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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
33/408

25:トール、直撃を受ける。


俺はトール。


御館様についてカルテッドへ行く事になった俺。

一ヶ月の間カルテッドとデリアフィールドを行き来するらしいが、この事に猛烈に反対したのがマキアだ。

彼女は珍しく御館様と奥様の前で喚き散らし、やがて部屋に籠った。




「………おいマキア、入るぞ」


部屋をノックしても返事が無いので、俺は小さくため息をついて彼女の部屋に入る。


入ったとたんギョッとした。

何とマキアは、ベットの上のふくれあがった毛布の中に篭城しているらしい。


「…………」


おい、子供か。


「えーと………マキアさん、起きてますか?」


ふくれあがった毛布をつつきながらそれとなく声をかけると、下の方から勢いよく足が出てきて、あろう事か俺を蹴飛ばしやがった。

結構鋭くわき腹にヒットした。


「いってー………お前………不意打ちかよ」


「何よ、あんたどうせカルテッドの仕事に行くんでしょ」


マキアの声はどこか刺々しく、早口だ。


「仕方が無いだろう。御館様を一人で行かせる訳にはいかないし。………お前は知らないかもしれないが、カルテッドは結構危ない所なんだ」


「だって……だってそしたら、一ヶ月もあんた居ないじゃない」


「……あのなあ」


蹴飛ばされた場所から立ち上がり、いまだにダンゴムシ状態であるマキアの、その鉄壁の毛布を剥ごうとした。

しかしこいつも強情な奴だ。

引っ張れど引っ張れど、なかなか彼女の一部も見る事が出来ない。


「おいマキア、お前良い歳こいてみっともないぞ。ちょっとは俺離れしろよな!!」


「まだ13歳だもん!!」


「おいてめえ、こんな時だけ子供ぶるなクッソばばあああ!!!」


たまに忘れそうになるが、俺たちは一応前世の記憶と精神を引き継いだままこちらの世界に転生した。

しかしやはり、周囲の反応に気を使ったり子供らしく振る舞ったりしてしてきたせいで、どこか肉体年齢相応な態度を取ってしまう時もある。


「地球でのお前はもっとクールで枯れきった、それはそれは若者らしくない嫌な女だったぞ!! お前、あっちの親が死んだ時だってそんな………」


「うるさいわね!! それでも私たちはずっと一緒に居たじゃない!!」


団子毛布の中からまた足が飛び出してきた。

俺を蹴飛ばそうとしたらしいが、二度も同じ攻撃を受けるほど俺は無能ではない。


「はい、つーかまーえた」


ぱしっとその足を掴み、そのまま毛布の中から引きずり出した。


「わはははは、大物が釣れたぞ」


「ぎ、ぎゃああああ、やめてやめて!! スカートがめくれ上がる!! 変態変態!!」


「おいやめろ、13歳に興味は無い」


マキアはスカートを抑える為に毛布を手放した。

こちらとしては計算通りだ。


すっかり髪の毛をぐしゃぐしゃにしたマキアが出てきた。


「う、うわあ………伝説の紅魔女はやはりやまんばだったか………」


「うるさい、くたばれ!!」


マキアは俺に掴まれていた足を自力で振り離し、雪崩のように落ちている毛布を丸ごと掴んで俺に投げてきた。

どこまでも暴力的な女だ。


「おいおいおい、まだやる気かよ」


「ふん、良いわよ。別に好きにすれば良いじゃない、どこへでも勝手に行きなさいよ」


マキアはやまんばのごとく乱れていた髪を手櫛で整えながら、ツーンとしている。


「はい分かりました。じゃあ行ってきます」


「……」


と、俺が背を向けると、それはそれは並々ならぬ殺気を送ってくるくせに、どこへでも行けとか言うんだもんな。


「……何」


「……」


「……なんですか、マキアさん」


「別に」


「……」


おいおいやめろ。急におとなしくなるな。

しおらしくなるな!!


「……はあ。何なんだよ、何がそんなに不安なんだよ」


「だって……一ヶ月もあんたが居なくなった事なんて無いもん」


「別に、夜中には帰ってくるぜ、俺」


「夜中なんて寝てるわ」


「おい」


マキアはいそいそとベットに戻り、ごろんと横になった。

反対向きであるが、それを気にする余裕も無いらしい。膝を抱え完全にふてくされている。

西の紅魔女と呼ばれていた頃の威厳はどこへ行ったのやら。


流石に長年の付き合いだから、ここで放っておく訳にも行かないだろうと思い、俺は肩を落としつつ彼女の頭側に、浅く腰掛けた。


「何? 寂しい訳?」


「……ふん、思い上がらないで。あんたなんか居なくても、別に何も変わらないわよ。7歳まではあんた居なかったんだから」


「ふうーん……とか言ってさあ。実は寂しいくせによ〜。本当にマキアさんは……」


やっと落ち着いたから、ちょっと頭を撫でてみる。

そしたら何かが気に食わなかった様で、思いきり爪をたてて顔面を引っ掻いてきた。まさかの攻撃に俺も対処出来ず、直撃を受ける。


「いってえええええ!!! 何で、ちょ!! やめろって!!!」


「うるさい!! くたばっちまえ、アホ!!」


マキア再始動。

ここからは可愛げも無いくらいに酷いもんだった。


まず、俺をベットから蹴落とし、そのまま飛び乗ってきて引っ掻く、殴る、髪をむしる。噛み付く。

どこからどう見ても恐ろしい紅魔女で、その巻き毛が蛇のようにも見える。


完全にキレてる。


「良いわよ!! もう一ヶ月口きいてやらないから!!」


「それお前、自分の首締めて……」


「あーもーうるさいうるさーい!! 死ねっ!! 出て行け!!」


いったいその小さな体のどこから力が出てきているのか、まるで分からないが、マキアは俺を蹴飛ばしながらその部屋から締め出した。

最終的に部屋の鍵までかける徹底ぶりだ。


ここまでマキアがキレたのは、本当に久々に見た気がする。


「なんだよ、ったく……」


ああ、体中が痛い。

情けない話だが、13歳の小娘に酷い目に合わされた。


「おい、本気で一ヶ月の間、口をきかない気かよ」


「……」


閉め出された扉の向こう側のマキアに声をかけてみたが、返事は無い。

さっそくその“口きかない月間”は始まっているらしい。


「わかった。お前それでいいんだな。……結構」


ここまでされると、俺だってムキになってしまう。本当は、あいつが俺を引き止めると言うなら、カステッドの件を短期間だけにしてもらって、ヨーデルさんと交代で御館様についていく提案をしようと思っていたが、こうなったらやけだ。


一ヶ月フルで働いてやる。


「……ったく」


俺は大人げなく扉の向こうのマキアを睨んだ後、ぶつくさ言いながら、ボロボロの体を確かめその場を去ったのだ。


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