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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第五章 〜シャンバルラ迷宮編〜
237/408

03:マキ、砂漠の民。

2話連続で更新しております。

ご注意ください。



私は自分を何と言えば良いのか、分からない。

だからその時その時で、名前が違うのだけど、彼の前では“マキ”と名乗った。



私がこの世界に降り立った始まりの場所は、見知らぬ砂漠だった。

そこはまさに東の大陸、フレジール王国とシャンバルラ王国の国境の砂漠。

姿はやはり、日本人の真紀子。

日本人にしては赤みのある髪だけど、マキアに比べたらよほど黒髪。

目も深い色をしている。あんな鮮やかなアクアブルーではない。

身長はそんなに変わらないかしら。年齢も結局、こちらで死んでしまったマキアとほぼ同じだしね。

やっちまったなと思ったのは、こんな砂漠の中で、長袖のセーラー服一枚しか持って来てないって事ね。



一番最初の出来事と言えるのは、私が砂漠で彷徨っていた所、とある砂漠の民族が奴隷狩りに合っていて、それを助けたって事かしら。

シャンバルラ王国では、フレジールと同盟を組んだ時に奴隷制度の撤廃を行ったはずなんだけど、実は今でも奴隷狩りが行われ、王都の闇市で売られている。

特に、奴隷として狩られて行くのが、砂漠の民。

砂漠のあちこちのオアシス都市に住む少数民族なんだけど、元々国を持たない流浪の民だから、シャンバルラ王国では扱いが良く無いの。


オアシス・ユーオ。

私はそのオアシスに住む人々を助けた事で、手厚くもてなされ、感謝され、しばらく彼らは衣食住を面倒見てくれた。

度々やってくる奴隷狩りの連中を追っ払う度に、私はユーオの人々にどんどん神格化されてしまって、しまいには遥か昔から、ここら一帯で崇められる女神、パラ・プシマの再来などと言われたり。


いえいえ、それ別の人ですから。



あ、そうそう。

そこで出会った一人の幼い少年がいるのだけど、私は今、その子を助ける為に動いているの。

と言うのも、私がこっそりユーオのオアシスから旅立った後、オアシスは再び奴隷狩りの被害を受けて、その少年だけシャーハリーに連れて行かれてしまったのですって。


少年の名前はスズマ。

両親は居らず、砂漠の民に拾われたって言う、とても変わった少年。

何が変わっているかって、魔力がとても高かったの。それはもう、一般人ではあり得ない程に。


奴隷狩りと言っても、ただの労働力を求めている訳じゃ無いようだ。

私はその惨状を知って、今度はフレジール王国へ向かい、こっそりシャトマ姫と面会した。

あ、ちなみに私がフレジール王宮に行ったときは、既に勇者ことカノン将軍は帰っていたわ。

何て事無い顔でシャトマ姫の横に居た。





さて、フレジール王国での用事をすませ、大金をがっぽりもらって、私は再び旅に出た。

私は別にシャトマ姫の指示で動いている訳じゃ無い。

彼女も私に関しては「好きな様にしろ。私の手には余る」と言うばかりで。


だから、私は国同士の争いに何ら関係の無い、ただの少年スズマを助ける為だけに動いている。

なのに、再びシャンバルラ王国へ向かおうと思ったら、いつの間にか国を越えるのが困難になっていて、バロメットロードの小さなオアシスで、さあどうしようかと考えていた訳。


暑いし、どうせ誰もいないし水浴びしようと思って、あの泉に居た訳。

そしたら、いきなりあいつが現れたって訳。



もう、びっくりして、死ぬかと思ったわ。

トールよ。

トールがヤシの木の間で、私の体をじっと見ていたのよ。


約一年ぶりに見たトールに感激する思いと、裸を見られて恥ずかしい思いと、ラッキースケベ体質のこいつに対する冷ややかな思いと、色々なものが混ざり合った、あの一瞬は何とも言えないわ。


それでもやっぱり、彼と言葉を交わすだけで嬉しくて仕方が無かったし、私に関する記憶が無いと言う事実は、淡々と確認できた。自分で消したのだから、当然なのだけど。

マキアの命令はよく効いている様だった。


トールは前より大人っぽくなっていたかしら。

久々に見たからかもしれないけど、すこーしだけ、格好良く見えたわね。

すこーしだけ、ね。


ご飯くれたしね。








「なんだ、この井戸。この井戸から、地下迷宮へ行けって指示が出ているんだが……」


「ここが入口なの?」


「そうらしい。しかし、早朝の一時間だけ、水が引いて中へ入れる仕組みになっているんだと。侵入者をことごとく拒む細工が施されているから、注意せよ……って。おいおい、ピラミッドかよ」


「……」


私はトールについて行って、地下の通路からシャンバルラ王国へ向かう事となった。

再びトールと共に行動できるのはとても嬉しい。

シャーハリーでは別れる事になると思うけれど、少しなら良いよね。


「なら、明日の朝、この地下へ行くの?」


「そう言う事だな。あーあ、一日待ちぼうけか」


「あら、良いじゃない! ここで夜を過ごすの、私はもう三日目だけど、なかなか素敵よ」


黄昏時の、オアシス。

トールは入口の井戸を前にまいったなと言う様子で頭を掻いていたけれど、私は彼と少しでも長く一緒に居られると思って、浮かれていた。


「ってことで、夕食にしましょ?」


「て、てめえ……さっきおやつも食っただろうが」


「腹が減っては戦はできぬって、私の世界のことわざにあるのよ」


「それは……まあ知っているが」


トールは私の制服の胸元のポケットに小さく刺繍されている、紋章が気になっている様だった。


「おまえ、もしかして……青高生か?」


「え? ええ、まあ……」


鋭い所に気づきやがる。

この制服どこにでもあるタイプなのに。


「ふーん……」


だけどトールは、これ以上何も聞いて来なかったし、私に、自分もそうだったんだとは言わなかった。

何を考えているのやら、少しばかり探る表情で私を見ている。

私は「あ、一番星」と空を指差してみたり。

この時既に、結構星見えてたんですけどね。







夕食を終え、自分の寝袋を取り出して、柔らかい地面を選んで寝転んだ。

トールはと言うと、自分の空間魔法で、もっと良い寝床を作ったりしている。

半透明の、ふわんふわんした、軟型空間。掛け布団あり。


「わあああ、なにこれ。凄いじゃない!」


こんな使い方が、こいつの魔法にあったとは思わなかったので、思わず私は声を上げる。

トールは得意げにしていた。


「ふふん。良いだろう? そんなぺらぺらな寝床より、ずっとふかふかしてるぞ」


「何よ。私を寝床に誘ってんの? 200年くらい早いわよ」


と、万年一人身が申しております。

トールのふかふかの半透明の寝床の隣で、芋虫のように丸くなって、転がってるのがお似合いだわ。


トールは「やれやれ今時の子は」とか言って、少し高い寝床の上から芋虫みたいな私を見下ろしていたけれど、そのうちにゴロンと寝返りをうって、反対側を向いてしまった。


「……」


「……」


「……ねえ、やっぱり隣に寝かせて?」


芋虫、起き上がって、ふかふかのベッドで寝たい願望に打ち勝つ事が出来ず。

トールはほとほと呆れた表情だったけれど。


「もうちょっと広げてよ、このベット。あんたなら出来るんでしょう?」


「はあ? お前本当に俺の隣で寝るのか? いやいや、俺はお前の分も作ってやろうかって言おうと思ったんだけど」


「それも何だか嫌よ。話し辛いし」


「お前バカだろ。そんなに簡単に男のベッドに……って、ああ」


トールの説教を聞いている途中で、私は寝袋を脱ぎ捨てて、その半透明のふかふかのベッドにダイブ。

不思議なベッドね。

見た目はつるんとしているのに、感触はふかふかした柔らかい毛布。

寒い砂漠の夜でも温かいタイプ。


トールはしぶしぶ、ベッドの範囲を広げて、私も眠れる様にしてくれた。


「マキ、お前、この異世界は危険な事も多いぞ。俺が言うのも何だけど、そう簡単に、男についてったり信用したりするもんじゃ無い。……そう、俺が言うのも何だけどな」


「ふふ。そりゃあ私だって、いつもこんなじゃないわよ。昔はもっともっと、用心深かったし、プライドも高かったもの。でも、もう、あんたの前でそんなもの、組み立てて行かなくても良いって思うから……」


「……は?」


「まあ、要するにあんただからよ、トール」


トールと向き合って、ニコリと。

私にしては、素直に笑えたんじゃないかしら。


だってね、トール。

私たち、こうやって隣で寝る事、初めてじゃないのよ。


あの世界の境界線で、穏やかな日々を暮らした。

トールは、ずっと一緒に寝てくれたじゃない。


「……全く」


トールは意味が分からないと言う顔をしていましたが、そのままゴロンと上を向いて、私を見ようとはしない。

私だって、それ以上トールには近寄らない。


ただただ、二人並んで、満天の星空を見上げた。


「……お前、掛け布団全部取っていくなよ」


「あらごめんなさい」


いつのまにかトールの分の掛け布団を全部たぐり寄せ、体を包んでしまっていたから、怒られた。

何だか懐かしい匂いがしたものだから。


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