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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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22:ユリシス、戦線離脱。



僕はついつい食べる事を忘れていたので、話の区切りを見つけレモンケーキをつつき、紅茶をすすりました。

うーん、やはり難しい話の合間に甘いものを食べると体に染みるなあ。


「あ、そうです……ひとつ、聞いても良いですか?」


「何ですか、殿下?」


「なぜ叔父上は僕らに良くして下さるんです? 普通、邪魔でしょう、王子たちなんて」


「ははは。まあ、普通はそうだろうねえ。…………でも私、これで王位争いは二度目ですから」


「……?」


「前回は幼すぎて、何もかも分からないうちに終わっていましたが。この国のある種の掟とは言え、兄弟で生き残りをかけた殺しあいをするなんて馬鹿げています。………前回も、最終的に残ったのは私と、陛下だけですから」


ああ、そうか。

僕は一つ重要な事を見落としていた。


この人は父上が国王になった時の王位争いにも関わっているんだ。


叔父上はレモンケーキを二口で食べてしまいました。今まで全く手につけていませんでしたから。


「私は陛下を尊敬しています。陛下は、自身が国王になった後、私を邪魔者扱いしませんでした。今のこの地位があるのも、王子たちと同じように王位争いに参加出来るのも、陛下が私を気にかけ、チャンスを与えて下さったからです。普通、自分の子供に後を継がせたいでしょう? 私なんて中途半端な前回の生き残りです。反乱分子にもなりかねないから、王位戦争で兄弟たちを皆殺しにするのが通例だと言うのに」


「……え、そうなんですか?」


「そうですよお。甘くても、王宮から追放する位の事はします。この国の昔からあるイベントゲームみたいなものですよ。私はそれが嫌なんです。だから、本当は王子たちには皆生きていてほしかったし、私が国王になったら王子たちをきちんとした安全な地位に落ち着かせたいと思っていました。……しかし、既に2人しかいませんけどね」


「………」


僕は、父上が今まで王位争いに口を出さないのはなぜだろうと思っていました。

王子たちが死んでいく現状を見ても、父上は何か対策をすると言う事も無く、それぞれの陣営のやる事成す事をほったらかしにしていたから。


それを、仕方の無い事と思っていたのでしょうか。

しかし父上が叔父上を王宮に留め、彼の望む地位へのチャンスを与えると言う事は、この王位争いに何かしら反発の意志を持っていたからではないのでしょうか。


叔父上は、きっと父上の無言の訴えに応えうる唯一の人物なのだろう。


「ユリシス殿下、私は、あなたがこの国に影響を与えない人物に留まるとは、まるで思えないのです。あなたは王位に就くつもりは無いとおっしゃいますが、あなたの持つ存在感はそれを否定しているかの様だ。私やアルフレード殿下と違い、後ろ盾も少なく守備範囲の狭いあなたが、集中的に命を狙われながらも生き残っていること事態が、世界の意志のようにも思える………。あ、ケーキもう一ついかがですか?」


「やだなあ叔父上。僕を買いかぶり過ぎですよ。あ、ケーキいただきます」


叔父上は面白い冗談をおっしゃる、と笑いながらも、僕は心の中で考えていました。

この白魔術師としての力をもってしたら、王位なんて簡単にとれてしまうだろうか、と。

僕が本気を出せば、この国を変える事など簡単だろうか、と。


二つ目のレモンケーキをいただきながら。


「……でも、僕は思います叔父上。世界に意志があるなら、僕が王様になる様にはなさらないでしょう。それだけは分かります」


「ほほう、では何になると?」


そろそろ夕暮れも近く、風がテラスの花々を揺らす音がいっそう耳につきます。

なんでしょう、この時間帯はいつも、僕の中にある魔力がザワザワと蠢くのです。


僕は笑顔ながら、その魔力を抑えるのに必死でした。

なぜなら、僕がいずれなるべき何者かの単語を、僕自身が意識してしまっていたからです。


僕は戦線離脱を決意し、立ち上がりました。


「あ、そろそろ帰らないと!! バスチアンに言われているんです、夕暮れ時にはおいとまするって!!」


「………おやおや、あのお爺様も本当に心配性だなあ」


「あ、レモンケーキおいしかったです。デリアフィールドはレモンが多く取れると聞いていましたが、このようにおいしいお菓子があるならいつか行ってみたいものです」


当たり障りの無い事を言いつつ、僕は叔父上の最後の問を保留にしようとしました。

叔父上はにこやかでしたが、やはりその内なる情熱と謀を僅かにちらつかせながらも、真意をさらす事はありません。


僕と同じです。


「叔父上、またお茶に呼んで下さい。その頃には僕も、もう少し勉強しておきますから」


「いえいえ、殿下は今でも十分にお勉強なさっております。いずれは私と共に国を変えていって欲しい、そういった存在になってほしいと願ってやみませんよ」


「あはは、僕がですか? 出来るかなあ」


すっとぼけながら、僕は挨拶をしつつその場を離れました。

叔父上はいつまでも僕を見送り、豪快に手を振っています。



さて、先ほど叔父上が僕に聞いた、その問の答えを、僕は自分自身に聞き返していました。

お前はいつか、何者になるのだと。


それは、この世界に転生した時点で決まっている事です。




魔王。




もし世界に意志があるならば、きっとこの国の国王なんかに導いたりしない。

この魔力はその為の力ではない。


かつて、導かれるままに、僕らがその道をたどったように。





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