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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第五章 〜シャンバルラ迷宮編〜
245/408

11:マキ、スズマと再会する。

二話連続で更新しております。

ご注意ください。


連れて行かれたのは、暗い倉庫のような場所。

ぱちりと目を覚まして、手枷足枷をつけられ自由の利かない体と、その周囲を確かめる。


高い所に明かり窓があるだけの倉庫。

どうやらこの倉庫には強力な結界が張られているらしい。それに絶対の自信があるのか、見張りは居ない。


「ああ……わんさか」


子供たちや若い女たちだけが、沢山居た。

だけど皆、気力が無くぐったりとした表情。


名前を知らないから確かな魔力数値は分からないけれど、ここにいる子たちは皆、少しだけ魔力が多いみたい。


その中でも、一際白く輝く魔力を持っていた少年を見つけた。

彼だけは、私でも魔力数値を確かめる事が出来る。


「スズマ、スズマ!」


私は手足に枷のついた状態でぴょんぴょんと飛び跳ね、彼の側へ寄って行く。

私がオアシスで出会った、10、11歳ほどの少年スズマだ。


「……お姉ちゃん?」


スズマも、私の事に気がついた様だ。

彼は薄汚い麻の服を着ていて、髪は白く、目は淡い黄緑色をしている。

そう。とても不思議な少年だ。ここら辺では見る事の無い風貌をしている。


ぼんやりとして人形の様に動かない子供たちの中で、彼だけはしっかりした意志のある瞳を保っていた。


「お姉ちゃん、どうしてここに? あんなに強かったのに」


「しっ。あまり大きな声で喋ってたら、あいつら来ちゃうわ」


周囲の様子に気をつけながら、小声になる。

スズマは頷いた。


「よかったスズマ。まだ無事だった様ね」


「……お姉ちゃん、僕を助けに来てくれたの?」


「そりゃあね」


スズマは疑問だらけだと言いたげな表情だ。


「お姉ちゃん……奴隷狩りで攫われた子供をこんな所まで救いに来るような、正義の味方だったの?」


「……あんた私の事、どんな風に見てたのよ」


「どうして? お姉ちゃんから見たら、僕なんてオアシスで出会っただけの、赤の他人だよ? 何の得も無いよ?」


「ちびっこのくせに、変な所しつこいわね……そして大いに失礼よ」


オアシスの住人が皆私の事を、必要以上に崇め立てたのに対し、この子だけは、私が寝床と食事を確保する為に奴隷狩りから住人を守っていたと知っていた。

要するに、崇めるに値する人間で無いと知っていた。


「だってお姉ちゃんは合理主義者の現金主義者じゃない。僕、助けてもらっても、お姉ちゃんに恩返しできるものがないよ。一生をかけてお姉ちゃんに奉仕しても、足りないと思うんだ」


「……」


どうやらこのスズマにとって、私も人攫いもあまり変わりのある人間では無いらしい。いったいどこで、私のイメージがそんなものになっちゃったのか。

オアシスの人たちにあれ食べたいこれ食べたいって要求してたのがいけなかったのかしら?

せっかく助けに来てやったのに可愛げの無いガキだこと。


「……ったく。奉仕とか、そんな事しなくていいし考えなくていいから。私、あんただけは無償で助けてあげるわよ」


「なんで?」


「……」


確かに、この異世界で初めて出会った少年だ、スズマは……

ならば、なぜこの子供をこんなに気にして、追いかけて、助けに来てしまったのか。


それは、私が得た“情報”に理由がある。


彼の名前はスズマ。

幼い頃、オアシスに住む砂漠の民に拾われた、両親の居ない孤児。


そして、恐るべきはその魔力数値。

33万4397mgという、一般人でも、魔王クラスでも見る事の無い数字。

覚えている限りの前世の記憶を引っ張り出しても、その数字に近いものは、今まで見た事が無かったわ。


一般の魔術師は優秀でも1万mgを越える事は無く、魔王クラスは100万mgを切る事は無い。

ここには空白の数十万代というのが存在する。


スズマは、私にとっての未知だった。

スズマに自覚は無かったけれど、私だけが彼の特異性に気がついてしまっていた。


オアシスにいる間、私は子供ながらによく働くスズマの様子を観察していた。

彼は幼い子供ながらに賢く、思慮深く、そして何より鋭い感性をもった少年だった。

好奇心旺盛で、旅をしている私の元へ度々やってきては、話を聞きたがったっけ。

ひねりのある嫌味を言ってきたり、大人びた言葉を使う彼との会話は、結構面白いなと思ったものよ。

ちょっとした魔法を見せれば、どうやったら出来るのか尋ね、真似しようとした。

そして、それがまれに成功するから末恐ろしいと思ったり……


何より特別だと思ったのは、彼の側に、三匹の精霊が居た事だ。

おとなしいハリネズミの精霊ウプーと、渋い良い声のサソリの精霊スコラ・ピオーネと、うるさいハチドリの精霊プラナだ。

どいつもこいつもとげとげしい、白賢者の百精霊に数えられる精霊。

特にハチドリのプラナは白賢者の最初の精霊として知られていて、私を見るや否や、大騒ぎしたっけ。

精霊たちには、私が紅魔女の生まれ変わりだって、すぐに悟られたわね。


だけど、こいつらはとても曖昧な存在。

スズマは精霊と言うものが何なのか知らなかったし、こいつらがなぜ他の者たちに見えず、自分について回るのかも、不思議がっていた。


そして私は、ある日ふっと、スズマが何者なのか気がついてしまった。

精霊たちのささやきに教えられたのかもしれない。

自分の覗く情報から、自然と汲み取ったのかもしれない。

だけど、気がついてしまえば、なぜこの子供にこのような魔力数値がたたき出されたのか、納得しようがないのに納得に至るのだ。



彼は、“シュマ”の生まれ変わりだった。

そう。2000年前の白賢者と緑の巫女の間にうまれた、息子の。



スズマに、シュマだった頃の記憶があった訳じゃない。

二人の魔王クラスの息子の生まれ変わりであるから、このような魔力を得たのか、聖域の地下の、あの棺を経由し生まれ変わったからこのような魔力があるのか、それは分からない。

だけど、何の理由も無いより、確かに頷ける。

精霊たちが白賢者の元へ戻らず、ひしとこの子供に引っ付いている理由も。


どこかで感じた雰囲気と言うのが、彼にはあった。

きっとそれは、ユリシスのものだわ。

柔らかい、白い、乱れない優しい魔力。

意志のある瞳は気がついてしまえばそっくりだもの。


この世界の魂の絶対量は変わらない。

私たち魔王クラスが生まれ変わる様に、ただの人々も何度となく生まれ変わるのだ。

記憶が無く、誰も気がつかなくとも。




スズマが奴隷狩りにあって、連れて行かれたと聞いた瞬間、悟った。

私のやるべき事の一つは、スズマを救う事だ、と。


スズマは何も知らないだろうけれど、私はこの子供に、恩返しと償いをしたい。

紅魔女として、ただのマキとして、今の彼に出来る最大限の事は何だろう。







「ねえ、スズマ」


私は小声で、スズマに尋ねた。


「あんた、私と一緒にここを出て、あんたを待っている人の所に会いに行かない?」


「……僕を待っている人?」


スズマはもっと不可解だと言う様に、首を傾げた。

しかし、それに答えたのは、彼の周囲に居る精霊たち。「白賢者様、白賢者様!」と、涙を流していた。それを見たスズマは、流石に少しだけ興味をもってくれたようだ。


「私はね、あんたには何をしても良いって思っているのよ。助けてあげるし、望みがあるなら何だって聞いてあげる。あんたの行きたい所に連れて行ってあげるし、会いたい人が居るなら……会わせてあげるわ。でもあんたは、私の言っている事の意味が……何一つ、さっぱり分からないでしょうね」


「……お姉ちゃん?」


「だから、ねえ……まずは私にあんたを助けさせて」


パキン、パキン、と、自身の手枷を簡単に砕き、自分の手でスズマを抱き締めた。

小さく痩せた体を、力強く。


スズマはやはり、何も分かっていない。

だけど、私の肩に顔を埋め、クスクスと笑った。


「不思議なお姉ちゃんだねえ」


そう言って。


「でも、お姉ちゃん。どうやって逃げるの?」


「そんなのは簡単な事だわ。まっすぐ突っ切って、邪魔なものは全部破壊するの。……そのうちに外に出るわよ」


「そ……そんな事出来るの?」


「あはは……ちょーー楽勝よ」


顎を突き上げ、高笑いしたい気分。

だけど、スズマにとてつもなく不安そうな顔をされた。


「だけどお姉ちゃん。ここにいる子たち、みんな解放して上げたいんだよ。僕だけなんて、逃げられない」


「……ふーん、聖人の子だこと」


「だって、お姉ちゃん知っているの? ここに集められた子供たち、みんな変な魔法をかけられていて、ぼんやりしているんだ。僕は精霊たちに守られていたけれど……」


スズマはハリネズミのウプーを掬う様にして抱き上げた。


「ここから連れ出された子たちは、みんな戻って来なかった……。僕、奴隷狩りに捕まった時、聞いたんだ。すぐに“餌”にしてやるって……」


「……」


私からしたら、最悪スズマだけでも助けられればと思っていたのだけど、スズマはそうはさせないという強い意志を滲ませている。その輝きに思わずのけぞる。


「……分かったわよ。みんな助けてあげるから」


「ほんとう!? お姉ちゃん、凄い凄い!」


思わず声を大きくしてしまったスズマ。私は慌てて「しっ」と口を押さえた。

予想していなかった訳じゃないけど、大事になりそうだわ。


「だけど、ここに居るみんなを助けるには、作戦を練らないと。私、頭使うの嫌いなんだけど……」


「……?」


指輪として身につけていた神器を、この場で短剣に変え、その装飾の尖った部分で親指に傷を作り、血を流す。

剣に血が染み込むその間に、私は立ち上がり、この倉庫に居る人間の数を確かめた。

ざっと見ただけでも100人以上は居る。


「ああ。こんな時にあいつの空間魔法があればなあ。皆を一気に転移させる事なんて楽々でしょうに」


さて、どうしましょうか。


私は血の染み込んだ短剣を手に、一番側から、捕えられている子供たちの枷を破壊して行った。

ちょっと短剣で突くだけで粉々に砕ける。

もう気力の無い子たちばかりだけど、私が一人一人に「助けてあげるから言う事をお聞き」と言うと、素直に倉庫の中央に集った。

かけられている魔法の上から、より強力な命令魔法をかけたのだ。

ここを無事に脱出できるまでは、この子たちには私に忠実なお人形になってもらうわよ。


案外その作業に時間がかかって、見回りが来ないかひやひやしたってもんだわ。


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