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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
外伝3 〜地球・園児編〜
268/408

*透、遠足のお菓子。

3話連続で更新しております。

ご注意ください。

俺の名前は斉賀透。

さくらぐみ、ねんちゅうさん。



「遠足のおやつ、300円までだって。ろくなチョコレートも買えないよね」


「お前いつもどんなチョコ食ってんだよ」


明日の遠足のおやつについて、由利が悩まし気に言った一言が、俺には衝撃的だった。

いや、だって、チ◯ルちょこだって30円くらいで買えるぞ。


「お前、駄菓子屋に行った事無いのか?」


「……駄菓子屋? 和菓子屋なら行った事あるけど」


「……」


おそらくその和菓子屋も、相当な高級店なんだろう。

何故か笑いが込み上げてきた。俺は全うな庶民だから。


「あ……マキちゃんだ」


由利が教室の入口でこっちを睨んでいる織田真紀子を見つけた。

由利はこのごろ、彼女を勝手にマキちゃんと呼んでいたから、俺も勝手にマキと呼んでいた。


ここ最近、いつもこんな感じだ。

こっちが近寄ると威嚇するくせに、俺たちにこそこそついてきたり、時間があればあんな風に睨んでたり。

この前なんて、砂場でつくった渾身のベルサイユ宮殿を破壊された。

マキが近寄って来ると、何故か某水爆大怪獣のテーマが聞こてくるんだよな……


「あいつ、園児のくせになかなか迫力のあるガン飛ばしてくるよな。流石紅魔女と言うか、将来が大変不安だ」


「……普通の女の子になっちゃったからねえ。せっかく見た目はとても可愛いのに」


「この世界は見た目だけじゃ生きていけないぞ。器用さがないと」


「入園当初から尖りまくっていたくせに、どの口が言うんだい」


「……」


確かに、入園当初は先生に難しい事を言って困らせた、大変痛々しい園児でした。

だが学んだのだ。

由利の器用に振る舞う様を見ていると、例え恥ずかしくとも状況を受け入れ、そこそこの妥協の上生活するのが、一番得であると。

いや、受け入れがたい事もまだ沢山あるけどな。


「マキはまだ紅魔女を引きずってんのかな……」


いったい、紅魔女はどうやって死んでしまったんだろう。

やっぱり勇者に殺されたんだろうか。


入口から顔だけ覗かせ、こちらを睨みまくっている彼女を横目に、気になった。







「あ」


「……あっ」


そう。帰り道に老婆が一人でやっている駄菓子屋に寄った。

迎えにきた母に連れてきてもらったのだった。

すると、同じ様に母に連れられて、マキがやってきた。


「マキ」


「……あ、あ、あんた、くろまお……う」


マキは不意だったのか、俺の事を指差して呼んだ。あまり声を聞いた事が無かったが、やはり幼い少女の可愛らしいものだ。

両親が挨拶をして、ぺちゃくちゃ語り始めたのを良い事に、俺はマキと意思の疎通を計る。

………て、どんな珍獣扱いだ。


「おい、マキ。何をそんなにツンケンしているのか分からないが、いい加減素直になれ。俺たちと一緒に居たいんだろ」


「な、何言ってんのよっ!」


「……」


「そそそ、そんにゃはずないでしょぅ……っ」


「おい、口が回ってないぞ」


マキは小さな拳を精一杯振っていた。

これは図星だな。

ただ素直になれない所は、前世からおんなじだなあ……


「俺も由利も、とっくに和解しているぞ。お前だって、同じ境遇の話し相手が欲しいだろう。……前世の事はひとまず置いておいて、素直になれ。もう一度言うぞ」


「……」


俺の言葉に、マキは更にムスッとして、そっぽ向いた。

ただそっぽ向いた先に見つけたどうぶつビスケットに敏感に反応し、手に取って籠に入れる。


「あ……それ美味いよな」


「うん美味しい」


つられてしまったのか、この時マキは素直に反応を返したのだ。

ただ、それに気がついてわたわたとしていたのが面白い。


「あんたって……あんたって昔からそうよね。そうやって余裕ぶって、いつでも俺は待ってるぞ、みたいなっ!!」


「は? 何言ってんだお前」


「うるさいうるさい。300円でどうやってたくさんお菓子を買おうか悩んでるんだから、あっち行って!!」


「俺だって買いにきたんだけど……」


マキがぽかぽか俺を殴る。

これが、あばれんぼうマキちゃんか……手に負えないじゃじゃ馬だな。


仕方が無いので駄菓子屋を物色し、アーモンドチョコとミントガム、ポテトチップスうすしお(中)、スナックドーナツを選ぶ。

マキはどうぶつビスケットと、サイコロキャラメル、オレンジグミ、マーブルチョコ、10円のスナック菓子3本、ポテトチップスコンソメ(小)。


「お前それ……300円オーバーしてるんじゃないのか?」


「い、いいのよ別に。今日のおやつも入ってるんだもの」


更にお菓子を追加していくマキ。

こいつ、こっちで普通の人間になっても、食い意地がはってんだな。

紅魔女時代の彼女も大食いだったけど、それは魔力の消費に伴う補給みたいなものかと思っていた。

彼女は自分の血を使って魔法を使っていたし。


「ふーん。あんたはなんか、しけたチョイスね。子供のくせに鉄板過ぎて地味だわ」


「うるせえな。ベストチョイスだろ。遊び心はいらねえんだよ」


駄菓子屋には、安くて体に悪そうで、でも子供の興味を引きつけてやまないお菓子が沢山あるが、俺は冒険などしない。

地味でも美味しいものだけを選ぶんだよ。


「真紀子、ちゃんと選んだ? そろそろお会計するわよ」


「……う、うーん。うん」


マキは母親に急かされ、何だかまだ物足りなさそうだったけど、しぶしぶ頷く。

マキの母は俺の母より若く見えた。素朴な感じで、大人しく人の良さそうな感じだ。

うちの母はおしゃべりで気分屋だからな……


「透、あんたも決めた?」


「え、うん」


母に籠を渡して、会計を済ませてもらった。


「あんたってさー、相変わらず可愛げの無いチョイスよねぇ」


「……」


母にまでつっこまれてしまった。

マキは俺たちより先に駄菓子屋を出て、「早く早く」と母親を引っ張り出している。


「では斉賀さん」


「あ、はい。織田さん、また〜」


母親同士で頭を下げて、挨拶をしていた。

俺たちがこそこそ話している間に、二人はママさんらしい関係を築いていた様だった。








近場の自然公園への遠足である。

それぞれのくみが列をつくって、先生が前と後ろについて園児を誘導する。

悪ガキたちは歩道でもあちこちうろうろするからな。

俺や由利は真面目に歩きながら、昨日の事を話していた。


「へええ、マキちゃんと話したんだ」


「……話したと言うか、殴られたと言うか」


「どうしちゃったんだろうね。紅魔女時代は高笑いが似合ういかにもな魔女だったのに」


「でも、相変わらず食い意地は張ってたぞ。あれ300円オーバーしてるんじゃないかな」


「あ、でも僕もこっそりオーバーしてるよ」


「……お前の場合量の問題じゃなくて質だろ。ちなみに何だ?」


「月水庵のお饅頭3個だよ。それだけあれば十分だよ」


「……渋すぎるぜ」


俺なんて目じゃない。

おそらく、「シンプル・イズ・ベスト」「ザ・質」「大人の味」みたいな饅頭に違いない。

3つでいくらなのか知りたい所だ。


「一つあげるよ……凄く上品な味で、お気に入りなんだ。マキちゃんにも一つあげたいんだけどな」


「ああ、食い物で釣ろうってか。それは良いアイディアかもな」


「いやいや、別に釣ろうと思ってた訳じゃないけど……でも釣れそうだね」


由利はニッコリ、と。

白賢者らしい腹黒さを滲ませた笑顔だ。


かくして俺たちは、自然公園でポニーに餌をあげる体験を楽しみにする子供たちに紛れ、マキに餌をちらつかせる作戦を練ったのである。


警戒心の強い生き物だから、刺激を与える事無くあくまで慎重に。

間違ったら手を噛むから要注意。


そう言う事を、割と真剣に考えた。

様々なシチュエーションを考慮して。



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