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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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02:『 5 』トール、水浴びと双子。



巨木の森での事だ。

俺とマキは、出会って二日ほどたっても、まだここに居た。



「ちょっと、今から水浴びするんだから、あんた覗いたりするんじゃないわよ」


「は? 覗くかよ」


マキが水浴びをしたいという所までは分かった。

だがなぜ、こんな理不尽な事を言われなければならないのか?

かつての俺は覗きでもした事があるのだろうか……あ、そういえば、前にオアシスでばったり。


「いくら私の体が魅力的と言っても、がっつくのは良くないわ」


「寝言は寝て言え。……さっさと行けよ、急ぎの旅なんだからな」


「……置いてかないでね?」


「……」


マキは少しだけ心配気味に。


何だこいつ。

覗くなって言ったり置いてくなと言ったり。

巧みな技を使いやがる……


「見張ってやるから、安心して行ってこい……」


「わーい!」


嬉しそうにして、彼女は近くの泉に向かった。


「まあ、見張るもなにも、この大陸に人は居ねえけどさ……」


やれやれとため息をついて、木陰に移動する。


それにしても、妙な空気の漂う森だ。

本当はマキと出会ってすぐ、この森を移動しようと思ったのだが、なぜか森から出る事ができない。


グリメルに乗って大陸の中心に見える荒野へ飛んで行こうと思ったが、行けども行けども、森から抜ける事がないのだった。


マキは言った。

だから私は今でもこの森に居るのよ、と。


「海岸に行けば大陸から脱出する事はできる。だが、西の中心部に行く事ができない……」


なぜだ。

俺は森のあちこちに流れる妙な魔力を感じ、ただただ眉間にしわを寄せていた。


「キュッ」


大地のこけをほじくって遊んでいたグリメルが、てちてちとこちらにやって来て、俺の膝に手を置いた。


「何だグリメル、心配するな。俺は空間魔術師だぞ……閉じ込められたって抜け道を見つけてやるさ」


「……キュッ」


グリメルは、別に心配はしていないと言いたげにコクンと頷いた。

そして今度は、側の水たまりに向かって行って、ばしゃばしゃと羽をバタつかせ、洗っていた。


「……」


マキの奴も、今頃……と、思わず水浴びの様子を思い浮かべかけた。

参考資料は、以前のオアシスでのがある。

俺は記憶を映像として管理しているからな!!


「きゃあああああっ!!」


そんなよからぬ妄想をしていた時、マキが向かった泉の方向から、彼女の叫び声が聞こえた。


「マキ、どうした!!」


居ても立ってもいられぬ俺はスッと立ち上がり、そちらに走る。

別に、ラッキーとかそんな事、思っていない。


「マキ!!!」


枝を払って飛び出すと、泉のほとりにてマキが全裸で座り込んでいた。

ど、どういう状況だ……


「どうしたんだマキ……」


「盗られちゃった」


「……は?」


寄って行って、側で膝をつくと、彼女は顔を上げた。


「セーラー服、盗られちゃった!!」


「だ、誰に?」


「なんかちっさい、子供みたいなのに!!」


「……?」


小さい子供?

この森に?


「どうしようトール〜っ、私あの服しか無いのよ。このまま裸で居ろってことなの?」


「ちょ、ちょ、くっつくな」


「だ、だってくっついてないとあんた見るでしょう!!」


マキは俺に体を押し付けるようにして、見られるのを避けているようだったが、それはそれで……

最初こそ青ざめていたが、次第に恥ずかしくなって来たのか顔を赤らめ、唸るマキ。


「ねえトール、あんたの服、なんか貸してちょうだい」


「え、は? 俺だって、男物しか持ってないぞ」


「良いわよ。着られりゃなんだって。このままじゃ居られないでしょう」


マキは、ぎゅっと俺の腰に手を回して、いっこうに離れようとしない。


「仕方ねえな……」


俺は脇で収納空間を開き、自分の白いシャツと黒い上着を取り出した。

空間の中で空間人達が勝手にクリーニングまでしてくれているやつ。


「ほら、これを着ろよ」


背中からシャツをかけてあげると、マキは体を隠しつつも、おずおずと袖を通した。


「大きい……」


「そりゃそうだろ。俺のだからな」


「ぶかぶか」


「……」


マキがぴょんと飛び上がって、長い袖をひらひらさせる。

ぶかぶかのシャツのボタンは上まで止めても、豊満な胸元が広く見える。

くそっ、くそっ、可愛いじゃねえか……


「なんかワンピースみたいになっちゃった」


「それで良いんじゃねーのか」


「上着もかして。このままじゃ色々透けちゃう」


「……」


しぶしぶ上着を渡す。するとマキは素早く身に付け「かっこいいかも!」と、楽しげにくるりと回った。








「それにしても、子供か……」


泉から移動しているとき、俺はマキのセーラー服を奪った者の事を気にした。


「子供っていうか、あれは多分……魔族の子供なんじゃないかと思うのよ。二人いたわ」


「魔族? 二人?」


「ほら、前に地下の通路を歩いて、フレジールからシャンバルラに行った事があったでしょう? あの時、出会った魔族が居たじゃない。なんか、あんな感じだったわ。もうちょっと可愛かったけど……背丈は私の膝あたりまでで……」


「ああ。なるほど」


ドミフ族のことか。

確かに、あの地下通路で会ったドミフ族のボヘは、西の大陸に逃げ延びた魔族が居たと言っていたっけ。


その時だ。


「やーいやーい!!」


「しんにゅうしゃだわしんにゅうしゃ!」


巨木の枝の上から声が聞こえた。

生意気そうな、甲高い声だ。


見上げると、緑の衣服を来た小さな子供が二人、こちらを指さしている。

金髪に、尖った耳。美しい青い目の、そっくりな二人。男の子と女の子。


「あれは……エルフ族の子供?」


「あ!! あいつらよあいつら!! ほら、私のセーラー服持ってる!!」


マキが声を上げて「セーラー服返しなさいよ」と怒っている。

だが二人のエルフの子はマキのセーラー服のスカートと上着をひらひらさせて「やーだね」と舌を出すと、ケラケラ笑った。


「これは“アリスリーン様”に献上するんだ」


「きっと褒めてくださるわ」


口々にそんな事を言いながら、彼らは木の枝をぴょんぴょんと飛んで行く。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」


マキが両手を上げて追いかける。俺の服の袖が長いのか、テロンとなっていて格好がつかないが。


「……“アリスリーン”……だと?」


だが、俺は彼らの口にしたその名が気になった。

かつて、そういった名の魔族が、俺の仲間に居たのだ。


人差し指を突き出して、器用に飛び逃げる彼らを、前から待ち伏せるようにして、四角い透明な空間に誘う。

要するに、それで囲って捕まえたのだ。


「うわあっ」


「出られない出られないわ!」


エルフの子はその空間の中で暴れる。

俺は地面にゆっくりとおろし、箱に収まる小さな子供二人を覗いた。

マキなんて四角い空間に、ガッと足を乗せて、チンピラみたいな顔を向けている。


「乙女のセーラー服盗むなんて、良い趣味してるじゃないのよ。ほら、返しなさい!!」


「おいマキ。怖い顔を向けるな怯えているぞ」


「怯えさせてるのよ」


マキは容赦無い。

謎の空間に捕らえられたエルフの子らは、お互い身を寄せてブルブルと震えた。

俺はマキを後ろにやって、とりあえず二人を解放。


「おいお前たち。お前たちはいったい何者だ。なぜここに居る。それに……アリスリーンって……」


「……??」


一気に質問したからか、二人は顔を見合わせて、首を傾げていた。


「お前たち、名前は?」


「……僕はニキ。妹はミミ」


「双子なの」


問い直すと、二人は素直に名を教えてくれた。

双子はマキより俺の方が、まだ優しいと察したのだろう。うるうると瞳をうるませ、俺に救いを求めている。

別にとって食ったりしないのに。いや、マキなら食いかねないか……


「ほら、俺の後ろで睨んでいる怖い姉ちゃんに服を返してやれ。そいつは今、服が無くて苛立っているからな。返さないと、あの姉ちゃんに食われるぞ」


「……う、うん」


俺の言う事を聞いて、双子はそっと、マキにセーラー服を返した。

マキはそれをバッと受け取ると、特に文句を言う事もなく側の木の裏へ向かって行った。


「まあ割と、トールの服も気に入ってたんだけどね」


なんて言いながら。


マキが着替えている時、俺は双子にどこからやって来たのか聞いた。


「僕らは、“王国”を抜けて、たまにこの森に遊びにくるの」


「アリスリーン様の王国だよ」


「……王国?」


双子の言う事に、俺は顔をしかめる。

双子はコクコクと頷き、声を合わせて言った。


「そうだよ。魔族の王国“ユートピア”だよ!!」


キラキラした瞳の、双子のエルフ。

おそらく彼らは、自分たちの居るその“国”というのを、心から愛している……


そんな表情だった。


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