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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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12:『 5 』シャトマ姫、黄金リンゴと大三角の果て。

二話連続で更新しております。(一話目)

ご注意ください。



私の名前は、シャトマ・ミレイヤ・フレジール。

フレジール王国の王女である。




「は……なに? そなたも、カノンについていきたいだと?」


「ええ。だめでしょうか、シャトマ姫……」


フレジールにやってきていたレナが、妾を尋ね頼んだ。

西の大陸へ向かったトール・サガラームの元へ送り込むカノンとともに、自らも行きたいと。


「分かっているんです。私では足手まといにしかならないって……ですが、どうしてもトールさんに会いたくて」


「……」


「ご、ごめんさない。こんな大事な時に。……だけど」


「まあ良い。そなたの気持ちも分からなくもない。前世の夫が未開の地で浮気してないか気になって仕方が無いのだな」


「そ、そう言う訳じゃないですけど……っ。それにトールさん、今の私には、全然……」


レナは視線をそらしながら、やがてうなだれた。

この娘も複雑な立場だ。


「私、別にトールさんのお役に立てれば、それで良いんです。今更、あの人の特別になりたいだなんて、思ってません……」


「ほお。トール・サガラームはつくづく罪作りな男だ」


「黒魔王様……っ、トールさんは、別にそんな」


「まあ、そなたに何かあったら困るが、とりあえずカノンに聞いてみようか。あいつが駄目と言えば駄目だし、良いと言えば良い。この件は全面的に、あいつの管轄下だからな」


「……この件?」


「あ、いや」


妾は書類を扱う手を止めて、机の上に腕を立て指を組み、顎をのせる。

この件というのは世界をも揺るがしかねない超絶トライアングルの件だ。


「しかしレナ。旅は辛いし、それ以上にカノンは怖いぞ。何をどう怒られるかは知らんぞ。トール・サガラームともすんなり会えるかは分からない」


「え、っと、はい。わ、分かってます……」


レナはカノンを恐れていたが、それでも頷いた。

そうこう話しているうちに、噂のカノンが部屋にやってきた。

レナを見ると、眉間にしわを寄せる。まあ、いつもとそう変わらない表情だが。


「……」


「いや、だからなカノン。レナを一緒に連れて行ってあげてほしいのだが……いや、勿論お前次第だが」


「わかった」


「ほーらみろ、やっぱり……って、え」


案外カノンはすんなりと受け入れた。

実を言う所、妾は駄目だと言われるばかりだと……


だってレナは、いわゆる黄金のリンゴ。

投げ入れられれば騒動のきっかけになる。


「レナ、勝手をしないというのなら、連れて行ってやる……」


「は、はい!! ありがとうございますカノン将軍っ」


カノンは何を考えているのやら。

妾は少しばかり心配になった。


「私、お役に立てるように頑張らなきゃ……」


レナは喜び、張り切っていた。

今の自分ならば、少しは役に立てると思っているのだ。

しかし確かに、最近彼女の白魔術の技術はめきめきと伸びていて、そこらの王宮白魔術師とそう変わらない程度には扱えるようになった。

あり得ない吸収速度であったが、これもまた異世界より現れし伝説の少女故の力か。






「お、おいカノン……そなた、あえて修羅場でも作るつもりか」


レナが部屋を去った後、妾はカノンに問う。


「あの因縁の地に、因縁全部ぶち込もうって算段か。西が再び燃え上がるな……」


「……そう言う訳ではない。しかし、避けられない事だ。黄金のリンゴは、再び投げられる運命だ」


「……」


我々の会話は、“黄金のリンゴ”の神話に基づいている。

これ自体はどんな神話の本にでも書いている話で、神話の最終章である“巨人族の戦い”のきっかけの一つとなったとも言われている。


神話は、こうである。


9人の神は、それぞれの国を持ったが、やがてパラ・ユティスとパラ・デメテリスが恋仲となり結婚し、お互いの隣り合った国を一つにした。

そのうちに、パラ・クロンドールとパラ・マギリーヴァが恋仲となり、またパラ・エリスとパラ・プシマが婚約したが、それを面白く思わなかったのが主神パラ・アクロメイアである。

要するにこれ以上女神がいなかったので、パラ・アクロメイアは領土を広げる事が出来ず酷く嫉妬したのだった。

そこで、パラ・アクロメイアは自らの宮殿で宴を催した。

参加したのは9柱中6柱で、参加できなかった神々を上げた方が早い。


パラ・デメテリスの出産と重なり、パラ・ユティスとパラ・デメテリスは欠席。

死の国に引きこもり外に出る事のあまり無かったパラ・ハデフィスも欠席。一説によると、パラ・ハデフィスはそもそも招かれなかったともされている。死の象徴という事で、嫌われていたとか。


さて、パラ・アクロメイアの催した宴は盛大に執り行われ、葡萄酒が豊富に振る舞われた。

その宴の余興で、投げ入れられたのが“黄金りんご”とされている。

どの神話の壁画や文献にも、黄金リンゴは光り輝く魅惑の果実として描かれ、それ以上の事は記されていないが、それがきっかけで神々は憎み合う事になってしまったのだとされている。


神話学者は、この黄金リンゴがいったい何だったのか、様々な説を唱える。

それは、黄金の眠る鉱山だったのでは、とか。

魅惑的な女性だったのでは、とか。

そもそも、そんなもの無かったのではないか、とか。


妾は覚えていないが、カノンは知っているらしい……



「しかし、明日からそなたもレナもいなくなっては、妾は寂しいのお」


「良く言う。……それに、聖灰の大司教が居るだろう」


「そうだ。大司教様が居る。遊んでもらおう」


「……」


妾がふざけてそう言うと、カノンはどこか視線を落とし、押し黙った。

コロコロと笑い、妾は悪戯に微笑んだ。


「おや、嫉妬か?」


「違う。そう言えば、昔もそうだったなと思っただけだ」


「……懐かしいのお。千年前も、妾はそなたと大司教様に遊んでもらったな」


千年前の藤姫が、まだ少女だった時。

聖灰の大司教様が藤姫の元を訪れ、初めて妾は神器を手にとった。


妾はまだまだ幼く遊び盛りだったから、よくカノンと大司教様に遊んでもらったものだ……


大司教様は、今とは全然違う雰囲気だった。

落ち着いていて、思慮深く、格好も教国の制服をきちんと着たもので……どうして今あんな事になっているのか皆目見当もつかないが、おそらく大いなる悟りの末の結果だと思っている。


「しかし、今もルスキアとフレジールを行き来しているとはいえ、西に行ってしまえばそなたと会えない期間が長くなりそうだなあ……西の大陸にはシステムタワーも無いし、気軽に通信も出来ない。心細いのお……」


妾はふかふかの椅子の背もたれにだらんともたれて、机の中の足置きに足を乗せ、椅子をぐらぐらと揺らした。


「……姫、行儀が悪いぞ」


そうすると、カノンは目ざとく注意する。

妾的にはそれを待っていたのだが、わざとらしく「ぶー」と唇を突き出す。

机に突っ伏して、紙切れにぐりぐりと落書きをした。


「仕事もやる気が出ん」


「……」


カノンはため息をついて、目の前にやって来てわざわざ茶をつぐ。

どこからともなく饅頭を一つ取り出し「夜中に食べるのは良くないが、糖分摂取しろ」とだけ言って、目の前に置いた。


「夜中のお菓子は特別美味く感じるな」


もぐもぐとそれを食べ、茶をすすると、少しばかりリフレッシュした気分になる。

カノンはその様子をじっと見つめていたが、しばらくして部屋を出て行った。








翌朝、カノンとレナが旅立った。

ルスキアを経由し、フレジールの最新の小型戦艦で西の大陸へ向かう。

これは空に擬態でき、低燃費。こっそりと西の空とルスキアを行き来させる予定だ。

上陸はカノンとレナだけで、そこからはカノンに全面的に任せる事になっている。


妾は王宮のバルコニーから、レジス・オーバーツリーから離れ行く戦艦を見送った。


「カノンが旅立ってしまったか。妾も千年前のように、奴と旅をしたいものだ」


「……藤姫様、お辛いですか」


「いや、大司教様。妾には妾の役目がある。西の大陸は、カノンを送り込む程に重要な土地だ。あの土地の争奪戦に勝つ事が出来れば、西、南、東の“大三角”が出来上がる。それは、エルメデス連邦にとって脅威だろうからな」


「……」


妾の側で共に見送りをした聖灰の大司教ビビッド・エスカ。

彼は妾をちらりと見て、また豆粒のように遠くなった戦艦を見つめる。


「大司教様こそ、南を長く離れるのはいささか不安もあるだろう。いつもすまないな、あちこちに呼んでしまい」


「いいえ。もとより俺は、身軽な立場です。それに“一応”教国には、白賢者もいますし……一応!」


大司教様は、“一応”を強調した。


「……弟子をとったのだろう? ほら、あの紅魔女の連れて来た子供を」


「え? ああ、スズマですか。あいつは骨のある奴ですよ。良い白魔術師になるでしょうし、良い司教にもなると思うのです。……まあ、今回は置いてきましたが。巫女様が、スズマを片時も離そうとしないので」


「あはは。大司教様も巫女様には敵わんか」


「……あいつら平和ボケ家族は、いつまでも平穏の中に居れば良いと思っているだけです」


大司教様はつーんとしつつも、いつもながらに他人行儀に語る。

他のメンツにはもっと慣れた風に当たるのに。


「……」


妾はまた、旅立つ者たちを見送った。


誰もが、各々の理想の為に散らばり、各々の願いの為に戦うのだ。

その果てに、繋がる一点があると信じて。



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