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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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07:『 5 』トール、ライズと勘違い。



俺はトール。


目の前では、黒い霧が人の形をかたどっているような不気味な“悪魔”が、俺を覆うようにして見下ろしていた。

剣を構えそいつと睨み合ったが、どうにも“悪魔”は俺を観察している様子で、攻撃すらしてこない。


「……」


じっと、ただじっと俺を確かめ、霧の奥に瞳があるのかは分からないが視線のようなものを感じる。

だがそのうちに、その霧は無数の腕を伸ばし俺を掴もうとする。


「くそっ」


その腕を剣で切り落とし、俺は“悪魔”の隙を見て、マキの落ちた亀裂から離れ岩の影に入り込む。

俺がその亀裂に入ったら、この“悪魔”もついてくるのではないかと思った。


「……」


あの感じ。

黒く不透明な存在であるが、俺としては馴染みのありそうな感覚を“悪魔”から得た。

要するに、やはりあれは空間産物であるという事だ。

悪魔はキョロキョロとした後、何を考えたのかふっと消えた。


「とにかくマキだ。あいつ、落ちちまったからな……」


マキがあのような亀裂から落ちてしまった事に対し、焦りはあれど大事おおごとになっている気がしないのは、あいつの力故だろうか。


「……」


俺はふと、ある事を思いついた。

胸ポケットにいつもおさめているものを取り出し、見つめる。


それは、赤い雫型のイヤリング。


「……このイヤリングの“縁”のある者の居場所を示せ」


俺はこのイヤリングに残る僅かな魔力をたよりに、立体魔法陣に持ち主の居場所を示すよう指示した。

イヤリングが、確かに“マキ”のものであったなら……というちょっとした確認でもあったが。

イヤリングに残る魔力は情報となり、それと近い者を俺の空間魔法が察知する。


「……」


反応は、あった。

思っていた通り、この山の中から。


ただ、この反応がマキであるとするならば、マキは山の中の道をかなりの勢いで動き回っているようで、俺としてはどう彼女と接触すれば良いのか迷う所である。

マキの行動は、まさに予想不可能。

ただ、彼女はやはり無事なようで、一安心。


「仕方ない。とりあえず、中に入ってみるか」


俺は“悪魔”が完全に去ってしまったのを確認し、岩場から出て、山の表面の亀裂に向かって走って行って、躊躇も無く飛び込んだ。周囲の環境を逐一収集しながら、着地点を設定。


それほど長く落ちた感覚はなかったが、何事も無く岩の地面に着地した。


「……」


赤く揺れるたいまつの炎が、先の方に見える。

ここは暗いが、道はまっすぐに続いているようだった。


暗くとも、周囲の様子がどのようになっているのかは、既に分かっている。

俺はマキの反応をチェックした。


「……あれ、留ってる」


さっきまでマキの反応があちこち移動していたのに、ここからはずっと遠い奥の方で留まっていた。

ただ、留ってくれているのはありがたい。

俺はさっそく、そちらに向かって進んだのだった。







「……!」


ちょうど、マキの反応を辿って行っただけ。

それだけなのに、なんだこの屍ロードは。


いや、オウガ族は頑丈だから生きてはいるが、目を回している。

まさかこれを全部マキが……


生唾を飲む。


「侵入者が捕まったらしいぞ!」


その時、背の向こう側から声が聞こえた。

俺は脇の小道に背をつけ、オウガ族の兵士が行ってしまうまで待つ。

そして、自身の立体魔法陣を確かめた所、マキの反応が先ほど留まっていた場所からゆっくりと移動している事に気がついた。


「まさかあいつ、捕まっちまったのか……?」


マキが捕らえられた、というのは少なからず不安を煽るものだ。

彼女の反応を追ううちに、それはまた別の部屋で留まった。


俺はそこを目印に、できるだけ見つからないよう進んでいったのだった。


「……」


目的の場所であるそこは、まさに“王の間”だった。

前には大勢の兵士が並び、俺が容易に近づけないようになっている。


「居たぞ!!」


流石にここまで来ると、すぐに見つかった。

だが俺に逃げるという選択肢は無い。


斧や剣を持ち飛びかかる兵士達を、容赦なく巻き込む。俺の空間に。


「うわあああああっ!!」


「敵襲!! 敵襲!!」


あちこちから悲鳴が飛び交う。

俺の周囲に作られた小さなブラックホールの様な空間のひずみに、兵士達は足を取られ動けないのだ。

その合間をカツカツと歩みながら、俺はただ目の前の王の座の扉を目指した。









扉を開くと、ただ一直線に目の前の“そいつ”だけを睨んだ。

そいつは俺がやってくるのを、外の兵士達の悲鳴で分かっていたようで、攻撃の用意をして待っていた。


ただ、奴はやはり“ライズ”。

アリスリーンと同じく、俺を見ただけで、俺が“黒魔王”であると分かったようだった。


振り上げていた手を下すのを、無理矢理止めて、自らも叫ぶ。


「やめろ!!」


と。

すると、兵士達は一瞬前のめりになり戸惑ったが、命令に従い攻撃の構えを解く。

ただ、誤って矢を放ってしまったどじっ子兵士も居たようで、その矢は俺のもとへふらふら。


ただ、それは俺に辿り着く事無く塵になって消えた。

空間の歪みにより圧縮され、粉々になったのだった。


「く、くくく、黒魔王様!! ご無礼をお許しください!!」


ライズは俺に向かってまず、そのように言い、王座から降りて膝をつき頭を下げた。


「黒魔王様の復活をいまかいまかと待ち望んでおりましたが、ええ、何という事!! 失態、失態だ!! 黒魔王様に弓を向け、あまつさえ射ってしまうなど!!」


「……ライズ」


「おい誰だ、許可無く矢を放った大バカ者は!!」


「おい、ライズ!」


ライズが、どじっ子兵士を叱ろうとしていたので、俺は口調を大きくした。

今はそれどころではない。

ライズは「はっ」と大声で返事をして、再び頭を低くする。


「……」


彼に近づきながら、俺は周囲を確かめた。

沢山の兵士、主にオウガ族。

そして、王座の隣に小さな檻が一つ。マキが一匹……

いやなんと言うか、囚われのお姫様というよりは捕獲された珍獣の方がよほどぴったりな気がしたから。


しかもあいつ、串焼きの肉食ってやがる。どういった状況だ。


「久しぶりだな、ライズ」


王座の前までやって来て、俺はライズに再び声をかけた。

ライズは頭を上げない。


「おいおい、いくらお前が俺の腹心中の腹心と言ったって、そんなに畏まっていたか? それとも俺が恐ろしい幽霊に見えるのか」


「いえ。おそらく生まれ変わりなのでしょう。……そう願っております!」


「ああ、まあそうだ」


ライズは大きな頭を垂らして、ぼろぼろと涙をこぼしていた。

床には涙の泉が出来始めている。

その顔をぐしゃぐしゃにした様子は迫力があり、アリスリーンの時とはまた違ったものだが、彼もまた俺を待ってくれていたのだと思うと胸が熱くなる。


「トール〜トール〜、ここから出してよお」


「……」


「ねえねえ、もう窮屈で仕方が無いわ」


せっかくの、感動すら感じる再会だというのに、横から耳に入る声が憎らしい。

マキは自分でもきっと檻を開けて出る事ができるくせに、あえて俺に頼む所が憎らしい。

檻を掴んでガシャガシャとさせている。


「……ライズ。そこの檻に捕われている女が居るだろう。そいつを解放してやってくれ」


「まさか!! まさか黒魔王様のお方様だったのですか!!?」


「だから、なんでそうなるんだどいつもこいつも!!」


本気でビビってのけぞるライズ。

側の兵士に「お方様を解放しろ!!」と命令。

だけどどこか不満げに俺をちらちらと見て、


「しかし黒魔王様も、趣味が変わりましたね……」


と。

何を案じてくれているのかは知らないが、勘違いも甚だしい。


「はあ……聞けよライズ。そいつは別に、そんなのじゃ無い。旅仲間だ」


「何よ失礼ね。あんたが一緒に旅をしてくれ〜って泣いてせがんだんじゃないのよ」


「……泣いた覚えは無い」


檻から出て来たマキは、さっきまで肉を食っていたくせに偉そうに髪をはらって、俺の隣に立つ。

ライズを見上げて、何やら勝ち誇ったようにしている。


「あんたたちの大事な黒魔王様の、これまた大事な“私”を、あんな小汚い檻に入れて、たかが鶏肉しか与えなかった事、今まさに後悔している所でしょうけれど、まあ別にそれは今後の態度でどうにでも挽回できるわよ? ほーらほーら、宴の準備をしたくなったでしょう? 美味しいもの、用意したくなったでしょう?」


「……おいマキ」


「何なら、お湯の用意もしてちょうだい? お宝だって貰っちゃう」


「おいマキ。お前はもう黙ってろ!」


突っ込みどころは沢山あったが、とりあえずマキが口を挟むと話が進まないので、脇に収納空間を開き、中からユートピアで貰った謎のオレンジ色の果実を取り出し、それを後方に投げた。

すると、反応してマキが果実を取りに行ったのだから、流石は期待を裏切らない暴食のマキさんだと思った。


「ちょうど喉が渇いていたのよね」


と、彼女は嬉しそうだった。



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