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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
外伝3 〜地球・園児編〜
270/408

*透、昼寝タイム。

2話連続で更新しております。(1話目)

ご注意ください。



自分勝手に林に行ったマキは、由利のつれてきた幼稚園の先生に叱られてしまったが、なぜか表情は溌剌としていた。

その後、公園の見晴らしの良い場所で、由利のもってきた弁当を皆で食べ、お菓子も分け合い、それなりに会話する。


マキはまだ少しの警戒心はあった様だが、時間が過ぎ行く程、昔の紅魔女の様に軽快な口調となり、達者な嫌味も連発する様になる。

ただやはりこいつにとって、おやつや飯の効果は絶大で、それらを与えたりすると素直になるから、俺と由利は「しめた」と思ったものだ。

マキの取扱説明書を書かねば……


「とりあえず、僕らはこの地球で、共同戦線を張った方が良いと思うんだ」


「……何かと戦いそうな言い方だな」


「戦いだよ。この地球と言う世界で、僕らは異世界の知識と記憶を持っている。それらがどこでどうバレて、利用されるかも分からない。もう魔力も無いのだから、自分で自分の身を守る事もできない。お互い助け合わないと」


「……利用って?」


マキが饅頭を両手に持って、目を点にして問う。


「そりゃあ……下手をしたら異世界人認定されて、どこかの研究施設に連れて行かれるかもしれない」


「……」


「今はまだ子供の戯言、で済むかもしれないけどね。……成長すれば成長する程、僕らは可能な事が増えていく。そうすると、また何かを“極めたくなる”かもしれない。どこでぽろっと、異世界の知識を利用する事になるやら……そう、お互いの存在は、そうしない為の抑止力でもあると思うんだ」


「い、色々と考えているんだな」


俺もマキも、おそらくそこまで考えきれていない。

でも由利の言う事は至極真っ当な事で、すでにこの園児という時代から、意識し続けなければならない事なんだろう。


「何だか、メイデーアに居た頃のようね」


ポロッと、マキが呟いた。

饅頭の最後の一欠片を飲み込んで。


「あの頃だって、私たち3人の戦いは、それぞれの力の均衡を保つものだったと思うの。……白賢者が最初に居なくなって、黒魔王も死んで……それが崩れたんだわ」


指をぺろっとなめたマキの、少し寂しそうな顔。

俺も由利も、結局こいつがどうやって死んだのか知らない。


「なあ……紅魔女はどうやって死んだんだ? 勇者に殺されたのか? ここに居るってことは、そう言う事だろう?」


思わず尋ねる。

だけどマキは、少し考えてから首を振った。


「勇者に殺されたと言うより、きっと道連れに出来たと思うのだけど」


「……み、道連れ?」


「西の大陸で最終決戦した」


「……」


お菓子の袋を開け、ポテトチップスを食べつつ、マキが答える。

俺と由利はお互い、顔を見合わせただけ。


公園の明るい所でボール遊びする子供たちの声が、遠いものの様に思えた。


「あの勇者を……マキちゃん、流石だね」


「分かんないけど、多分あいつも死んだと思うの。あの爆発を避ける事なんて、出来ないと思うから」


「……爆発」


その言葉だけで、俺は彼女がどのようにして死んだのか、何となく想像ができた。

おそらく、自らの体を最大の情報量とし、大爆発を引き起こしたのだろう。

西の大陸はきっと、大惨事になっただろうな……


だけどこの世界に居ると、そんな事の顛末は知り様が無く、まるで現実感も無い。

何となく、ぼんやりした紅魔女が哀れに思え「これも食えよ」と、自らのお菓子を贈呈したくなった。


「そっか。でも……こうやって3人揃って異世界に転生したと言うのも、面白い事だよね」


「でもなんで地球ここなんだろうな」


「さあねぇ」


由利も肩を竦めるばかり。

考えても分からない事が多すぎる。

と言うより、考えても仕方の無い事なのかもしれない。おそらく、一生分からない事だろうから。


「それにしても……マキ、お前なんで敵意むき出しだったんだよ。最初に出会った時から」


「……」


マキはお菓子を食べる手を止めた。

しだいにムーッとし始め、俺も由利も息を呑む。


「だって……だってあんたたち、勝手に仲良くなってて、私の事なんか、忘れてそうだったし」


「え、そんな事無いよマキちゃん。丁度ね、紅魔女をさがしたいねって話しながら、囲碁を打ってたんだよ」


「……そーかしら」


半信半疑の、じとっとした目のマキ。

俺は何かを誤摩化す様に、小さなマキの頭をポンポンと撫でた。

すると、今までそこそこ落ち着いていたマキが「勝手に触んないで!」と怒る。

……やはりまだ慣れきっちゃいない小動物の様だ。


その日の遠足は結局、俺たちにとってはレジャーシートを広げお菓子をつまみつつ、ほぼ会議の様なものになってしまった。

園児らしくなかったが、俺たちにとっては有意義な遠足だったと言える。


先生たちから見れば、俺たちの行動は悩ましいものだったろうが。

遠足だというのに子供らしく野原を駆け巡る事もしないで、思い出話にふけっていた訳だ。




さて、マキはと言うと、この日から俺たちに対する態度が激変する。


今までさくらぐみの入口でこちらを睨んでいた瞳は、むしろそっとこちらの様子を伺う健気なものになっていた。

そう言う時は、俺たちから彼女を呼ぶ。

彼女は呼ばれると嬉しそうにして、側にやってくる。


うめぐみには友達も居ないこいつだから、先生たちも俺たちの関係を不思議がっていたけれど。


そのうちにマキは、さくらぐみに入ってくるのを躊躇う事は無くなった。

最近ではどうどうとしたものだ。





「園児って良いよな。昼寝を強制的にさせてもらえる」


「……寝てないけどね」


「そう。させてもらえるのは良いが、眠れないのが問題だ」


「でも、そろそろきっと……」


これはある日の、さくらぐみでの昼寝タイム。

園児たちが並んで昼寝を強制されるわけだが、まあ子供たちには必要な時間だ。


周りは皆寝静まり、こそこそと由利と話していた時だ。

堂々とうちのくみに入ってくる者あり。


「あ、マキだ」


ずるずると自分の毛布を引きずって、マキがやってきた。

眠る園児たちを避けながら俺の隣で立ち止まる。


「どいて」


「……いや、どいてって言われても」


「ずれて」


「……」


言いたい事は沢山あったが、しぶしぶ隙間をつくる。

最近では当たり前の事だが、彼女は昼寝タイムになるとこのくみにやってくる。

俺の隣に寝転び、そのまま黙って毛布をひっかぶり、寝るのだ。


割と即寝だったりする。


「……仕方のねえ奴だな」


「まあ、もう当たり前の現象で先生も何も言わないけどね」


由利は苦笑しつつ、自らも小さくあくびをして毛布に包まった。


「僕ももう眠いかな……じゃ、マキちゃんの事よろしく」


「……マジかよ」


由利まで、俺に背を向け眠ってしまった。


「……」


夏の近い、暖かい日だ。

園児のくせに眠れない俺は、白い天井を見上げていた。


しばらくして、毛布をひっかぶっていたマキが、その毛布を目の下までそろっと降ろして、俺の様子を伺っていた。


「あれ、何だ、寝たんじゃないのか」


「……あんたは寝ないの?」


「昼寝が苦手なんだよ、黒魔王の時から」


「……あんた、睡眠時間、短そうだったものね」


マキの言う通りだ。

俺は基本、短い睡眠時間で生きて来た男。

黒魔王の時代はやる事が多かったから……なんだろうけれど。

逆に、園児って遊ぶ事や寝る事が仕事だから、俺にとっては歯痒い時間も多いのだ。


「お前は眠いのか?」


「お昼ご飯食べたら眠くなるわ」


「本能のままだなあ」


「……もう寝る」


マキはこちらを向いたまま、口元まで毛布を持っていって体を丸くし、目をつむった。

姿だけ見たら本当に幼子の様だ。


また、俺の周りは静かになった。

あちこちから、園児たちの寝息だけが聞こえて来る。


異世界で争ってきた3人の魔王が、こんな所で穏やかに昼寝をしている……


それは、元居た世界の多くの人間が、きっと想像すらできない事だろう。

俺だって、死んだ後にこんな事になるなんて、思ってもみなかったよ。


そんな事を考えていたら、しだいに眠くなってきた。

意志とは別に、体はやはり子供のものらしい。


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