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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
307/408

36:『 4 』シャトマ(サティマ)、追憶5。

2話連続で更新しております。(1話目)

ご注意ください。

約1000年前

東の大陸の大河添いの国ガレム王国


サティマ11歳






燃え上がる炎を避けるようにして、私はお父様に手を引かれ逃げていた。

ガレム王国に留まっていた時の事だ。


「姫、こっちだ」


「ガレムから、出て行くの?」


「ここはもうダメだ……」


今まさに、この国はフレジールの王宮軍の奇襲を受けた所だった。


フレジール王の王子、ようするに私の兄に当たる者が、シャンバルラに匿われていたとされる移民族の反乱軍に殺され、それに激怒したフレジール王が、西の移民族の者たちを一斉に粛正する動きを見せている。


ガレムには多くの西の移民族が住んでいて、まさにその標的だった。

もともとフレジールはシャンバルラと違い、西の移民族の扱いが一際酷い国だったらしい。

一小国家でありながら、衰退の一途を辿るフレジスタ王国に侵略の手を伸ばし、力をつけ勢いのあったフレジールだ。

むしろ王子が殺されたのは良いきっかけだったと言うように、大義名分を掲げこの国を侵略しようとしている。そして、この国を手始めにシャンバルラに進軍するつもりなのだ。


ガレム王宮の背後に居たシャンバルラは何を隠したかったのか、“鉄の塔”に火を放ち、そのせいで火が街に移り、ガレムはまさに壁に囲まれた火の海。


フレジール兵に出会っても殺され、逃げ場など無い。

ガレムの兵も東の者以外は見殺しにしている。目印は、腕輪である。


「げほ……げほげほ……」


「姫、布を口に当てていろ」


お父様は自分の首に巻いていたターバンを取り、私の首にグルグルと巻いた。私はそれを口に当てて、辺りに充満した煙を吸い込まないようにする。


周囲に注意を促せば、見えたものは地獄の光景。

人は炎に焼かれ、逃げ場を探し、混乱に陥っていた。あちこちから悲鳴が聞こえる。


「お、お父様! みんな、死んじゃうわ!!」


「仕方が無い……そういう時代だ」


「……」


今までも多くの争いの場を見る事があった。

だけどこれは、こんな酷い事が“仕方が無い”という一言で済まされるのだろうか。

お父様の言う事なのだから……と思おうと思っても、視界の端が虐殺の光景と、悲鳴を捕らえる。


それらが、私の意識を捕らえて離さない。


「……あ」


いつもお世話になっていた豆屋の老婆と、その孫の少年が、彼らの家の前で斬り捨てられているのを目の端で捕らえた。

二人は重なるようにして倒れ、すでに瞳に光は無い。


「おばあちゃんが、おばあちゃんが……っ!!」


「もう死んでいる。諦めろ」


「で、でも……お父様……!!」


「……」


お父様は周囲の混乱とは裏腹に、とても冷静で、淡々としていた。

いつも淡々としているけれど、こんな時にまで変わらない様子は、恐ろしいとさえ思う。


「わ、私……精霊魔法を使ってみんなを助けるわ!! こんなのダメよ。こんなのはおかしいわ!!」


「ダメだ。こんな所で悠長な事をしていたら逃げ後れる。一人を助け、ついでにとまた一人を助けるのか。いったい誰まで助け、誰から見捨てるのか。一度救ったとして、この火の海の中、生きていられる者の方が少ない」


「でも、大司教様ならみんなを助けるに決まっているわ!!」


「今の姫の力と、聖灰の大司教の力は同等ではない。聖灰の力も立場も、長年の修行と幾多の困難、我慢があってこそ。奴がいれば、あるいはこの国は助かったかもしれない。しかし、敵はまんまと、聖灰の大司教の留守を狙った。……この国の民は助からない」


「……」


「この状況……全てを救う事ができないのならば、一人も救ってはならない。今は逃げる事だけを考えろ。我慢の先に、全ての人を救う権利と機会は与えられる」


お父様の言葉は、幼い私には全く理解できない事だった。

だけどとても重いものだと分かる。


何がどうしてこんな事になってしまっているのか。

私の本当の父、フレジール王がこんな残酷な事をしているのだと思うと、余計に腹が立ち、悔しい。


確かにお父様の言う事はいつも正しく、私の力ではこの国を救う事は出来ないのかもしれない。


だけどガレムの人たちは、理不尽に苦しみを与えられ殺されて良い人たちだというの?


「……」


ああ、今もまた、兵士が人を殺した。悲鳴が響く。

目の端で捕らえる絶望的な光景が、聞こえてくる音が、当たり前のものになるまえに。

誰かこの惨劇を止めてちょうだい……


「姫、意識をしっかりと持て!!」


お父様が珍しく叫ぶ。

気がつけば私たちはフレジールの兵士たちに囲まれていた。

私たちが西の移民族の証をつけていると分かると、敵兵は迷い無く殺そうと襲いかかる。


私は煙のせいで朦朧としていた。お父様の手を離し、一瞬ふらつく。

背後にいた敵兵がちょうど剣を振り下ろした。


「姫!!」


お父様が私を庇い、肩から背をばっさりと斬った。

鮮血が舞い、私の髪を結っていた飾り紐が刃物で断たれたのが見えた。


しかしお父様は怯む事無く、治癒の完了していない腕で剣を抜き、敵の首を斬り落とす。

お父様が持っていたのは、金色の剣だった。


お父様はいつも二本の剣を持っていて、そのうちの一本しか使わない。

金色の剣は、私が初めて見たものだった。


「……」


その剣を見た瞬間、私は言い様の無い衝動と衝撃を受けた。

心臓は跳ね、心は乱される。

この惨劇から受けるものを遥かに上回る、言い様の無い感覚だ。


だけどその感覚に身を任せる余裕も無く、意識は現実に引き戻される。

目に映るのは、お父様が周囲の兵士を切り倒しているその向こう側に見えた、“鉄の塔”崩壊の瞬間だった。


大きな地響きのような音がして、ここまでがれきが飛んできて、煙が波のように襲いかかる。

それに乗じ、お父様が私を抱えてこの場から逃れようとするも、高い場所から無数の光の玉に襲われる。

魔法兵の攻撃だ。


「……チッ」


「お父様!!」


お父様は私を庇っていたせいで、体のあちこちに穴を開けた。

だがすぐに治癒魔法が働く。

煩わしそうにしていたけれど、お父様は痛みすら感じていないような表情だった。

私が心配する必要など、本当は無かったのかもしれない。


だけど、お父様の体中から流れる血を見て、私の心は更にザワつき、彼の血に触れる。

先ほど得た妙な感覚が、より早く私の脳天まで上ってきた。



『 全てを救う事ができないのならば、一人も救ってはならない 』



この言葉が、こんな時に脳裏をよぎる。

だけど、じゃあ、私の力は誰一人救えないと言うの?

何の為に私は精霊の魔法を使うの?


お父様を助けたい……みんなを助けたい……っ


強く精霊たちに願った時、私は無意識に魔法陣を連ねていた。

見た事も無い程の数だ。


「……精霊魔法……第六戒召喚……」


気がつけば口がその召喚魔法を唱えていた。

無数の風の刃が黒い煙の立ちこめる周囲を、敵ごと斬り飛ばす。

おそらくカマキリの精霊キリカの力だ。


「……あ」


戸惑いがあったが、魔法は止まらない。止められない。


「精霊魔法……第六戒、第七戒召喚……」


淡い白にも似た、藤色の光が無数の柱となり、精霊の数だけ空に立ち上った。

水のエレメンツを持つアメンボの精霊クラムバムが、空から大量の水を降らせ、第七戒の“精霊の楔”の力をこの水に忍ばせ、水にうたれた敵兵を自動的、簡易的に束縛し、西の移民族たちを傷つける事ができないようにする。


何も考えずに、それらをこなした。

まるで私ではないみたいだ。


「……」


いつの間にやら、精霊たちが自らの体を包む光の衣服となっていた。

背中には半透明の虫の羽を携え、長い衣は柔らかい風に包まれ、浮く。

これは……第何戒の魔法?

分からない。何も……


この綺麗な衣服とは裏腹に、私は今日、初めてこの精霊魔法を使って、人を傷つけ、そして救った。

自覚はあった。

自分の中で、何かが変わってしまったんだと言う、自覚。


水が、体についた炭も血も全部流してくれたけれど、もう二度と流れ落ちないものもあるのだと分かっていた。


お父様はそんな私を、ただ見つめていた。

すでに彼は傷を癒して、何事も無かったかのようだ。




鎮火した国はただ静かで、助かった者たちは恵みの雨だとおおいに喜び、また束縛された兵士たちは何が起こったのか分からず、静かに横たわっていた。


「何事だ!!」


やがて、壁の外で様子を見ていたフレジールの将軍らしき人物が、この騒ぎに気がつき兵を引き連れやってきた。

しかし立ちすくむ私を見つけて、将軍らしき者は馬を止める。

淡い紫色の光に包まれ、人とは思えない神々しい姿で居る少女を見つけたからだ。


「……あ」


フレジールの将軍は、珍しい髪の色の幼い少女に、覚えがあったらしい。

じわじわと表情を変えて、だけど何も出来ないで、ただその名を呟く。


「もしや、サティマ姫……さま……?」


「……」


お父様は、無言だった。

いつもは私をどこかへ隠そうと必死なのに、もうそれは必要ない事のように、現状を見守っている。


私はやはり、少しだけぼんやりしていた。

複雑な感情を処理する事ができずにいるのに、やるべき事は遠いどこかにいる“誰か”に促されているように理解している。


「そう……私はサティマ。サティマ・フレジスト・フレジール……」


片方だけ、まだ解かれていない髪。

私はお父様に買ってもらったお気に入りの飾り紐をシュルリと解いて、閉じ込めていた魔力を全て解放する。

それは、存在の解放と等しかった。


「私は、フレジールの第一王女サティマ。……ガレムから軍を引きなさい。これ以上、この国の人たちを傷つけないで」


「……」


ただの11歳の少女の戯言ととっても良かったはずだ。

だけど将軍は馬を下り、この姿の前に平伏する。

何も分かっていないはずの兵士たちも、それにならう。


根拠など必要なかった。魔法の力で、その存在で、世界が動く。世界が認める。

それが、“魔王クラス”なのだから。






これは、ただのサティマ姫の終わりでもあった。

楽しい、お父様との二人旅の、終わりでもあった。


この時出会ったフレジールの将軍をロムと言う。

ロムはこの進軍を使命と割り切っていたが、どこかで今回の王子の死を不審に思い、王の行動に不満があったらしい。私が行方不明になった事も、彼はずっと気がかりだったと言っていた。


ガレムは焼き崩れたが、フレジールがそれ以上攻撃する事も無く、私とお父様はロムの助力のもと、フレジールに帰還する準備をする事になる。



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