13:『 5 』ユリシス、スズマと共に海岸より。
二話連続で更新しております。(二話目)
ご注意ください。
僕の名前はユリシス。
教国の緑の巫女の花婿だ。
「いいか、お前たち、お前たちは何があっても無茶はするな」
エスカ義兄さんがフレジール王国へ向かう前の事。僕とスズマを呼び出して言った。
僕とスズマは顔を見合わせる。
「そう言う訳にもいきませんエスカ義兄さん。ルスキアに何かあれば、僕がなんとかしなければ」
「死ぬ程の無茶はするなという事だ。白賢者、お前分かってんのか? 巫女様はご妊娠なさっているんだぞ。もし女子であれば、次代の巫女様をお産みになるという事だ。お前に何かあったり、スズマに何かあれば、巫女様はさぞかしショックを受けるだろう。巫女様の体調になにかあったらどうする。死ぬなら巫女様が出産なさってからにしろボケ」
「相変わらず無茶苦茶言う人だなあ」
ねえ、とスズマを見下ろした。
スズマはぽかんとしている。
「スズマ、お前、修行はさぼるなよ。俺の言った事は全部やれ。毎日やれ。体を鍛えるんだぞ。なよっちい白魔術師は古いタイプで役に立たないからな。誰かさんのように」
「……パパは格好良いよ? エスカお兄ちゃんもカッコイイけど」
スズマは首を傾げて、困ったようにしてそう言った。この子は最近僕の事をパパと呼び、ペルセリスの事をママと呼ぶ。
前世ではお父様お母様だったが、これはこれで悪くない。
しかしエスカ義兄さんが「なよっちい白魔術師」と言ったのに対し、迷わず僕の事だと悟ったスズマは僕の事をなよっちいと思っているという事か。
……父として由々しき事態だ。
「どっち付かずなガキだな」
「僕はどちらも好きだよ。パパはパパだし、エスカお兄ちゃんはお師匠様だもの」
「調子のいいガキだな」
「だけどエスカお兄ちゃんの格好はどうかと思うんだ」
「相変わらず毒のあるガキだな。結構。お前はビッグになる」
ぐりぐりと、スズマの頭を撫でるエスカ義兄さん。スズマは「痛いよ」と困り顔。
エスカ義兄さんはなんだかんだ、スズマを可愛がってくれているようだった。
僕はスズマの白魔術修行を、全面的にエスカ義兄さんに任せている。というのも、やはり僕ではスズマを可愛がってしまい、厳しく出来ないだろうと分かっていたからだ。
多くの弟子を持っていた白賢者だが、やはり我が子と弟子は違うしな、と。
「ですが義兄さん、あなたも無茶は禁物ですよ。僕らの白魔術は、トール君のような黒魔術と比べたら小手先の小技にすぎません。基本はサポートの魔法ですから」
「白魔術つくった奴が、白魔術をバカにすんなよな。お前も、白魔術は黒魔術には劣っていると思っている節か」
「そう言う訳ではありません。兵器と生活必需品をどちらが大切かというのと同じ事です」
「はん。白魔術は万能たわしかよ」
「でもまあ、僕は嬉しいですよ。そこまで白魔術を愛してくれる人が居るというのは」
ねえ、ねえとスズマと顔を見合わせて。
エスカ義兄さんは「うへえ」と嫌そうな顔をした。
そうして、やっと彼は旅立った。
「いっちゃったねえ、エスカお兄ちゃん」
「スズマ、君も行きたかったかい?」
ルーベル・タワーからの帰り道、僕とスズマは手をつなぎ海岸を歩みながら語る。
「ううん、僕はママを守るように、エスカお兄ちゃんに言われているから」
「……偉いね」
「うん!」
スズマはニコリと微笑んで、僕の手を離して海岸の貝を拾いに行った。
彼は子供なりに、海岸に落ちる貝を拾うのが好きだった。砂漠育ちだからか、教国の側の青い海をとても気に入っていたのだった。
「見てパパ。この貝殻、細長くって綺麗だね」
「おや……大きな貝殻を拾ったね」
スズマの持って来た貝殻は、細長く白く滑らかな巻貝で、二十センチ程ある長いものだった。
「これ、笛になったりするかなあ」
「笛?」
「うん。本で読んだんだ。貝は笛になるって。音が鳴ったらきっと楽しいと思うんだ」
「……ああ、なるほどね」
貝殻を笛にしたがる子供らしい所を、僕は微笑ましく思い、クスクスと笑った。
そして、側の岩場に座り、スズマを呼ぶ。
「貝殻をかしてごらん?」
「……?」
「ここ辺りかな」
僕は貝の細い方の先っぽを指で撫で、魔法の印をつけた」
「さてスズマ。君の持つ精霊で、この印をつけた辺りで貝を切る事ができるのはいるかな?」
「……貝を切る?」
僕の質問に、スズマは眉間にしわを寄せ考え込み、そして目の前に魔法陣を一枚形成した。
「第一戒召喚……出ておいでプラナ」
そうするとハチドリの精霊プラナが「何よ、気持ちよく寝ていたのにっ」と、文句を言いながら現れた。
「ねえプラナ、この貝殻をここら辺で綺麗に切る事って出来る? 出来るよねプラナなら。だってそんなに鋭い針と羽を持ってるんだもの。僕知ってるよ? プラナがリンゴを真横からスパって切った所、見た事ある」
「え……え、あ、あ、うん」
プラナはスズマの、悪意の無い純粋な“命令”に圧倒され、へこっと頭をさげた。
スズマは良い精霊使いになるな……これは。
スズマが貝殻を掲げて「いいよ」と言うと、プラナは勢いよく貝を横切り、その後すぐに、貝の先端はぽきりと折れた。
まるで空飛ぶカッターだ。
切れ味は素晴らしく、切り口を確かめてみても滑らかでヒビも無い。
「プラナ、腕は落ちてないね」
「そりゃあ白賢者様。プラナはまだまだ現役よっ」
ブーンと側を飛びながら、彼女はえへんと胸を張った。
「ここからどうするのパパ」
「あとは、地道に削って、吹いて、を繰り返すだけさ。例えば、こういう少しだけざらざらした岩場の窪みで、先端を立てて削るんだ。やってみるかい?」
「うん!」
スズマは岩の上で僕の後ろに回り込み、ざらざらした岩肌の上に貝殻の先端を立てて、押したり引いたり。
「時々回すんだよ。偏りが出来たら良くないからね」
「うん」
スズマは夢中になって、貝を削った。
時々、吹いたりして、具合を確かめてみるが、スカッとした情けない音が出るだけで、スズマは力んでしまっていたのか顔を真っ赤にしていた。
「穴はこれくらいで良いんだけどね。あまり力を入れて吹いてはいけないよ。軽く、優しく吹くんだ」
「……難しいよパパ。パパが吹いてみて」
スズマが僕に笛を手渡す。
僕はそれを受け取り、海に向かって軽く吹いた。
ピー……と優しい高い音が出る。
瞬間、海はその波音をピタリと止め、この音に聞き入っているかのように穏やかになった。
潮風が柔らかく、音を遠くへと運ぶ。
スズマはその瞬間に目を見開き、驚いていた。
「す、凄い凄い!! 音が鳴ったよ!! それに波がピタリととまった。やっぱりパパは自然の王様なんだね!」
「……ふふ。笛は完成しているよ。あとは、君の笛の腕次第という所だね」
「かしてかしてっ」
スズマはすぐに、笛を吹きたがった。
しかしやはり、何度吹いてもなかなか音が出ない。
「……」
「あはは」
その、少しがっかりという肩を落とした様子が可愛らしく、僕は思わず笑ってしまった。
「笑わないでよパパ。……はあ、今日から白魔術の特訓に、笛吹きの特訓も入れなくっちゃ」
「……ああ、それが良い。そのうちにコツを掴むさ」
「笛が吹けるようになったら、ママに聞かせてあげる。ママのお腹の赤ちゃんにも」
「きっと喜ぶよ」
スズマはその笛を大事そうに抱えて、岩場をぴょんと飛び降りた。
僕も降りる。
「帰ったら、その笛にひもを付けてあげよう。肩からかけると良いよ」
「うん。そしたらいつでも持ち歩けるね」
「大事にすると良いよ。笛というのは、魔法の力を帯びやすいんだ。もしかしたらそれは、そのうちにスズマの魔力を溜め込んで、良い魔法道具になるかもしれない」
「へえええ。それは凄いやっ!」
スズマは張り切っていた。子供はこういった小道具が好きだから、きっとすぐに上達するだろう。
子供のうちから触れて来た道具は、のちのち重要なものになったりする。
特に口から出る魔力というのは、呪文しかり意味があるもので、笛を使って魔法を使う者も世の中には居る。
スズマには様々な方向から白魔術を楽しんでもらいたい。
「……あれ?」
「どうしたんだいスズマ」
「ねえパパ。海の向こう側……何だか、“島”があるように見えるんだけど、こんな所に島ってあったっけ?」
「……?」
僕はスズマの指差した方向を見つめ、目を凝らした。
太陽の光がとても強かったから、目の上に手を置き陽光を避け、じっと。
「あ……え?」
僕はてっきり、船かなにかを、スズマが島だと勘違いしたのかと思った。
確かに、ミラドリードの海岸沿いにはいくつか小島が存在するが、僕らが今立つ場所から見える島なんて、無いはずだ。
しかし、そこにはぽっかりと、でもうっすらと、見える島があるように思える。
「な……なんだあれ」
思わず、頬から汗が流れた。
いったいいつから存在したのか。
その島は、本当に静かに出現していたのだった。
誰にも気がつかれなかったのは、誰にも見えなかったからだ。
最初に見つけたのは、スズマ。そして僕。
要するに、その島はこの海岸線に集中する神話時代の“残留魔導空間”の一つであったという事だ。魔力の極端に高い者にしか見つけられない。
それが、僕らの目に見える形で現れた。
いったい、あの島は何なのだろう。
胸騒ぎが止む事は無かった。
書籍化に伴い、タイトルが変更になります。
俺たちの魔王はこれからだ。
↓
メイデーア魔王転生記 〜俺たちの魔王はこれからだ。〜
となります。
よろしくお願い致します。




