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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
304/408

33:『 4 』シャトマ(サティマ)、追憶2。

2話連続で更新しております。ご注意ください。(一話目)

約1000年前

東の大陸の大河添いの国ガレム王国


サティマ10歳






紅魔女。

という、千年前の魔王を、知ってる?


それこそ、千年前はとっても強い魔王が三人いたらしいのだけれど、そのうちの一人である“紅魔女”が、伝説の勇者を道連れに西の大陸を焼き払ったことが、全ての始まり。

東の大陸は、逃げて来た西の移民たちでいっぱいになって、そのうちに土地の奪い合い、食料の奪い合い、民族間の闘争が始まった。

それは、千年経った今では、より複雑な因縁と歴史の元、どうにもならないものになってしまっている。


「戦争……戦争……どこも戦争ばかり……」


旅をしていると、戦争の跡を見る事もある。特に、内戦が激しい。

焼けた街、飢えた人々、屍……西の移民族への差別も多く見て来た。


旅をしながら目にするそれら。私は既に見慣れてしまっている。

ああ、ここでも争いがあったんだな、と。


だけど、その争いの渦中にいる事は無かった。お父様が、情勢を気にして危険を避けていたからだ。

私のことがフレジール王国の者たちに知られてもいけないから、一所に半年以上留まる事は無かった。

今は、大砂漠を横切るバロメットロードのオアシスや国々を点々としている。


「ねえお父様、次はどこへ行くの?」


「……ガレムだ」


焼けこげた道を歩き、お父様にちょこちょこついていきながら、私は尋ねた。

お父様はちらりとこちらを見て、ガレムについて教えてくれる。


「ガレムは、200年前シャンバルラ王国から独立した西の移民族の多く住まう国だ。とはいえシャンバルラの属国で、かつての条約のもと庇護を受けている。……要するに、西の移民族を押し込んでいるのだ」


「押し込む?」


疑問を持ちながらも、私は次の目的地へ思いを馳せた。

次の場所は、争いの跡が無ければ良いな、と。


そして、側をひらひらと舞う蝶を指に留まらせた。


「みんなが楽しい国なら良いのにね、フィフォナもそう思う?」


『サティマ様がそう思うのなら……』


「もうあなたってばいつもそんな調子ね」


『……サティマ様がそう思うのなら』


「も〜」


黒紫色の蝶々の精霊フィフォナは、私の肌の蜜の香りに誘われてやって来たの。

お父様は私に白魔術を教えてくれた。精霊との契約の仕方、精霊魔法の使い方、精霊の十戒の姿の概念など。


私はとても大きな魔力を持っているらしいのだけれど、精霊魔法は第五戒までしか使えない。

この白魔術を編み出した白賢者という、千年前の魔王は、第十戒まで精霊の姿を具現化する事ができたらしい。


「ね、お父様。なぜ私には、魔力があっても第五戒までしか出来ないの? 第五戒まではとっても順調にできるようになったのに」


いきなり白魔術について尋ねたから、お父様は少しだけ驚いていた。

表情は変わらないけれど、私には何となく分かる。


「……第五戒からは、少し次元の違う召喚だ。俺では、それ以上を上手く教える事が出来ない」


「そうなの?」


お父様に出来ない事があるなんて、びっくり。

私はもう一度問う。


「なぜ私は第五戒からが出来ないの?」


「……精霊との繋がりが浅いからだ」


「そう……? フィフォナとはとても仲が良いと思うのだけれど」


ねえ、と指で羽を休めていたフォフォナを見る。

フィフォナはもう一度ひらひらと舞いながら、今度は私の頭にとまりクスクスと笑った。


「……繋がり」


どうしてかなあ。そう言う事じゃないのかしら。

虫の精霊たちは、みんな私の事を好きだと言って、寄って来てくれるのに。


「かつての白賢者様は、どうやって精霊と繋がっていたのかしら」


「……白賢者はかつて、世界の裏側に隠れ人と関わりを持とうとしなかった精霊たちと対話を続け、白魔術を生み出した。精霊と思いを重ねれば良いのだと……言っていたな。白魔術を極めたいのなら、対話を怠らない事だ」


「お父様、白賢者様のこと、知っているの?」


「…………いや」


お父様は前を向いていた顔を少しばかり背けた。


「……? お父様、私に何か隠しごとしてる?」


「……いや」


お父様の声が少し小さくなって、少しばかり気まずそうな視線を私に落とした。

私は無意識に人の感情を読み取ってしまう子だったから。


お父様はまるで、千年前の白賢者を、知っているかのように言う。

でも、そうね。私だって始めてお父様と会った時、お父様を知っている気がしたんだもの……お父様にだって、白賢者様の事を知っている気がする、というのあるのかも。


そう考えながら、私は、お父様の手を取り、この“バロメットロード”を歩いた。


「精霊と思いを重ねるって、どうするの?」


「要するに、自らが持った強い意志を、精霊に納得させれば良い。そうすれば、精霊は自ずと力を貸してくれるだろう……」


「ふーん」


「目的を持つと良い。夢……と言った方が、分かりやすいか」


「うー……」


何だか良くわからないから、もやもやとしたものを表情にだして、唇を尖らせる。

そのうちに、私にも目的が出来るのかしら。夢が……






ガレムに辿り着いたのは、その一週間後の事だった。

ガレムは大河の側にある小さな国家だったが、高い城壁に守られた西の異民族たちの国。

しかしそれは同時に、大きな鳥かごのようにも、虫かごのようにも思えた。


門兵は私たちをじろっと見てから、入国の手続きをさせる。

そう言う事はお父様がつつがなくやってくれた。


門兵の大男がお父様の髪の色を見てから、ニヤリと笑う。

どこかバカにした笑い。


「お前、西の移民族か?」


「……だから、ここへ来た」


「そうだろう。外は西の移民族を毛嫌いする連中で一杯だ。差別を受けたり、殺されかけたり……。しかしここは、西の移民族を受け入れる国だ。ま、そのかわり西の移民族にはそれなりの納税をしてもらうが、安心して暮らせる場所があるってのはまだマシだぜ」


「……」


「と言う訳で、入国料を払いな。あと、ひと月分の納税を済ませる事が出来て、やっと入国できる」


「これで足りるだろう」


お父様は淡々と、金貨の入った小袋を男に渡した。

その中にどれだけのお金が入っていたのかは、知らない。


だけど、袋を開けた時の男の顔から、私は察する。おそらく相当な額が入っていたのだろう。


「何だ金持ちかよ……二ヶ月はいけるな……」


鼻で笑った門兵の大男は、お父様と私に、金属で出来た腕輪を見せつける。


「これを取り付けさせてもらう。このガレムに住む西の移民族の証明だ。この国から出るには入国料の10倍の金が必要だが、その時には腕輪を外してやる」


数人の門兵がやってきて、お父様にそれを取り付けた後、私の腕にも小さな子供用の腕輪をつけた。

どうやらこれが、入国料を支払った西の移民族の印になるらしい。

お父様はたいした事は無いと言う様子で、私の手を引いて門から中へと入っていった。



そう。

ガレムはシャンバルラ王国が設けた西の移民を集める国であり、彼らから巨額の入国料と税を搾り取る国だった。

しかしそのかわり、嫌われ者の西の移民族にも住む場所を与える。


「お父様、どうしてこの国へやってきたの?」


「……知り合いがここに来ているらしい。会いに来たのだ」


「!!?」


私はあからさまにびっくりして、両手を上げて飛び上がった。

驚愕の表情をしていて、妙な動きをしてしまったから、お父様がジッと私を見る。


「なんだその表情と……動きは」


「だ、だってお父様に“お友達”がいるなんて思わなかったんだもの!!」


「……」


だってだって、お父様、私を連れて旅をする中で、知り合いらしい知り合いに会う事は今まで一度も無かった。

お父様は表情も無いし、淡々としているし、時々嫌みな事も言うから、勘違いされやすくてお友達いないのかなあ〜……と思っていたのに。

それに一つの所に留まらない、旅人だし。


「友達などというものではない……同じ目的を持っている“協力者”と言った所か」


「協力者?」


「ああ……姫にも、会わせたいと思っていた。凄い腕の白魔術師だ」


「白魔術師!?」


「ああ。……俺には教えられない事も、教えてくれるだろう。姫が第五戒以上の精霊魔法を使えるようになるように、色々と尋ねると良い。しばらくはここに滞在する」


「それは、それは素敵ね! 楽しみだわ!!」


「……」


どんな人かしら。

お父様がそのように言うのなら、きっととても凄い人なんでしょうね。


私の白魔術は、第五戒まではお父様に教えてもらって、ここから先は、例の“その人”に教えてもらう事になるのだから、私の白魔術の師匠は二人いると言っても、過言ではない。


そう。私はここで、もう一つの運命に出会うことになる。








私たちは、ガレムの北東区の三番通りに、小さな土壁の家を借りた。

ここは平たい土地で、中央に立派な宮殿がある。

とはいえ、あそこの王はお飾りらしいのだけれど。


とりあえず食料を買おうと市場へ行くと、戦争ばかりの外界とはまるで違う賑わいを見る事が出来た。

豊かな税のおかげで、この国は裕福なのだ。

とはいえ不思議に思ったのは、商品は皆二つの値段が記されていて、西の移民族が買うには通常の二倍の料金が必要となるらしい。

道行く人を見ると、腕輪をつけている人、そうでない人が混ざっている。


「……お父様、お金ある? さっき、あんなにお金を払ってしまったけれど」


心配になって、お父様の服を引っ張る。

色々な国を見て、様々な通貨による商品の定価を知っていたから、ここの品物が異常に高い事が分かっていた。

お父様は「心配はいらない」と、常に平静。


平たい石釜で焼いたパンと、香辛料の効いた肉と野菜の炒め物、果実、飲料水を買って、やっと落ち着けた小さな家で食事をした。

旅の間は硬い岩みたいな乾パンばかり食べていたから、久々の食事らしい食事が嬉しい。


「何だか、ここは不思議な国ね、お父様。西の移民族は、何を買うにしても二倍のお金が必要なのね」


「……住処だって違う。東の人間は特別に立派な家に住み、西の移民族は同じ形をした小さな土壁の家に住む。あからさまに差別をする事で、この国は成り立っているのだ」


「……」


どういう事? と聞き返そうと思ったけれど、私が尋ねるのはいつもの事なのでお父様は続けて言った。


「この国に居る西の移民族は、巨額の入国料、住民税、国の規定で定められた通常の二倍の物価によって金を搾り取られるが、それでも外よりはマシだと思ってここへ来たのだ。一応、平和は保たれ、命を狙われる事も、国を追われる事も無いからな」


確かに、今まで見て来た外の国々は、何が面白いのか争いばかりをしていた。

西の移民族を嫌い、彼らを追い出そうとする争い。自らの手で、居場所を手に入れようとする西の移民族たちの反逆。

乾いた東の大陸には、増えすぎた人口分の大量の食料を生み出す力が無く、食料不足が争いに拍車をかける。

それらに国家への不審や不満を乗せて、大義名分を掲げた反乱軍が結成される。

民族の争いや土地を巡った争い、反乱は、終わりの無い憎しみの連鎖反応を生み、終わりは見つけられない。

巻き込まれた人々はただ自らの弱さに嘆き、悲しむ……


それに比べてガレムには、差別はあれど、戦争は無いように見える。


「みんな、幸せ? ここならば、争いは無いの?」


「……」


純粋な疑問だった。

パンを食べる手を止め、じっとお父様を見つめる。


「……それは、どうだろうか。……姫、その目で確かめ、考えると良い」


「……」


今までは何だって教えてくれていたお父様が、この時ばかりは、私自身で考えてみるように言った。



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