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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
322/408

51:『 3 』トール、レイラインに戻る。

3話連続で更新しております。(1話目)

ご注意ください。

レイラインに戻ると、まず血まみれのマキアが周囲の魔族にぎょっとされた。

傷口は閉じつつあったが、それでも血まみれである事に変わりはないのだから。


「黒魔王様よくぞお戻りで……ぎゃあ、紅魔女!!」


出迎えてくれたライズなんてこうだ。

血まみれマキアは、それはそれは、かつての紅魔女を彷彿とさせただろう。


リリスはなんだかんだと言いながらダリに抱きかかえられ、今では大人しくしている。

疲れていたのか、人差し指を舐めながらくたっとして寝ている状態だ。


「ちゃんとしたベッドで寝かせた方が良いんじゃないの?」


マキアがリリスを少しばかり不安そうにして見ていた。


「なんだ、お前にしては他人を気遣うな」


「……だって、私の血を飲ませちゃったのよ。我ながら自分の血は恐ろしいわ。どこでどう作用するか分からないし……」


「ああ……」


なるほど、分からないけれどなんとなく納得。

とりあえずリリスを寝台へ連れて行き、横にさせる。

ダリも疲労と空腹でまいっているようだったから、別の部屋で休ませる事にした。

彼は決してリリスから離れないと言ったが、なんとか。


「私もお風呂に入らなくっちゃね」


マキアも血まみれだったから、まずは湯浴みを所望した。


「トールも一緒に入る?」


「……アホか。誰がそんな血まみれの女と。湯船が地獄温泉みたいになるわ」


「微妙な間があったわね」


マキアはクスクスと笑い俺を翻弄しながらも、湯船へと向かったのだった。

魔性の女め……






「私さっきね、魔力数値を見たのだけれど、リリスって普通のトワイライト並みの魔力しか無いわ。体内のラクリマによって、強制的に大きな力を抱え込まされているのよ。あまりにも、良く無い状態よね……」


「……なぜ、銀の王はこんなに幼い子供に、そんな酷い事を……」


「あの気の狂ったお嬢ちゃんに『なぜ』なんて聞いたってまともな答えは返ってこないわよ」


リリスの寝ている部屋で、湯上がりほっこりなマキアと共に小さな円卓を囲んだ。


俺たちはカノン将軍を待っているのだ。

まずは三人で、今の現状を理解して、把握し合いたい。


扉の開く音と共に、カノン将軍がこの部屋に入って来た。

変わらない厚手の軍服を着ていて、彼が現れるだけで部屋の空気がぴりっと強ばる。


「よお」


「……」


俺の挨拶も軽く無視される。相変わらず挨拶も無い無表情っぷりだ。

チラリと寝ているリリスを見て、眉根を寄せていた。


「微妙なのを連れて返って来たな……」


「あら、あんたこれが何なのか、一目見て分かるって言うの?」


「……女児だ」


マキアの問いには、簡素に答えた。


「そんなの誰だって見たら分かるわよ。愛らしい幼女ってことはね」


呆れ口調のマキア。

まあ、あまりに適当な答えだったからな。


「……巨兵だな」


「分かるのか」


「諜報員からフレジールにも話が入っている。連邦が人間を素材に巨兵をつくり出していると……素材にされたのはトワイライトの一族の幼い少女であった、と」


「……」


カノン将軍は席に着く事無く、鋭い視線を俺に向けた。


「この娘は殺せ」


「……!?」


「いずれ大きな災いの元となるだろう。こちらの手のうちにいる間に、殺した方が良い」


「ちょ、ちょっと待ってよカノン将軍! 今は私の血の力で、この子の力を押さえ込んでいるのよ? それでもダメだって言うの」


マキアが食ってかかったが、カノン将軍はその鷹のような瞳をすっとマキアに向ける。


「押さえ込んだ、ということは、一度暴走した、と言う事だな」


「……何が言いたい、将軍」


「レイラインは今、グランタワーの建造が急がれている。もしここでその娘が暴走して、グランタワーが破壊されたらどうする。レイラインから追い出したとして、連邦に見つけられても厄介だ」


「……」


カノン将軍の言う事は、実際とても的を得ていた。

そんな事は、俺にだって分かる。


「少し待ってくれ、カノン将軍。確かにレイラインに置いておくには、危険な存在かもしれない。だがまだ幼い少女である事に変わりはない。それに、リリスはナタン・トワイライトの娘だと聞いた。俺を見て、父と呼んだんだ……」


「……」


めそめそと泣いていたリリスを思い出す。

ただの巨兵だとは思いたく無い。トワイライトと言う事は、俺の子孫であり、俺のせいで今の状況にある哀れな娘だ。


「何とかして、リリスを普通の娘に戻す方法を探したい」


「何を言っている、黒魔王」


カノン将軍の切返しは早かった。

皮肉を感じる。


「お決まりの、哀れな娘を放っておけないというやつか。そうやって、お前はいつも何もかもを捨てる事が出来ず、最終的には最も大事なものを犠牲にする事になるのだ……」


「……」


何を言っている、と言いたいのはこっちだったが、何故か言葉が出てこなかった。

カノン将軍の口調からは、俺に対する呆れと共に、どこか憎悪すら感じる。


そもそも、これは前から感じていた事だが、お互いが勇者と魔王という前世の因縁を横に置いて仕事上の協力関係を築いていたとしても、こいつは俺の事を心底嫌っていると言うのが分かる……

いや、俺だって“勇者”に対しての憎しみを忘れた訳ではないが。


「ちょっとちょっと、話がズレているわよ」


出来てしまった沈黙に、マキアが口を挟んだ。


「そもそもトールが哀れな女の子を放っておけないのは、もう体質みたいなものと言うか、条件反射なんだから、諦めた方が良いと思うわよカノン将軍。あんたの言う事は、至極真っ当だけれどね」


「……」


「あんたたちって本当に対象的なのねえ……」


ぼやいたマキアの視線が、少しばかり宙を泳いだ。

心底そのように思っている、と言うように。


言われっぱなしの俺は、何を言い返す事も出来ず。


色々と言い分もあったが、俺ももう一国の王だ。

冷静に、様々な事を考えなければならない。とはいえ、あのような幼い娘を巨兵だからと無慈悲に殺せると言うのか?


いや、それはどう考えても、無理だ。


「なら、リリスを私に任せてみる?」


俺の複雑な表情を察してか、マキアが突然提案する。

なぜかドヤ顔だ。


「……は?」


少し遅れて、俺が反応。

マキアは口角を上げて、続ける。


「トールは甘いし、カノン将軍は厳しすぎるのよ。だから私が、その子を判断してあげる。いざとなったら、私が命令して、あの子の体内のラクリマを壊す。……それで文句無いでしょう」


「……マキア」


ラクリマを壊す、と言うのは、リリスを破壊すると言うのと同じ意味だ。

マキアがリリスの体内に入れた血によって、リリスの命は今、マキアの手のひらの上にある。

なんて恐ろしい魔女だ。


しかしこれが、カノン将軍との駆け引きの道具となった。


「……」


「……」


マキアとカノン将軍はしばらく睨み合ったが、カノン将軍はやがて小さくため息。


「……良いだろう。紅魔女、いざという時の線引きをはっきりと決めると言う事であれば、その提案を受け入れよう。連邦を揺さぶる道具にもなるかもしれないしな」


「線引きは、そうね……リリスがまたあの羽を出したら、でどうかしら」


「……羽?」


マキアの提示した線引きに、カノン将軍は問い返した。


「ああ。背中に入れこまれた魔導展開装置だと思われる。リリスはそれを開いて、空間魔法と巨兵としての力を展開する」


俺は以前見たマキアとリリスの戦闘から得た情報を示す。

リリスの背に生えた羽は、いわゆる魔導展開装置であり、魔法道具とも言える。

空間圧縮魔法により、背中に入れ籠んでいるのだろう。


カノン将軍は顎に手を当て、しばらく考えた後、「それで良い」と低く答えた。

リリスはかろうじて、生かされたのである。








ダリが起きたと言う事で、彼を会議の場に連れて来た。

リリスと再び対面できたダリは、「おおおおリリス」と彼女に寄って行ったが、マキアに引っ張られて席に着かされる。


俺たちはダリのおっさんに、例の研究施設の事を尋ねた。

円卓の上に、地図を広げながら。


「おっさん……あんたはこの西の大陸の北側に位置する、例の巨兵研究施設からやって来たんだろう? 俺たちはあそこへ向かっていたが、見えていても辿り着く事が出来なかった。いったい、どうなっているんだ」


「……」


ダリは低く唸ってから、地図を眺める目を細める。


「俺たちがいたのが、この針葉樹林だったな……」


研究施設よりもっと北側の針葉樹林を、ダリが指差した。


「はっきり言えば、西の大陸にいても決してあの研究施設にたどり着ける事は無い」


「……は?」


「そもそも、あの研究施設はただの幻影だ」


「……はああ?」


衝撃的な事を言われて、俺もマキアも、ぽかんとした。

カノン将軍の表情は相変わらず変わりようも無いが。


「ならなんで、あんたたちはあの針葉樹林にいたのよ! 研究施設から逃げて来たんじゃないの?」


マキアは少し声をうわずらせた。


「西の大陸のあの研究施設は、大掛かりな視覚的空間装置であり、目くらましの役目がある。また、それは大掛かりな“転移装置”でもあるのだ」


「……転移装置?」


「ああ。本来の研究施設は、北のエルメデス連邦および、周辺国家、またシャンバルラ王国に数多く存在する。そこから巨兵をこの大陸に転移させるための装置だ。俺たちは、その装置を使って逃げたのだ」


「……」


そう言えばと思って、シャンバルラ王宮の地下の研究所を思い出した。

苦笑いが出てくる。

まんまと騙されたのは、俺たちだったと言う事か。


確かにここ数ヶ月、あの施設へたどり着く為にあれこれ時間を費やしたっけ。

銀の王イスタルテの高笑いが聞こえてきそうだ。


「ダリ・トワイライト……」


カノン将軍が口を挟む。


「お前がトワイライトの一族であるならば、他のトワイライトの研究者たちはどこにいると言うんだ」


フレジールは、ずっとトワイライトの一族が捕われている場所を探していた。

この西の大陸の研究施設ではないと言うのなら、いったいどこだと言うのだろう。


「…………実のところ、俺にも分からないのだ」


しかしダリもため息まじりに、答えた。


「緻密な計画とタイミング、様々な協力者、また運によって、俺たちは転移装置より逃れる事は出来たが、実際、あの研究施設がどこにあったのかは分からない。全てを掴んでいるのは、やはり北の中枢……エルメデスの王都キルトレーデンにいる、王女やナタンを含めた幹部だけだろう。聞いた話によれば、唯一トワイライトの者たちのいる大研究施設に行ける転移装置が、キルトレーデンの王宮にあるらしい」


「……」


なんだかんだと言って、結局の所、全て北にあると言う事か……

俺は、今世まだ降り立っていない、あの大陸に思いを馳せる。


「……っ」


突然、ダリがまた泣き出した。

本当に涙もろいおっさんだが、その表情は悔しそうに歪んでいる。


「頼む……っ、お前たちがフレジールの使いだと言うのなら、一刻も早く、あいつらを助け出してくれ。もう、トワイライトの者たちは……俺たちは限界に来ている。リリスの件もそうだ……もう、誰も彼もがあの憎らしい連邦のおもちゃにされるのは、ごめんだ……っ」


切実で、悲嘆を帯びた言葉だった。


リリスの事を考えれば、連邦に捕われているトワイライトの者たちが今どのような切迫した状況下で生きているのか想像できる。

魔族にしたってそうだ。


なぜこうも簡単に、メイデーアの生きとし生けるものたちを、自らの楽しみ為だけの素材として扱える。


この世界の神だから、と、銀の王や青の将軍は言うだろうか。

ならば、神とは何なのだろう。


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