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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
289/408

18:『 5 』トール、外と中。



6話連続で更新しております。(2話目)

ご注意ください。






俺はトール。

かつて黒魔王と呼ばれ、今もまた、魔族にそう呼ばれている。




「これは……凄いな……」


アイズモアが西の大陸の最も西にある岩の遺跡群に位置していた事を知り、マキに教えてもらった出入り口からそこへ出た。


でこぼこと、まるで砂漠にある大きなサボテンのようにそびえ立つ岩々は、内部をくり抜けば住処になりそうだし、それこそ高い岩山に囲まれた土地は、秘境のようで隠れ場所にはぴったりだ。


手の甲に立体魔法陣を作り、周囲の様子を探った。

この岩山地帯に敵らしき存在は確認できない。


しかし、連邦軍の留まる場所から随分離れているとはいえ、奴らは空からもこの国を見つける事が出来る。

すぐに、結界を張ってこの場所を隠した方が良いだろう。




ライズに命じ、より周囲を探らせていた。

元々、人も隠れ住んでいた場所らしく、岩穴の住居は無数に存在した。

もっと民を収容できる場所があれば、明日にでも移動を開始するのだが……


「おい」


気がつくと、背後にカノン将軍が立っていた。

本当にいきなり現れたような気がした、俺は少し驚いた。


「お、お前……どこから」


「……そんな事はどうでも良い。こっちへ来い」


存在がふわふわしている、とマキはこいつの事を評していたのが、何となく分かる。

昔はこいつを憎しみの対象として見ていたから、意識していた分そのようには思わなかったが、今になってようやく。




カノン将軍に連れられてやって来たのは、隠し扉から下って行った場所にある、地下の宮殿。

荒れ果てているが、空間としての強度はあり、何より広大だ。


壁画が描かれていた痕跡があるが、今はもう拝む事は出来ないようだ。


「ここを、ひとまずの住居として使うと良い。地下である分、地上からは見つけにくいし、雨風もしのげる。地下水の湧き出る場所もある。遥か昔の遺産だ……」


「なんて場所だ。確かに、これだけ広ければ、ひとまずの身の拠り所にはなるな」


空間魔術師としての性だが、こういった遥か昔の建造物や空間には心躍る。


「あとは、どこにシステムタワーを建造するか、だな」


「……出来るだけ高い場所が良いだろう」


「まあ、ここらも元々高地だけどな」


カノン将軍と、システムタワーの建造場所について、めぼしい場所を検討していた時だ。


「……?」


大地が少し、揺れた気がした。


「黒魔王様、黒魔王様!!」


少ししてライズが慌てたように俺を呼びにやってきた。


「どうした」


「黒魔王様、く、く、黒平原が……っ」


「……?」


「アリスリーンから報告がありました。大規模空間の黒平原が、“暴れて”おります!!」


「……」


は?


ライズの言葉は説明足らずで意味が分からなかったが、良からぬ事が起こっているのではないかと思ったものだ。

カノン将軍は目を細め「早く行け」と俺に指図。

なんか腹が立ったが、言い返す時間も無さそうだ。


その場をカノン将軍に任せ、俺はライズとともに一度アイズモアに戻った。








「なんだ、これ」


アイズモアに戻り、グリメルの背中に乗って黒平原を空から確かめた。

アリスリーンがペガサスに乗って、こちらにやってくる。


「黒魔王様!」


「アリスリーン。これはどういう事だ」


「それが、良くわからないのです。ユートピアの民をアイズモアへ移送中、気がつきました。大人しかった黒平原が、いきなり……」


黒い影が、まるで荒波のように平原を波打ち、空間は酷く不安定だった。

あと三日は保つと思われていたこの大規模空間だが、急激に安定感を損ない、これではあと一日も保ちそうにないのが分かる。


ぐっと歯を食いしばり、黒平原を見つめ、考える。


「アリスリーン。このままではこの大規模空間は保たない。ユートピアの民を急いでアイズモアへ移動させ、その後ライズと協力して民を“外”へ逃がせ」


「……そ、それは」


「時間は無い。良いな!」


アリスリーンにはまだ躊躇いがあったようだが、この状況で迷っている暇など無い。

真剣な表情で頷き、そのままアイズモアへと引き返した。


俺は再び、黒平原に向き直る。


「……?」


少し遠い所で、何かが光った。

その光はまっすぐな軌道で黒い影を斬り、俺に場所を知らせる。


そこには、マキが居た。


「マキ!!」


「トール!!」


マキは何かを必死になって捕らえようとしてた。

俺には何が何だか分からない。


「トール、あんた、そこに居なさい!!」


「は!? お前、いくらお前でも無茶だ!! 早くこっちに」


俺が黒平原の影に近寄り、手を伸ばした時、マキはそのタイミングを見て影から何かを引きちぎるようにして、俺の方にそれを押し付けた。


「……レナ!?」


それは、黒い影に体を覆われ、気を失ったレナだった。

マキはレナを助けようとしてたのだ。

ハッとしてマキを引き上げようとしたが、彼女を覆う影は厚く、巨大で、近寄る事すら出来ない。


「マキ!!」


「トール、良いからあんたはその子を連れて行きなさい!!」


「だが……っ」


「良いから!! 私を信じなさい!!」


マキは強い口調で俺に指示して、そのままニッと笑うと、凄い早さで影に飲まれた。


「マキ!!!」


瞬間、黒い影は何か大きな力を取り込んだというように、鈍い光を放ち更に増長する。

空間の安定力が、更に低下したのが分かった。


何なんだ。

いったい何が起こった。


俺は一度宙の高い所まで避難して、レナの様子を見た。


レナは息をしているが、酷く青ざめ、体が冷たい。

黒い悪魔の禍々しい気に当てられ、所々に鈍い色の痣が出来ている。


「……クソッ」


早くマキを助けに行きたいが、このような状態のレナを連れて行く訳にも、置いて行く訳にもいかない。

俺は一度、アイズモアへ戻る他無かった。


焦る心を抑える事は、出来そうになかったが……マキの力は尋常ではない。

彼女を信じるしか無い。








アイズモアへ戻り、レナを安全な場所で寝かせた時、彼女がやっと目を覚ました。

酷く怯え、体を震わせている。


「大丈夫か、レナ」


「……トールさん……トールさん、私……っ」


彼女はワッと涙を流し、俺に縋った。


「ごめんなさいトールさん、私、私……ああっ、怖い……っ、“黒魔王”様、“黒魔王”様……っ!」


「落ち着けレナ。大丈夫だ、ここはアイズモア。安全だ」


「な、なに……あれ……あんなの……怖い、怖い……黒魔王様……っ」


「……レナ?」


俺の事を“黒魔王”と呼び、取り乱すレナの肩を抱いて、宥める。

酷く怯え、ただならぬ恐怖を感じたらしく、彼女はしばらく泣いていた。


いったい、何があったんだ。

レナが少しの間泣き、やっと落ち着きを取り戻した時、俺は彼女に尋ねた。


「レナ……いったい何があったんだ。黒平原に、お前が居るなんて……」


「……トールさん、そ、そうだわ、マキさんは……」


「……」


レナがマキの事を気にした。

キョロキョロと辺りを見て、不安そうに口に手を当てる。


「マキは、黒平原の悪魔に飲まれた。お前を俺に、託した後」


「……え」


「お前が目を覚まして良かった。体があまりに冷たくて、生きた心地がしなかったが……。俺は今からマキを探しに行く。ライズにお前を外に連れ出すように言っている。お前は、脱出するんだ」


「だ、脱出? で、でも……この空間はあと三日保つって」


「いいや、もう保ちそうにない。黒平原が荒れ、空間の安定感が低下している。俺が、なんとかしないといけない」


「……」


低い声で、自らに言い聞かせるように言ったのだが、レナはこの言葉で再び涙を流した。

寝台の布団を握りしめながら。


「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」


「どうしたレナ。お前が謝る事なんて無い」


「違うの……っ。私が、私がマキさんの邪魔をしなかったら、こんな事にはならなかった。マキさんだって、黒平原に飲まれたりしなかったのに」


「……?」


「私が、勝手に……何の力も無いくせに、黒平原に出たりしたから……っ」


彼女の言葉で、俺は少しばかり状況を悟る。

何かをしたい、何か力になりたいと言っていたレナだ。

おそらく、一人で黒平原の調査に出たマキに付いて行ったのだろう。


「……レナ、後は俺に任せろ。お前は、すぐにでも外へ行くんだ」


「トールさん……」


「いいな」


レナを責める事はしない。出来ない。

俺はそれだけ言うと、彼女に背を向け、部屋を出て行った。







俺は、レナを見誤っていた。

彼女を聞き分けの良い娘だと思っていた。なぜ、そう思っていたんだ。


ヘレーナは、そうじゃなかっただろう。


何度言い聞かせても、俺の言う事なんか聞かないで、勝手にふらふらと外へ出て行ってしまうような、自由奔放な娘だっただろう。

そんな危なっかしい所に、黒魔王は振り回され、目を見張っていなければと思っていたんじゃないか。

そして気がつけば、夢中になっていたんじゃないか。


遥か昔の事で、忘れてしまっていたのか。

今のレナが、ヘレーナとは違い、大人しく良い子だったからと言って……


俺は急いで、外との出入り口に向かい、その出入り口の大きさを広げた。

ここに居る魔族を効率よく外に出すには、空間を広げた方が良いからだ。


「あとは頼んだぞライズ。この大規模空間は、もう一日と保たない。アイズモアだけは独立した空間だから、例えとり残されても死ぬ事は無いだろうが、出来るだけ速やかに、民を移動させるんだ。アリスリーンと、協力するんだぞ」


「黒魔王様!! 黒魔王様はまた黒平原へ向かわれるのですか!?」


ライズが、黒平原へ向かおうとする俺を引き止めようとした。

しかし、俺は首を振る。


「マキが黒平原に飲まれた。あいつ程の力があれば、独立した個体を保てるだろうが……急いで助けないといけない」


「……黒魔王様」


「すまない。こんな時に、勝手だが」


「……いいえ。そうですね……黒魔王様は、そう言うお人だ。美女には、特別弱い」


「あっはははは。それもそうだな」


こんな時に、ライズの言った事がツボに入ったりする。

ライズは俺の事を良くわかっているようだ。


「黒魔王様に頼ってばかりでは、このライズ、いったい何の為に、この二千年を生きながらえたのか分からない。はい、この場はお任せください。何が何でも、民を安全な場所へ移動させます。一人残らず」


「流石だ。お前は本当に頼もしいよ」


ライズは逞しい様子で、俺を見送った。

アイズモアを離れ、グリメルに乗ったまま、俺は高く高く上昇し、この大規模空間の超ど真ん中辺りで、蠢く黒い影……そう、黒平原の悪魔を見下ろす。


今までも得体が知れず、なんなのかが全く分からなかったその存在が、今では少しばかり、感情的な何かの支配下にあるのが分かる。

怒り、悲しみ、憎しみを滲ませた、感情的な“何か”。

なぜだ。

胸に、痛い程届く。


「今、暴いてやる」


そのままグリメルを解除し、俺はただ落下した。

自ら悪魔に飲まれに行ったのだ。



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