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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第五章 〜シャンバルラ迷宮編〜
257/408

23:シャトマ姫、演じる事の無い時間。

3話連続で更新しております。

ご注意ください。

妾の名前はシャトマ・ミレイヤ・フレジール。

フレジール王国の第一王女で、前世は1000年前の藤姫として名高い。



「お、あやつら、熱帯温室へ行ったぞ!」


妾はフレジール王宮の自室の窓から、双眼鏡を持ってこそこそと黒魔王と紅魔女の様子を伺っていた。

妾が撒いた種がどう芽吹くか気になって。


「……姫」


背後から、妙に冷静なカノンの呼び声。


「なぜ、黒魔王にあのような事を言った。情報だけ与えても、あの男は何も思い出せない。混乱させるだけだ……」


「ほお、カノン。あやつらが心配か?」


「……」


カノンの方を振り返り、ニヤリと。

だけどカノンの表情は何も変わらない。


「……あの二人はシャンバルラ攻略には不可欠だ。今、心を乱されては困る」


「うーむ、相変わらず固い固い」


「姫」


低い声が妾に圧力をかける。

くそっ、くそっ、これからが良い所なのに。


「分かった、分かったよカノン。覗きはやめよう。あとはあやつら次第。妾は口も手も出さぬ。それでいいだろう」


「……出した後に、そんな事を言う」


「あっははははは」


腹を抱えて笑いながら、自室のソファに座り込む。

薄布の寝巻き姿で、髪も解いて自由な姿で。


「妾は運命の女神である。よって、あの二人の運命に少しばかり手を貸すのもまた宿命である」


「……屁理屈を言う」


「カノン、人の事は言えんぞ。お前は偏屈だ。誰よりあの二人の運命を変えたいと思っているくせに」


言ってやったぞ、と、妾はまたニヤリと笑みをこぼした。

カノンは少しばかり目を細めている。

あ、これは呆れている表情だ。


軍帽を取り、軍服の上着を脱いだ彼は、妾の向かい側のソファに座り込んで、テーブルに広げたシャーハリーおよびシャンバルラ王宮内の図面を見ていた。

だけど妾は、あの二人の話を続ける。


「なあ、カノン。……“世界の法則”は手強い。これがある限り、紅魔女は黒魔王とは結ばれぬ。それはもうずっと、そなたが繰り返し見てきた事だ。故に、あの二人とはこの世界の鍵だ。“破壊”と“構築”、それはまさに、表裏一体なのだから」


「……」


「小難しい事を言わずとも、ただただ切ないではないか。妾はあの二人が嫌いではない。……特に紅魔女は、既に世界に罪を償った身。手を貸したくなると言うものだ」


「……さっきから一人で何を言っている」


「一人では無い。そなたに言って聞かせてるんだろうっ!」


カノンの奴、絶対聞いていたくせに、素知らぬ振りをしている。

対シャンバルラ戦を控え、さも戦略を練っていた様な顔をしている。


妾はムッとして立ち上がり、しらを切るカノンの背中に回った。

そして彼の背中をぽかぽかと叩き、言ってやるのだ。


「こちらが真面目に話しているのに! こうなったら、明日皆の前で、そなたの事を“パパ”と呼んでやるぞ! 恥ずかしいぞ!! 明日から一週間くらい、続けてやる」


「……」


カノンはやっと振り返った。これでもかと言うくらい、眉を寄せた厳しい視線を妾に向けて。


「それはよせ」


「ほら! ならば妾のおしゃべりを聞いてくれ」


「……」


「カノン、遊んでくれ。カノン、叱ってくれ。カノン、話を聞いてくれ……!」


妾は背中から彼の名を呼び、首に抱きついた。


「“私”が自分を演じる事無く、そんな事を言えるのは、“お父様”だけなんだから」


「……」


カノンはしばらく黙っていたが、「姫」と低い声で呼ぶと、


「威厳を、保たれる様」


そう妾を嗜めた。

妾はクスッと笑って、彼から手を離す。


「分かっておる。妾は、理想の女王であろう?」


「……ああ。あなたは俺の、理想の女王だ」


彼の言葉を聞いて、妾は満足げに、元居た場所に落ち着いた。

足を組んで、偉そうな態度になる。

彼がそれを望むのだから。


そして妾たちは、政治の話をした。

シャンバルラ王国に対し、感情を取り払った方針を定め、計画した。


妾はカノンの理想の女王を演じ続ける。それがお互いの望みであるから。


奇しくも、エルメデス連邦とフレジール王国は、世界の二大国家にして、対立する象徴がシンメトリーとなっている。


女王VS女王、それを支える将軍VS将軍。


「妾は負けぬよ、カノン。だって、そなたが“二度も”育てた女王だ……弱いはずが無い」


「……」


妾は、シャンバルラに対し、図面上のキングの駒を倒し、クイーンの駒を進める。

迷ったら負け。


既に時代は、その局面に来ている。






かつて、そう、1000年前。

妾は旅をした。まだ物心もつかない程幼かったとき、カノンに命を救われ、連れられて。

妾はカノンを“お父様”と呼んでいた。本当の父では無いと分かっていたが、親子と言う立場を偽る方が、何かと面倒が無かったから。


カノンという名は、そのうちに妾が与えたものだ。

彼は今も、この名を使ってくれている。


……でも、まあ、この事はそのうちゆっくり思い出すとしよう。



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