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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
293/408

22:『 5 』トール、名の確定。

6話連続で更新しております。(6話目)

最新話は、

17:『 5 』レナ、もっと自由になるという事。

からになります。

ご注意ください。





「見えるか、“マキア”」


「……ええ」


そう。

かつて多くの名で呼ばれながら、今は名の無かった少女は、マキリエを受け入れ、マキアであったという事を認めた。

そして、“マキア”というこの世界での名を得て、再び紅色を手にした。

彼女はいつものセーラー服を纏っていながら、髪は燃えるように真っ赤なのだから。


「西の大陸だ。そして、ここが俺のつくる国になる。お前が壊して、俺がつくるんだ」


「……」


遠く遠く、何も無い大地を見据え、俺たちは静かに語り合った。


「……っ」


マキアはぐっと唇を結び、赤い髪を風に任せて、また涙を流す。


「泣くなマキア。お前は……確かにこの大地を焼いただろうさ。だが、結果、魔族は魔族だけの居場所を、本当の意味で手にする事になるんだ……」


まるで、全ては運命だというように。

それは、必然であったというように。


過ちは、立場が変われば正義に見えたりするものだが、長い年月を経て、西の大陸の大爆発がこういう結果を生むという事を、いったい誰が予想できただろうか。



何もかもを思い出した。

マキアを大事に思っていた気持ちも、マキアを失った絶望も、全ては鮮明に思い出せるのに、朝の清々しい空気に身を包まれ、俺の胸の内には確かな希望だけが灯っている。

嘆く事も、後悔する事も無い。

だって、彼女は今、俺の隣に居るのだから。


高い空中の浮足場に立ちながら、昇る朝日に向かって。

まるで生まれ変わったかのような何の濁りも無い瞳で、マキアはただただこの大陸を見つめていた。


耳の留まる赤い雫型のイヤリングが煌めかせ、両腕でぎゅっと、俺にしがみついて。


「さて……ここを魔族の国の拠点とするなら、あらゆる外敵から身を守る為の結界を張らないといけないな」


「……結界?」


「ああ」


俺は、時空王の権威を掲げて、簡単にできるようになったそれを展開した。


「魔道要塞……“透明の大天蓋ダイアモンド・ケージ”」


それはトワイライトのダイアモンド・バスケットに倣ったものだが、その規模と強度は比べ物にならない程。

空からの侵入、陸からの侵入、海からの侵入を全て拒む、透明の要塞。

外界からの視察、接触は不可能であり、一見は今まで通り何の変わりもない大地を擬す。


一瞬だけ、オーロラのような淡い光の帯が走り、一帯を覆う。


「まあ……綺麗ね」


「なあ、マキア……」


「……?」


「お前、俺のつくる魔族の国を、見たいか?」


「……そ、そりゃあ。……だってつくるのでしょう?」


「なら、俺の創る魔族の国の……お妃様にでもなるか?」


「え……?」


「ははっ」


マキアは最初、きょとんとしていた。おそらく意味が分かっていなかったのだろう。

しかし、次第にあわあわと赤面し、言葉にならない動揺を見せる。

俯いたり、顔を上げたり、だけど俺の顔を見つめる事が出来ずまた目をそらしたり。

口を開いたり閉じたり。

そして、両手のひらで顔を隠してしまった。

慌ただしい動揺はとても可愛らしいし、俺としては嬉しい。


俺は知っている。

それは、紅魔女がかつて密かに望んだ、乙女チックな願望だ。

彼女は俺との対等より、俺の側に居たいと願っていた。


俺はもう一度、マキアを抱きしめた。

今やっとこみ上げて来たのは、彼女が側に居る喜びと、切なさ。

狂おしい程の愛おしさだった。


「おかえり……マキア」


「……」


マキアはしばらく俺の腕の中で大人しくしていたが、腰に腕を回し、胸に顔を埋めて頷いた。


「ただいま、トール」


そして、少しだけ身を離す。

なかなか顔を上げられないマキアの顎を持ち上げ、お互い見つめ合い、そっと口づけ合った。

恐ろしい程に美しく静かな、このメイデーアに見守られながら。













世界は、このメイデーアは、彼女をマキアと認めたのだろう。


俺がしつこく名を意識させたのと、マキリエの思念、マキアの魂、真紀子の肉体を持つ彼女の情報を辿り、最終的に名を“マキア”として確定させたのだ。

なぜそれが分かったかというと、マキアが自らの魔力数値を読み取る事が出来たから。


恐るべきは、その数値が300万mgを遥かに越えていた所である。

彼女はまさしく、異世界より現れし異端の救世主だ。


マキアと俺が地上へ降り立った時、既に魔族たちの移動は終わっており、安全な地下の遺跡に留まっていた。

大規模空間への入り口はすでに閉じられていて、俺ですら、もう辿り着けない。

その空間が崩壊したとはいえ、空間が完全に消滅するのは難しく、おそらくどこかに歪みは存在するのだろうが、それを探ろうとも思わない。

あの場所は、もう誰にも侵入されない、静かなる暗闇であって良い。


誰もが彼女の赤い髪に驚き、そしてやっと、彼女が紅魔女であり、マキアであったのだと理解した。

ライズも、アリスリーンも、勿論レナも、驚愕の表情を隠せずにいたっけ。



その日から、俺の夢の中にいたマキアを模した記憶の管理人は、現れなくなった。

マキアの施した命令は破られたのだから当然と言えるだろう。。







さて、俺たちの国づくりはすぐに始まった。

最優先はシステムタワーの構築だが、これは俺の力の試される所だ。

かなり複雑な魔道要塞が必要になるだろう。

まずは建設場所の調整と、設計から始めなければならない。


数の増えた魔族たちは、自らの国がこの大地に存在する、その喜びを胸に率先して働いた。

アイズモア代表を俺とするならば、カルディア代表をライズ、ユートピア代表をアリスリーンとし、フレジールのカノン将軍を有能な第三者目線の、特別な賓客として扱い会議した。

アイズモアに残っている物資を移動させ、今後、ここで生活を根付かせる為の会議だ。


幸い海も近く、森もあり、このような岩の多い場所だというのに土は肥沃で、悪質なマギ粒子さえ無ければこれほど良い土地も無いだろうと思われる場所だ。

元々西の大陸は土地が肥えている事で知られているが、その謎は、地下の更に奥深くにあった。

カノン将軍とマキアに連れて行ってもらったのだが、そこには小さな樹が植わっていて、聖地の大樹ヴァビロフォスの枝が持ち込まれたものだと言うのだから驚きだ。


そしてもう一つ驚いた事と言えば、この閉じられた空間のマギ粒子を、フレジールの小型戦艦“フリスト”が計測し続けているのだが、その数値は微量ながら下がり続けており、ひとえに地下の聖樹と閉じられた空間が可能にした浄化方法だ。

魔族や魔王クラスであれば、このマギ粒子に害は無いのだが、このまま順調に浄化できれば、普通の人間が踏み入る事もできる場所になる可能性もある。


何にしろ、希望はある。

この大地は、長い時をかけてでも蘇るだろう。

俺たちがする事と言えば、それを手伝いながら、全てを良い方へ導く事。

その、足がかりを作り上げる事だ。

もしかしたらそれこそが、俺の大業であるのかもしれない。






大崩壊から二週間は経っただろうか。


「とにかくシステムタワーだな。あれさえ出来上がれば、フレジールとルスキア双方と繋がって、より物資提供が簡単になる。“透明の大天蓋”も、独立して展開できるしな」


自室でタワーの設計をしながら、俺は一人呟いた。

昼間は、まだ少し混乱し落ち着きそうにない国の整備の指揮を取り、夜はタワー用の魔道要塞の設計を行う。

マキアは相変わらず人の部屋で食っちゃ寝を繰り返す自由人だが、ネグリジェを纏い自慢の赤毛を梳きながら、俺に問いかける。


「私、少し思っていたのだけど、タワーって本当に大樹の様よね。あんたのつくった“透明の大天蓋”だって、緑の幕のようなものじゃない? ま、あれに比べたらおもちゃみたいなもんでしょうけれど」


「……」


「国の象徴になるものって、そういった高くて細長いものなのかしらね」


何気なく言った言葉だろうが、マキアのそれは俺に一つの予感を抱かせる。


「もしかしたらメイデーアの人々は、大樹への依存から、脱却しつつあるのかもしれないな……」


「え?」


「いいや。どんな世界でもそうだが、科学やらの技術が確立されると神々の存在感は薄まり、必要とされなくなる。この世界では、それが魔導科学であったというだけで」


魔王クラスの体から魔導回路を発見し、利用できるように開発したのは、フレジールのカノン将軍だと聞いた。

もしかしたら彼の目的は……


「まあいい。今はそれどころじゃない。やらなければならない事は、まだ山ほどある。……国の名前も、タワーの名前もどうしようかな。名付けって本当に大変だな……ヘタに格好良くしようとすると痛々しくなるし」


「いっちょまえに魔道要塞にキザなタイトルをつけてるあんたが言うの」


「あたた……やめてくれ。そこをつつかないでくれ」


俺が悩み苦しんでいる様子から目を逸らし、マキアは天井を見上げた。


「……そうよ。何も終わっちゃいないわ。北に捕われているトワイライトの者たちも助けなくちゃ」


「ああ。その事を、昼にカノン将軍とも話し合った。どうやらトワイライトの連中は、この西の大陸の北端にある研究所に閉じ込められ、巨兵の研究をさせられているらしい。何はともあれ、あいつらを救い出す為にここで体制を整え、計画を練らないとな」


「……」


「もう寝るか?」


ネグリジェ姿のマキアがあくびをしたので、さりげなく。

しかしマキアはじとっとした目で俺を探るように見る。


「あんたは床で寝なさい。私がベッドで寝るから」


「ここに来ておいて。マキアさんはもう俺と一緒に寝てはくれないのか……マキだった頃の素直な愛らしさはどこへ行ったのか」


「だってあの頃は、あんた何も分かってない人畜無害な奴だったもの。記憶も無かったから、私だって好き勝手に振る舞えたし。……でも、今のあんたには記憶があるし、なんか今までと違うもの。ギラギラしてるもの。黒魔王だもの。有害よ有害」


「ほお、言ってくれるじゃないか」


マキアはぷいとそっぽ向いて、ひねくれた態度を取る。

ああ、これこそマキアだなと思いながらも、照れ隠しだと分かっている分微笑ましい。

俺に、過去の紅魔女関連の記憶が無かったから、彼女自身も俺に対する恥じらいや遠慮が無かったのだ。

ただ今は、マキリエや真紀子、マキアの“思い出”がある分、プライドなど複雑な感情が先走って恥ずかしくてたまらないらしい。

そういうもんなのか……


「ならお前、自室があるんだから自室で寝ろよ」


「……それは嫌」


「なぜ?」


「なぜって……何よあんた、可愛くなくなったわね。ほんっと、黒魔王みたい」


「お前、黒魔王が大好きだったじゃないか」


「ほらっ、ほら、そう言う事言う!! もーやだもーやだー!!」


ソファのクッションを抱きしめ、端を噛んでもだもだとしながら、彼女はそのままクッションに顔を埋めた。

面白い。


「今までと変わらねえよ。何もしやしないさ。……御館様にも挨拶してないのに」


「……は?」


「そうだ。何もかもが終わったら、一緒にルスキア王国へ行こう。御館様に会いに行こう。きっと、泣いて喜ぶぞ」


「……」


マキアは少しだけ落ち着いて、ソファに深く座り込み、コクンと頷いた。

懐かしいルスキア。

懐かしいデリアフィールド。

彼女はまだ、そこへ降り立ってはいない。

俺は彼女を、そこへ連れて行ってあげたい。

おそらくマキアだけでは、尻込みしてしまう場所へ。


「ね……ねえトール、もう寝ましょう?」


「俺は床か?」


「い、いいえ。別に……ベッドで寝ていいわよ」


口をもごもごとさせながら、彼女は俺にベッドで寝る許可を出した。


「でもあんた……あんた調子に乗った事をしたら、私が噛み付いて、引っ掻いて、ベッドから蹴落とすから……分かっているわよね」


「疑り深いなあ」


「そこら辺のあんたの信用の無さは、あんたの知る所でしょうよ」


「……」


うーん、この、マキア。

懐かしいな。この一筋縄ではいかない感じ。


だけど俺がすたすたと隣の寝室へ向かうと、焦ったように立ち上がってちょこちょこと付いてくるのだから、やはり彼女はマキアである。








そうして、俺たちは共に眠りにつく。

変わらない関係を慈しみながら。

まだまだ、決着のつかない問題は多く抱えていたし、見落としている事もあるかもしれない。


だけど、今やっと手に入れたものだけを大事にしながら。



長い夢の中で、二人の安住の地を描く。

目覚めた時から、そこへ辿り着く為の何もかもを怠らない為に。


今ばかりは、心穏やかに。








6話連続で読んでいただき、ありがとうございます。

これにて、カウントダウン『5』は終了になります。

マキちゃんはまたマキアになりました。


まだ続きます……おっ、俺たちの戦いはこれからだ!


ここら辺の話はトルクとマキリエの追憶編とリンクしておりますので、お時間ありましたら、ぜひまた振り返ってみてください。




『5』の+αを投稿して、来月の中旬あたりからに『4』を開始したいと思っております。


『4』は主にフレジール勢の話になります。

シャトマ姫とエスカ近辺です。

千年前の因縁も本格的に明かにという話です。

ちょくちょくトールたちの国づくりの話が挟まると思いますが、ここら辺も楽しみにしていただければ幸いです。


ではでは、今後ともどうぞよろしく御願い致します。


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