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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
317/408

46:『4+』ユリシス、不安の種。

2話連続で更新しております。(一話目)

ご注意ください。


僕の名前はユリシス。

かつて、白賢者と呼ばれた男だ。

今はヴァベル教国の、緑の巫女の花婿である。



生まれたばかりの娘に名前を付ける時、やはり、思い出したのはマキちゃんの事だった。

マキちゃんがいたら、この娘になんと名をつけただろうか、と。


名前は世界に存在を認めさせる手段である。

ふさわしい名前はその子供に祝福をもたらすとされる。


僕は産まれたばかりの小さな小さな娘を抱いて、儚い命の温かさ、でも確かに生きている力強さを感じながら、その子の名前を考えた。

メディテ家の重鎮マダム・イグレーサの力を借り、考えた。



「オペリア……」



そして、これが小さな僕の娘に付けられた名前だ。

教国にとっては念願の、次の時代を担う緑の巫女の為の、名前だ。


世界が動こうとしているこの時代に生まれて来た僕の娘。

今後オペリアは大きなものを背負うかもしれない。


だが、それでも嬉しい。

僕には大事な息子も娘も、皆、側にいるのだから……










気になる話をいくつかしよう。


一つ目は、前に見つけた“島”の事についてだ。

前世の息子の生まれ変わりであるスズマと海岸を歩いていた時、中央海の方に、本来あるはずの無い島のようなものが見えた気がして、僕は不思議に思ってファンに乗ってそちらへ飛んで行った。


しかし、近づけば近づく程、それは薄く現実味の無いものとなり、やがて、見えなくなった。

もう一度浜に戻って海を見ると、やはり、何か島のようなものがあるように見えたのだから、驚きだ。


スズマもそれが見えたようで、一緒に首をひねった。


ただ、この件に関して、僕は一つの結論に落ち着く。

あれは、ここらに沢山残されていた“残留魔導空間”の一つだったんじゃないだろうか……と。

何かきっかけがあり、ひょっこりと姿を見せたのだろう。


ただ、僕やスズマ以外には見えていないようだった。

一応、一般的に魔力が大きいとされているメディテ卿なんかに確認してもらったが、彼にも見えなかったようである。


僕は、それが何であれとても気になって、しばらくは教国の資料を漁って、かつての地形やこの辺りに存在したものを、ここ最近ずっと調べていた。






そして、もう一つは、先日のフレジール攻防戦についてだ。


「……なんて事だ」


ルーベルタワーのモニター室で、たった今起こっていたフレジール王国と巨兵の戦闘の様子を見ていた。

ルスキア王国にも魔力供給の要請があり、僕は戦闘の様子を見ながら、その作業を手伝っていたのだ。


しかし、シャトマ姫もエスカ義兄さんもいるフレジールが、よくある巨兵との戦闘に負ける事は無いと考えられていたにも関わらず、戦闘の途中シャトマ姫の消息は途絶え、義兄さんはモニターに映る範囲には姿を見せない。


一体何が起こったのか分からず、僕は表情を硬くし、側に居たレイモンドの叔父上に提案する。


「叔父上、やはりここは、僕がフレジールへ赴くべきかと思いますが……」


「……そうさせたいのは山々だが、そうなるとルスキア王国が危うい。緑の幕があるからと言って、この国は平和と言う訳ではない」


「それは……そうかもしれませんが」


見守る事しか出来ない歯痒さは、余計に僕を縛る。


結局、フレジールを襲撃した巨兵自体はヴァルキュリア艦とトワイライトの魔道要塞によって破壊された。

ほとんどシャトマ姫がとどめを刺していたからと言っても良い。

だが、王都には甚大な被害が出たと予想される。


その後もしばらく見守っていたが、事態に変動は無かった。


やがて、フレジールより連絡が入る。

シャトマ姫やエスカ義兄さんは重傷だが、命に別状は無く発見されたとの事だ。











「……どうすればいい」


シャトマ姫とエスカ義兄さんが生きていた事にホッとしたが、それでも僕は、どうしようもなく不安だった。

エスカ義兄さんに、かつて言われた言葉を思い出す。


『……無茶はするな……』


その言葉は、決して僕の為に言われたものじゃない。

ペルセリスが出産したばかりという事もあり、彼女を心配させてはいけないという意味だ。


僕は自分自身に誓ったはずだ。

何よりも大切な者、それだけを守ると。だから、この大陸からは出て行かない、と。


だけど……


「……」


どうしても、険しい表情になる。

無意識に、ペルセリスの元へ向かった。


「……ユリシス?」


教国の、静かで日当りの良い場所で、産まれたばかりの我が子オペリアを抱きかかえて、ひなたぼっこをしていたペルセリスを、少し遠くから見ていた。

だが、すぐに気がつかれた。


「ペルセリス……まだ、あまり動いちゃ……」


「ううん。大丈夫だよ」


僕が近寄り、肩に手を置くと、ペルセリスは少しばかり心配そうに眉を寄せた。


「ユリシス……聞いたわ。フレジールが、大変なことになっているのでしょう? シャトマ姫様や、お兄ちゃんが、大怪我をしているって」


「……うん。王都は半壊し、混乱しているらしい……オーバーツリーが壊されなかったのが、救いだ」


「ユリシス……」


ペルセリスは不安な面持ちで、僕に身を寄せた。

僕は彼女の肩を抱く。


待望の、次期緑の巫女であるオペリアは、純粋無垢な様子ですやすやと寝ている。


「ユリシス……ここで、何も出来ずにいるのは辛いでしょう?」


ペルセリスはその言葉を躊躇わずに、口にした。

顔を上げ、じっと僕を見つめる。


「だけど……僕は……」


「ユリシス、私、ずっと考えていたの。ユリシスをこの場所に縛る事が、本当に良い事なのだろうか……って……。何も出来ない緑の巫女と違って、あなたには力があるもの」


「……」


「いつも考えてた。ユリシスが、海の向こうの空をふと見上げる時の苦しそうな表情は……私、悲しいなって」


彼女は僕に、我が子を抱くように促す。

僕は手慣れた様子で、娘オペリアを抱きかかえた。


まだ小さくて、淡い黄緑色の髪が愛らしい。


やはり父親にとって娘は目に入れても痛く無いくらい可愛いが、この子が今後背負うメイデーアの、それも教国の緑の巫女という立場は、おそらくとても重いものになるだろうと思うと、心が痛む。


「私の次の緑の巫女は、無事に産まれたわ……もう、前世とは違うんだよ、ユリシス」


「……ペルセリス」


「もう……違うんだよ」


ペルセリスは、僕の抱くオペリアの頬に触れ、柔らかく微笑んだ。

僕は前世の悔いから、今世こそは絶対に家族を守ろうと、この国に留まろうとしていた。


だけど、今このタイミングでこの国に居るべきなのか、外の争いに関わるべきなのか、僕には判断が出来ずにいたのだ。

それを、ペルセリスがよく理解して、僕をやるべき事を諭そうとする。


「ペルセリス……君はやっぱり強いね」


「強くならなくちゃ。私、頼りないけれど、一応母親なのよ? それに、スズマだっているわ。あの子は本当に賢くて、強くて、前世と変わらず私を守ってくれようとする。きっと、オペリアを支える存在になる……」


「……そうだね」


「それにね。前にお兄ちゃんが“豊女王の殻”の動かし方を、こそっと教えてくれた事があったの。何かあったら、こうしろって…………っ」


言いながら、ペルセリスはうっと、今まで頑に我慢していたものをこぼした。

僕の胸元の服を掴んで、その小さな肩を震わせる。


ペルセリスの複雑な思いは、こんな僕にでも分かるつもりだ。


僕と同じように、彼女も葛藤している。

不安でいる。


守りたいものが分かっていながら、それを守る為に本当にすべき事が何なのか、分からずにいる。


「パパ!! パパ!!」


そんな時、スズマが慌てた様子で僕らの元にやってきた。

可愛い前世の息子の生まれ変わりに、僕は笑顔を向けた。


スズマはいつも朝早くから、教国の庭で白魔術の特訓をしている。


ペルセリスはスズマに涙を見せまいと、僕の肩に顔を埋めて、こそこそと涙を拭っている。

僕はそんな彼女越しに、スズマに問う。


「ど、どうしたんだい、スズマ。また何か分からない事が……」


「パパ、これ!! この、赤い鳥!!」


「……?」


「師匠のフェニキシスだよ!!」


スズマが両手にのせているその赤い鳥に、僕も見覚えがあった。

義兄さん……聖杯の大司教エスカの精霊だ。

どうやら随分と疲労しているらしい。精霊が疲労すると言う事は、主の力が随分と弱まっていると言う事だ。


僕は急いで駆け寄る。


「どうしたんだいフェニキシス」


声をかけると「白賢者様……」と消え入りそうな声で呟く。

そして、自身の魔力を使い第二戒召喚の人型となり、地面に伏して、頭を下げて言う。


「主より、伝言を預かっております……白賢者様……」


「……え?」


「決して、誰にも知られるな、との事」


僕はその言葉だけで、ひやりとした嫌な予感に襲われる。


エスカ義兄さんがフェニキシスを使って中央海を渡って、こっそりと僕に伝える事がある……

それだけで、何かが異常な気がしたのだ。





「…………え?」




手渡されたカメのカードに書かれていた事は、嘘か本当か。

僕にも、おそらくエスカ義兄さんにも、まだ分からない。

確定的な証拠は無い。


だが、この胸騒ぎはなんだ。

この感覚は、遠いどこかで味わったもののよう……そんな気がする。





『 ◯◯◯◯◯◯ は 敵 の 可能性 あり 』





今世、後悔しない道を選ぶとしたら、“戦う”という事以外に無いのだろうか。

もしかしたら前世も結局、“それ”しか無かったのかもしれない。





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