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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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48:『 3 』トール、簀巻きの正体。



いくつもの部屋と繋がっている魔導要塞、雲の煙突クラウド・チムニーを構築し、中にいる空間人にその簀巻きを運ばせた。

ここの空気は西の大陸の悪質なマギ粒子の影響は受けておらず、黒い簀巻きみたいなガスマスク野郎の身ぐるみを、遠慮なく剥ぐ事が出来る。


医務室のような部屋の、清潔なベッドの上に簀巻きが載せられる。


「さあ、やっちまえ」


白いマシュマロみたいな空間人たちに指示を出すと、空間人たちはコクンと頷いて、命令のままローブやらマスクやらを剥ぎ始めた。

俺はその簀巻きの正体を探るべく、凝視。マキアも俺の隣で凝視。


「ぎゃあああああああっ」


と、突然その簀巻きが暴れだし、奇声を発した。

ばたんばたんと暴れて、その姿を晒す。


「……げっ!?」


俺もマキアも思わず身構えたが、簀巻きから飛び出したものの正体が小汚いおっさんだと分かると、一周してがっかり。

おっさんは身ぐるみを剥がれながらも、何かを大事そうに抱えていた。


マキアが俺の袖を引っ張る。


「ちょっと、小汚いおっさんが出て来ただけなんだけど。おっさんの身ぐるみを剥いだだけなんだけど」


「残念だ……こういう時は普通美少女じゃないのかよ」


「ちょっとそれどういう意味よ。あんた美少女の身ぐるみ剥ぐつもりだったの? この変態、黒魔王!」


マキアは俺のぼやきを聞き逃す事無く、キッと睨みつけ嫌な事を言う。


「ベタな話をしたまでだ」


俺はさらっと受け流す。

そして、身ぐるみを剥がされキョロキョロしているおっさんに声をかけた。


「おい、おっさん。きょとんとした顔をしているが、ここは西の大陸からは切り離された空間だ。空気の事は気にしなくていいぞ」


「ここは……西の大陸じゃない……のか?」


「まあ、外に出れば西の大陸だがな」


おっさんはベッドの上に座り込み、俺を見上げて目を丸くしていた。

四角い顔の、体格の良い男だ。ひげ面で、歳は40代前半といった所だろうか。


「まさか、魔導要塞? お前黒魔術師か? その顔……トワイライトの者か?」


徐々に険しい表情になるおっさん。

俺の代わりに、マキアが尋ねた。


「何? あんた、トワイライトを知っているの?」


「当然だ。俺はトワイライトの連中が嫌いでね。貴様ら、俺を追って来たトワイライトの者か」


「はあ? このおっさん、さっきから意味不明なことを言ってるわよ」


マキアが、訳が分からないという様子でいる。

俺はおっさんに向かって首を振った。


「俺たちはたまたまあんたを見つけただけだ。別に、あんたを追っていた訳じゃない」


「……」


おっさんは警戒しつつも、ゴトンと、ベッドの上に何かを置く。

さっきからずっと抱きしめていた小さな黒い箱だった。


「……黒い……箱?」


俺が触れようとすると、おっさんはバッと箱を守る姿勢を取る。


「触れるな! お前が何者か分からない以上、お前は敵だ!」


「……」


俺はため息をついてから、上着の内ポケットに入れているルスキア王国の顧問魔術師としての証明章を取り出した。


「俺はルスキア王国の顧問魔術師トール・サガラームだ。くわえて、フレジールの正式な使者でもある。ちなみに言うと、トワイライトの一族の出じゃ無い」


「フレジールの? ……トワイライトじゃ……無い?」


おっさんは疑心に満ちた表情だった。

まあ、この見た目だとどう見てもトワイライトだからな……

しかしこいつは、ルスキア王国の顧問魔術師としての証明章と、フレジールの使者と言う言葉には反応を示した。


「おっさん、さっきからトワイライトトワイライトって……いったいどういう事だ。何をそんなに疑っている」


「……お前たち、“あの”研究施設を知っているか? 俺がいたはずの針葉樹林を抜けたら、すぐに見えるはずだが」


「ああ……あの、巨大な研究施設だろう? ……俺たちは、そこへ潜入しようとしている訳だが」


「フレジールの命令か?」


「そうだ」


「……」


男はじっと俺を見て、俺が信用できる奴なのか見極めようとしていた。

ただ俺の周りをうろちょろしたり、例の黒い箱をどうにかして覗こうとしているマキアが気になって仕方が無いようだ。


「おい、お嬢ちゃんやめろ! お前はいったい何者なんだ!」


「何者って……うーん……私って何?」


マキアは自分の立場がいまいち分かっていないようだ。まあ確かに、今のマキアはルスキア王国の顧問魔術師と言う訳でもないし、正式なフレジールの使者と言う訳でもない。

異世界からやってきた救世主、という言い方は、このおっさんには胡散臭い言葉でしかないだろうからな。

少し悩んだあげく、こう言った。


「こいつは俺の連れのマキアだ。仲間であり…………そうだな、恋人であり婚約者だ」


どやあ。

ほら、言ってやったぞ。俺にしてははっきり言ってやった。


おっさんは「で」っていう表情をしているが、マキアは大きな猫目を見開いて少しばかり驚いている。


「……トール、それって本当?」


だがマキアは微妙に小首を傾げて、いまいち信じていない様子。


「なぜお前が疑うんだ。俺がこんなにはっきりと言っているのに」


「本当?」


「……本当だ」


「もう一回言って? 大事な事なんだから」


「……お前は恋人で、婚約者だ。いっそ妻と言ってしまっても良い」


「……」


マキアはじわじわと頬を紅潮させ、少し遠くにいたのにたかたかと寄って来て、押し倒さんとばかりに抱きついて来た。

予想外の行動で、俺たちはそのまま倒れる。


「トール〜トール〜っ!」


「おいこら、こんな時に、何を!」


「あんた私のこと好きなの?」


「な、なんで今更そんな……」


「あら、大事な事よ?」


ドヤ顔で、さっきは言ってやったぞと思っていたのに、思いのほか直球で向かってこられた。

期待感溢れるマキアに押し乗られるとは思わなかった。


人の胸の上で頬杖をついて、「トール〜」と甘い声を出すマキア。


「そ、そりゃあ……お前……好きじゃなきゃこんな事言わないだろ……」


なんで俺がどぎまぎしてるんですかね。

黒魔王、今どこにいるんだ? 戻ってこい!!


「……」


ただマキアは嬉しそうに、ニーッと口に弧を描く。そして何度か、コクコクと頷く。

そのまま俺の上に突っ伏してぼそっと呟いた。


「私も大好きよ、トール」


「……」


「トール〜っっっ」


だ……誰だこいつ……

マキアはぎゅうと俺を抱きしめ、足をぱたぱたさせて悶えている。


一言で言おう。可愛い。


ダメだ。ダメだダメだ!

マキアが素直になったら勝てる気がしない!!


マキアが素直になったら勝てる気がしない!!!!!


どこへ行った、あのひねくれクソばばあだった紅魔女……カムバーック!!



「おい……お前たち何をしているんだ?」


完全に二人の世界に入り込んでいた所を、おっさんの野太い声が現実に引き戻した。

マキアを抱きしめようとした俺の腕が行き場を失くし、宙を横切る。


「はっ……そのお気楽甘々な様子を見て、お前たちが連邦のトワイライトの奴らじゃねーってのは良くわかったよ。あいつらはそんな隙を見せないからな……」


「そ、それは……よかった。うん、よかった」


おっさんは呆れた視線を向けて来たが、マキアがゴロゴロと俺に甘える様子を見て、一応、警戒を解いてくれたようだ。

マキアを押し上げるようにして、俺は起き上がる。

マキアは「ちぇっ」と少し物足りなさそうにしていた。


俺はおっさんの言葉に少し引っかかり、問う。


「お前、連邦のトワイライトの者たちに追われているのか?」


「……ああ。俺は、例の施設から“これ”を持ち出し、逃げ延びた者だ」


おっさんは抱きしめていた黒い箱を、俺の目の前に差し出す。


「あの施設から?」


「ああ……これはあの施設にあっちゃいけないものだ。きっと今頃、施設の奴らはこれを必死になって探しているだろう。お前がフレジールの使者だと言うのなら、これを絶対に守れる場所まで、運んでほしい」


そう言って、おっさんは黒い箱に手を押し当て、いくつか呪文を唱えた。


すると箱は、何重にも折り畳まれていたかのようにパタンパタンと開いて、淡い光を漏らす。


「……」



俺もマキアも、目を見開いた。

中から、小さな黒い箱の容量からは考えられなかったものが、姿を現したからだ。


それは、体を折って横たわる、小さな小さな少女。


長い黒髪が、何も纏っていない体に巻き付いている。

頭にはどこか機械的な装置が取り付けられていて、何かの耳のようにも見える。



「……この少女は“リリス・トワイライト”。巨兵とは名ばかりの、人と魔族を素材として、オリジナルを元に作られた……人型のギガス、“タイプ・クロンドール”だ」



その見た目こそ、ほぼ人間である。

そして何より、その黒髪、顔の雰囲気は、よく知るトワイライトの者たち、そして俺に近い。


今までのおぞましい姿の巨兵とは違う。



だからこそ、ゾッとした。こんな小さな少女を、巨兵だと思わなければならない事を。




今まさに、少女の瞼が、スッと開かれた。




活動報告に、ユリシスのちょっとした四コマ漫画を載せております。

ご興味ありましたら、覗いてやってください!

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