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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
318/408

47:『 3 』トール、見えるのに届かない場所。


二話連続で更新しております。(二話目)

ご注意ください。


俺の名前はトール。

かつて黒魔王と呼ばれた男だ。





「少し寒くなってきたな……」


西の大陸の、随分奥の方までやってきた。


西の大陸は基本的に温暖な土地が多いとされているが、北の方に行けば少しばかり涼しい土地もある。

そもそも二千年前の大爆発により、土地の気候は多種多様となった。


まあ、涼しいと言っても俺にとって涼しい程度であって、マキアにとっては「寒い!」になるのかもしれない。

早朝の、霜の降りた静かな針葉樹林を抜けながら、マキアはしきりに唸っていた。


「さむいよ〜〜っ、さっむいよ〜トール〜っ」


「何が“寒い”だ。人のコートも着てるくせに。つーかお前、紅魔女時代に割と薄着でアイズモアに来てたじゃないか。俺は覚えているからな、お前、案外平気だろ」


「…………ちっ」


長い黒コートの袖を口元に当て、顔を背けて舌打ちをするマキア。

こいつ、これ以上俺から何をむしり取る気だったんだ……


「熱を出したばかりの俺からあれこれ奪おうなんて、ほんと悪い魔女だな、お前は」


「紅魔女は最悪の魔女よ。悪く無くてどうするのよ」


「よく言う。いざ俺が倒れたら、死ぬ程心配するくせにな……この前のお前ときたら、オロオロしちまって食う事も忘れてさあ、可愛かったもんだぜ。それなのに……」


チラリとマキアを見下ろす。

なんかもうマキアは、そんな時の事は忘れたと言わんばかりの小生意気な表情だ。


「お前は極端すぎるんだよ。ツンデレの差が北極と南極くらいあるんだよな……」


「そう? 最近は南寄りよ?」


「……自分で言うなよ。なんだよ南寄りって」


マキアは「ふふふっ」と意味深に笑った。

俺の前を行き、霜を踏んでは、その音を楽しんでいる。


前までは大人ぶって強気な態度を装い、気取っていた所もあったが、最近は逆に自由気侭な所が前面に出て、子供っぽさも目立つな。

まあどちらもマキアである事に変わりはないのだが。


「ほら、遊んでないで森を抜けるぞ。回り込む形になったが、ここを抜ければあの“研究施設”が見えてくるはずだ」


「研究施設……ねえ」


マキアはくるりと、俺に向き直る。


「“今度”は、辿り着けるかしら」


「……さあなあ。どんな魔法を使っているのかは分からないが、どこから行ってもあの研究施設に辿り着けない。見えているのにな」


「結界かしら。でも、それならあんたの空間魔法でどうにでも出来そうなのに……」


「……」


そう。

俺たちが北側の針葉樹林から回り込んで、例の巨兵製造の研究施設に向かおうとしている理由は、どこから行ってもそこに“辿り着けない”からであった。

遠目にぽつんと見えているのに、辿り着けないとは、空間魔法によるものか、精霊の魔法によるものか……はたまた全く別の魔法によるものか……

それを探る為に、あえて俺たちは遠回りをして、その施設を目指している。


「空間魔法の結界によるものなら、俺がどうにでも出来ると思うが、魔法の痕跡すら見当たらない。魔法を解くには、魔法の跡やほころびが無ければどうしようもないからな」


「施設の周辺には巨兵も沢山うろついているしね。ヘタに暴れたら、連邦の戦艦が来ちゃうわ」


「マキア、お前の圧倒的暴力のせいで、何度か戦艦と戦うはめになっちまったけどな」


「おかげで私たちが施設の近くに居るって言うのは、バレてるわよね?」


「だからこうやって、こそこそ隠れるようにして遠回りしてるんだろうが」


しかし分からない。

俺たちが施設の周りをうろついていると知っていながら、連邦の青の将軍や銀の王が、俺たちに何かを仕掛けてくる事は無い。戦艦がくる事はあるが、それ以外に効果的な妨害がある訳ではないのだ。


戦艦なんかじゃ、俺たちを止められないと分かっているだろうに。

ラスボス気取っているのか、別のどこかに気を取られているのか……


道を歩きながら、顎に手を当てて考え込む。


「うーん……どうせ、俺たちがあの施設にたどり着く事は無いと、考えているのか……」


「あ、トールがまた何か考え込んでる」


「お前が何も考えないからな」


マキアは考える事を放棄して、あらゆる事を俺に投げっぱなしにする。

まあ、考えるより先に体が動く奴だから、俺が首根っこを摘んで大人しくさせている状態なんだが。


ーーピピッピピッ


そんな時、通信機が鳴った。

レイラインにいるライズから連絡が入ったのだ。


俺は通信機を片耳に当て、何やらあれこれ仕事の話を始める。

こうなると、割と長話になる。


するとマキアはつまらないと言った様子で、しばらくは俺の周りをグルグルしながら、霜を蹴飛ばして来たり、背中に指を押し当てて無意味にぐいぐい押したりしている。

しかし俺が無視しているせいで、マキアはムッとしてうろうろし始め、やがて大人しくなった。


「分かった。今夜、一度レイラインに帰ろう。グランタワーが完成間近と言う事なら、そっちを優先させた方が良いだろうからな……ああ。あとは任せたぞ」


その言葉を最後に、俺は通信機を切った。


「ほら、マキア。終ったぞ……ったく」


きっと俺がかまってやらないから、拗ねているに違いない……そんなふうに思って振り返ったが、当のマキアはそこにはおらず。


「え?」


やたら大人しいと思った。

どこにも居ないじゃないか。


「おいマキア!! どこへ行きやがった!!」


勝手にふらふらとしやがって。

木立の間を行ったり来たりしてマキアを探したが、隠れているのか見つからない。


「おーい、マキアー」


「……ここよ」


「わっ、びっくりした」


いきなり背後からマキアの声が聞こえた。

脅かすんじゃねーよと振り返った所、いっそう驚かされたのは、マキアが何か黒い布の塊のようなものをずるずると引きずっていたからだ。


「な、なんだそれ」


「……さあ、人とか?」


「ど、どこにあったんだよそんなの」


「なんか拾った、あっちで」


マキアは森の奥の方を指差した。

いや、なんか拾った、じゃねーよ。あからさまに怪しい塊じゃないか。


俺は顔をしかめつつ、それを覗いた。


「まさか、死体か? ホラー映画とかの死体遺棄のシーンで、そういうの見たぞ」


「まっさか。多分生きてるんじゃないの? それにしてもやたら重いわね、こいつ」


マキアは自分が持って来たそれをツンツンとつついた。

霜が沢山くっついた、黒い頑丈なローブを纏った、何か。

長いローブががっちりと体に覆われていて、びくともしない。まるで簀巻きのようだ。


おそるおそる裏返しにした所、顔と思われる部位にはガスマスクのようなものが取り付けられていて、表情は分からない。

よくよく聞けば、しゅーしゅーと音がするから、生きてはいるんだろうが。


「な、なんだこいつ……魔族か?」


「それなら、こんなガスマスクみたいなのつけるかしら」


「人間か? この大陸に、人がいたってことか?」


それは頑丈なローブごと、何かを必死になって抱えているようだった。

寝ているのか、気絶しているのか、起きているけれど俺たちを警戒して死んだふりでもしているのか……それすらよく分からないが、全く動かない。


「どうしようか。とりあえず、魔道要塞の中へ行こう。こいつのマスクを取らないと、どうしようもないしな」


「怖い人だったらどうしようトール〜」


「大丈夫だ。お前以上に恐ろしい人間はいない……かわいこぶったって無駄だぞマキア」


「……」


これは、純然たる事実。以上。

マキアはじとっと俺を見ながらも、「まあねえ……」と納得はしているようだった。





本日より『3』を開始致します。


また、明日メイデーア一巻の発売と言う事で、活動報告に諸々の報告をしておりますので、ご興味ありましたら覗いてみてください。

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