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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第五章 〜シャンバルラ迷宮編〜
261/408

27:トール、シャンバルラ空中要塞戦。

7話連続で更新しております。

ご注意ください。



シャーハリーが揺れている。


全ての準備はできていた。

例え、巨兵が王宮をぶっ壊して出現しようが、地下の転移装置を作動させ出現しようが。


「……来たか」


王宮の真上の空が歪み、連なる魔法陣が展開されている。

それだけで、俺たちはそこから何が現れるのか、すぐに理解出来た。


トワイライト製の宙移動キューブを足に装備し、王都の上空からそれを見つめている。

手を掲げ、城壁に張っていた魔導要塞のタネを芽吹かせる。


「選択範囲、反転」


側に浮かぶモニターから、命令を送信。

俺の魔導要塞は元々王宮内を選択していたものだが、巨兵が王宮を出た所で召喚される可能性があると踏んで、選択範囲を反転させる用意もしていた。


「魔導要塞、“天鏡スカイミラー”……展開」


王宮を中心に円を描く様に、バタンバタンと空色の鏡が敷かれ始める。

この範囲は、王都を覆い、囲む程である。

天鏡スカイミラーは建造物の並び立つすれすれの所で薄い鏡を張る、物理65%幻想35%の魔導要塞。

むき出しなのは王宮くらいで、王都自体はこの魔導要塞でほぼ防御できると踏んでいる。

ソロモン・トワイライトの魔導要塞“黄昏の時間帯トワイライト・ゾーン”を重ね展開する事で、俺のリスクは軽減される算段だ。


天鏡スカイミラーの空間が、青空の澄んだ世界から、茜色の夕刻へと塗り変わった。

構築素材は全てレジス・オーバーツリーの提供で成り立つ。


「おい、黒魔王、出てくるぞ」


隣に作っている四角い浮足場に立って、大四方精霊を従えるエスカが声を低くした。

バリ、バリと、魔法陣はヒビを作り、禍々しい魔力が波の様に押し寄せてきたその時、激しい機械の擦れる音と共に、それは現れた。


「出たな、ギガス」


そいつは今までの巨兵とは、一見違って見えた。

黒いフォルムに、血管の様に走る青い筋。

胴体は太く逞しく、背中には羽がある。首は長く頭上にはラクリマが浮いている。ラクリマに絡まり合う輪がクルクルと回り、煌々とした青い光を放っていた。


見た途端、分かった。


「グリメル……」


口をぎゅっとつぐんで、奥歯を噛み、睨む。

あいつをあの時助けられなかった。それのせいで、今、あいつはギガスの素材とされ、俺と対峙しているのだ。これは予想できたことだ。

怯むな。


俺は剣を抜き、その剣に物理100%の圧縮要塞を装備した。

長く長く、剣が鎧を纏う様に、装甲される。

俺がこの場から発った時が、スタートだ。


足につけていた宙移動キューブを頼りに、トワイライトの者たちの様に空中を瞬時に移動する。

空を飛んでいると言う感覚よりは、よほど瞬間移動に近いが、どちらとも言えるだろう。


「こっちだデカ物!!」


ライフルの発射される音が聞こえた。


エスカが先ほどの場所で、ブルーウィンガムを大きな対物ライフルとして召喚し、撃ったのだ。

銃弾はギガスのラクリマを狙ったが、結界が展開し防がれた。

巨兵が頭上の主砲をエスカに向け始める。


その隙をぬって、俺は巨兵の背に周り、要塞を纏った長い剣でギガスの片翼を斬り落とした。

耳を劈く鳴き声が、空間を僅かに歪ませる。


「……っ」


耳を塞ぐ事が出来ず少しばかり怯んだが、一度浮足場で体勢を整え、今度はギガスの頭上へ移動した。

ギガスはバランスを崩し、空から地面へ落ちる。

敷かれている天鏡スカイミラーが一度波打ち、海の波の様にキラキラと陽の光を反射させた。


ギガスの羽は、やはりすぐに再生を始める。

主砲はギガスの体勢とは関係なく発射され、それは狙いのエスカの遥か上空に放たれた。

一度天鏡スカイミラーに弾かれた砲撃は、そのままギガスに向かっていく。

天鏡スカイミラーの魔導要塞の能力は、弾いた攻撃をそのまま本人に返す事だ。


ギガスは自ら、その強大な威力の砲撃を浴び、体を燃やした。

回復魔法が発動しているが、その固い皮膚を脆くするだけの効果はあるだろう。


それに巨兵は一度砲撃をすると、再びその準備に時間がかかる。

俺たちはそれを狙っていた。


次の砲撃の前に、かたをつける事が出来れば……


「!?」


しかしやはり、そう上手くはいかない。

もくもくと上り立つ炎煙の中から、長い巨兵の腕が伸び俺を狙う。

バラバラと機械片がこぼれ落ち、それが魔導要塞の天鏡スカイミラーにぶつかってキーン、キーンと高い音を奏でた。


掴まれる前に向かって行って、腕を裂いたが、飛び散る青黒い血が、まるでグリメルのもののようで、俺は一瞬苦しくなった。


「!?」


飛び散った血が天鏡スカイミラーに辿り着く前に、それは青黒いコウモリのような姿を成し、この空間に放たれたのだ。

それはあらゆる魔導要塞にへばりつき、魔力を吸う。


「クソっ、きもちわりーな!! タータ!!」


エスカがブラクタータを召喚し、大量の爆薬でこれらを散らしているが、それでも間に合わない程に群れを成す。

魔力を吸収したコウモリは、負傷したギガス本体に戻ってそれを供給し、回復の糧としていた。


「はは……よくできてんな、おいおい」


思わず感心したが、ここは俺の空間の中だ。

俺は手を掲げ、モニターの図面に描かれた天鏡スカイミラーを、まるでパズルゲームの様に“上へ”滑らせた。


敷き詰められた天鏡スカイミラーから、鋭い光線が無数の帯を成して放たれた。

まるでどしゃ降りの雨を、逆再生しているかの様に、天へ向かって。隙間も無い。

それに貫かれ、パラパラと落ち行くコウモリは炭火のよう。


「今だエスカ!!」


「うるせえ分かってんだよ!!」


俺はエスカに合図をした。

大四方精霊のうち三体が巨兵の周囲を旋回し、21枚の列を成す魔法陣を割る。

第七戒“精霊の楔”。三つの白い楔が、勢い良く巨兵を魔導要塞に打ち付けた。


「……」


連続的な魔法の余韻の中、俺たちは巨兵を見下ろしていた。


「……捕えた、のか」


そう呟いてしまう程、思いの外あっけない幕引き。

俺は手に持つ剣を構え、巨兵の主砲でもあるラクリマを斬り落とそうと思った。


しかし、その瞬間、足場が揺らぐ。


「な」


振動が、巨兵から円を描く様に空間を這う。

唸っているのだ。巨兵が。


「……あ」


俺はそれに覚えがある。

グリメルは低く唸る事で、空間の空気を揺らす事があった。

魔導要塞の中に居ることの多かった俺に、自分の居場所を知らせる為だ。


こいつにとっては、喉を鳴らすのは甘えている事の表現だったが、稀にそのうなり声に魔力が混ざり、空間にヒビを作る事があったから、何度か注意したっけ。

注意しながらも、頭を撫でてやったんだ……


巨兵の頭上にある青いラクリマが煌めいた。


「おい黒魔王!! このままじゃトワイライト・ゾーンの効果が切れて、てめえの空間が歪んで割れるぞ。そうなったら王都がつぶれる!! 早くしろ!!」


エスカが叫び、俺はハッと我に返った。

夕焼け色が、端から徐々に空色に戻り始めている。


「出来ねえなら俺がやるぞ!!」


彼が神器を持ち出し、ブルーウィンガムのライフルに魔力を供給し始めた。

エスカの神器の恩恵は、まさに恵みの雨。聖地の泉と直結する聖杯から、澄んだ魔力を得る事が出来る。

聖地の魔力は、ここで生まれた大四方精霊にとっては、一番効果のあるものだ。

ライフルの先に幾重にも魔法陣が連なる。

エスカが狙っているのは、まさに巨兵のラクリマである。


「……」


俺は、少しばかり瞳を細め、浮足場を踏み割った。

ガラスの割れる様な高い音が響いた後、落ちる。

長い剣を持ったまま、俺は落下していく。


「グリメル、今楽にしてやるからな……」


剣先が光を帯び、巨兵の周囲に浮かぶ修復魔法陣すら巻き込んで切り裂いた。

背中の動力源は露にされ、それはまるでカプセルが連なる様にして上から下まで巡っているのだが、一つが爆発する事で誘発的な破壊に導いた。

俺は地面に敷かれた自らの天鏡スカイミラーを目繰り返す程に、勢い良く剣先を滑らせ、円を描く様にして巨兵の頭部を斬り落とした。


ラクリマの核だ。


青い球体は、巨兵の体から離れた瞬間、色あせ、土星の輪の様に巡っていた光は消灯した。

ただ俺はその球体を守るため、囲む様に結界を張る。


直後、巨兵は激しく爆発。

昇る炎煙を避け、エスカの居る浮足場に降り立った。


「一瞬迷ったな。ほら見ろ。そのせいで巨兵はあのザマだ。損傷少なく捕えるのが目的だったはずだろう!!」


「……すまないな。言い訳は後でする」


「……てめえっ」


エスカの怒りは最もだったが、俺はただ燃える竜型の巨兵を見送った。

精霊の楔によって捕えられている巨兵が、まさに王宮の地下で捕えられていたグリメルと重なり、長い時をただ捕えられ、体を痛めつけるあいつを、もう解放してやりたいと思ってしまった。


危惧していたのは、この戦いに連邦の青の将軍や銀の王が介入して来る事だったが、巨兵が破壊される今まで、奴らは影すら見せなかった。

まるで、巨兵を俺たちに倒させる為に作り、放ったかのように。


その為に、グリメルの命が利用されたと言うのなら、これほど許しがたい事があるだろうか。


ただただ、甘えた唸り声だけが、耳に残っている。


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