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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第五章 〜シャンバルラ迷宮編〜
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18:マキ、トールを元気づける。

「ちょっと、トール、開けなさい。開けてってば、開けろ」


城壁をドンドンと叩いて、トールに呼びかける。

トールが居ないと私たちはこの雲の煙突クラウドチムニーに入れないのだ。

早く魔導要塞に逃げ込まないと、兵士に見つかっちゃうってのに。


「……よし、壊すか」


「よし、じゃ無いわよ。そんな事してみなさい。兵士たちが来てめんどくさい事になるから」


エスカが後ろでイライラして、手榴弾を取り出した。

トールがなかなか入口を開いてくれないからだ。本当にこいつ、壊しかねない。


だけどすぐその後、思いきり壁を叩いた瞬間、入口が開いたりする。

私は勢いそのまま、彼の魔導空間の中へ転げ込んだ。


「いった〜……」


「おい、服がめくれあがってんぞ。見たくないんだから見せるな」


エスカが後ろから、レディーに向かって失礼な言葉を吐き捨てる。

私は彼を睨みながら、役人服の裾をバッと整えて、立ち上がった。


「とか言ってさ〜。どうせちょっと嬉しかったんでしょう。トールだったらラッキースケベ万歳ってなる所よ」


「ハッ。俺をあんな、女にだらしない男と一緒にすんなよ。俺を誰だと思っている。清らかな聖域の水に抱かれ生まれ育った聖人だぞ。心はいつも、あのヴェビロフォスの母なる泉のごとく乱れないのだ!」


「……」


何言ってんだろこいつ。

あんた程ブチキレ体質の男も居ないだろうに……


今更だけど、この犯罪者の手配書に載ってそうな面したエスカが、聖域の中で生まれ育ったなんて軽いジョークよね。

私は今でも信じてないわ。


「……ていうか、トールよ」


そうそう、トール。

トールはどこかしら。


雲の煙突クラウドチムニーの中をキョロキョロ見渡し、夢ヶ丘行きの扉を発見。

そこを開くと……


「あ、いた」


トールが、丘の下で膝を抱えて、力無く座り込んでいた。







「あ、お姉ちゃん」


トールの側に居たスズマが私に気がついて、てってっとやってきた。

ただ私の後ろに居るエスカにギョッとして急ブレーキ。


まあ子供にエスカの存在感は、刺激が強すぎるわよね。


「だ、だれ……その人」


「ああ、こいつ? こいつはヴァベル教国の司教よ。こう見えても」


「こう見えてもってなんだよ。どっからどう見ても立派な司教だ」


「今のあんたの姿は、どう見ても戦場の兵士よ」


防弾チョッキを着ているエスカを、誰が司教と思えるかしら。

エスカはギロッとスズマを見下ろして、マジマジと観察している。


「なんだこのガキ……どっかのどいつに似ている気がして悪寒がする……つーか百精霊連れてんじゃねーか!」


「ちょうど良かったわエスカ。あんた、今度この子に精霊魔法を教えてあげてちょうだい」


「は?」


無茶ぶりだったかしら。エスカがいっそう険しい表情をした。

一応スズマは、エスカにとって見慣れたシュマの生まれ変わりなのだけれど……


「まあ、ぼちぼちで良いから」


そう言って、私はトールの方へよって行った。

何でしょう、ここでこんなに騒いでいるのに、トールは無反応で、さっきから柔らかい地面の上の四角い白い石を、積み上げに積み上げてぶつぶつ言っている。


「どうしたのこいつ」


「あ、お姉ちゃん、トールお兄ちゃんさっきからずっとこんな感じなんだ」


「???」


トールは白い石を積み上げては、壊している。

流石にどうしたんだろうと思って、彼の肩に手を置いた。


「ちょっとトール、どうしたの?」


「……あ、ああ、マキか。すまないな、少し考えたい事があって、周囲の音を絞っていた」


「王宮で何かあったの?」


「……」


トールの元気が無い。

難しい顔をして、何か考え込んでいる。


「おい黒魔王、俺の事は無視か!」


私と共にやってきたエスカがさっそくキレてる。

エスカを見て、トールは私と彼を見比べた。


「なぜお前とマキが一緒に……お前たち、知り合いなのか?」


「え」


「え」


私とエスカはポッと言い訳が出て来ず、お互い顔を見合わせた。

妙な空気を感じ取ったのか、トールは顔をしかめる。


「お、俺が他大陸に調査団で行ってた時期があったろ。そんときに出会ったんだよな」


「そ、そうそう」


「……ふーん」


苦しい言い訳に、トールがいかにも信じてなさそうな濁った瞳で私を見上げる。

こいつ……本当、どうしたんだろう。


「おい黒魔王。こんな所で油を売っている暇はないぞ。早くこの要塞を城壁から解除しろ」


「……は?」


「王宮の地下で、銀の王が神器を発動させた。何かヤバい事になるぞ、こりゃあ。この要塞には王宮で助けた者共が居るんだろう。もし何かあって城壁が壊されたら、多少はこの要塞に影響が出るんじゃないのか。下手すりゃ、あっちに色々とバレるぞ」


「……」


トールはすくっと立ち上がって、いつもの様に生真面目な顔になる。

すぐに操作モニターを出して、ピコピコと作業を始めた。


「“夢ヶ丘”をレジス・オーバーツリーに同期……フレジールに申請……あ、通った。えー……“ミミズクの部屋”情報を保存。……解除……雲の煙突クラウドチムニー解除……と」


一通り操作した後、トールは「10分待ってくれ」と、私たちにその場に留まる様、指示した。

この夢ヶ丘をレジス・オーバーツリーに同期するのに、そのくらいの時間がかかる様だ。

魔導回路システムのメインタワーが、こう言うときの“落ち着き場所”を提供してくれるのは、空間魔術師にとってありがたい事らしい。空間を維持したり、しばらく解除できない場合などに。





この間に私は服をセーラー服に着替えた。

トールに聞いたことなんだけど、どうやら私と別れたあの後、銀の王に今の魔族の実態を教えられたらしい。

魔族の血肉が、巨兵製造におけるリスクの対価の支払いに利用されていたと言う事だ。

魔族の王、そして、空間魔術を作り出したトールにとって、これほど衝撃的で、悩ましい事は無かったでしょう。


「結局……捕われていたグリメルも救えなかった。転移魔法をかけられてこの空間に逃げた後、再び王宮の地下へ向かおうと“ミミズクの部屋”で近道を探ったが、地下への入口に強力な結界が張られていた。この俺でも、とても破れそうにない」


トールは悔しさを滲ませていた。

自分の子孫でもあるトワイライトの一族に転移魔法をかけられたのも、その要因でしょうけれど。

ならば、あの地下で見た、銀の王の側に居た白い軍服の男が、トワイライトの……


「結界は銀の王の神器“創造王の威光”によるものだろう。その力は強大で、能力は多岐に渡るらしいが、神話上は銀色の盾の姿をしているとも言われている」


「……盾?」


「ああ。だが防御の役割をしている訳じゃ無い。それは誓いの盾と言われている。神話上の一説にはこうある。……『銀色の盾の光が混沌を裂き、この世界に種を撒いた。それは芽吹きである。銀色の盾の光が泉に溢れ、この世界に法を生んだ。それは誓いである』……と」


「……」


なんか、エスカが真剣な顔してそんなクソ真面目な事を言っていると、変な感じがする。

というのは、今は置いておいて、少しだけ考えてみる。


神器の形に定めは無いにしても、象徴的な像はあるようだ。

剣、錫、槍、盾、聖杯、殻……


少しも見た事が無いのは、やっぱり青の将軍“パラ・エリス”の神器だけど……


「それにしても、王宮に“青の将軍”はいたんだろうか」


ポツリと呟いたトール。

銀の王や地下工場に気を取られていたけれど、確かに、銀の王が居たなら青の将軍が居ないと言うのはおかしい気もする。


「おそらく、銀の王の側に居た、シャンバルラ国王か、白い軍服の男が、青の将軍だろうな……」


「見たのか?」


「ああ、地下の工場でな。あいつら巨兵を完成させる気だぞ」


エスカは腕を組んで断言した。

トールは再び顎に手を当て、考え込んでいる。


「あの白い軍服野郎……空間魔術を使いやがった。トワイライトの者だとして、青の将軍に体を乗っ取られている事もありうるのか」


「ありうるな。だが、トワイライトの者は連邦に身内を多く捕われている。銀の王に従う理由はいくらでもあるってもんだ。そう言った意味では、この国で権力を発揮できるシャンバルラ国王が青の将軍に乗っ取られている可能性が高い気がするぜ……」


エスカも青の将軍の話になると、声のトーンが低くなる。


唸っているトールを尻目に、私は先ほど垣間見た3人の姿を思い出していた。

青の将軍には一度痛い目に合わされている分、ね。








「お、繋がったか」


時間がかかったけれど、魔導要塞“夢ヶ丘”は、無事にレジス・オーバーツリーの予備空間に同期したらしい。


「もしかして、ここってフレジール?」


「そうだ。シャンバルラにせっせと足を運んだが、帰るのは一瞬だな。とは言え、あちらの宿と繋がる空間を作って置いているから、フレジールに戻ってきても問題は無い」


「そ、そういうもん……」


行きはよいよい帰りは怖い……の逆ね。

こうなると、行きが大変で帰りの方が楽、と。

空間魔術って魔導回路システムとの相性が良いらしく、これのおかげで万能性を発揮している。

す、凄いじゃない。結構使い難い魔法だって、昔バカにしてたのに。


「フレジールなら、ここにいる子供たちを少しの間保護してくれるだろう。……冷静に考えて、今回の事は一刻も早くシャトマ姫に伝えた方が良いだろうからな」


「……」


そう言いながらも、トールはまだ複雑な思いを拭いきれていない様子。


「ほらっ、しっかりしなさい!」


私はそんな彼を見てられず、背中をバシッと叩いた。

トールは驚いた様に、私の方を向く。


「……マキ」


「何をそんなに深刻に考え込んでいるのか知らないけど、しゃきっとなさい。ほら、エスカを見てよ。いつも無駄に自信満々で……」


そう言って後ろのエスカを指差したけれど、当のエスカはここがフレジールであると言う事を意識してしまってからは、何か凄く緊張している。


「……藤姫様に謁見藤姫様に謁見藤姫様に謁見……はあああ」


「……」


さっきから冷や汗たらたら流してる。

こいつ、いざと言う時に使えないわね。




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