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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第五章 〜シャンバルラ迷宮編〜
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14:トール、夢ヶ丘。



「ねえ、こんな時になにしてるの?」


「……あ、すみません」


マキが助けた少年が、無垢な表情で俺たちに問う。

“こんな時”が、特別響いた。

この歳にして凄みがあるなこいつ……


彼の後ろで大人しくしている子供や女たちが、じっと俺やマキの漫才を見ていたわけだが、その視線も心無しか痛い。


俺たちは無意味に咳払いしたり、唸ったりして、持ち直す。

ちょっとした再会に浮かれていたんだろうか。


「トール、この子はスズマ。私が助けに来た子」


マキはスズマを後ろから抱き締め、紹介した。

スズマは不動だ。


「スズマは白魔術師なのか?」


「いいえ。ただ、精霊がこの子を気に入っているのよ」


「……」


髪が白いからだろうか。

スズマはとても、よく知ったあいつに似た印象である。

淡い髪の色、微かに感じる魔力の匂いが、どうしても。


「お兄ちゃんは、お姉ちゃんの仲間?」


「いや……なんていうか、なんだろう」


説明に困る。

確かに、俺とマキって何なのだろう。つい最近知り合ったばかりなのに、どうしても、ただの知り合いとは言えない気がしていた。


「それにしても、これからどうしようかしら……」


「どうしようって?」


「この子たちよ。勢い余って、攫われていた子供たち、みんな連れて来ちゃったけど。よくよく考えたら、この子たちをこれからどうしようかしらって。親元に帰そうにも、王宮が黒幕じゃあ、あちこちに帰すのも危険な事に変わり無いわ。……それに、今頃外は大騒ぎでしょうね。夜中なのに、きっと王都中を兵士がうろついているわ」


「……ああ、なるほどな」


うむ、と顎に手を当て、今後の計画を考えてみる。


マキの言い様から、誘拐事件の黒幕は王宮であったと言う事だ。

王宮は今頃、この事実が外に出ない様、やっきになってマキやこの子たちを探しているはずだ。


「どのみち、シャンバルラ王宮を探るつもりだったんだ。今から、王宮内はもっと荒れるだろう。事が収まるまで、しばらくは隠しておいた方が良い」


「……隠すって?」


「この子供たちを、俺の空間に匿っておこうかと思う。食料やらはフレジール経由で送ってもらえば良いし……。確実に、シャンバルラには手出しできないと思うが」


「……あんたの体、保つの?」


「なぜそんな事を気にするんだ?」


「いや……だって……」


もごもごと口ごもり、マキは大人しくなった。


「特徴の無い幻想空間なら、支障は無い」


マキを納得させるには、実物を見せた方が良い。

この “雲の煙突クライムチムニー”は複数の魔導要塞を繋げる事の出来る、柔軟な空間だ。柔らかい壁に手を当て、半透明のモニターを操作しながら、過ごすには快適な空間を作り出す。

“夢ヶ丘”という、魔導要塞だ。ちなみに、地球で俺の住んでいた団地の名前でもある。案外ファンシーな名前の団地に住んでいたんだ。


「とりあえず、この扉の向こう側に、皆移動しろ」


壁に浮かび上がってきた扉を開けると、マキが「ほらあのお兄さんについてって」と、指示。

恐ろしい程に従順なそいつらは、俺に向かって列を作り、指示通り “夢ヶ丘”の中へやってきた。








「わあああああ」


その空間に足を踏み入れたスズマが、思わず声を上げたのは、そこが彼にとって思いも寄らぬ空間だったからだろうか。


空は淡い桃色。

小高い丘の上に、四角い真っ白なマンションが建っている。

丘の側には公園があり、様々な遊具が点々と。

それ以外には何も無い空間だ。


「……ここ」


マキが不思議そうに、丘を見上げていた。


「懐かしい感じがするか?」


「……」


「まあ、地球でよくある団地をモチーフにしてるんだ。マンションと、公園しか無い空間で、あとはベッドやテーブルなんかの家具が揃っている。少しの間暮らすには、問題ないと思うが……」


「……地球」


マキが繰り返して、チラリと俺を見た。


「ああ……俺も地球の、日本から来たんだ。まあ、お前と違ってあっちで死んで、転生したんだけど。言ってなかったか?」


「え? あ、ええ……そう。いや、聞いたっけ? うーん……」


彼女は動揺を見せ、曖昧に答える。

取り繕う為に髪を撫でていた。

しかしはっとして、大人しくしていた多くの子供や女たちに向かって、槍をかざした。


「さ、みんな、目を覚ましなさい」


槍は赤く柔らかい糸の束となる。

その糸は一本一本、女子供の額に辿り着き、かけていた魔法を解いた様だ。


「え……」


「ここどこ?」


魔法が解けても、しばらく皆ぼんやりしていた。そのうちに、このような場所に居る疑問を得た者から、きょろきょろとし始める。

幼い子供はその場にしゃがみ込んで、泣き出した。


「あ……」


スズマが泣いている子供の元へ行って、よしよしと頭を撫でていた。

しかし一人が泣き出すと、連鎖反応を生むのか、あっちもこっちも泣き声が上がる。


「わあああ、お母さああああん」


「帰りたいよう〜っお家に帰りたいよう〜」


子供だけじゃなく年頃の娘も涙を浮かべてめそめそしているものだから、収集もつかず。


「おい、あんまり泣くな。お前たちは助かったんだ」


俺はそいつらの前に立って、声を張った。


「お前たちは保護された。このような見知らぬ場所で不安かもしれないが、今、お前たちを王都に出す訳にはいかない。俺たちが事を成すまで、ここで過ごしてもらう。その後、順次家に帰す事を約束しよう」


「あんた、そんな言い方じゃあ、子供たちポカーンでしょ」


「……ならなんて言えば良いんだよ」


せっかく格好良く宣言したのに、マキに横からつっこまれた。

しかしやはり、子供たちはぽかんとしている。女たちは、妙に潤んだ瞳で俺を見上げてる。


「ま、このお兄ちゃんが、あんた達を捕まえたわるーい奴を、バババンとやっつけちゃうから、それまではここで楽しく過ごしてなさい。悪い奴やっつけたら、あんたたちはパパとママの所に帰れるわ。ここは楽しいわよ。暑くも寒くもないし、ふかふかの布団はあるし、おいしいご飯もある。子供たちは遊具で遊んでも良いし、お嬢さんたちはお茶でもして、ゆっくり過ごしてなさい」


マキの言葉に、目の前の者たちは表情を変えた。

今までの不安ばかりなものから、少しだけ、希望を感じ取った、赤みのある顔だ。


「ほんと?」


「おうちに帰れるの?」


「ご飯あるの?」


子供たちの問いは単純明快。


「ええ。全部このイケメンお兄ちゃんがどうにかしてくれるわ」


「お前、俺をおだてりゃ何でも出てくると思ってるだろ」


マキはバンバンと俺の背を叩き、口から出任せ言ってやがる。

俺に対する子供たち女たちの期待の眼差しも眩しすぎた。





アパートのフロントには、黒い影の様な、人型の作業員が居た。

これは、俺の空間の中で作業を必要とする際、活躍する使い魔“空間人”だ。

グリミンドはこれの上位。もっと緻密に作られた空間人と言う訳だ。


そいつらに、しばらく子供たちの衣食住の面倒を見る様に指示した。


すぐにフレジールにも、充分な食料の補給を求めた。

食料庫となっている空間を、“雲の煙突”によって隣にくっつけると、空間人たちがもくもくと食料を運び出し、マンションの食堂でそれらを調理し、配り始めた。働き者な空間人。


「って、なんでお前もパンを貰ってきてんだ」


「だって、お腹空いちゃったんだもの。食べられる時に食べとかないと」


空間人が皆に配っていたパン。

マキも腕一杯に貰って、もぐもぐと食べていた。

俺なんて色々あって夕食すら食べていないのに。


「あ、ミミズクだ」


丘に座って、パンをちぎって精霊に与えていたスズマが、ふと空を指差した。

ミミズクが手紙を持って俺の元まで飛んで来たのだ。

それは“ミミズクの部屋”からの伝達。手紙を開くと、複数のデータを記録するモニターが飛び出し、宙に留まる。


「グリミンド、王宮内部の術式の解析は進んだか?」


そのうちの一つ、グリミンドと会話できるモニターに問う。

“ミミズクの部屋”では、俺の変わりにグリミンドが解析作業をしていた。


「黒魔王様、それがですね、何とも面白いのです」


「面白いって?」


「宮殿の地下に、大規模な魔導工場があるようですよ。凄いエネルギーを感知しました」


「……何?」


「それだけではありません。宮殿内のいくつかの場所に、転移装置も確認されています。どれもこれも、トワイライト製ですねえ……」


「……」


グリミンドはキシキシと、嫌らしく笑う。

面白い事なんて何一つ無い。

シャンバルラが何を企んでいるのか知らないが、トワイライト製の転移装置があるという点から、この国が連邦と手を組んでいるのは明白だろう。

おそらく、連邦側のトワイライトたちが作ったものだ。


シャトマ姫は言っていた。

フレジールやルスキアに居るトワイライトの一族も、皆優秀であるのは確かだが、トワイライトの技術の多くは、連邦の手にある、と。


俺が難しい顔をして、解析結果の出た宮殿の内部の図を見ていた時だ。

マキがパンを持って来て、無理矢理俺の口に押し込んだ。


「ほらほら、あんたも食べなさいよ」


「……」


じろっとマキを見て、長いため息。

仕方が無いのでそのままパンを頬張る。ただ、やはり腹が減ってたんだろう。

すぐに食べてしまった。


マキが満足げに俺の顔を覗き込んで、言う。


「私の目的は達成できたわ」


「……そうか。もうどこかへ行くのか?」


「本当ならそうしたい所だけど、あんたに助けてもらってばかりなのも悪いわ。気になる事があるんでしょう? それなら、手伝ってあげるけど。暴れるのは得意よ」


「……もしかしてこの状況で、宮殿に乗り込もうってのか」


「それ以外に何かあるっての? あんたは難しく考えすぎよ。私たちほどの力があれば、例え丸裸で堂々と乗り込んでも、何事も何とかなると思うけど」


「それただの変態だろ。何とかなる前に、プライドが何ともならない。粉砕されるわ」


「例え話よバカ」


マキは俺より先に立ち上がり、張り切った様子でフードをかぶった。

思い立ったら行動、の代名詞。


「俺は慎重派なんだよ。それに、お前は知らないかもしれないが、宮殿の中には、ちょっと厄介な奴が居るかもしれない。……青の将軍が……」


「……ふーん。誰それ」


青の将軍の名前を出したが、彼女は声を低めただけ。

興味が無いのか、何なのか。


「しかしまあ、お前の言う通り、慎重になり過ぎてタイミングを見失うのもマズいな。ベタだが、敵兵取っ捕まえて身ぐるみ剥がすか。それを着て乗り込む」


「わあ、何それ面白そう!! そうしましょそうしましょ!!」


「……」


こんな物騒な事にワクワクして、手をブンブンと上下に振って瞳を輝かせる女子。

ワクワクする様子が可愛いだけに、残念だ。



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