表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第五章 〜シャンバルラ迷宮編〜
266/408

+α:レナ、波立つ。

3話連続で更新しております。

ご注意ください。

私はレナ。

ただのレナ。


地球では平玲奈たいられなという名前だったけれど、こちらではただのレナ、なんですって。

名前が無いのですって、救世主は。






トールさんが帰って来るのを、私はこの日、とても楽しみにしていた。

やっぱり会えないのは寂しい。


出来る様になった魔法を、見てもらいたいと思った。

今度こそ、少しはお役に立てるかなって。

マキアの代わりと言うのはおこがましいかもしれないけれど、少しは近づけたのかしら……


もともと勉強熱心なタイプである私は、ルスキア王国に帰ってきて、日夜白魔術の修練に励んだ。

魔力数値は分からないけれどそれなりに魔力はあるらしく、私は順調に白魔術を身につけていると、メディテ先生に褒めてもらった。

次こそはきっと、みんなの、トールさんの為に、何か出来る事があるはずだと思った。

その為なら、魔法の勉強だって人一倍頑張れた。


今度こそ、今度こそ救世主として、必要とされたい……


そんな願望が、私の中には沸き起こっていた。

でなければ、いったい何の為にこの世界にやってきて、救世主だなんて呼ばれているのか。


ただ保護されて、戦っている人たちをのほほんと見ているだけで良い訳が無い。






「あの、どうしたんですか……?」


トールさんは教国に居るよとメディテ先生に聞いたから、急いでそちらに向かった。

だけど教国の黒い扉の前で、ユリシス殿下とエスカさんが、嫌に焦った表情でいたのが気になった。


トールさんはどこかしら。

キョロキョロと探してみたけれど、この場にトールさんはいない。


「僕トール君を追うよ」


「お、おい白賢者!」


ユリシス殿下が黒い扉を開け、すぐに消えた。

エスカさんが舌打ちをして、イライラした様子で扉の前でぐるぐる円を描く様にして歩いている。


まさか……と、悟った。


「あの、もしかして、トールさんがこの向こう側に……?」


「あ? いや、はっきりとはわからねーけど……って、おい」


エスカさんの返事も聞かずに、私はすぐさま、扉を開けた。

重い扉だったけれど、開いたその隙間に滑り込む様にして。


「だめ……だめ、トールさん……」


私は妙な焦りと恐れに足を震わせながらも、階段を下りていった。


マキアを見つけちゃダメ。

マキアを思い出しちゃダメ。


また、トールさんが傷つく事になる。







「……トールさん」


だけど、トールさんはマキアを見つけてしまっていた。

棺の前で、膝を崩し、泣いている。

彼があんな風に泣いているのを、私は初めて見た。


「ト、トールさん……」


聖地の入口で立ちすくむユリシス殿下を追い越して、トールさんに駆け寄りたかったけれど、ユリシス殿下に引き止められる。


「ごめん、レナさん……だけど、今は……“二人だけ”にしてあげたいんだ」


「……っ」


ユリシス殿下も言葉を詰まらせながら、悲しみを噛み締める様にして、“二人”の再会を見守っていた。

私はたまらず、口を震わせてこの場から去る。


やっぱり。

私はマキアにはなれっこないんだわ。


それを痛い程痛感しながら。







なぜ、私はマキアになりたかったんだろう。

トールさんがマキアの事を大事に思っていたから?


私はトールさんが、やっぱり好きなのかしら……

私、嫌な子だわ。トールさんがマキアの事を忘れたからって、“また”私を見てくれると思っている。


黒魔王様を殺したのは2000年前の自分“ヘレーナ”だと言うのに、あれは他人だと言わんばかりに、私は彼の優しさに甘えて、頼って、許してもらった気になっている。

トールさんの本心なんて、分からないのに。

私に、トールさんに好きになってもらえる資格なんてないのに。


「あれ、レナさん? どうしたのこんな所で」


教国を出て、ふらふらと魔導研究機関の側にある海岸までやってきて、堤防に座り込んで泣いていた時、声をかけられた。

キキルナちゃんと、ノア君だ。


「あれ、泣いているのレナさん?」


キキルナちゃんが驚いた様子で、躊躇いも無く尋ねた。

ノア君が隣で「キキルナ姉さんっ」と焦りを滲ませているけれど。


「ど……どうかしたんですか、レナさん」


とはいえ、ノア君も私のボロボロの顔を見て、流石に尋ねずにはいられなかったのでしょうね。


「ううん、何でも無いの。ごめんね」


私は袖で涙を拭って、頑張って笑った。


「なんでもない訳無いじゃない。きゃははは、きっとトール様がらみでしょう?」


「キ、キキルナ姉さんっ!」


「だってトール様が帰ってきた日に、レナさんがこんな所で泣いているなんて、そう言う事でしょう? まさかまさか、トール様、異国のあちこちで女の人つくちゃったとか? 現地妻? きゃははは。ハーレム魔王に一人旅なんかさせちゃダメよぅ」


「……」


キキルナちゃんは容赦ない。

彼女の中のトールさんは、きっと“黒魔王”像が色濃いのね。

でも別に、黒魔王様もそんなに不誠実な感じではなかったのよ。

ただ、沢山の女の人を守っていただけで……

ヘレーナだった時は、黒魔王様だから当たり前という理由で、あまりハーレムについて考えた事は無かった。


「そんなこと無い……トールさん、一途だもの」


「レナさんに?」


「まさか。……マキアによ」


自分で言って、少し苦しくなる。


「でもマキア様はもう居ないじゃない。レナさんだって、黒魔王様の寵姫だったんでしょう? まあ、黒魔王様殺しちゃった本人だけど……」


「キキルナ姉さん!!」


ノア君が再び、慌てて声を上げた。

私は顔を上げる事も出来ない。その通りだもの。


「ねえ、私ずっと聞きたかったんだレナさんに。レナさんは、なんで黒魔王様を殺しちゃったの? やっぱり黒魔王様、紅魔女様に浮気でもしてたの? 腹が立ってブッ刺しちゃった、みたいな? きゃははっ」


「ち、ちがうわっ」


キキルナちゃんはずけずけと聞き続ける。

ノア君の、袖を引っ張る必死な様子を気にする事も無く。


「違うわ……あの時、紅魔女はほとんどアイズモアには来なかったもの……」


あの時の紅魔女は、黒魔王様とヘレーナの関係に、何かを悟ったようだった。

だから、もうあの国へ来なかったんだと思う。

紅魔女は黒魔王様を愛していたんだと、当時の私だって気がついていたもの。


そして、ヘレーナは黒魔王様に一番に愛された。

それだって、私はよく分かっていた事だわ。

だけど私は黒魔王様を殺した。殺さなければならないのだと、勝手に思い始めて、それを止める事が出来なかった。


あの“最後の日”、私は“勇者”に、それが世界の法則だと告げられた。

決して、その殺意を止める事は出来ない、と。


「でも……どんな理由であれ、自分を殺した人をもう一度好きになってくれるはず無いんだわ。過去の事に触れずに、優しくしてくれるだけ、トールさんって本当に懐の広い人よ。なのに私は……それに縋ってばかりで」


「あ、やっぱりレナさんって、トール様の事好きなんだ……」


おもむろにこれを聞いてきたのはノア君だった。

そして、聞いてすぐに彼はしまったという様な顔をして、口を押さえる。


「あら、ノアだって気になってたんじゃない」


「ち、違うよ姉さん。口が勝手に」


「……」


私はますます顔を上げられなくなってしまった。

自分でも分からないの。


前世の寵姫だったからって、またトールさんを追いかけてる。

だけど、前世では愛されなかった紅魔女の生まれ変わりであるマキアが、今はトールさんの中で一番大事な存在になっている。

なぜかしら。

もうどうしても、マキアには追いつけない気がするの。


記憶の無いはずのトールさんが、マキアの棺の前で泣いているのを見た時、そう思った。


「でも、それなら私は……何の為にここへやってきたのかしら」


ぽつりと湧いて出てきた疑問。


そもそも、私っていったい何なのだろう。

トールさんやマキアたちは、前世を遡ればこの世界の神々に辿り着くと聞いた事があるけれど、私はいったい何者なの?


異世界からやってきた救世主、って言ったって、前世があるならば、遡ってその元の姿を知る事が出来るはずだもの。


「……そもそも、レナさんが黒魔王様を殺した、世界の法則ってなんなんでしょうね」


ノア君の素朴な疑問に、胸の鼓動が高鳴った。

じわりじわりと胸の奥からにじみ出る何かに、私は気分が悪くなる。

一度、つばを飲み込んだ。


「い、今はもうその法則、大丈夫なのかしら……私、もしかしてとても危険な存在なんじゃ」


震える手のひらを見つめた。

それは、今まで深く考えようともしなかった事……

考える事から逃げて、魔法の勉強をして、一生懸命な素振りでいた自分に気がつく。


「レナさん、すみません僕……妙な事を言ってしまったかも」


「い、いいえ良いの。私……そうよね、本当は私が自分で、知りに行かなければならない事なのに」


「……レナさん」


キキルナちゃんとノア君が顔を見合わせ、困った様にしていた。

あっと、ノア君が何かを思いついたようだった。


「レナさん、なら元気の出るおまじない……教えます。昔、僕がまだ小さな時に、ある人に教わったおまじないなんですけど……」


「おまじない?」


「……エラス・アプレイ・プシューク……」


「……??」


「“黄金のロバは世界を愛する”という意味のおまじないらしいのです。トワイライトの一族に伝わる、秘密のおなじないです。辛い事があったら、これを唱えると良いって……」


「あら、懐かしいおまじないね。あんた良く覚えてたわね……と言うか、秘密なのに言っちゃって良いの?」


「だ、だって……レナさんが辛そうだし」


こそこそと心配する二人。

私は、そのおまじないをどこかで聞いた事がある気がしたのだけれど、思い出せない。


「大丈夫。私、誰にも言わないわそのおまじない」


「……ほんと? 特にレピス姉さんに言ってはダメよ」


キキルナが心配している。


「ええ、ありがとう。励ましてくれたのよね。……ごめんなさい、私がいじけちゃってるから」


私はもう一度涙を拭って、堤防を飛び降り、スカートをはたいた。

キキルナちゃんとノア君に笑顔を向け、何て事無い様にふるまったけれど、それでも内心、少しずつ波立っていたのだと思う。


私、また、誰かを傷つけちゃうんじゃないかしら……


私の中の、遠くに居るヘレーナ。

彼女の記憶を持ちながら、とても自分とは思えない彼女の存在。


彼女が握っていた、黒い霧を纏った短剣……


ねえ、なんであなたは、あんなに愛していた黒魔王様を殺したの?

私、今度は何の為にここに居るの?



それを教えてくれる人は居ない。

私は本当に「救世主」たる人物なのだろうか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ