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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第五章 〜シャンバルラ迷宮編〜
251/408

17:マキ、再会と撤退。

3話連続で更新しております。

ご注意ください。




私はマキ。

王宮の地下工場へ行く途中、魔族が捕われている牢があって、トールはかつて仲間だった魔獣と再会した。

だけどイスタルテという銀の王が突然現れて、トールは今そいつと対峙している。


私はと言うとトールを置いてとんずら……って訳じゃ無いけど、銀の王とはまだ会いたくなかったから、そのままトールに逃がされて地下へと進んだ。


この先の工場がどんなものか見ておきたかったのよね。



「……」



もくもくと煙の上がる、その鉄筋と魔法陣に囲まれた、巨大な何か。

真っ赤な血の色をした液体のチューブが茨の様に絡まり付いている。

地下の工場では、その何かが製造されていた。


ええ、知っているわ。

巨兵って奴でしょう。


「うっわ……グロいわねえ」


見た目のインパクトもさることながら、こうも近寄ると匂いが酷い。

ここで作られている巨兵は、まるで千手観音の様に多くの腕が取り付けられていて、その手があちこちから吊るされている。マリオネットの様。

金属の体のあちこちから、ギーギー、ギリギリと音が響いている。

でもまだ、頭部が無いみたい。


ここで巨兵を造っていたなんて、シャトマ姫が知ったら激怒しそうね。

シャンバルラ王宮は、巨兵を保有する為にフレジールと手を切って、連邦に寝返ったのかしら。

それとも、シャンバルラ王宮が連邦に乗っ取られ、一工場として活用されていると言う事かしら……


出来損ないの巨兵の周りを、流れ作業の様に立体魔法陣がクルクルと巡っている。


ライトに照らし上げられているその姿は、罪人が磔られている様で、流石の私も身震いするわね。


「おい、動くな……」


気がつかれない様に通路の曲がり角の陰に隠れていたのに、不覚にも背後から腕を取られた。

銃を頭に突きつけられる。

でも声に聞き覚えがあるな……


「死にたくなきゃ両手を上げて、俺の問いに3秒以内で答えろ」


「ちょ、ちょ、ちょっと」


「この工場にはいくつの転移装置がある? はい、いーち……」


「ちょっと待ってって言ってるでしょう!」


指輪として身につけていた神器を槍に変え、後ろから突きつけられていた銃を弾く様にして、そいつの拘束を振り払った。


あ、やっぱり。……エスカだ。

うわー1年ぶり。


「ちっ……てめっやりやがったな!!」


「うるっさいのよあんた。せっかく隠れてるんだから静かにしてちょうだい。工場の従業員にバレたらどうしてくれんのよ!!」


「……あん、てめえ……何か役人っぽくないな」


エスカが表情を変え、まじまじと。


「役人に扮装しているだけでしょう。……ったく」


頭にかぶっている重い帽子を取って投げ、私は長い髪を払った。


「……私よ」


「……」


ドヤ顔してみせたのに、エスカ、ぽかん。


「誰だよ」


「え」


「何だこの女怪しすぎるぜ、殺すか」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!」


私がマキアであった人物だと気がつかないエスカ。

シュッとナイフを取り出して、なんかもう殺人鬼のごとく悪人面かましてくれてる。

あ、あれ〜〜〜。おかしいな〜〜〜。

でも確かに、容姿は全く同じって訳じゃ無いけど。


「あんた本当? 本当に分かって無いの? 分かってやってるの?」


「……は? 何が?」


「私よ!! 紅魔女よ!!」


ええい、言ってしまえ、と両手の拳を振り下ろしながら。


「……」


エスカはその三白眼そのまま、真顔。

分かってくれたかしら、と思ったらそのナイフを本気で投げてきた。

神器がオートでそれを弾いてくれるから問題ないけど、けっこうドキッとしたわ。


「ちょっと、なにすんのよ!」


「……ふーん」


エスカは壁に手をつけ、額を押さえてしばらく沈黙して何か考えていたけど、次第にクックッと笑い出す。


「あっはははははひゃははははは」


「う、うるさいってエスカうるさい」


「なーんてこった。どういう訳か、1年前に死んだ奴がこんなに早く転生してやがる。そうだよなあ、俺の攻撃をそうも簡単に防ぐ奴なんて、魔王クラスにしかあり得ない。そしてその神器……戦女王の盟約、だろ? それを使いこなせる奴なんざたった一人だ」


「……分かってくれたんならありがたいけど」


エスカの妙なテンションを前に、私はため息。

こいつは変わらないなあ。


「あのねエスカ、今説明するのも何か場違いかもしれないけど、私、転生した訳じゃ無いのよ。うーん、難しい所なんだけど……まあ要するに、勇者が色々手を尽くしていたっていうか」


「……分かるぜ。と言うか、こう言う事態を意図的に起こせるのは、あの回収人しか居ねえからな」


「あら、物わかりの良い事」


案外あっさりと私の存在を認めるエスカ。


「紅魔女、こんな所で何してやがる」


「……実は私、トールと一緒に行動しているの。私の目的とあいつの目的が少し近かったから」


「なんだ、あの野郎、お前の事を思い出したのか?」


「いいえ、そんな訳無いでしょう。……あんたも私の事、あいつに教えちゃダメよ」


「何でだ」


エスカはあからさまに眉間にしわを寄せた。


「記憶も思い出してないのに、情報だけ与えるのは危険だもの……」


「お前が命令して、記憶を思い出させてやりゃいいじゃねーか」


「……無理なのよ」


「は?」


「無理なの。あの命令はマキア・オディリールの名の下にくだされている。私には名前が無いもの」


「……意味分かんねえな」


エスカは正直。

だけど私も、これ以上説明のしようもなく、彼から目を逸らしただけ。


「てか……その黒魔王はどこに居るんだよ。俺、あいつと合流しないと……」


エスカが何か言っていた、その時、私は体を走る感覚に眉をピクリと動かした。

さっきトールと別れる時、さり気なくあいつのマントに触れた。ちょこっとだけ私の血をあいつのマントに付着させたのだけど……


「あ、あれ。トールが居なくなっちゃった」


「……は?」


「トールの気配がいきなりどこかへ飛んでっちゃった。あいつ、雲の煙突クラウドチムニーに戻ったのかしら」


銀の王相手に簡単に勝てるとは思ってなかったけれど、あいつを一人置いて行ったのは、いざとなったらあいつは城壁に仕掛けている雲の煙突クラウドチムニーに逃げ込む事が出来ると思っていたから。


「やばいわね。トールが銀の王から逃げなきゃいけなかったって事は、銀の王がこの地下工場に戻って来ると言う事よ。私たちも急いで逃げなきゃ……」


「ちょっと待て!! 俺はここに仕掛けられた転移装置の数をだな……」


「そんなのはトールの“ミミズクの部屋”が解析してくれてるわよ」


「え……マジで」


「ほら、ここで何が創られているのか分かったんだから、さっさと脱出するわよ」


何故そんなに一生懸命転移装置の数を数えていたのかは分からないけれど、エスカは色々とやかましいので、大事になる前にさっさとここを出て行った方が良い。

トールが居ないのなら、早く彼と合流しなくちゃ。


「ちょっと待て」


エスカがいきなり、ピッと真面目な表情になったから、私も息を止めて立ち止まる。

彼は物陰から少しだけ顔を出して、工場の様子を伺っていた。

誰かが側にいる様だ。


「……準備はできているかい? 儀式に必要なものが揃っているのなら、始めたいんだけど」


「ええ。殿下のお力添えのおかげで、この通り順調です。後は命を吹き込んで頂くだけ……」


声がする。

銀の王の声と、知らない男の声だ。


私もエスカの下から、そろっと顔を出す。

すぐ側の鉄の橋の上に、銀の王と、見た事の無い高貴な風貌をした男と……連邦の白い軍服を着た黒髪の男が一人後ろで控えている。


「シャンバルラ国王と、銀の王だ」


小声でエスカが教えてくれた。


「……やばい。撤退するぞ、紅魔女。銀の王が神器を展開する。アレに捕まったら逃げられんぞ」


冷静な声で、私に指示したエスカ。

きっと彼は、あの場で展開された異常な魔力の波を感じ取っていたんでしょう。


イスタルテ・シル・ヴィス・エルメデス。

あの可愛らしい容姿の内側に秘めた魔力数値は、200万mg以上。


銀の王が異世界への転生を経ていないのならば、これは化け物的な数字と言って良いわね。

流石は、神話時代の主神と格付けされた魔王クラスだわ。




年内の更新は今回で終了となります。

今年もお世話になりました。

来年もどうぞ「俺たちの魔王はこれからだ。」をよろしくお願い致します。


ではでは、良い年末をお過ごしください。

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