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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
321/408

50:『 3 』トール、 血だまりとマキアと。



リリスのいきなりの攻撃に、俺はマキアに覆い被さるようにして庇い、伏せた。


「……っ」


その攻撃は予想以上に威力のあるもので、俺の空間結界は僅かに割れて、いくつかの攻撃をくらってしまう。


「トール!!」


「……マキア、無事か……っ」


「わ、私は大丈夫よ。だってあんたが……あんた、血が」


マキアは俺の額から流れる血を見て、その形相を変える。

ぽたぽたと、俺の血が彼女の頬に伝った。


「……グリミンド、空間を移動しろ! 魔導要塞“白箱庭”を構成!!」


宙に浮かび、その長い髪をゆらゆらと揺らしながらも、どこかうつろな瞳をしているリリスを睨み上げて、俺はこの雲の煙突をプログラミングしている使い魔グリミンドに命令。


すると、俺たちは今いる部屋から雲の煙突経由で、別の空間に移動した。

ただの真っ白で、特徴の無い空間なのだが、何より硬度に特化した空間だ。


「リリス、リリス!!」


ダリが危なげに彼女に近寄り、名を叫んでいる。


「おいおっさん!! 近寄るな!!」


おっさんの目前に白い壁を構築し、リリスが無差別に放つ羽の刃を防いだ。


しかし、リリスはいったいどうしてしまったんだ。

さっきまでめそめそと泣いていたのに、いきなり……


「どんなに小さな体をしていても……巨兵なのね……」


マキアは複雑そうな顔でゆっくりと立ちあがり、指輪として身につけていた神器に命令をする。

それは長槍となり、戦いの女神の神器の真の姿となる。


「おい、マキア……っ」


「トール、あんたは怪我をしているのだから、無茶しないで。あの子は私がとめるわ」


「しかしマキア!!」


俺の呼びかける声よりも先に、マキアは槍を手に飛び出した。

リリスはすぐにマキアに反応し、マキアの動きを見極めようとしている。


リリスが瞬きを二度ほどした。


『百万mg越え確定……? 確かな数値不明……登録されている魔王クラス……該当無し』


何に戸惑っているのか、リリスの表情は少しばかり険しい。


『パラ・ハデフィス……および金の王の可能性あり。排除すべし』


しかし、リリスは誤った判断をする事になったようだ。

一体何が基準で、どういった判断だったのかは分からないが、マキアはそれを聞いて少しばかり口元に弧を描き、向かってきた羽の刃を神器で薙ぎ払う。


リリスの攻撃は、マキアの圧倒的な破壊力により塵にされたのだ。

バリバリと、お互いの魔力が相殺し合う音がする。


「あいつと間違われるなんて何だか微妙に微妙だわね……」


『!?』


トン……と、浮足場に降り立つ足音。

マキアは塵にまぎれて、一瞬でリリスの目前までやって来たようだ。

リリスに顔を近づけ皮肉な言葉を投げると、そのままマキアは、リリスの胸元に掴み掛かって押し倒すようにして浮足場から落とす。


二人が落ちる部分をとっさに柔らかい素材に変えて、俺は衝撃が彼女たちを襲わないようにした。


『!!!???』


リリスは身に起きた衝撃に混乱しているようだった。

マキアに押さえつけられる形で、骨張った羽を彼女の腕や銅、太ももに突き刺す。

どうにかしてマキアを上から下ろそうとしているのだ。


「……っ」


少しばかり、マキアの表情が歪んだ。だがマキアはツーと口の端から流れる血をぺろりとなめて、口元に弧を描きリリスに言う。


「その羽を、もらうわよ」


すると、マキアの体に突き刺さっていた羽が、みるみる砂と化した。

マキアの血が破壊の力をもってして、砂化するよう命令したのだろう。

さらさらと風のない空間に流れて行き、リリスは予想だにしない展開に瞬きも出来ないようだ。

そのうちにじたばたと暴れだす。


しかし、マキアはリリスを離す事は無い。


「あんた、巨兵なんだって? 可愛いのに、とても残念ね……巨兵は全部倒さなくっちゃいけないのよ?」


『……離せ……離せ……っ』


「おやすみ、リリス」


マキアは切なげな表情で呟くと、自らの腕をリリスの口元に押し当てた。

リリスは大きく口を開け、マキアの腕を激しく噛んだが、直後にその血を飲み込み、動きを停止させる。


「……」


まさか……マキアの奴、リリスを……


「マキア、お前……っ」


俺は少しばかりひやっとした心地で、静止したリリスとマキアの元に寄って行った。

ダリのおっさんが「リリス!!」と悲痛な叫び声を上げる。


「おいお前!! リリスに何をしやがった!!」


ダリのおっさんは俺を押しのけ、体のあちこちから血を流すマキアに掴み掛かって、動かないリリスに何をしたのかを問う。

マキアはダリに襟元を持ち上げられ、宙ぶらりんになった状態でペッと口から血を吐いて、「何って」と、いつもの様子で答える。


「リリスが巨兵なら、巨兵を動かす為のラクリマがあるだろうって思ってたんだけど、ほら、さっき着替えさせたじゃない? 見える所にラクリマは無かったのよね。だから、体内にあるのかなと思って、血を飲み込ませたのよ……」


マキアの言う事に、俺はすぐにピンときた。

同時に、マキアがリリスを殺した訳ではないのだと悟り、ホッとする。


「なるほど、目的はラクリマの停止か……」


「そうそう。巨兵の力と情報を封じたのよ」


マキアはコクンと頷いた。

ダリのおっさんは「は?」と意味の分からない顔をしていたが、そのうちにリリスが起き上がって目を擦り、先ほどのようにあくびをしたので、マキアをその場にぼとっと落として「リリス〜っ!!」と彼女の方へ駆け寄って行った。


「ひ、ひどすぎる……」


マキアは怪我よりも尻餅を痛そうにしていた。

俺だけは自らのハンカチを取り出し、マキアを心配する。

彼女の太ももから流れる血が一番目立っていたのでハンカチで拭い、傷口をそっと押さえた。


「おい、大丈夫か。……無茶をしたな。大量出血だ」


「このくらいなんて事無いわよ」


あちこちからたらたら血を流していたので、たった一つのハンカチでどうにかする事は出来ない。

ハンカチ自体も赤く染まってしまって、もともと赤いハンカチだったのではとさえ思える。

この程度ではどうにもならないので、俺は黒魔術師なりの治癒魔法を施す。

マキアはリリスに噛まれた腕を、ぺろりと舐めた。


「あんたが治癒魔法なんて使わなくても、もうそろそろ治り始めるわよ?」


「いつまでも血をたらたら流しても仕方が無いだろ。死なないからと言って」


「ま、血の気が多いから少しは抜いとかないとね」


「自分で言うなよ」


「ふふっ。あー、温かくて気持ちがいいわね〜治癒魔法って」


「温泉か」


いつもの言い合いで安心するやら呆れるやら。

なんだかんだと言って、マキアは俺に治癒魔法を施されるのが、嫌では無いようだ。

こんな時にユリシスがいてくれたら、一瞬で何もかもが治っちまうんだろうが……俺だとそうはいかないな。


さて、俺がマキアの治癒をしていた時、リリスとダリも何やら格闘していた。


「おい、リリス? 大丈夫か?」


「あ、あっちいけっ、あっちいけっ!! さわんないでーーっ」


「ああっ、やっぱり嫌われている!! 昔はあんなに懐いてくれてたのに!!」


「ダリ、嫌い嫌いっ!! あっちいけ!!」


ダリのおっさんに抱き上げられそうになるのを、リリスが暴れて拒否していた。

何だか、リリスがさっきよりよほど言葉を発している気がする。

表情もくしゃくしゃにさせて変化が激しく、歳相応の光のある瞳を持っている。


「つーかおっさん、なんでそんなにリリスに嫌われてんだよ」


「……む、無理矢理、圧縮空間に押し込んで研究施設から連れ出したからかな……」


「それだけ聞くと、とんでもない事件に聞こえるんだけど……」


さて、俺とマキアは顔を見合わせて「どうしようか」と。


「レイラインに……戻った方が良さそうだな」


「あら、その子を連れて?」


「そうだ。巨兵としての力を封じたとはいえ、色々と訳が分からない。このまま、このリリスとおっさんを連れて任務をこなす訳にはいかないしな……どうせ、今夜一度戻るつもりだった」


俺はダリのおっさんを横目に見る。

それにこの男が例の研究施設からやって来たのなら、色々と情報を持っているに違いない。

その情報を手に入れれば、より今後の計画が明確になるだろう。


白い空間に血だまりだけがある、この殺人現場みたいな空間を解除し、俺たちは雲の煙突経由で魔族の王国レイラインへと戻る事にした。


レイラインには、フレジールに通じる小型戦艦フリストもあるし、何よりカノン将軍がいる……


「でも私……あいつは、リリスを“壊せ”って言うと思うわよ……」


マキアは俺の表情から何かを察したのか、俺の考えより先にそう告げた。

俺は少しばかり唸ってから、空間の切り替わる感覚に身を任せていたのだった。

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