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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第五章 〜シャンバルラ迷宮編〜
239/408

05:トール、隠れ住むもの。

3話連続で更新しております。

ご注意ください。


俺は目を細め、この扉を開く仕掛けを探した。


「あった」


「今度はどんな仕掛け?」


「ここ、ここ見てみろよ」


マキは俺の指差す場所を覗き込んだ。

扉の一番上に、古代文字で何か描かれている。

その下に、横たわる人物の壁画が描かれていた。


「なんて描いてるのかさっぱり分からないわね」


マキが困った様子で眉を寄せたときだ。彼女の持つ槍が「ヴォン」と妙な音をたて、扉に書かれている古代文字を浮き立たせ、一瞬で訳す。


『眠りを示せ』


たった、それだけの事が書かれていた様だ。

俺とマキは顔を見合わせた。


「眠りって何? 死ねって事?」


「……お前物騒だな。流石にそりゃ、無いと思うが」


「だったら何なの?」


マキは小難しい顔をして、扉をコンコンと叩く。

確かに、古代文字が読めた所で、この扉が開く訳でも無し。

試しに口に出して「ひらけごま」とか言ってみるけれど。


マキにプッと笑われただけだった……


「くそうっ。何で言っちゃったんだろう……」


「口に出して言いたくなるわよね」


「お前笑ったくせに」


「あはははは」


彼女は笑い転げた。


「あんたって、ほんと格好つけね」


そして、こんなことを言うのだ。

前にも、誰かに何度となくこんな事を言われた気がするけれど……


真面目に顎に手を当て、横たわる人物の壁画の周囲を見た。

眠りを意味する人物画なら、古代遺産の学術上、記されているはずのものがあるのだが、これには、壁画などで“眠り”を示すあるものが無かった。


「本来なら、この人物が“眠っている”と示すときは、この人物の額の上に、“眠り”の蝶の精霊、フィフォナを描く。でも、この壁画にはフィフォナは描かれていない」


「……あら。何か頭の良さそうな事言っているわね」


マキは斜め上を見て「なるほど〜」と頷いた。

おそらく何も分かっていない。


精霊フィフォナは、シャトマ姫の周りをいつも舞っている紫色の蝶の精霊。

奴は精霊の中でもかなり長寿の精霊だ。

遥か昔から、“誘いの蝶”とも言われていたらしい。


古代から存在していたから、その蝶は眠りを示す象徴とされ、こういった壁画で眠りを示す際、人物の額の上などに描き、“こいつは眠ってますよ”と知らせる記号的役割を果たしていた。


「おそらく、ここの部屋を開けるには、フィフォナの魔法が必要なんだ。フィフォナの名の恩恵を借り、一時契約をしている魔術師はこの世に沢山居るだろうけど……」


白魔術に人気の精霊ベスト5には入ると言われている、フィフォナ。

本体と契約しているのはシャトマ姫だが、儀式を行えばどの魔術師も名前の恩恵は借りる事が出来る。


とは言え、俺は黒魔術師だ。

白魔術なんて使った事も無いし、使う必要も無いと思っていた。


「マキ、お前は白魔術師か?」


「いいえ? ちょろっとかじった事はあるけれど、正直合わなかったわね」


「今からここで儀式するにも、供え物も無いしな。フィフォナの儀式に必要なのは、カメリアの蜜。ある訳も用意している訳もねーよ」


仕方が無い。と、思って、俺は左の人差し指にはめ込んでいるゴツい指輪を押さえた。

レア・メイダで作られていて、魔導回路が書き込まれている。

俺は直接魔導波塔と通信し、その内にストックされている魔法陣などを利用する事が出来る権限を、シャトマ姫から与えられているのだ。


フレジールの魔導波塔を、“レジス・オーバーツリー”。

ルスキア王国の魔導波塔は、俺も関わった“ルーベル・タワー”。

シャトマ姫はレジス・オーバーツリーに、自らの精霊を象徴として書き込んだ魔法陣をいくつかストックしている。

俺はこのツリーに申請をして、その魔法陣を一つ魔導回路経由で送ってもらうのだ。

幸い、ここはまだフレジール領内。バロメットロードには細かく魔導回路が敷かれているし、俺の申請もすぐに届くだろう。


「おっ、きた」


言っている側から、魔法陣はすぐに届いた。

指輪から溢れんばかりの紫色の光。


精霊フィフォナの魔法陣が宙に現れる。


魔法陣は壁画に溶け込んで行き、すぐに、扉はゴウンゴウンと音をたて、開いた。

俺たちは息を呑んで、お互い頷き、ゆっくりと内部に侵入。

マキは扉が開くのを楽しみにしていたくせに、槍だけはしっかりと前を向けているんだから恐ろしい。


「……」


「……」


しかし、そこで見たものは、予想を遥かに上回るものだった。


「うひゃあ、なんだなんだあんたら!!」


おっさんの声だ。

というか、おっさんだ。

毛むくじゃらで腰丈程のおっさんが、その部屋の中に可愛らしく並べられた小さな石の椅子に座り、テーブルに飯を並べてむしゃむしゃ食べていた。


おっさんは飯時間に俺たちに不法侵入され、随分と驚いていた。

いやでも、こっちもかなりの勢いで唖然、なんですけど。

“眠り”とはいったい何だったのか。


「え……あ、あああああああ!!」


しかしおっさん、飛び上がって、俺の周りをグルグル。


「黒魔王様だ黒魔王様だ!!」


「……え」


「兄ちゃん、黒魔王様だろう? あああ、聞いていた通りだ。やはり黒髪黒目でお麗しく、綺麗な女を連れているど!!」


言いたい事は色々とあったが、こいつ、驚いた事に、魔族だ。

ドミフ族の特徴にかなり近いが、少々色が白くて、耳が長い。

マキは俺の周りをグルグル回るこいつに向かって「何この毛むくじゃら」と言っていた。


「おい、お前。良いから止まれ」


俺が一声かけると、そいつはピタリととまった。

そして、俺を見上げる。そのつぶらな瞳で。


「お前もしかして、魔族か? ドミフ族に良く似ているようだが……」


「ああ、そうだ黒魔王様。俺はドミフ族の生き残り、ボヘだ。俺のひーひーひーじー様が、黒魔王様に仕えていたんだ、ど」


「へええ。なんて奴だ?」


「ゴドイってんだけ、ど」


「あああ。分かる分かる。ゴドイか。あの髭面の堅物。懐かしいぜ、見回り兵の隊長だったんだ」


「そうそう! 俺の一家に伝わる話にゃ、そりゃあ黒魔王様は素晴らしい王だったって。人間から魔族を守ってくれた、ただ一人の王だって。美女を沢山囲んで、ハーレム作って? 羨ましいだの何だど……」


「……う」


俺は、事情の分からないはずのマキを横目に見てしまった。

マキは特別意志の感じられる表情はしていない。……真顔だ。


「……ゴホン。まあ、詳しく言えば俺は黒魔王じゃないがな」


苦し紛れの言い訳。


ボヘと名乗ったドミフは「え?」と首を傾げ、いきなりしょぼんとした。

おっさんの顔と口調、くぐもった声なのに、どこか態度が子供っぽい。

これもドミフ族の特徴と言える。こいつらは長生きな分、精神が大人になるのも、時間がかかるのだ。


「生き残りってことは、お前、魔族がここに隠れ住んでいるって事か」


「そ、そうだ。俺だけじゃねえ、他にもホルーカ族や、リザ族も、ちみっとだけど居る。だけどここからはずっと遠くに住んでる」


「まあ、この地下空間も広いからな」


「そうだ。1000年前、北にいた青の将軍っていう恐ろしい奴に追われて、魔族は皆平穏の土地を探したんだ。翼のある奴や泳げる奴は西の大陸に行ったど。人間の居ないあの土地こそ、ユートピアだっつって。だけど置いてかれた陸の魔族は、船を作って海を渡った奴も居たけど、東の大陸に渡って、砂漠のオアシスに住み着いた者もいたってわけだ、ど」


「そのうちに、この地下を見つけたの?」


「ど」


マキが問うと、ボヘは頷いた。


「結局、人間が俺たちを殺そうとするのは変わり無かったからな。見つかったら死ぬ。なら見つからない所に行くしか無いど。砂漠の下の、地下空間の入口を、あるオアシスで見つけたひーじー様は、家族と共に、ここに移り住んだ訳よ。おそらくそう言う奴が、この地下には数人居る。魔族は魔力が高いから、入口は見つけやすいんだ、ど」


ボヘはそう教えてくれた。

俺は「なるほどな」と頷き、その他に住んでいる魔族たちの事を考えてみた。

生き残るもの、大変だったんだろうな、と。


「ねえ、あんた、いったい何食べて生きてんの?」


マキがワクワクした様子で石造りの食卓を覗き込む。

節操の無い娘だ。

しかしその後、すぐに青ざめて帰って来た。


「……サソリ……サソリの……なにあれ」


そう呟きながら。

ボヘにとっては、この地下に落ちて来るサソリは美味い御馳走らしい。


「サソリは御馳走だ、ど。他にも、この地下にしか生えない植物ってのもあって、それを食ったりしてる」


「へえ。ここにしか生えない植物か。……と言うか、お前、いったいどこからこの部屋へ入ったんだ? さっきの扉は開けられた痕跡が無かったし、お前精霊魔術なんて使えないだろ」


「え? まあ、精霊魔法なんてけったいなもんは使えないけど。……そもそもあんたたちの入って来た所、俺、扉だと思ってなかったからさ。反対のあっちに壊れた扉があって、俺、そこから入って来たんだど」


ボヘが指差したのは、俺たちが入って来た場所とは正反対の入口。

確かに、扉が半分壊れていて、ボヘほどの大きさの魔族なら簡単に通れそうだ。


マキがそこから顔を覗かせ、しばらくして「トールトール!!」と俺を呼んだ。

俺も彼女の上から、部屋の外を覗く。


「……!?」


驚いた。

そこには、先ほどまで俺たちが歩いていた暗い通路とは違い、もっともっと整えられた、それこそ古代の技術を思わせる通路が続いていたのだ。

所々、壁に赤い石がはめ込まれていて、それが不規則に灯りながら、通路を照らしていた。



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