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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第五章 〜シャンバルラ迷宮編〜
253/408

19:トール、黒灰藤密談。

2話連続で更新しております。

ご注意ください。



俺はトール。

フレジール王国は俺の要塞と要望を受け入れた。

要塞の出口から出れば、そこはもうフレジールの地である。




「良く戻ってきたな、トール・サガラーム」


レジス・オーバーツリーのシステム管理室で、シャトマ姫がカノン将軍を従え、俺たちを出迎えてくれた。


「おや、そなたたちも一緒に居たのか」


シャトマ姫は俺の後から付いてきたマキとエスカを覗く様に、顔を傾けた。

マキはしらっとしているが「まあね」と言った口ぶりから、ここも知り合いの様である。

エスカに至っては緊張からか言葉もでない、と。


「ふふ……旅疲れの所悪いが、さっそく話を聞こうじゃないか黒魔王。……例の子供達と言うのは、彼らか。こちらで手厚く保護しよう」


クスクス笑うシャトマ姫は流石の物わかりの良さと、切り替えの早さだ。

夢ヶ丘の中に居た子供たちは、さっそくフレジールの役人の指示で移動させられていた。

するとマキが俺たちから離れて、きょろきょろとオーバーツリーの簡素な内装を見回すスズマを呼び寄せた。


「いらっしゃいスズマ。もう大丈夫よ。あとはあのお兄さんたちが全部良い様にしてくれるから」


「……う、うん」


スズマは胸や肩に精霊を乗せたまま、コクンと。

シャトマ姫が彼に気がついて、品のある笑みをスズマに向ける。


「そちらが例の少年か。……そなた達は少し休んでおれ。後ほど、妾が伺おう」


「……ありがとう、シャトマ姫」


シャトマ姫はマキとスズマを俺達とは別行動にさせた。カノン将軍に指示して、マキ達を案内する様に言う。

俺は少しばかりマキを気にしつつも、シャトマ姫について行った。

まあ確かにマキは部外者だからな……


「ふふ、何を気にしておる。ここで彼女とお別れなどと言う事にはなるまいよ」


「……別に俺は」


「ふふ」


扇を口元に当て、愉快そうに肩を震わせて笑うシャトマ姫。

今度は大人しくしているエスカに声をかけた。


「司教様も良く戻られた。しかし、昨日シャンバルラに辿り着いたと調査団から連絡が入ったばかりだったから、驚いたぞ」


「……あっ」


エスカは突然声を上げて立ち止まった。


「……調査団あいつらは俺がフレジールに帰ってきた事を知らない。今頃シャンバルラで俺の帰りを待っているはず……っ」


「……」


「ああ、それなら心配するな。教国の調査団にはこちらから待機の指示を出させて頂こう。王宮の様子などを伝えてもらえるか、妾から頼んでみる」


「そんな藤姫様が頼み事なんてやめてください。俺から指示を出します……っ!」


「……おや。やっと妾の顔を見てくれたな司教様」


「……」


熱くなったと思ったら、すぐにシャトマ姫に手玉に取られる。

エスカはうっと後ろのめりになって、その後すぐにだらっと肩を落とした。

顔を真っ赤にして。

こいつ面白いな。







フレジール王宮にて、俺たちが通されたのは玉虫色の装飾の目立つ洒落た応接間。

艶のある丸いテーブルに着いて、彼女は侍女に茶をもってこさせた。

俺は茶会の用意が終わり、人が居なくなったのを確かめると、シャトマ姫にシャンバルラ王宮での出来事を全て語って聞かせた。


「……ほお、連邦のイスタルテ殿下が、のお」


彼女は茶を飲みつつ、冷ややかな視線を横に流した。


「銀の王は言った。本当の目的は連邦の勝利ではない、と。世界の可能性を追及しているに過ぎないと」


「……世界の可能性?」


俺の言葉に、エスカが眉間にしわを寄せ、「なんだそりゃ」と。

俺が聞きたい。


「……」


シャトマ姫は腕を組んだまま、黙り込む。


「この世界には、確かにまだまだ、我々の知り得ない“力”というものが存在する。……可能性と言うならば、近年開発に成功した“魔導回路システム”もそうだ。これは連邦には無い近代魔術システム。……カノンの見つけ出したものだ」


「……魔導回路って、あの回収者が見つけたのか?」


エスカが顎に手を添え、興味を示す。


「ああ。おそらく、あいつにしか見つけ出せなかっただろうよ……」


憂いのある視線を落とし、彼女は続けた。


「知っているか? 我々魔王クラスの体には緻密な“魔導回路”が存在する」


「!?」


「故に我々はこの脆い体に、膨大な魔力を収めておく事が出来るのだ。魔導回路は、この世界の通常の人間には微塵も存在しないもの……。いよいよ時代は、こんなものまで暴いてしまった訳だ。……見よ」


彼女は立ち上がり、王宮のガラス窓から覗く、夜のレジス・オーバーツリーを扇で指した。

根元が太く頑丈で、徐々に細く伸びていき、頂上近くできのこの傘を広げるている様な、そのフォルム。

天辺には巨大なラクリマが抱かれている。


「あのタワーまるで、大樹の様じゃないか? 妾はあれが最初に出来た時、そう思ったよ」


「……大樹」


「そう。この世界の象徴とも言われる大樹、ヴァビロフォス。あの樹はこの世界に最初から存在していたもの。……司教様は知っておろう。九柱がこの世界に訪れる前から存在していた、いくつかの要素を」


「……」


エスカは神話の話題を振られて、一度眉をピクリと動かし難しい顔をしていたが、やがて口を開いた。


「……最初の九柱が世界を構築する以前に、この世界にあったもの。それは……“混沌”。そして“天”と“大地”……最後に“愛”……。その4つを表現していたのが、大樹ヴァビロフォス」


「ああ、そうだ。それが元素。……ヴァビロフォスは根を張り大地を創り、枝葉を伸ばし天を支えた。幹は“混沌”の広さを教え、実る果実は“愛”を歌う。これらはただ存在して、9人の子供たちのよりどころとなったと言われている」


エスカとシャトマ姫の言葉は淡々としていて、それらが現実としてあったものというよりは、曖昧な物語の一節を唱えている様だ。


俺にはいまいちピンと来ない。

窓からのぞくレジス・オーバーツリーの赤色灯が、ゆっくりと点滅を繰り返している。

まるで生きている巨大な生物の呼吸の様だ。


俺はふと、イスタルテが楽し気に語っていた事を思い出した。


「……話しぶりから察するに、銀の王はかなり明確に神話時代を覚えているらしい。どうにも、神話時代にかなり固執している様に思える。一体何を目論んでいるのか……青の将軍は彼女に利用されているのかしているのか」


俺が思いついたようにそう言うと、シャトマ姫は頷いて席に着いた。


「確かに、イスタルテ殿下と青の将軍の関係性は気になるな……」


シャトマ姫の疑問に、エスカも続く。


「イスタルテ・シル・ヴィス・エルメデス……現エルメデス総統の末の娘だ。今までは表に出て来ない娘だったが、最近になって存在感を露にしている。あの歳にして巨兵開発の全権を持ち、兄弟を差し置いて後のエルメデス総統と噂される王女殿下だ。裏で青の将軍が動いているのは間違いないと思うが……。藤姫、銀の王を討てば、現状は変わりますか」


問いは直球だ。

こいつにとって、敵がどのような者かより、生かすべきか殺すべきか、それで何が変わるのか、そちらの方が大事なのだろう。実にエスカらしい。

シャトマ姫は少々驚いていたが、首を捻る。


「彼女は銀の王だ……確かに、彼女の力無くして巨兵は生まれないのだろう。しかし……分からないな。討てば、終わりなのだろうか。我々は何度も転生すると言うのに……。結局は、全てを先送りにしているに過ぎないのではないだろうか」


「……」


「よく考えてしまうのだよ。神話時代から続く、我々の出会いと対立と言うのに、終わりはあるのだろうかと。今でこそ2つの勢力に別れている訳だが、来世ではどうなるのか分からない。誰と出会い、誰が敵になり、誰が味方になるのか。生まれた環境で、それはいくらでも変わるだろう。複雑な因縁だけを、積上げ更新しながら……」


憂いを帯びた琥珀色の瞳。

ただ、すぐに鋭く視線を前に向けた。


「ただ一ついえる事は……もし私の存在する時代に“青の将軍”が居れば、必ず敵対するだろうと言う事だ。今までも、これからも」


ピリッとした魔力が、彼女の肌から香る蜜の匂いに乗って漂う。

自分の感情より現状に置ける最良を優先する彼女なのに、この時ばかりは藤姫としての嫌悪の感情を垣間見た気がした。

それは、エスカも同じ。


青の将軍……1000年前の魔王クラスにとって因縁の相手。

そして今は世界各国に意識体を散らしている、厄介な連邦の刺客。


確か、そうだ。

紅魔女マキア・オディリールも……青の将軍のせいで死んだと、誰かの話で小耳に聞いた事がある。


誰もが憎む相手なのに。

俺も、その名前を聞くだけで腹の底にうずく何かがあるのに、いまいちそれが何であるのか分からない。


ただただ、腹立たしく、物悲しく、憎らしいのだ。


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