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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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29:『 4 』トール、マキアとひと狩り。


俺の名前はトール・サガラーム。

魔族の国レイラインの王である。




「いるわねえ……うじゃうじゃと」


透明の大天蓋ダイアモンド・ゲージには気がついてないみたいだが、ここらにある魔力に引き寄せられているんだろうな……」


マキアと共に、何も無い西の大陸の荒野に出ていた。

レイラインの国づくりは、一通り軌道に乗ってきたので、ライズやアリスリーンに任せてある。

神器を持つ俺の魔法があれば、何かあった時にすぐレイラインに行く事ができるし、何も無くとも時々レイラインへ戻っている。


巨兵は俺とマキアでしか倒せない。

故に、二人で大陸の大掃除と調査をかね、国を出ているのだ。


レイラインから北東へ進んだ辺りで、巨兵の群れに出くわした。

飛行型と巨人型。

前者はドラゴン、またはグリフォーン、ペガサスなどの飛行型の魔族を素材に作られているのだと考えられる。

後者は、オーク族や、オウガ族などの、二足歩行の鬼型魔族が主だろう。

今まで、巨兵とは得体の知れない連邦の兵器だと思っていたが、魔族が素材になっていると言う事と、空間魔法が利用されている事を意識すればこそ、その形態にもパターンがあるのだと分かった。

素材の魔族の特徴が、分かりやすく出ているのだ。


俺はそれを一つ一つスキャンし、映像として記録する。


「ねえねえトール、あいつらにガツンと一発お見舞いしても良いかしら?」


「え? ああ、どうぞ。データはとった」


「じゃあ遠慮なく」


マキアは嬉々として、指輪に変えていた神器を槍に変える。

そして、自分より遥かに大きな巨兵の群れに向かって、「えいや」と振り下ろした。

途端に、真っ赤に燃える光線が一列に巨兵を薙ぎ倒し、連続的な爆発を生む。


なんて凶悪なドミノ倒しなんだ……


「おいおい、少しは加減しろって。いくらここが何も無い西に大陸だからって、お前な」


「だって、一気に倒さないと面倒な事になるわ」


「巨兵がただの燃えカスになっちまってるじゃないかよ」


文句を言うと、マキアが少しだけ眉を寄せ、唇を尖らせた。


「だってだって、大地を傷つけないように、あんたが広範囲のフィルムをかけてくれているから……私は思い切り力を出せるの。それに、私がいくら破壊の限りを尽くしても、あんたが巨兵の大事なパーツだけは、死守してくれてるから。……まあ、あんたがどうしてもって言うのなら、もう少し力を弱めてみるわよ」


「……別に、良いんだけどな」


「あんたってほんとツンデレよね」


「お前が言うな」


……まあ、そう言う事である。

俺が最初に巨兵のデータを取っていたのは、必要なパーツ、ラクリマなどがどこに内蔵されているのかマークしておいて、マキアが破壊する直前に、空間魔法で保護カバーする為だ。

それに、マキアの力が西の大陸を傷つけないよう、俺の作る限りなく薄い保護フィルターが、マキアの攻撃範囲の大地を覆っている。

まあ、マキアの破壊を一身に受け止めるのは、なかなか骨が折れるが……これは俺にしか出来ない事だろう。


「おっと」


気の抜けたマキアの頭上を、飛行型の巨兵が襲いにかかって来た。

俺は時空王の権威を抜いて、空に一振り。

黒い刃は遥か天空にまで太刀を伸ばし、横一直線に飛行型の巨兵を討つ。

ただ、落ちる前に、空に出来上がった黒い空間の歪みのような渦に、残骸が吸い込まれていった。


「あんただって人の事、言えないじゃないのよ。禍々しいブラックホールみたいなのに巨兵が飲み込まれちゃったわ」


「助けてもらったくせに、可愛げの無い奴だな」


マキアが文句を言っている。

だが俺は、マキアの破壊との違いを得意げに語った。


「あれは掃除だ。ゴミをそのままに散らかしているお前とは違う」


「あんな禍々しい魔法……正義の味方の魔法じゃないわね」


「お前が言うな。お前が言うな」


大事な事なので、二回言ってやる。


しかしまあ、時空王の権威を取り戻した俺の力は、今までのものとは比べ物にならないのは確かだ。

二千年前の黒魔王とも違う。

大量のマキリエの血を吸い込み、熟された故の力だろう。

それこそ現実の空間や時間をねじ曲げてしまいそうな程、禍々しい歪みを作る。

構築空間の容量も、今までとは段違いだ。

これでも、俺の力で、時空王の権威を抑えつけなければならないほど。

その力は計り知れないものがあった。


さて、俺の掃除機、もといブラックホールが吸い込んだ巨兵たちは、魔導要塞“再来工場リサイクル・ファクトリー”に送られ、空間人たちの手によって再利用できる形に作り直される。

西の大陸は、北の方へ行けば行く程、巨兵がうろうろしているから、俺としては素材確保にうってつけで、宝の山に見えるな……

これらはレイラインのグランタワーの素材になるだけではなく、国づくり、また俺の魔道要塞の素材ともなる。

フレジールに戻り、俺の保存空間に、必要な物資を詰め込めるだけ詰め込んで戻ってくるのもありだったが、レイラインも一国家として今後やっていくならば、大地と向き合い、国を作り、自給した生活を見つける方が良いだろうと思った。

少し厳しい思いもしているが、なんとかやっている。

とはいえ、どうしてもここには無くて必要なものは、小型戦艦フリストが外央海を回り込んで、物資を送ってくれている。


「!?」


マキアがいきなり俊敏な動きを見せ、自らの槍を弓矢に変えた。


「打ち落とせ!」


真面目で必死な口調のまま、空に向かって矢を放つ。

何事かと思ったが、彼女が打ち落としたのは……西の大陸を横切って飛ぶただの大野鳥だった。


マキアに見つかってしまったのが、この野鳥の運の尽きである。






悪質なマギ粒子が散る西の大陸だが、それは人間に害があると言うだけで、自然はあちこちに残っている。

動物もいる。


グリメルの背に乗って、大陸のど真ん中に背の高い木々の森を見つけた。

そこに降り立ち、俺たちは今夜休める場所を探したのだった。


「お腹すいた!」


「ちょっと待て。まだ全然焼けてない。……だいたい大げさな魔法を使うから、すぐに腹が減るんだ。もう少し加減して魔法を使わないと、これじゃいくら食っても間に合わないぞ」


「うるさい! 私は腹が減ったのよ!!」


「亭主関白だなお前」


獲物を捕って、腹が減ったと言うマキア。

せっせと調理する俺。


……あれ。

なんか、逆じゃね?


「トール、お肉焼いている間、なんか小腹に入れられるものをちょうだい。私、知ってるんだからね。あんたの保存用空間に、沢山食料があるのを」


「バカ言え。これだって保存食だ。いざっていう時のための食料だよ。現地で調達できる時は現地でする。そうでなければお前、全部食っちまうじゃないか。……レイラインが食料不足なのを、知ってるだろ」


まるで家計を管理する妻のように、厳しく言いつける。

あれ……

なんか、逆じゃね?


「ちょっとで良いのよ?」


「ならこれかじってろよ」


俺は保存用空間から、固い昆布の干物を取り出した。

レイラインでは海でとれた海藻や貝、魚を干物にして保存している。

これはユートピアの連中が手慣れていて、保存食として役立っていてた。


マキアは与えられた昆布の干物をちぎって、かじかじし始めた。

やっと大人しくなったか……


ここ最近のマキアの食欲は、ちょっと人間の域じゃない。

まあ、魔法をほとんど使わずにいたマキア・オディリールの時代だって、あんだけ食欲があった訳だし、ここ毎日神器を使い、巨兵狩りをしているこいつなら、もっと食べてしかるべきなのかもしれないな。


「……」


ジュウジュウと、美味そうな肉の焼ける匂いが漂う。

マキアは瞬きもしないで、干し昆布をかじった姿のまま、炎と肉を見つめているのだから。

なんか……ちょっと怖い。


「ほら、焼けたぞ」


「わーーーーーい」


「待て!! 俺の分も含まれてんだからな!!」


手を伸ばすマキアを押しやり、急いで焼けた肉を皿に切り分けた。

でかい方を与えられたマキアは、それはもう嬉しそうにして骨を持ってかぶりつき、香ばしい肉を頬張っていた。


マキアより一回り小さな肉を、俺も食う。

おお、皮がぱりっとしていて、中身は柔らかくジューシー。

塩をふって焼いただけだが、これが美味い。


ただ、マキアより肉が小さい辺り、やっぱり普通は逆じゃないだろうかと思ったり……

いや、良いんだけどな。

ここ数日肉が食えてなかったから、マキア、嬉しそうだしな。





河のほとりに透明のテントと、柔らかい素材のベットを作り、寝床とする。

二人並んで寝転び、星空を見上げていた。


「明日はどうするの? トール」


「明日はもっと北側へ進んでみようと思う。……ここから先は、あまりデータの無い場所だ。ライズ曰く、北へ行けば行く程、強力で貴重な巨兵が居るらしい。ここらのはザコばかりだからな」


「確かに、量産型ばかりよね」


「北の連中は、この大陸を自分のものだと思い込んでいるんだ。だがもう、俺たちの存在にも気づき始めているだろう。……俺たちも、考え無しで巨兵を狩るだけじゃなくて、そろそろ慎重に北側のテリトリーに踏み入って行かないとな」


「……」


マキアは小さくあくびをして、目を擦った。

こいつはよく食うし、食ったらすぐに眠くなる。

毎日魔法を使っているのもあり、こんなところでサバイバルしているのもあり、何だか野生じみてきたな……


「疲れたか?」


「……うん」


「寝よう。明日も早い……」


「……うん、寝るわ」


マキアはコクンと頷いて、俺の腕に頭を寄せて、身を丸めて眠る。

すぐに寝付くのは、彼女がやはり疲れていたのだと言う証拠だろう。


「……」


この生活も、二人きりで旅をするのも楽しい。

だがやはり、マキアにはいつか、穏やかで静かで、心地の良い生活をさせてあげたい。


何の寂しさも無い、美しい場所で。



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