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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第五章 〜シャンバルラ迷宮編〜
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16:トール、イスタルテと出会う。

3話連続で更新しております。

ご注意ください。




「……マキ……逃げろ……。何だったら雲の煙突クラウドチムニーにっ」


俺は後ろで大人しくしているマキに向かって、小声で指示する。

このまま彼女を魔導要塞の中へ逃がそうとした。


「……」


マキが、俺の背中のマントをぎゅっと握る。

こいつの事だから「いやだいやだ」と言ってマントを引っ張り、駄々を捏ねるのだろうと思っていたが、彼女は予想外にも、そのままマントを離して一人出口へまっしぐら。

あ、あれ……


「なんだいあいつは。もしかしてトワイライトの者かい?」


イスタルテはマキを横目に、彼女を見逃す。


「……お、お前には関係ないだろ。あいつは部外者だ」


「あははは。相変わらず、女には優しいねえクロンドール。……いや、黒魔王と呼んだ方が良いか? それとも、トール・サガラーム?」


「何とでも呼べ」


腰の剣を抜きながらも、出て行ったマキの事が気になる。

無事に逃げてくれれば良いが。


イスタルテはそんな俺の態度が気に入らない様で、腕を組んだまま目を細める。


「何だろう……案外冷静だね。紅魔女を殺されて、さぞ腸が煮えくり返っているだろうと思っていたのに」


「……紅魔女?」


この一年間、何度か聞いてきた名前だ。当然、魔王クラスの一人として、俺はその名前を知っている。

そして誰もが、俺に触れさせまいとした名前。


「お前……紅魔女を知っているのか?」


「……は? 何を言っているんだ君は。僕と青の将軍があの女を死に追いつめたんだ。知らないはずが無いだろう」


「……いや、まあ確かに……それはそうなんだろうが」


虚しい笑みがこぼれた。

誰もが知っていて、俺の知らない紅魔女。

……マキア・オディリール。


「俺は彼女に関する記憶が無い。どうやら、その紅魔女様とやらに封じられたらしいんだ。お前には悪いが、ここで『紅魔女のかたき』と、お前に向かって行く事が出来ない」


「……は?」


イスタルテはあからさまに表情を歪めた。

何が悔しいのか、奥歯を噛んで、その視線をよりキツくする。

視線の先には、今は亡き紅魔女がいるのだろうと思える程、こいつは別の方向を見ていた。


「くそ……っ、くそ、あの女め。本当に、死んでも僕の邪魔をする!! 卑しい……卑しい卑しい卑しい!!」


手に持つ銃を思いきり地面に投げて、彼女はその手を目の前にかざした。


「シェム・ハ・ソゥド!」


パキパキと地面が割れ、銀色の細かな光を散らし、細長い剣が現れる。

彼女はそれを手に、一度大げさに振った。

そしてやっと落ち着いた様に、顔を上げる。


「……神話名で呼んでもいまいちピンと来ない様だから、黒魔王と呼んであげるよ。どうだい、黒魔王。君が愛し守った魔物や魔獣が、この場に捕われている気分は」


「……」


彼女を探る様に睨み、問う。


「グリメルを……魔族たちをこんな目に合わせているのはお前か」


「勿論だよ。だって……魔族は僕が作り出した醜い生物だもの。“金の王”をね、亡き者にしたかったんだ。だから3000年前、あいつを倒せる軍勢を作り出した。それが魔族だったんだ。……だってあいつ邪魔だったから」


「……やはり、お前は“銀の王”なんだな」


「いかにも。僕が“銀の王”である」


彼女はニコリと微笑んで、剣の刃をぺろりと舐めた。


「でもねえ、僕、魔族が嫌いだったんだ。自分で創ったものだって、失敗作ってあるでしょう? 芸術は傑作を作ってなんぼだけど、こいつらは失敗作。駄作だった。だって醜いし、言う事を聞きゃしなかったんだから。個々の精神を宿してしまって、自由を求めた。おまけに“金の王”には負けっぱなしだったしさあ……本当、腹が立ったよ」


イスタルテはおしゃべりをやめない。

わざとであるのだろうが、沢山の情報を俺に与える。


「……だけどねえ、3000年経って、やっとこいつらの使い道が出来たんだよ。2000年前、黒魔王に保護された魔族。1000年前、青の将軍に討伐された魔族。そういった、魔王クラスとの関わりを得て、今になってやっと……ね。何だと思うかい、黒魔王」


「……」


「肉だよ。リスクに対する、対価さ。……こいつらの血肉はね、僕の傑作とも言える“ギガス”シリーズの一部となっているんだ」


ピクリ、と眉が動いた。

俺はずっとずっと、不思議に思っていた事がある。


巨兵を作る、その材料と対価。


空間魔法が一部に使われている“超魔導遊撃巨兵ギガス”シリーズ。これらを作り上げるのに、必要と思われる膨大な対価は、いったい何でどのように支払われているのか。


それが、こいつの言葉でやっと理解できた。


「お前たち……魔族の血肉を、あの巨兵製造に利用していたって言うのか!」


「ふふ、ああ、そうだ。ふーん……やっと良い感じに、感情を露にしてくれはじめたね、黒魔王。だって君が作った“空間魔法”ってやつ、相当な対価が必要になるじゃない。魔王と言われる君でさえ、少し使えば内蔵を食われる程に」


「……ふざけるな!!」


「ふざけてなんかない。全てはとても効率的なんだよ。巨兵を作りたいと思ったとき、僕の手の中には、1000年前から青の将軍が管理していた肉たちが居たんだから。僕自身が作った命だ。巨兵製造には、驚く程相性が良かったよ……」


「貴様……っ!!」


ふざけてる。

こいつは命をなんだと思っているのか。


俺は思わず剣を振って、目の前の銀の王に斬りかかっていた。

見た目に惑わされるな。こいつは、こいつは魔王クラスでも最強と目される、銀の王なのだ。


「やったあ!」


彼女は嬉しそうに、可愛らしく喜んだ。

恍惚とした笑みは幼い容姿と不釣り合いで、いっそうこいつの異常性を垣間見る。


「やっと僕に敵意を抱いてくれたね。嬉しいよ黒魔王。2000年前、君が魔族を保護して、魔族の国を創ったと知ったときは、本当に身震いがした。……これで、君と対峙する舞台は整うってね」


激しくぶつかり合う金属音。その度に、飛び散る不安定な魔力。

こいつは悪だ。

連邦にこんな奴が居ると言う事が、今の俺には恐ろしく、許せなかった。


「もっともっと、酷い事を教えてあげよう。居なくなった子供や女たちが居たろう? あいつら、何に利用されたと思う?」


「うるさい、喋るな」


「ふふ。あいつらはねえ、魔族の餌なんだよ。だって魔族には巨兵の材料になってもらわないといけないし、良い巨兵を作るには材料の質が良くなくちゃいけないだろう? そう、肥やさなきゃ。あいつらは高い魔力の女子供の肉をより好むから、このシャンバルラ王国に集めさせていたんだよ。本当に、餌代のかかる家畜でね」


「うるさい黙れ!!」


大きく剣を振るって、俺はイスタルテの持つ剣を弾き飛ばし、彼女を地面に押し付け、首筋すれすれの所で剣を地面に突き刺した。


「魔族は本来、人なんて食う必要は無かった!! お前達が、あんな風に惨めな姿に変えたんだろう!!」


「……」


イスタルテはこの状況でもクスクスと笑っている。


「そりゃあそうだ。あいつらを質の良い肉にするには、魔族以外にもっとも魔力を持った生命体である人間を食わせる他無い。そう改造してくれたのは青の将軍だ……」


「お前達の目的は何だ。いったい、何の為にそんな事をしている……! 連邦の勝利か……っ」


「そんなのは表向きの目的に過ぎないだろう? 僕は、この世界の可能性を、追及しているに過ぎない」


「…………可能性?」


ふっと、彼女が鼻で笑った。

俺の動揺を見て取ったのか、胸ぐらを掴んで顔を引き寄せた。


「ねえ、黒魔王。……もう一度世界を作り直せるなら、どんな世界にしたいかい? 僕はね、パズルも積み木も、作り上げる事より、最後に壊す事の方が、大好きなんだよ。それで、考えるんだ。次はどんな世界にしようかって……。神話の時代、僕らは好き勝手に、思い思いに、世界を作っていたね。楽しかったな……何もかも、自由に、理想的な世界を構築できたんだ。気に入らなかったら創り替える事が出来る。僕らにはその権利が与えられているんだよ」


「……お前」


シュッ……

脇目に映った影に、俺は銀の王から飛び退いて周囲を警戒した。


しかし、俺の足下には既に転移の魔法陣が展開されている。


「……チッ」


やられた、と思った。

この俺が、他人の転移魔法にかかるとはな。


「あっははははははは」


銀の王の高々と笑う声。

いつの間にか、彼女の脇に居る白い……軍服。


誰だ。

そいつの顔を一瞬だけ垣間見た。

切れ長の黒目に黒髪の、ピンと来る面立ち……


「さらばだ黒魔王。僕の邪魔はさせやしないよ。次は、僕のおもちゃの実験に付き合ってくれ」


銀の王の言葉が徐々に遠ざかって行く。

足場が崩される様に、光に包まれる。


寸での所で転移魔法を無理矢理書き換え、俺は自分の魔導要塞に逃げ込んだ。





雲の煙突クラウドチムニーの中で、俺は膝をついて、しばらくぼんやりしている。


「ト、トールさん……?」


スズマが俺に気がついた。

精霊を抱いて、俺の元へ駆け寄ってくる。


「……くそっ」


不意だったとはいえ、この俺が転移魔術にひっかけられるとは。

あの野郎、絶対トワイライトの血を引く奴だ。

垣間見た印象で、俺にはすぐ分かる。



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