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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第五章 〜シャンバルラ迷宮編〜
262/408

28:マキ、見える様になったもの。

7話連続で更新しております。

ご注意ください。


三人の影があった。

銀の王、白い軍服のトワイライト、シャンバルラ国王……て所かしら。


「黒魔王はあれを壊すだろうね」


「ええ……事は全て、あなたの思うがままに。シャンバルラの役割は終わりました。例のものも手に入りましたし」


「それにしても高くついたよねえ。たかだか巨兵を“ここ”で創るってだけで、予算があれほど嵩むかね。……ふふ、まあ良い。他国で巨兵を創るって言うのはスリリングで楽しいね」


「……せっかく創ったものを、すぐに壊させるなんて、あなたも変わったお人だ」


「言ったでしょう。僕は、創り上げたものを、壊す事の方がずっと好きなんだよ」


「あなたがそう言うのなら」


途切れ途切れ聞こえてくる、銀の王とシャンバルラ国王の声。

私は暗闇に紛れ、暢気に会話している、その内容を聞いていた。

王宮は先ほどから激しい揺れに見舞われている。この王宮はもうすぐ崩れ落ちるのではないかしら。


「あーあ、それにしても疲れたなあ。……さっさと帰って、あれの作業に戻りたいよ」


「……へえ、あれってなあに?」


気配を微塵を感じさせる事も無く、私は背後から声をかけた。


「……」


三人は立ち止まる。

沈黙の間が、私には愉快でたまらなかった。


「な……何故だ」


「……」


「何故“また”お前なんだ!!!」


銀の王が叫び、振り返るより先に、ビッと空気を斬る様な音。

赤い無数の糸がシャンバルラ国王の体を縫って、捕える。

銀の王は白い軍服の男に庇われる様にして、その糸を避け、転移魔法によってその場から消えた。

一瞬、ただの一瞬、その白い軍服の男の顔を垣間見る。

黒髪の隙間から見える面立ち、それはとても、“彼”に似ていた。

それにしても、驚きを隠せないと言う様な銀の王とは違って、冷静な判断ね。


王宮の地下通路だったはずの景色は、一瞬で、黒い幕の揺れる幻想空間に変わった。

私のずっと背後には、レピスが佇んでいる。


「……あなた、は」


捕えられたシャンバルラ国王はやっと口を開いた。

長い槍を持って、ゆっくりと彼の前に現れた、ローブを羽織って顔を隠した私を、ただただ驚きの瞳で見つめ。


「なあに? 幽霊でも見ているような目を向けて。私が誰だか、分かっているの?」


「……マキア・オディリール……」


「はい、はっずれー」


私は身動きとれずにいるシャンバルラ国王の前で、けらけらと笑った。


「ふふ……ははは」


しだいに、シャンバルラ国王……いいえ、“青の将軍”も、冷や汗を一筋流しながらも笑い声を上げる。


「バカをいうものじゃありません。こんな事が出来るのは、あの方しか居ないはずだ。……どういう事でしょう。マキア・オディリールは死んだはずだ」


「だからマキアは死んだってば。私はマキアじゃないわよ」


「ですが、“紅魔女”でしょう?」


「……ふふ。そうねえ……あんたがそう言うなら、そうなんでしょう」


私はかぶっていたローブを脱いで、この空間に放った。

風が、黒い幕が、それを巻き上げていく。

赤い魔力を散らす黒髪が宙を舞う。

青の将軍は目を見開いた。


「“私”には見覚えが無いでしょう……青の将軍?」


「……まさか……異世界の……」


「大事な事は何一つ、あんたには教えてあげないわ。だけど一つだけ教えてあげる」


私は可愛らしくそう言うと、手に持つ槍で奴の胸を裂いた。

ここでは“誰一人死ねない空間”という能力が発動している。

そのせいで、怪我をしてもすぐに再生するけれど、裂けた衣服だけはそのまま、胸元のある呪いの印を露にする。


「その印、ね。私、あんたに一度つけられちゃったでしょう? 不思議な事に、“見える”様になっちゃったのよ」


「……」


「この目で、見える様になっちゃった。肉体の名前さえ分かっていれば、情報の一つとしてね。だから、すぐに確信したわ。あんたが……青の将軍だって。誰もがあんたを疑っていたし、あんたも隠しているつもりも無かったんでしょうけれど、絶対的な証拠って大事よ。私、あんたがどこのどいつに紛れていようが、これから“分かっちゃう”のよ。服で隠しても無駄。魔力数値よりずっと簡単に、見えちゃうんだもの」


「……まさか、そのような」


これは青の将軍にとって、致命的と言えるはず。

名前が無ければどうしようもないけれど、今までは肉体の名前が分かっていたとしても、それが青の将軍に乗っ取られていると見分ける術は無かった。


だけど、マキアの体を離れ、異世界からやってきた救世主となり魔力数値を跳ね上げた事で、私は青の将軍の呪いの印を見る瞳を手に入れた。


「感謝しているわ、青の将軍。あんたが私に呪いを植え付けたからこそ、私はあんたを捕える事が出来るのだから」


皮肉めいた笑顔を浮かべて、囁く様に。

青の将軍に対して、恨みも憎しみもあったけれど、こいつを殺す事はこいつを生かす事と同じだ。

だから殺さないし、ずっとここに閉じ込める。


ここから、他の“自分”への情報提供は出来ない。

また向こう側から情報がやってくることもない。


本体が死ぬまで、ここに閉じ込められた青の将軍はずっとこのままだ。


「……ふふ」


彼は、たまらず笑った。


「素晴らしい。いやはや、感服致しました。こうなるとは思いもしなかった!!」


「……嬉しそうね」


「嬉しいとも。予想を裏切られるのが、私は大好きなのだから」


惨めな姿でぶら下がる青の将軍。

余裕も無さそうなのに、嬉しがる所は流石としか言い様が無いわね。


「だが、名前の無い紅魔女。私はまだ“残っている”。最後の一つさえ、あなたに勝てればそれでいいのだ」


「……立派な負け惜しみね。いいえ、確かにその通りだわ」


髪を払って、彼に背を向ける。


「ならばせいぜい、上手く逃げ切る事ね青の将軍。私はあんたを、狩りにいくから」


「……嬉しいお言葉で」


「……」


顔だけを、シャンバルラ国王の姿をした青の将軍に向け、その狂気じみた笑みを睨んだ。


「行くわよ、レピス」


「はい」


レピスに声をかけた瞬間、辺りの景色は“黒の幕”の内部から、王宮の地下へと変わる。

ガタガタと揺れる王宮の危うさはあれど、とりあえず青の将軍をまた一人確保した事となる。


「……ふう。やんなっちゃうわねあいつ。本当、何考えてるんだか」


「マキア様」


「ん? どうかした、レピス」


レピスが少しばかり、暗い表情で居た。

彼女は苦しそうに告げる。


「叔父様でした」


「……はい?」


「あの、銀の王の側に居た、連邦の軍服を着た者。彼の名前は……ナタン・トワイライト。私やお兄様の、叔父様にあたります」


「……ほんと? 何か凄くトールに似てたんだけど。あんたたち一族って、本当に似てるのね。遺伝子って凄いわ」


一瞬顔を見ただけでは、「あ、トールに似ている」としか思えなかったけれど、言われてみればトールよりずっと年上な雰囲気だったわね。

でもそっか。これでトール、三人目になっちゃった訳ね。

まあ世界には似た人が三人居るって言われているけれど……いや、待てよ、もしノアが良い感じに成長してトールみたいになっちゃったら四人目に……


「……マキア様。叔父様は少しだけ私に視線を送ってくれました。とても、苦しそうなのに、大丈夫だといわんばかりの視線を。きっと、連邦に捕えられている者たちのために、叔父様はあいつらの言いなりに……っ。私……どうしたら良いのでしょう」


「……レピス」


「私たちを連邦から逃してくれたのは、ナタン叔父様なのです」


私は、震える手で顔を覆う彼女を、そのまま抱き締めた。

固い義手が、ローブ越しにも冷たく感じられる。


「大丈夫よ。何もかも、私に任せなさい」


力強く告げる言葉を、私は偽るつもりは無い。

私の言葉に、レピスは強ばった体の力を抜く。


「……ですがあまり……無理なさらないでください、マキア様」


「レピス?」


「私は……私はまだ、信じられないのです。あなたが、戻ってきてくださった……その事が……っ」


黒い瞳に涙を溜め、唇をぎゅっとつぐんで、泣くのを堪えているレピス。

もともとレピスはルスキアに戻っていたのだけど、シャトマ姫に呼び出され再会した時も、彼女は彼女なりに凄く驚いていた。

だけど、こんな風に泣きそうになったのは、今が初めてだった。


きっと、私が青の将軍を魔法で捕えるのを見て、やっと、本当の意味で私という存在を認識したのだろう。


揺れる地下の工場。

あまり時間は無かったけれど、私はレピスを抱き締めたまま、背を撫でる。


「レピス。あんたには色々と辛い思いをさせたわね。大丈夫、私はここに居るわ。ちゃんと戻ってきたの。私は救世主だから……あなたの一族の仲間を、絶対に助けるわよ」


慰める様に、決意する様にそう言葉にすると、彼女はいっそう目を見開き、たまらず私の肩に顔を埋めた。


「はい。……はい、マキア様。マキア様……っ」


「……」


「お気をつけ下さい……お気をつけ下さい」


「分かってるわよ、相変わらず心配性ね」


私は、もうマキアでは無い。

だけどこの時、レピスが私を通して見たマキアを、マキアに対する思いを否定したりしない。


強くあろうとしていた淡々とした態度を、この時ばかりは保つ事が出来ないようで、レピスはまるで幼子の様に私に縋ってしくしく泣いた。


もう、崩れ落ちそうな王宮の地下で。



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