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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
309/408

38:『 4 』シャトマ(サティマ)、追憶7。

3話連続で更新しております。(1話目)

ご注意ください。



それから数年、大司教様はフレジールに留まり、私の後ろ盾のような事をしてくれた。

教国の、聖灰の大司教様が側についてくれた事で、私の立場はより強固なものになり、フレジール王は立場が無くなっていたが、やはりまだ王派も王宮には多く居り、私とは親子でありながら対立する形となる。

それでも王が私を追い出さなかったのは、それだけ私に特別な力があったからだ。

私を王宮から追い出し他国へ迎えられても困ると思った王は、私にある条件のもと王の座を引いた。


それは、夫を迎え、結婚する事だった。

王派についていた元老院どもの悪巧みによるものだろう。


私はそれを了承し、15歳になるとともに女王の座につく。






約1000年前

フレジール王国


サティマ15歳







「結婚? ほお、妾ももう、そんな歳か……」


フレジールでは15歳から成人となり、女性は結婚できる。


しかしまあ私が女王である事を良い事に、自分の息子や推薦する者を花婿にしたがる輩の多い事。

基本、女王の夫となった者は高い地位を約束される事から、皆目の色を変えてこの座を欲しがる。

勿論、心底“藤姫”という存在に惚れ込んで、自分を売り込む者もいた。

だが、私は結婚と言うものに興味を持ちながらも、何かと理由を付けて断っていたのも事実。

夫などまだ必要の無いものに思っていた。


だが婚約はしなければならない。

これは私が女王になる条件の一つだった。民も心待ちにしている。



「妾の花婿ごときで皆が浮かれる程に、この国は平和になったと言う事だろうか……まだまだ、反乱はおさまる所を知らないし、北の国々も侵略の動きを見せているのに。フレジールはシャンバルラが壁になってくれているが、いずれ北のガイリア帝国の侵略の手が伸びよう」


「……王宮とはそういうものだ。新たな王が立つと、その次を気にする。藤姫が厄介な連中は、その子供に取り入ろうとするだろうな」


企みごとをする部屋にて、私がお菓子をつまみ食いしていたら、お父様に取り上げられた。

食べ過ぎだ、と言わんばかりの視線。

しかし会話は続ける。


「でも妾は長生きするのだろう? 子供がおったとして、子供のほうが先に歳をとりかねん」


「……」


「お父様が結婚してくれたら良いのに」


「もう“お父様”ではない」


「なら、なんと呼べば良い。そなたが妾の夫になるのではダメなのか?」


お父様は小さくため息をついた。

これはあきれかえっている表現だ。何がおかしいのか。


「……藤姫は夫婦と言うものを、分かっていないな。そもそも、女王の結婚は政治的意味合いも大きい。勝手な婿選びは、国民も王宮の者も、誰も納得しない。謀反のきっかけを与えるだけだ。出来るだけ意味のある結婚をするように」


「うう〜……そんなのわからんわからん!」


恋をして結婚をする、というのが女王に許されないのは分かっている。

しかし、だからといって誰でも良い訳ではない。


「そなたは、妾が結婚した方が良いと思っておるのか?」


「……まだ早いとは思う。しかし、魔王クラスはもともと理解されにくく、孤独になりやすい存在だ。寄り添う相手は居た方が良いだろう」


そう言った時の、お父様の遠いどこかを見ているような表情。

よくある表情だ。遠い、誰かの事を思い出しているような。


「それは、そなたではダメなのか?」


「俺は、いつまでもあなたの側に居られる訳ではない……」


「……え」


いきなりそのように言われ、私は面食らった。

彼はずっと自分の側に居てくれるものだと思っていたからだ。


「ど、どうして? ずっと側に居てはくれないのか?」


「……藤姫、北のガイリア帝国の“青の将軍”をご存知か」


「聞いた事はある」


「この男は“魔王クラス”だ。藤姫は見た事が無いかもしれないが、主に北の大陸、また西の大陸に生き残っている“魔族”の討伐討伐を、ガイリア帝国に命じられている男だ。今は、西の大陸に居るとか」


「……西に? 魔族?」


魔族はこの頃、確かに存在していた。

東の大陸にも僅かに居たが、ほとんど出くわす事は無かった。

主に生息地は、北の大陸、人の居ない西の大陸とされていた。


「だけど、西の大陸は人間の入れない土地だと聞いた事があるぞ」


「ああ。故に、沢山の犠牲者を出している。青の将軍だけは、この大陸に問題なく踏み込めるらしい。……それこそが、魔王クラスの証明とも言えるだろう。……俺は、こいつを討ちに行く必要があるだろう」


「……」


私が初めて“青の将軍”の名を聞いたのが、この時。

この男は魔族の討伐を任される将軍として、北では英雄扱いだったらしいが、東の国々としては彼より別の将軍、いわゆる東の大陸に進軍してくる将軍の方が気がかりで、青の将軍は特別有名でもなかった。


お父様もこの時、それほど青の将軍を気にかけている訳でも無さそうだった。


しかし青の将軍の事もあってか、お父様は次第に私から離れる為の準備をしているように思えた。

お父様に依存しがちな私を、少しだけ遠ざけるような。

むしろその為に、今まで一生懸命に育ててくれたような。


子離れ親離れと言ってしまえば聞こえは良いが、私にはそれがとても寂しい事に思えた。






さて、北の強国で最も侵略行為の著しかったガイリア帝国に怯える東の国にとって、朗報だったのか。

藤姫に、北の二番手と言って良いフィンデリア王国の末の王子の縁談が舞い込んできた。

フィンデリア王国の末の王子は、世紀のうつけで変わり者として有名で、むしろ要らない者を人質として藤姫の婿に送ろうとしているのだと、大臣たちはもっぱら噂した。

しかしこの王子を花婿として受け入れるのなら、同盟国として協力関係を結び、ガイリア帝国の侵略に対する抑止力となる。

嘘か真か、ガイリア帝国は突如現れた東の大国の藤姫を、これ以上無く警戒しているのだった。

フィンデリアは最もガイリアとの戦争の激しい国家として、最近噂の“藤姫”に目をつけたのだ。


「さて、どうしたことか……」


大臣たちは自らの息子を花婿に押していた分、少しばかり癪な様子を見せていたが、この縁談がまとまれば、ガイリアの侵略は戸惑われ、ひとまず睨み合いの状態にまで持って行けるのではと言う期待はあったようだ。


この時、お父様は度々青の将軍の動向を調査するため、王宮を出ていた。

そうやって、世界の情勢を外からチェックしているのだった。

この縁談の背景に何があるのか、お父様は抜かり無く調べていたようだ。

王宮へ帰ってくることも多かったのだが、私がしっかりやっていると知ると、また出て行く。


こんな事なら、もっとダメな姫であったも良かったかもと、思わずにはいられないくらい。

彼はとともに過ごせる時間は、幼い頃よりずっと減った。





王宮に留まってくれていた大司教様に、この縁談について相談しに行った。


「ああ……ガイリア帝国のロランド王子ですか。なかなか面白い男ですよ」


「大司教様はその者の事を知っているのか?」


「ええ。以前フィンデリアに呼ばれ王宮に留まっていた際、よく私の元を訪れていました。その頃はまだ少年でしたけれどね。他の王子とは一風変わっていましたが、そうですね……あの子がうつけを装うのは、きっと王宮で生き残る為だったのでしょうね」


「王宮で生き残る為?」


「まあ、フィンデリアには五人の王子が居ましたし、次期王の座を巡った熾烈な争いもありましたから。アホを装っていれば誰も自分を気にしない……と、そう言っていたなあ、彼。あの荒んだ国から早く出て行きたいとも言っていました」


「うむ〜……そうか」


大司教様の話を聞いていると、私は少しずつその王子に興味を持った。

ただのうつけで変わり者であれば、お父様の言った条件とは違ってくるかもと思っていたけれど、あえてアホを装っているなんて面白い男かもしれない。


「ただやはり、国同士の駆け引きとはいえ、伴侶を決めるのはとても大事な事です。藤姫様、周りに流される事無く、ご自分でお決めください」


大司教様はニコリと微笑んで、私に諭す。

私は素直にコクコクと頷いた。




結局、私はそのロランド王子との縁談を受ける事になる。

理由は様々あったが、一番の理由はやはりガイリア帝国によるシャンバルラ王国の一部占領にあっただろう。

東の巨大な壁は崩れつつあったのだ。


大臣および元老院は、この縁談の話を進めるよう私に言った。

私もまた、この縁談がいかに大事なものになるのか、理解した上で引き受けたのだった。

お父様は警戒する点もあると、相変わらず目を光らせていたけれど、この縁談に反対する事は無かった。










さて、我々の“敗因”を前提として言っておくのならば、まさに“青の将軍”の能力を知らなかった点にある。

恐ろしい事に、あの者は今世に至るまで、その能力を欠片も“回収者”に悟られなかったのだ。


要するにそれは、神話時代からずっと、隠し通していたと言う事でもある。

何の為に。

何の為に、いったい今の今まで?


そいつは、やはり魔王クラスの中では一際異端だった。

そのせいで、お父様は青の将軍を追いながらも、この男が藤姫の縁談に関わりを見せているとは微塵も思わなかったのだ。


青の将軍は、そう……魔族狩りに一生懸命になっている、ただの一人の魔王クラスだと思われていた。



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