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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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55:『 3 』マキア、リリスの髪を切る。


私はマキア。

西の大陸を、トールと一緒に調査していたのだけど、リリスとダリと言う不審な奴らと出会ってから私たちの状況は一変し、今、レイラインの王宮にいる。


私には役目がある。

巨兵であり、トワイライトの一族でもあるリリスの世話をする事よ。

そして、もし巨兵としてのリリスが暴走したら、私の血に命じ、リリスを破壊する事。




「……リリス」


レイラインにいたレピスが、リリスを始めて見た時。

彼女はその美しい顔を少しだけ歪めて、涙を流した。


レピスはリリスを知っているらしい。


「あんた、リリスに会った事があるの?」


「ええ……リリスはナタン叔父様の、娘です。我々が連邦から逃れる時、既に巨兵の研究の対象とされていました。……“あの場所”から、連れて行く事が出来なかった子です……」


「ちょっと待てよ。リリスはじゃあ、一体何歳なんだ? 見た所、5歳ぐらいかと思ってたんだが……」


トールはレピスの話に違和感を感じ、リリスの年齢について言及した。

確かに見た目の年齢では、5歳くらいに思えるけど……


「実際はノアとそう変わりません。ただ……研究の為に、止められていた時間が長いのです」


「……」


そう。

その時点で、あまりに人間離れしている。

この、リリスと言う存在……


リリスはレピスを見ても、何もピンとこない様子で、人差し指を口にくわえて、もう片方の手で私のドレスを掴んでいた。

レピスだけはリリスの前にしゃがみ込んで、黒い瞳を揺らし、リリスの頭を撫でている。

その表情は、あまり見た事の無いものだと思った。






「マキア〜マキア〜」


リリスが私の名を呼びながら、長い髪をずるずると引きずり、前にあげたピンを持ってやってきた。

リリスは生意気にも、私の事を呼び捨てにする。


「髪じゃま〜……」


「ああ、長い前髪が鬱陶しいのね。ピンでとめて欲しいの?」


「うん」


リリスの髪は本当に長い。

髪が長いと魔法を発動しやすいとか昔から言われていたけれど。

この長さは異常で何のためにここまで伸ばされていたのか、私には訳が分からないわね……


「いっそのこと、髪を少し切っちゃおうか?」


「ん〜……いや」


リリスはなぜか拒否。

髪をいつも鬱陶しそうにしているくせにね。


「あんたそんなのじゃあ、前も見えないでしょう? 髪だってずるずる引きずってたら、痛んじゃうわよ? 確かに髪の毛は女の子の命だけど、せめて床につかない程度には切りましょうよ」


「……ん〜……うーん……じゃあ、いいけど……」


人差し指を口に当て、渋々了解するリリス。

最近、たどたどしくも色々と言葉を発してくれるようになった。





リリスの手を引きながら、とりあえずハサミをトールに借りに行く。

トールは私がハサミを借りたがると、微妙な顔をした。


「お、おい。お前が切るのか? ざっくり行っちゃうんじゃないだろうな?」


「ざっくりってなによ。ちょっと髪を切るだけじゃない。……ざっくりと」


「やっぱりな」


トールはレイラインの魔導波塔グランタワーの、最終稼働チェックの為に、せかせか働いている。

ちょうど一息ついていた時に、私が部屋にやって来た形だ。


恐る恐る、トールは机からハサミを取り出し、私に手渡した。

だけど相変わらず険しい顔をしているの。変な奴ね。


「おい、やるならここでやってくれ。心配で仕方が無い……リリスに怪我でもさせたら」


「なによ。私は地球にいた時、お金が無くて自分で前髪や後ろ髪を切っていたのよ。楽勝よ」


「……ほんと、枯れてたんだなあの時」


「うるさいわね。あんただって似たようなもんでしょ! どうせ千円の床屋でしょ!!」


「いや……俺はちゃんと美容室に行ってた……」


「……」


さてと。トールの空しそうな視線は無視して。

まあ確かに、あの時は相当枯れてたけれど……


「ほらほらリリス。この椅子に座って頂戴」


リリスを側の椅子に座らせ、タオルを持って来て前から肩にかけた。床にも大きなタオルを敷く。

リリスは思いのほか大人しくしていた。


「じゃあ、切るわよ」


「……ん〜……うん」


「曖昧な返事ね。動いちゃダメよ。怪我したら大変だから」


前髪にハサミをあてがい、最初こそ慎重に、一房を切る。

見た目は女の子とはいえ、巨兵だもの。髪が切れない程硬質だったらどうしようかと思ったけれど、髪はやはり髪。

リリスのはとても柔らかくて、さくっと切れて、さらさらと床に落ちた。


そこからは、じょきじょき前髪を切っていく。

もちろん刃物だから刃先は慎重に扱うけれど、何だか楽しくなって、前髪は一気に。


「あ、ちょっと切りすぎちゃったかしら……」


「おいおい」


「うーん、まあこんなものかしらね」


トールは心配で仕方が無かったのか。

座っていた椅子から立ち上がり、私たちの側に寄ってきて、じっと私がリリスの髪を切るのを見ている。


後ろ髪も、せめて床から10センチは浮くくらいに切った。

もっと切った方が良いと思ったけれど、どうにも長い髪を気に入っていそうだったから。


「よし」


私はリリスの肩にかけていた布を取り払った。


「更に幼くなったな」


「前髪ばっさりいっちゃったからね。まあ、でも可愛いじゃないのよ」


リリスの肩にくっついてた髪も床に落とす。

後で床を掃こうと思っていたのだけど、トールが自分の魔法を使って、リリスの髪を“再来工場リサイクル・ファクトリー”に送る。

床はすっかり綺麗になってしまった。


「リリスの髪を調べよう……巨兵から、普通の少女へ戻す方法を探りたい」


「……可能性があると良いのだけど……」


そうでなければ、おそらくリリスを、この先ずっと押さえ込む事は出来ないだろう。

それは、巨兵の力を封じている私だからこそ、なんとなく分かる。


真面目な話をしていたのに、リリスはきょとんとしてぴょんと椅子から飛び降りると、どこかへ行こうとしていた。


「あっ、ちょっと待ちなさいよ! リボンをつけてあげるわよ」


リリスをもう一度椅子に座らせて、私は頭の両サイドに、赤いリボンをつけてあげた。


「私のだから、赤いリボンしか無くて悪いけれど……ほら可愛い。前もすっかり見えるようになったわ」


「ピンは〜」


「あら、ピンもつけたいの? 欲張りね」


「……ピン」


リリスはひしと、長い前髪をとめていたピンを握りしめていた。

どうやらとても気に入っているらしい。それを受け取り、私はリリスの横髪をとめてあげる。

……実はこのピン、地球で、狩野先生から貰ったお金で色々買っていたとき、適当に百円均一で買ったやつよ、なんて今更言えないわね……


「よし、出来上がり」


私のその言葉を合図に、リリスは瞬きを二度程して、またぴょんと椅子から飛び降りた。

ててっとそこらを駆けても、くるりと回ってみても、床をずるずる引きずらない髪に何だかご満悦。


「おお……可愛いじゃないかリリス」


「……」


リリスはトールをジッと見上げた後、何かが恥ずかしかったのか、私の後ろに回ってぎゅっと太もも辺りのドレスを握っている。


「おいおい、前まで『お父さま』って呼んでくれてたのに……」


「何かが違うって分かっちゃったのよ。でもそっくりだから、混乱しているのね」


そっと、私の後ろから顔を出すリリスの頭を、私は優しく撫でた。

私は最初こそ小さな子供に触れる事が怖かったけれど、こうやって優しく頭を撫でる事が出来ている。


「……」


最近、少し分かった事がある。

リリスは大人の男が苦手だ。小さな子は基本的にそうなのかもしれないけれど。


女の私やレピスには特に警戒無く近寄ってくるけど、トールには最近こんな感じ。

トールの事はむしろ父親に似ていて好きなんだろうけれど、でも違う人だと分かったから恥ずかしがっている感じ。

ダリの事は極端に嫌っていたように思ったけど、まああれはマシな方なのかもね。

いつも「ボケがボケが」と言って、ダリを叩いたりしている。

そんな言葉、いったいどこで覚えたのかしら……


カノン将軍の事は単純に怖いみたいだ。

たまにはち合わせると、ビクッとしてすぐに私の後ろに隠れる。

おそらく、自分に最も敵意を持っている人だと分かっているのだろう。




「そろそろ飯時だぞ。リリスに何か食べさせてやれよ」


「あら。本当だわ。ん〜私もお腹が空いちゃった」


トールの提案に、人差し指を口にくわえているリリスと同じように、私も唇に人差し指を添えた。

単純にお腹が空いたのだった。


「なんか食べましょうかね」


そう言って、リリスを連れて部屋を出ようとした時。

思い切り扉が開いて、慌てた様子のライズが駆け込んで来た。


「黒魔王様!! 大変です!!」


「どうしたライズ。何事だ」


トールはライズの慌て様から、何かがあったのだと察して、真面目な顔になる。


「フレジールの小型戦艦フリストより、連絡が入りました。フレジールが……フレジールの王都が巨兵によって襲撃されました!!」


「……何!?」


「巨兵は撃退したものの、相当硬い巨兵だったらしく……シャトマ姫および教国のエスカ、共に重体との事。レジスオーバーツリーの破壊はかろうじてま逃れましたが、あの方が……レナ様が、連邦によって捕われ、連れて行かれたとの事……っ」


「……」


その報告は、決して、予想していなかったものではない。

こういう事は、可能性として十分あり得る事だった。


だけど、私たちはやはり驚いた。

あのシャトマ姫やエスカが、重体……?

傷を負ってしまったと言うの?


レナが……連れて行かれた?

連邦の狙いは、レナだったと言うの?


「フリストへお越し下さい。カノン将軍が、呼んでおります」


私はトールを横目に見た。

トールもまた、同じような驚きと疑問を持っていたのだろう。


そんな、表情だった。



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