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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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11:『 5 』トール、養いと見返り。

大きな決断をしてしまった。

俺が西の大陸に魔族の国を“見える形”で建国するというのは、相当な事だ。

それはある意味、いまや誰のものなのか曖昧な西の大陸の侵略とも取れる。


とはいえ、もし今後魔族が自分たちの自由な国を、より認められる形で作るきっかけがあるとすれば、今しかないし、これしかない。


俺は大規模空間に作り出したアイズモアの王座に落ち着き、これからの事を考えていた。

先ほど、一度外に出て海岸まで行き、フレジールにこの旨を伝えた所だ。


シャトマ姫の返事はこう。


『思うまま好きにしろ。ちょうど、こちらも使いを送っていた所だ。北の兵との争いになりそうだったら上手く使え』


何を送ってくるのかは分からないが、シャトマ姫も、これがきっと今後の戦争の大きな布石になるに違いないと思っている。


西の大陸の半分でも、魔族の国としてこちらの手中に収める事が出来れば、世界の勢力図はより分からなくなる。

そこには土地と、住む事の出来る者たちが居るのだから。

今までエルメデス連邦が好き勝手に扱っていた西の大陸こそが、本当の戦場になるのかもしれない。


「トール!」


後ろからひょっこりと顔を覗かせたのは、マキだ。

割と深刻な事態であるのに、こいつは相変わらず。


「何だよ……俺は今、考え事をしていたんだぞ」


「分かるわよ。あんたの考えている事なんてね」


「ほお。なら当ててみろよ……マキ」


マキはクスクスと笑いながら、俺の目の前までやってくる。

彼女は客人扱いで好き勝手に行動させているが、まるでこのアイズモアを知り尽くしているかのようにあちこち勝手に行っては、帰ってくる。


「シャトマ姫から怒られた?」


「いいや、こっちがびっくりするくらい、普通の反応だ。ただ、使いの者をよこすそうだ。明日にも着くそうだから、海岸まで迎えに行かないといけないな」


「誰が来るのかしら」


「さあ。シャトマ姫が、こちらに必要と思った者をよこすんだろ。あの王女様が、その選択を間違うかよ」


「随分と信用しているのね、シャトマ姫を」


「あの人は凄い人さ。王の器だ。……俺なんかよりよっぽどな」


そう。エルメデス連邦に対抗する国々にとって、シャトマ姫は要である。

彼女の求心力が、国家国民の団結においてものを言うからだ。


「さて……どうしようか。あと一週間しか無いとして、俺たちに何が出来る」


「私は頭を使う事は嫌いよ」


真顔でマキに言い切られてしまった。


「大丈夫だ、期待してない。今のは独り言だから」


俺は額に手を当て王座に深く座り込んだ。


「なんとしても、時空王の権威を取り戻さなければならないんじゃないの?」


「……その通り過ぎてびっくりする」


「何よ。私が正論を言うとびっくりするっての?」


マキは王座の肘掛けの部分に座って、じとっとした目で俺を見下ろした。

その場で、どこから持って来たのかベーコンと目玉焼きを挟んだベーグルをかじって、もくもくと口を動かしている。

俺は、腰元まである彼女の髪を手に取りいじりながら、ぼんやりと、心に引っかかるものが何なのかを探していた。


時空王の権威を完全な形で取り戻さなければならない。

この空間が壊れた後の事を考えなければならない。


そもそも、国が見える形で建国されたとして、北の軍勢に対抗できるのか。

西の大陸にはすでに巨兵がうろついている。

それらに対し、少しの間でも良い。何か抑止力になるものは無いだろうか……

もっと、国としての示しのつく、強い意志表示の証のようなものがあれば良いのだが。敵を怯ませるくらいの、何かが。


「はあ。それにしても、アイズモアはまだ貯蓄の食料があったから良いものの、魔導回路のシステムタワーから切り離された場所ってだけで、随分と不便よね。食べ物の供給も無いし、フレジールとの連絡も、いちいち海岸まで行かなければならないし」


「……そうだなあ。あのタワーの恩恵さえあれば、もっと……お前にも良いものを食わせてあげられるんだがな。そもそも、お前がここに居る事が食料不足へのフラグなんだよなあ」


「アイズモアは一応自給自足でしょ。大丈夫でしょう……? 大丈夫よね?」


「……自給自足っつっても、お前が居ると間に合わないかもしれないだろ」


「私はそこまで食い荒らさないわよ。どこの怪獣よ」


「……」


いや怪獣だろ……とは言えなかった。


しかしその時、ふっと、降りて来た考えがある。

国を作るという事は、ここにも“それ”があってしかるべきなんじゃないだろうか、と。


ずっと気になっていた。国としてのていを成すには、何が必要だろうかと。

西の大陸に、絶対的に刻むシンボル。そうだ。


魔導回路のシステムタワーだ……


「タワー……そうだ、タワーだ。タワーを造れば良い」


「……うん?」


立ち上がり、マントを翻しながらうろうろする俺を不審そうに見つめながら、マキが「大丈夫?」と。


「いや、俺は至って平常だ。そうだ。……タワーがあれば良いんだ」


「タワーって、魔導回路の? 無茶よ。あれが建つには、最低でも半年から一年はかかるわよ」


「ああそうだ。だがそれは、別に本物でなくとも良い。魔導要塞で、タワーを造れば良いんだ」


「……?」


マキは良くわかっていないようだった。

指をぺろっと舐めて、「ふーん」と。そしていつの間にやら俺の王座に座って、まったりとしている。


「ただ、今の俺では、魔導回路のシステムを内蔵する程のタワーを造れる力は無い。それを維持する為に必要なのは、やはり時空王の権威。素材としては、レア・メイダが不可欠だな……」


「なんのこっちゃ分かんないわね」


「良い良い、お前は分かんなくて」


とりあえず、この件に関しては明日やってくるフレジールの使者と、密に話し合わなければならないだろう。決定すればすぐにでも、レア・メイダを送り届けてもらわなければならない。

一週間では間に合わないだろうが、どうにか、張りぼてでも表向きタワーの形が出来ていれば良い。


良くわからないが、体が震えてくる。

ぞくぞくするのは、久々に作りがいのあるものを構築できるからか、それに対するリスクを体が恐れているからか。

この判断が正しいのか、正しくないのか、まだ良くわからない。だが、ルスキア王国で学んだ魔導回路のシステムタワーの構造を、今こそ活かせるのだ。


「何はともあれ、時空王の権威だ。あれが無ければ、タワーを構築したとして俺の体がまるごと持って行かれかねん」


「あら、それは駄目だわ」


「……ほお、心配してくれているのか?」


「あんたが居なくなったら……私、私……」


マキは俯いて、どこか言葉を濁す。

あのマキさんにしてはしおらしい態度だな、と思った。

王座の方へ寄って行き、背もたれに手を押し当て、覆うようにしてマキを覗き込む。

たまにはこう、黒魔王らしい所を見せておかないと。アイズモアに居るからか、黒魔王だった頃の空気というのを、思い出しがちだ。


「私……私……」


「何だ?」


徐々に身を小さくして、乙女チックに頬を染めるマキ。

額の前髪が擦れる程の場所まで顔を近づけてみると、流石にこいつでも照れるのか……


しかし、マキは切なげに言い放った。


「あんたが居なくなったら、いったい誰が私を養ってくれるって言うのよ!!」


「……」


やはりというか、どうしてそうなるのというか、安心安定の色気より食い気のマキさんである。

こいつは俺を全自動飯出し機とでも思ってんじゃないだろうか。


なんかまた頭が痛くなって来た……


「はあ」


低くため息をついて、マキから離れ背を向けた。


「あら、ため息ばかりついてると禿げるわよ」


「誰のせいだ誰の」


「……ふふっ」


マキはコロコロと笑う。

ただ、彼女はぴょんと王座から飛び降りると、俺の背中に手を押し当て、身を寄せたようだった。

あまりに不意な事で、俺は少々固まる。


「大丈夫よ。あんたなら、何だって出来るわ」


「……マキ?」


「あんたのやろうとしている事を妨げる敵は、全部私がぶっ飛ばす。私は考えるのも苦手だし、出来る事はそれくらいしかないけれど……あんたに貰ったご飯に見合うだけは、働くつもりよ?」


「……」


背中から伝わる温もりは、優しくも心強く、自らの内にあった迷いも恐れも、マキの言葉の前ではちっぽけに思えてしまった。


マキは横暴だし、食いまくるくせに食えない奴だが、俺に対する、見返りを求めない分かり辛い愛情を強く感じる時がある。

俺が悩めば、道を示し、俺が迷えば、背を押してくれる。


だけど、なぜだ。

なぜ、マキは、俺に何も求めない……


いや、食い物は求めるけど……そういう事じゃなくて……


「黒魔王様!! 黒魔王様!!」


「……何だ」


こんな時に、王の間に入ってくる慌ただしい声。

マキは俺の背中からパッと手を離し、何食わぬ顔をしていた。


俺と家臣が難しい話を始めると、マキはふらっとどこかへ行く事が多いから、今回も足早に奥の間へ消えてしまった。


「黒魔王様、ユートピアの海岸に人間二名を確認との事。どうやらフレジールの使者のようです」


「……もうか」


早いな。明日頃と聞いていたが、もう着いたのか。

シャトマ姫はいったい、いつからこちらへ使いを送っていたのだろう。


「いったい誰だ。名は聞いているのか」


「は、はい。連絡によりますと、フレジールの“カノン・イスケイル将軍”。また、ルスキアの“レナ”との事。入国を申請しております」


「……え」


あまりに、予想外な二人がやって来た。魔王クラスしか上陸が難しいとはいえ、エスカ辺りだと思ってたんだが。

レナも居るという事で少々面食らったが、あのカノン将軍を送り込んで来たという事は、シャトマ姫……西の大陸の攻略に相当な力を入れるつもりだろう。


「……俺が、迎えに行こう」


誰もいない目前を、静かに睨んだ。


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