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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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10:『 5 』トール、新たなる国づくり。

2話連続で更新しております(2話目)

ご注意ください。



「……グリメル」


俺はグリメルを覗き窓の外に呼び出した。

かざした手をぐっと握ると、目の前の岩盤は、人が通れるくらいには削られ、俺はそこから外に出る。


「あら、行くのトール」


「ああ……とりあえずあいつらの“喧嘩”を止めてくる。お前も来るか?」


「いいの? だけど、またあんな絶叫系、体験するのね……」


「俺はアリスリーンとライズと、話をするだけだ。お前は俺の背中で、他の兵士を睨んでろ。お前が睨んでいるだけで、誰も手を出さないだろうよ」


「なにそれ。まあ……良いわ。手伝ってあげる」


出た所で手を伸ばし、マキを外へ誘った。

俺もマキも寝巻き姿で格好がつかないが、仕方が無い。

山の表面の岩場に立つと、一気に強い風が吹き付け、お互いの白い寝巻きを翻した。


「いやだ、こんなのじゃめくれ上がっちゃうわっ」


マキは片手でスカートの部分を押さえつけ、片手で俺にしがみついた。

グリメルは体を低くして、俺たちが乗るのを待っていた。


「行け、グリメル」


命令すると、グリメルは大きな咆哮を上げ、飛び立った。

その咆哮に、ユートピア勢もカルディア勢も、少しばかり動きを止める。


飛び立った後は、一瞬。

俺たちはアリスリーンとライズのずっと上に転移し、そこから落ちるようにして彼らの間に割って入った。


「ぎ、ぎゃあああああっ」


マキが可愛げも無い程の悲鳴を上げながら。


「!?」


「黒魔王様!!」


突然現れた俺たちに、アリスリーンもライズも驚き、戦いを止める。

また2人は、俺の乗っているドラゴンがグリメルである事に気がついた。

ここに、黒魔王の腹心が三者揃った事になる。


「いいかげんにしろお前たち!!」


グリメルの背に立ち、少し高い場所から2人を見下ろし、声を上げた。

アリスリーンもライズも、口をぱくぱくとさせ、じわりと後退。

ただ、アリスリーンは気まずい様子で唇を噛んでいる。


「く、黒魔王様……出ていらっしゃるのがお早い事で」


「アリスリーン。お前は俺がユートピアを訪れたと知った瞬間から、こうしようと思っていたんだな」


「……それは、ふふ。そうでなければ、易々とあなたをカルディアへと向かわせたりしません」


「そうだな。俺はお前という女を過小評価しすぎていたようだ」


まんまと俺もだまされた訳だからな。

これだから、俺は女に弱いと言われてしまうのだ。


「ならば、俺も一つ言っておこうアリスリーン」


「……な、なに……を」


「俺は“時空王の権威”を持って行くぞ。この二つの空間を壊し、そしてここを去るだろう」


「な」


アリスリーンは表情を歪めた。

そして、何かに耐えるように眉を寄せ、そして、耐えきれなくなったのか、叫ぶ。


「お、おやめください!! ここには、沢山の魔族が暮らしているのです。あなたがずっとここで、我々を守ってくださるのなら話は別ですが、結局あなたは、置いて行くのでしょう!! アイズモアの時のように、私たちを置いて、行ってしまうのでしょう!!」


「アリスリーンめ、黒魔王様になんて口をきくのだ! 黒魔王様は無念にも勇者に殺されたのだぞ。望んで、我々を置いて行ったのではないわ!!」


「ええいライズ、あんたはお黙り!!」


「き、きさまあああ!!」


飛び交う怒声を、俺はしばらく聞いていた。

これが、黒魔王の遺したものなのだと思いながら。


アリスリーンの、黒魔王を少し憎らしく思う言葉も、ライズの、黒魔王をいつまでも慕う態度も、この空間も、全てが。黒魔王の遺産だ。


「あ、また揺れてる〜、怖いよお……」


マキが背中でへっぴり腰になりながらも、呟いた。

流石のこいつも、この状況だと揺れに恐ろしさを感じるようだった。

空中ではあるが、空間が揺れているのでこちらにも揺れが伝わる。


俺は、長く息を吸って、また小さく息を吐いて、こう言った。


「ならば、俺もここに一つの国を作ろう。話はそれからだ」


収納空間より剣を取り出し、鞘から抜く。そして、白銀の剣を高々と掲げ、俺はこの空間にもう一つの空間を敷いた。


「魔導要塞……“最北の理想郷アイズモア”……展開」


それは、かつて俺たちが生きた理想郷。

白い雪に覆われた山岳地帯が突如として出現、構築され、ユートピアとカルディアの間に位置する場所に留まった。


そこだけは一帯真っ白で、雪に覆われている。

要するに、この空間は黒平原を囲むように、三つ巴になった形だ。


「あ、あれは……」


懐かしい、とても懐かしいものを見る瞳で、ライズもアリスリーンも、その雪山を見ていた。

グリメルも「グウウ…」と低く鳴く。


「あれは、俺が魔道要塞で再び作り出したアイズモアだ。この空間であれば、リスクも無く具現化できるらしい。だが、俺はそのうちあの国を、土地のある場所に晒された形で、もう一度作ってみたいと思っている。かつての面影など捨てた、新しいアイズモアを。西の大陸ならば、それが可能かもしれないな……」


「ど、どういうおつもりですか、黒魔王様」


ライズが恐れ多い様子で、俺に尋ねる。


「俺はしばらくあのアイズモアに留まる。お前たちは攻めて来ても良いし、ただ気楽に尋ねてきても良い。俺は歓迎する。だが、この大規模空間は、おそらく保って一週間。そうすれば、アイズモアはおろか、お前たちの大事な国は無くなり、全ては西大陸の表に晒されるだろう。その前に……俺に頼りたい事、望む事があれば聞こう。俺もまた、この一週間であの“時空王の権威”を完成した形にし、手にするつもりだ」


「……」


アリスリーンも、ライズも言葉を失っていた。

俺の示した提案を、この2人はおそらく理解している。


俺の提案は、簡潔に言えば、こうである。


西の大陸に晒される形になっても、逃げも隠れもせず、再び“国”を築こうという事。

新たなアイズモアを。


たとえ、北の軍勢に狙われる事になっても、黒魔王である俺が居る今なら、それが可能なのではないかと言う事。


「で……ですが、黒魔王様。そうすれば、平安は、失われてしまいます。いくら西の大陸が人間の住めない場所になってしまっていると言っても、北はそれでも攻めて来ましょう!! 私は、恐ろしいのです。あの、青の将軍の、魔族を生きたものとも思わぬ所業を、私は忘れられませんっ」


「……」


悔しそうに涙を流すアリスリーン。泣き虫アリス。

彼女の気持ちは、痛い程伝わってくる。



「そんな事は気にしなくても良いわよ」



突然、マキが口を開いた。


「だって、あいつらみんな、私がぶっ倒すもの」


真顔で言い切った彼女の言葉に、アリスリーンも、ライズも、目を点にさせる。


「エルメデス連邦も、今世の青の将軍も、ついでに銀の王も、巨兵も、私たちがぶっ倒すもの。そのために、みんなあちこちで動いているの。だから、説明べたなトールの言う事をめちゃくちゃ分かりやすく言ってやるとね……後少しで手に入る“本当”の平和を、つかみ取るなら今しかないのよって事よ」


「……」


「……あ、あなた、何を……」


「トールが神器を取り戻すと、平和への可能性はぐっと大きくなる。あんた達がこの箱庭を守ろうとすると、それは遠くなる。あんた達が信じた黒魔王の力を、もう一度信じなさい。今度は、あんたたちの王様は一人ではないの。同じ土俵の人間が、何人も居て、力を合わせているんだから。大きな戦いになるかもしれないけれど、私は負ける気なんてさらさらないわよ……」


マキの言葉は、口調とともにとても力強かった。

俺もこのくらい、明確に、敵に負ける気など無いと言えれば良かった。


アリスリーンやライズが恐れているものがなんなのか分かっているのか、1000年前を知らない俺にとやかく言えるのか、などと複雑に考える前に。


「でしょう、トール。こんな国捨てて、もう一度俺についてこいって、言って見なさいよ」


「……マキ」


振り返ると、彼女は眉尻を上げ、余裕と強気と、少し俺をからかった様子で、美しく微笑んでいた。


「本当にあんたって、クールぶって、格好付けなんだから」


「……」


なんだろう。この勝ち気な表情を良く知っている。

こんな事を、何度も何度も、こういった表情をする女に、言われてきたのだろうと分かっている。

何度も何度も、こんな風に、“マキア”に言われてきた。

俺は、胸に込み上げる懐かしさと、熱い思いに、再びアリスリーンとライズを見下ろした。


「そう言う事だ。何か言いたい事があるか。……いや、お互い、帰って良く考えてみろ。ここは兵を引いてな。お前達は“王”だ。よくよく、民の事を考えて決めてくれ」


「……黒魔王様」


ただの寝巻き姿の俺に、アリスリーンとライズは何を見いだしたのだろう。

とても懐かしいというような、切なげな思いを表情ににじませ、お互い、深く頭を下げた。



しばらくして争いは鎮静し、二つの軍はそれぞれの国に戻って行った。

俺はというと、今しがたここへ出現させたアイズモアへと向かう。


アイズモアにも魔族が暮らしている。

突然景色が変わってしまって、あいつら、驚いているんだろうな。


「マキ、ありがとう……」


「は? なにが?」


腰に捕まるマキに声をかけた。

チラリと背を見て、きょとんとした彼女を確かめ。


やはり彼女は俺を良く理解している……

そして、常に俺の味方で居てくれようとしている。


彼女は俺を絶対に裏切らないのだろう。嘘をついても、俺の前から消えても、それでも。

その確信は、どこで手に入れたものなんだろう。


もともと確信していたのを、今になって思い出したかのような感覚だ。



それほどに、俺たちは長い時間を共にして来たのか。

思い出したい。ちゃんと彼女を、思い出してみたい。


「……」


アイズモアへ近づくほどに、マキは大人しくなった。


あの国には、俺やアリスリーン、ライズだけではなく、確かな思い出が彼女にもあるのだろうか。


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