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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
296/408

25:『+α』レナ、私たちだけにしか共有できない場所。

4話連続で更新しております。(3話目)

ご注意ください。

私はレナ。

本名は、平玲奈たいられな

前世名はヘレーナで、神話名は、パラ・α・へレネイアなんだって。


なかなか面白いわよね。





「大丈夫なのマキア。私と一緒にお風呂なんて入って。……だって私、突然マキアに襲いかかって、殺しちゃうかも」


「なにその吸血鬼みたいな、物騒な。あっはは、大丈夫よお。そりゃあ、昼間はあんたが襲いかかってくるなんて思ってなかったからかすり傷を負っちゃったけど、意識してたら私があんたに負けるはず無いもの。指輪もはめているしね」


「ちゃっかりね」


「体内に物騒なもんもってるあんたに言われたくないわね」


マキアの腕と、手の平の傷は、まだ治っていない。

本来なら体の中に組み立てた自動治癒の術式が働いて、この程度の傷ならすぐに治るらしいのだけど、私やカノン将軍の剣だと、それが働かずに普通の人間のように傷を負ってしまうんですって。

今回はかすり傷だから、命には別状は無いらしい。良かった。


マキアは傷を作るのに慣れているから、この程度痛くも痒くもないわと言っていた。


そうそう。

私たち、一緒に湯浴みをする事になったの。

アイズモアに行って体が冷えたから、地下水を浴場に運んでもらって、私の白魔術で温めた。

そしたらマキアも入るって言いだして。


この遺跡にあったのは小さな浴場だけど、それでも温かいお風呂は気持ちがいい。

私たち二人とも、お風呂のある生活に慣れた日本人だもの。


「あーきもちー」


ザー……と、勢い良くお湯の流れていく音。二人で同時に湯船につかったからね。


「……」


チラリ。

それにしてもマキア、胸おっきいなあ……肩は細いし、背も低いのにな。

トールさん、巨乳好きよね、絶対。


「何見てるのよ」


「んー……あれだけ食べてるのに、体細いなあって。全部、胸に行ってるのね、マキアは」


「あはははは! レナだってバランスが良いじゃない?」


「そう? 取り立てて取り柄のある体つきじゃないわ。胸も普通だし、体重も平均並みだし、スタイルだって」


「普通が一番よ普通が」


「そうかなあ」


何だか、マキアと話すもの気楽になった。マキアもそうみたい。

普通の女の子同士みたいな会話。

とても楽しい。


「シャトマ姫と一緒にお風呂に入った事ある?」


「え、無いわ。マキアはあるの?」


「ええ。あの子もなかなかなものよ。まあ、太りがちだとかなんとか言ってたけど」


「シャトマ姫、激務だもの。ストレス発散で夜中に甘いものを食べると、太っちゃうんですって」


「可哀想だわ。私なんて、何食べても太んないのに」


「……羨ましい」


じとっとマキアを横目に。

私たちは並んで湯船に浸かっていた。


ふいにマキアが私の腕を持ち上げる。

ちゃぽんと、お湯の跳ねる音。


「……痣、まだ消えないのね」


「ふふ、そんな顔しないでマキア。そりゃあ不格好だけど、私、消えなくても良いかなって思っているのよ」


「え、なんで? おかしな子ねあんた」


マキアが本気で不可解という表情をしていた。

私は自分の腕の痣を撫でる。


「どうせいつか消えていくとは思うんだけど……もし、私が地球に帰った時、この痣が残っていたら、メイデーアは本当にあったんだって思い出せるでしょう?」


「……レナ」


マキアはふっと、少し寂しそうに微笑んだ。


「あんた、雰囲気変わったわね」


「……そう?」


「良い顔しているわ。いつも、自信なさげにしていたあなたとは大違い」


「……」


温まった手で、自分の頬に触れてみる。


「怖くないの?」


「ん? そ、そりゃあ、怖いわよ。だって私、自分の意志に反して、あなたたちに襲いかかっちゃうんだもの。返り討ちに合わないかひやひやするわ」


「そっちなのね」


マキアが苦笑い。

私はお湯の中で膝を抱えて続けた。


「……だけど、それを知っているのは、とても大事な事ね。やる事が分かっていれば、怖いけど、立ち向かえるわ。一番怖いのは、自分が何者なのか知らずに、何をすれば良いのか分からない事だわ……」


「……」


「それにね、私、誰にも必要にされてない訳じゃないみたいだもの」


「……ま、さ、か、アイズモアでトールに言い寄られたんじゃないわよね」


マキアが少し声音を低くして、疑う眼差しで私を下から見上げ、問う。


「あはははははっ、マキア、それ本気で言っているの? トールさん……本当に信用が無いのね」


「当たり前だわ。私はまだ、あいつを信じているとは言ってあげないわよ」


「ふっ、ふふふふっ。ああ、面白い」


「あんたね。そりゃあ、ヘレーナは一途に愛されたかもしれないけれど。長い付き合いの私からしたら、あいつは根っからのハーレム魔王としか思えないのよ。無意識なのが一番厄介よ。もう、ドミノ倒しかって言う、ね」


「あはははははは」


お腹を抱えて大笑い。

凄い会話してる、私たち。ごめんなさいトールさん。


パシャパシャと湯船のお湯を叩いて笑った後、私は「違うわよマキア」と、目の端の涙を拭う。


「トールさんが信用無いのは置いておいて、私はすっかり振られてしまったわ」


「……さわやかに言うわね」


「ふふ、でも、私には“お母さん”が居るもの。お母さんが、私を一生懸命に捜しているのだったら、私、あの人の所へ帰らなくちゃ」


「……」


「お母さんには、私しか居ないもの。それって、私を必要としてくれているってことよ」


「……そうね」


私は、この薄暗い浴場の、高い所で揺れる唯一の灯りに、母の面影を思う。

湯船に写るオレンジの揺らめきを、掬い上げた。


「だけど、地球に戻った私は、お母さんに言いなりの良い子ではなく、自信を持って、自分の足で生きていける“平玲奈”になっていたらなって思うわ。だって、メイデーアは確かに色々と大変だけど、地球で生きていくのだって、大変だと思うの。……世知辛いわ」


「あはは、言えてるわ。私たちも、地球では沢山苦労したもの。なかなか、生きていくのが大変な場所だったわ」


「でしょう? なら、頑張らなくっちゃ」


私たちは、お互いに理解し合える地球と言う場所の話をした。

どこに住んでいて、よくどこに行ったとか。


トールさんやユリシス殿下が、かつて“透”と“由利”という名で呼ばれ、こんなエピソードがあったよ、とか。

今でこそ、彼らがとても威厳のある人物に見える私からしたら、いかにも男子高校生らしい彼らのエピソードはとても興味深い。

トールさん、コンビニでバイトをしていたんだ……ユリシス殿下、女装コンテストで優勝した事があるんだ……とかね。


三人は幼稚園からの付き合いなんですって。

園児の彼らがどんな姿なのか、想像してみる。絶対に、可愛いと思う。


あのお菓子が美味しかったとか、あのテレビが好きだったとか、あの勉強が苦手だったとか。

マキアは数学が嫌いだったんですって。それで宿題をしていかなかったら、先生にいつも怒られたとか。

私はそれなりに勉強が得意だったけど、体育が嫌いだったと話した。

クラスの球技大会が、いつも憂鬱だったと。みんなの足を引っ張っちゃうから。


顔を見合わせ、私たちは「ふふっ」と笑った。




その後は、頭を洗い合って、背中を流し合って、裸の付き合いというのをする。


温かいお湯から上がったら、途端に喉が渇く。

マキアが昼間に、森で取って来た謎の果物をしぼったジュースを飲む。

甘いけれどあっさりしていて、美味しい。


眠くなる。

今夜は、マキアが一緒に寝るって枕を持って来た。

トールさんが寂しがるわよって言ったけど、マキアは「ここで寝る!」と言って暴れて、私の部屋から出て行こうとしない。

マキアって男前でカッコいい所もあるのに、案外寂しがりで、甘えん坊よね。


「夜中に刺しちゃうかも」


「恐ろしい子ね。その前に噛み付いて、あんたをベッドから落としてやるわ」


ベッドの中で顔を見合わせ、お年頃の女の子とは思えない会話をする。

そしてまた、クスクスと笑い合う。


「ねえ、マキアは……トールさんのどこが好きなの?」


「は? な、何よ、いきなり」


「ふふ。良いじゃない。私たち同じ人を好きになったんだもの」


そして、同じ人に失恋した。

マキアが言ったように、私たち程分かり合える存在、本当は居ないと思う。


「トールの好きなとこ〜〜〜っ? 具体的に言えって言われると悩む所ね」


「なんで悩むのよ。格好いいじゃない? トールさん」


「顔? まあ……」


あ、マキアが言葉を濁した。

そして、「んー」と唸った後、微妙な声音でこう言った。


「でも、そうねえ……あえて言うなら、かいがいしい所かしらね」


「トールさんって面倒見が良いよね。王様なのに」


「自分の事になると途端に鈍くなるんだけどね。……あとは、硬派ぶってるけど、几帳面でマメな所も、嫌いじゃないわね。私に無い所だからとも言えるけれど。まあ、神経質で口うるさい時もあるけど」


「ふふっ。トールさん……優しいよね」


「……そうねえ。どーかしら」


「マキアは素直じゃないなあ」


暗い部屋の中で、マキアの顔をはっきりとは見えないけれど、何となく、今の顔が想像できる。

皮肉っぽい口調で語っているけれど、きっと頬を赤らめて、乙女チックな表情でトールさんを思い出しているに違いないわ。


「ねえ」


マキアがいきなり、真面目な声で問いかけた。


「ねえ、レナ……あなた、平気そうにしているけれど、本当に、良いの?」


「……何が? どれが?」


「どれって……まあ、色々あるわよね、あんたにも」


「ふふ」


マキアが、逆に困ってしまっていた。だけど、マキアの言いたい事は、分かっていたつもり。

私は、真っ暗な天井を見上げて、答えた。


「そりゃあ……それなりに悔しくもあるわ。今でもトールさんが好き。きっと地球に帰っても、しばらくは忘れられないわね。だけど……私、それだけではない強い人間になりたいの」


「強い、人間?」


「そう。……苦しい事があっても、自分の事を信じて、生きていける人間に。自分を好きな自分に」


「……自分を好きな……自分」


マキアは、今の言葉だけ、繰り返す。

そして、納得してくれたみたいに、長く息を吐いたのが分かった。


「あんたは、私の事を強いとか、凄いって言うわよね」


「……ええ」


「でも、大概あんたもおかしな奴で、凄いわよ」


「そう?」


「ええ、紅魔女の弱さとは、正反対なものを持っているわね」


「……」


「紅魔女は、何もかも終わらせて死ぬ事を望んでしまったもの。紅魔女には、それしか無かったから」


その声は、いつかの時代に生きた過去の者たちを、思い出すかのよう。

私とマキアが、さよならをした人たちを。


「それに、あんたはやっぱりとても気が優しいのよ。癒し系は、どーせ勝手にモテるわよ」


「そうなの?」


「けっ。私に無いものだわ」


「ふふ……でも、私にも一つくらい、マキアより良い所が無いと、やってられないわね?」


「あら、言うわねレナ」


「あははっ」


私たちは、また笑い合った。

布団を口元まで持っていって、まるで秘密の話でもしているかのように。


「……眠いわね」


「そろそろ、寝る?」


「……」


マキアは頭まですっぽりと布団を被ってしまった。

いつもそうやって寝るのかしら。


だけど、布団に籠ってしまってしばらくして、マキアが静かに泣いているのに気がついた。


「どうしたの、マキア。どうして泣いているの?」


「……」


マキアは答えなかった。

だけど、きっとマキアは想像してしまったのだ。

彼女だけが強く強く理解できる、私の気持ちを。

大事な何かを、諦めなくてはならない苦しい気持ちを。


私は今までケロッとしていたくせに、それに気づかされたのか、途端に口元が震え、涙が溢れてくる。


そして、私たちは私たちにしか分からない痛みを共有しながら、布団に潜って、息を殺して涙を流し、眠った。


この“場所”は、トールさんにも来れない場所。

私とマキアにしか分からない、秘密の場所。





私は、これからもっともっと、自分の好きな所、良い所を、見つけていけるだろうか。

作っていけるだろうか。

愛される事を望む前に、私が私を、愛せるだろうか。


転んでも起き上がり、色々な障害に負けないで生きていける人間になりたい。

現実に、何度でも立ち向かえるように。



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