄さんとペルセリスの言葉が、身にしみる。


「はい。追いかけてきます。あの二人を……」


思わず二人に頭を下げてしまった。


「……」


ああ、そうか。と、思った。

僕はまた、あの二人を追いかけて、北の大陸へ行くのだ。


この聖域から、司教様と巫女様に命じられ。

少しずつ関係図は変わっていても、二千年前から変わらないのは、僕がここから、あの二人を追いかけると言う事。


今度はあの二人を討ちに行くのではなく、仲間として助けにいく。


何だろう。

それが、僕には泣きたくなる程嬉しい事だった。









教国を去る前に、次代“緑の巫女”のオペリアの部屋へ向かい、オペリアとスズマの顔を見ておきたいと思った。


「あ、パパ」


「……スズマ。オペリアは寝ているかい?」


「うん! ぐっすり寝ているよ」


僕は一度オペリアの寝顔を見つめ、その頬を撫でる。


「可愛いよねえ」


と、ゆりかごを覗くスズマが。

僕はクスッと微笑んみ、スズマの側にしゃがみ込んで、スズマの手を取った。


スズマはきょとんとしていたが、僕が何か大事な事を言うんだなと分かっていたようだ。


「スズマ、僕はしばらく、北の大陸へ行くよ」


「……北へ? ここから居なくなっちゃうの?」


「そう。ここを留守にするんだ。……スズマ、良いね。お母さんを助けて、妹を守るんだ。エスカ義兄さん……師匠や大司教の言う事は、ちゃんと聞くんだよ」


「うん。……分かっているよパパ」


スズマが納得するのは早かった。コクンと頷く。


「だけど、もし何かあったら自分の身を、ちゃんと守るんだ。何より大事なのは、自分の命だからね」


「……うん」


二千年前も、こんな風にシュマに色々と言い聞かせたっけ。

だけど今、何より念を押すのは、自分自身を守れと言う事。

スズマに何かあったなら、例えペルセリスやオペリアが無事であれ、誰も救われない。


「大丈夫だよパパ。僕は魔法も、少しだけ使えるようになったもの。ママとオペリアを守るよ。エスカ師匠と一緒に。でも僕、逃げ足も早いんだよ……? 何かあったらとりあえずさっさと逃げろって、他人の事なんて二の次よって、マキお姉ちゃんが言ってた。しっかり者よりちゃっかり者が一番長生きすんのよって。前に、僕の居たオアシスで」


「……」


スズマの言う言葉は、確かにマキちゃんの口調で脳内再生され、僕はぷっと吹き出す。


「はははは!! ……そうだね……っ。大丈夫だね、君は。マキちゃんの教えがあるもんね」


思い切り笑って、握っていたスズマの手を、より力強く握った。

小さなスズマの手は熱く、彼が生きている事をより強く実感する。


あの冷たい水の棺に入っていたシュマとは、違うのだ。

僕が初めてシュマの遺体を見つけた時、あの殻の器にすでに魂は無く、この世に転生を果たしていた事になると言う事なら、何だか救われる気分だ。


一度、逞しくもちゃっかり者の我が子を、しっかりと抱きしめた。


「パパ……どこかで僕を助けてくれたマキお姉ちゃんに会ったら、また会いたいよって、言っておいて。あ、あと、トールお兄ちゃんも」


「……トール君はついでか」


僕が何も言わなくとも、スズマには、僕が二人に会いにいくのだと言うのは、会えると言うのは、何となく分かっていたのかもしれない。

本当に不思議な子だ。





僕は、またこの場所からあの二人を追いかけている。

今度は敵としてでは無く、彼らを助ける為に。



旅立とう。

今世はまだ見ぬ、僕ら三大魔王の巡り会い、長い時を戦ったあの北の大地へ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ