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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
231/408

50:トール、世界の境界線2。


7話連続で更新しております。

最新話は「47:ユリシス、白魔術師たちの攻防。」からとなります。

ご注意ください。





俺がマキアの小屋で住み始めて、おそらく二週間程が経った。

日々の他愛無い会話や、生活の中で、徐々に距離を縮め、マキアは俺に随分と慣れ親しんだ。


「ねえ、トール! 見て、林檎の樹よ!」


「ああ。取ってやるよ」


「ふふ、トールは背が高いから、何かと役に立って良いわね」


「おいおい」


「あははっ」


高い木から林檎をもいで、彼女に手渡す。

すぐ側から、彼女はそれをエプロンで拭いてかじった。


「おいおい、タルトにするって言ってたじゃないか」


「良いの。沢山あるんだから。ほら、もっと沢山取って取って!!」


「わかったよ。全く……」


マキアは良く笑ってくれる様になった。

俺への警戒心も無くなってきたからだろうか。

ただただ、毎日こうやって森にやってきて、果実やキノコを採取したり、小川で魚を釣ったり、時に鳥や鹿を狩ったり。そんな日々を過ごす。


マキアは小屋に戻ると料理に励み、その間俺は、暖炉の薪を割ったりした。スローライフって奴だな。

だけど、それがとても楽しい。俺たち以外に誰もいないこの森で、ただマキアと共に暮らすだけなのに。


「まるで夫婦だな……」


薪を割りながら、ぽつりと呟いた。

空を見上げれば良い天気だし、風は心地よいし、現実世界よりよほど平和だ。

居心地が良い。


マキアはこんな生活を、密かに望んでいたんだろうか。



「おお、美味そうなミートパイだな」


「焼きたてのうちが一番美味しいわ。さあ、夕食にしましょう」


マキアは食卓に、焼きたてのミートパイとトマトスープ、吹かしたジャガイモを並べた。

干し肉や、クルミと林檎のタルトなども。


「うん、どれも美味い。マキアは料理が上手だな」


「……ほ、褒めたってこれ以上何も出ないわよ」


「まあこれ以上あっても。というか、お前は食い過ぎだ。最近は特に大食いだな」


「……」


思わずそう言うと、ミートパイにかじりついていたマキアが、恥ずかしそうにそれを皿に置いた。


「た、沢山食べるのはやっぱり、あまり可愛くないかしら」


「え。いや、いや別に、良いんだぞ。お前はそれで良いんだ」


「……」


これは参った。いつも同じ様な事を現実のマキアに言っているからついついこの口が。

だけどこのマキアは、それを恥ずかしいと思った様だ。まるで普通の娘の様に。


「俺は、お前がそうやって沢山食べて、幸せそうにしているのを見るのが好きなんだから……」


「……そう?」


「ああ。食え食え」


俺は慌て気味に、皿にそこらの料理をよそって、マキアの前に置く。

マキアはちびちびと食べていたが、それでもじきに完食。つられて俺も、沢山食べてしまった。


「食べちゃった……」


「別に良いじゃねーか。お前、いくら食べても太らないんだし」


「そう言う問題かしら。私って大食いなのねやっぱり。あまり実感が無かったけど……」


「……」


なるほど、俺がやってきた事で、それを自覚してしまった訳か。









夜、俺はマキアの隣の部屋のベッドを使って寝ていた訳だが、窓からゆらゆらと光る何かのせいで目が覚めた。


「なんだあれ」


窓から外を覗くと、松明を持つ無数の何かが、列を作って家を囲んでいるのだ。

俺は慌ててマキアの部屋へ向かった。


「おい、おいマキア!! 入るぞ!!」


外に変なのが居るぞ、と彼女の寝室の扉を開けた所、ベッドに小高い山が一つ。


「……マキア?」


それは布団に包まったマキアで、彼女は小さくなって泣いていた。


「おいおい、どうしたんだマキア」


「……トール」


マキアは布団から顔を覗かせ、すすり泣きながら俺にしがみついた。


「あいつらが、あいつらが私を殺しに来たの」


「あいつらって、あの、外の?」


俺は彼女の背に手を回し、問う。彼女はコクンと頷いた。


「あいつら、私が悪い魔女だって言って、いつも殺しに来る。だから、私はこうやって息を潜めているの」


「……」


マキアがあいつらと言った黒い影たちは、ただ窓の外をゆらゆら巡回するだけでこの家に入って来る様子は無い。しかしマキアにとって恐ろしい存在の様だった。


「大丈夫だマキア。俺が付いているだろう。守ってやるよ、これから、ずっと」


「……ずっと?」


「ああ」


マキアの頭を撫で、涙を拭う。

彼女をベッドに横たえ、俺も隣に寝転がり、背中を撫であやした。


彼女は俺の腕の中で小さくなり、また泣いていた。


「でも、でもトールだって、そのうち私の事、悪い魔女だって嫌いになるわ。みんなそうだったもの。そうやって、私から離れていくでしょう?」


「そんな事は無い。お前から離れて、どこへ行けば良いんだ、俺は」


「……トール……」


マキアは不安げに顔を上げ、そしてまた、しくしく泣いた。


「寂しいよぅ……トール……」


「……寂しくない。一緒に寝てやるから、ほら」


「トール……トール……ずっと側に居てよ」


「ああ。そのつもりだよマキア」


まるで現実のマキアとは違う、弱音を吐く彼女。

素直に、恐ろしいと、寂しいと、不安を口にする。

でもそれらは、今まで“マキア”が抱き続けて来たものなんじゃないだろうか。


マキアは嘘が上手い。その余裕めいた仮面の奥に、強くあろうとした出で立ちの中に、どれほどの孤独を抱えていたんだろう。








ここで暮らし始めて、一ヶ月が経とうとしていた。

いつまでここにいるんだろうという考えよりも、もうずっとここで、マキアと共に暮らす事が出来ればと考える様になっていた。


マキアは夜になると弱音を吐いて、寂しいと、ずっと側に居てと俺に言う。

しくしく泣いて、甘える。

だけど次の日の朝になったら、ケロッと元気な姿で朝食の準備をして、明るく振る舞うのだ。

最近は現実のマキアの様に、俺に嫌味を言ったり、からかったりする様にもなった。

着ているものも、最初の地味でボロなものから、少しばかり洒落たものになり、軽く化粧をしたり、小物を身につけたりする様になった。


「ねえ、可愛い?」


「ん、おお。……良いと思うぞ」


「ねえねえ、可愛い??」


「可愛い。うん可愛い」


それらを俺に見せて、可愛いかどうかいちいち問う。いや可愛いんだけど、その様子がもっと可愛い。

やばい。

俺に可愛いと思ってもらいたくてお洒落するのがやばい。


でもそうだよな。一人で居るだけなら、お洒落なんかする必要ないもんな……



「……あれ」


「どうしたマキア」


マキアがドレッサーの側で、うろうろとしていた。


「無いの。ここに置いていたはずのイヤリングが……。どこ行っちゃったんだろう。あれ、お気に入りだったのにな」


「……」


何だか見覚えのある光景だ。

前にもマキアがイヤリングを無くした事がある。


あの時は俺が、誕生日プレゼントとして新しいのを買って与えた。

あいつはあれから、ずっとそれを身につけていたっけ。地味で安っぽいものなのに。








温かいある日の午後、俺とマキアはバスケットを持って、森の奥へやってきた。

外でお茶をしようということになったのだ。


途中、マキアの家族のものと思われる墓の前を通る。

マキアは事前に摘んでおいた花を、その墓の前に添えていた。


「両親か?」


「ええ。あと、おばあちゃん……」


墓を見てみるが、名前は彫られていない。

いや、何か掘られていた跡はあるのだが、読めない程劣化している。


マキアの両親と言えば、俺にとってはデリアフィールドの御館様と奥様だが、この墓はいったい誰のものなんだろうか……


マキアが少しの間祈りを捧げ、すぐに立ち上がった。


「さあ、行きましょうトール。私、お腹が空いてしまったわ」


「早いなお前。さっき昼飯食ったばかりなのに」


「お菓子は別腹でしょう」


無邪気に俺の手を取り、さあさあと引くマキア。

小道を歩いて行くと、沢山の小花の咲く開けた場所に出た。

真ん中を小川が通っている。とても美しい場所だ。


「さ、ここでお茶にしましょう。山ぶどうが沢山取れたから、それでジャムを作って、クッキーに練り込んでみたの」


「へええ。あの大量の山ぶどうでねえ」


先日採取した山ぶどう。あまりに大量にあったからどうするんだろうと思っていたけど、色々と使い道があったらしい。

そのクッキーをつまみながら、俺たちはただ緩やかな時間を過ごす。

あまりに心地よい空気に、柔らかい草の上に寝転がった。


「ああ。良いなここは……平和で、俺たち以外に誰もいない」


現実世界は複雑だ。

俺とマキアがこんな風に関係を紡ぐ事は、まるで許されない事だとでも言う様に、何かが、誰かが邪魔をする。

ここにマキアが居るなら、もうここにずっと居れば良い。

不確かな世界だとしても、その方が、誰に何かを妨げられる事も無く、きっと幸せだ。

それにもう、現実世界にマキアは……


「トール……?」


マキアが寝転がる俺の顔を覗き込んだ。


「どうしたの?」


「いや……」


俺の様子がおかしいと思ったのか、彼女もそのまま隣に寝転がり、体ごと横を向けた。

俺の顔をじっと見ている。


「何だよ」


「……」


マキアは少しばかり躊躇いつつも、いそいそと寄って来て、胸元の服をちょこんと掴んで言う。


「あ、あのねトール。トールが私の家に来てくれて、本当に良かった。とても楽しいの」


「……へえ」


「夜ももう、怖くないもの。……私、ずっと寂しかったのだけど、もう寂しくないわ」


「……」


マキアの頭を撫でると、彼女は身を小さくさせ、嬉しそうに微笑んだ。

そんな彼女の頬に触れ、横髪を払う。


「マキア……好きだよ、お前の事が」


「……」


思わず、そう言った。

俺の突然の言葉に、彼女はしばらく固まっていたが、カアアッと頬を染め起き上がる。

頬に手を当て、俺に背を向けてしまった。

そんな彼女の表情が見たくて、俺はわざわざ起き上がって、彼女の顔を覗き込んだりする訳だ。


そうすると、マキアは立ち上がり小川の方へ行ってしまった。


照れているのか? 可愛い奴だなあ……


やれやれな微笑み。また彼女を追う。

マキアはなぜか靴を脱いで、浅い小川に入っていった。


「おいおい、スカートが濡れるぞ」


「い、良いもの別にっ」


彼女はスカートを摘んで持ち上げ、俺の方に向き直ると、「えいっ」と水を蹴った。

冷たいしぶきがかかる。


「あはははは。うふふっ」


「やったなお前」


俺も靴を脱ぎ、ズボンの裾を折って小川に入る。

冷たく心地よい、優しい流れの小川だ。


「ふーん……結構冷たいな」


なんて、手を川の中につっこんで温かさを確かめているふりをして、ぱしゃっとマキアに水をかける。


「きゃっ」


「お返しだ」


「もう、トールったら!」


「ははは」


水を踏んだり、蹴ったりする音が、楽し気な声と共に一帯に響く。


水しぶきを纏うマキアは美しい。

本当に、なんでこんなに可愛い奴を、恐ろしい紅魔女だなんて言えたんだろう。



キラリ……



水中で何か小さなものが光った気がした。

マキアも気がついたのか、水の中に手を入れ、それを拾い上げた。


「……あ」


彼女は小さな声を上げ、アクアブルーの目をじわじわと見開く。


「……?」


どうしたんだろう。

彼女は小さなそれを掲げて、じっと見つめている。


小川はキラキラコロコロと音を立て、鳥はさえずり、木葉はサワサワと風に流されている。

まるで森があちこちから囁いている様だ。

ざわめきは強くなり、世界の色が、僅かに変わった気がした。


「どうした、マキア?」


「……あった」


彼女はふっと微笑むと、俺の方に向き直り、それを見せる。


「見て、トール。イヤリングよ」


「……あ」


彼女の手には、赤い雫型のイヤリングが、片方だけコロンと転がっていた。

紛れもなく、かつて俺がマキアに与えたものだ。


「トールが……くれたものよね、これ」


「……お前」


「ふふ。見つけちゃった……」


マキアは切な気に、イヤリングを一度胸に抱き締めた。


「お前、思い出したのか?」


「ええ。……このイヤリングが、鍵だったのね……」


彼女は少しばかり悲しそうに微笑んで、もう片方の手で俺の手を取る。

そして、そのイヤリングを俺の手に握らせた。


「……?」


「これ、トールが持ってて。私の代わりに、きっとあなたを守ってくれるわ」


「……なんだよ、それ」


彼女の謎めいた言葉に、俺の心は一気に不安で満ちた。

太陽が雲に隠され、世界は陰る。


「いつまでもここには、居られないもの。あなたも、私も」


「どういう事だマキア。そんな訳無い。……なあ、マキア。言っただろう。俺はお前とずっとここに居る。お前の側に居るよ。だから……」


「……」


マキアは俺を見上げ、微笑み、首を振った。


「ダメよトール。あなたは生きてるんだもの。ここから帰って……トールとしての人生を全うしなくっちゃ。大業を、成さなきゃいけないもの」


「そんなの、そんなの知った事か!! 世界の法則なんてくそくらえだ!!」


思わず叫ぶ。

目の前のマキアが、どんどん遠ざかっている気がして、俺は彼女に手を伸ばした。


しかし、届かない。

ガツンと、思いきり何かにぶつかった。


透明の壁だ。


「ダメよ、トール。私、もう行かなくっちゃ。私、死んじゃったんだもの……」


「どこへ行くんだよ、マキア。また一人で、どこかへ行ってしまうってのか。また、一人で……っ」


俺はまた、マキアを一人にしてしまうのか。


「……トール」


彼女は空を仰いだ。

その瞬間、空は澄んだ色になり、俺たちの立っていた小川の水は薄くどこまでも広がって行く。


水平線……


俺とマキアはある境界線の上に立っていた。


「ねえトール。私、黒魔王の事がとてもとても好きだったわ……」


「……」


「でもね、今は……トールが一番好き。同じだなんて、思っちゃダメよ。マキア・オディリールが好きになったのは、トールなの。……黒魔王じゃないわ」


「……マキア……っ」


マキアはそれを告げると、腕の内側の柔らかい部分を小指の爪で切って、血を流した。

その血がポタポタと落ちるたび、水紋がガラスのヒビの様に広がって行く。


この世界が壊れ始めているのだ。


「ごめんね、トール。せっかく……せっかく一緒に居てくれるって言ってくれたのに。私、ヘマしちゃったの。……ううん……きっと、避けられない事だったのよ。2000年前に、私のやってしまった事を、償う時が来たんだわ」


「……なんだよ、マキア。俺は、どうすれば良い!! お前が居なくなったら……俺は……っ」


ドンドンと、透明の壁を激しく叩いた。

だけどびくともしない。空間に命令も出来ない。


マキアは、壁に拳をぶつけるその場所に、そっと自分の手のひらを合わせた。


「……きっと、いつかまた会えるわ……。だって私たち、繰り返し生まれ変わるんでしょう? このメイデーアで……」


「いつかっていつだよ!! いったい何千年後だって言うんだ!!」


「……」


彼女の血が透明の壁を伝い、俺の“魔導要塞”を壊す。

透明の壁が阻む向こう側の世界で、マキアはもう一度微笑み、壁から手を離す。

そして、ゆっくりと俺に背を向けた。


「トール。あなたは、私の様になっちゃいけないわ。……私、あなたに、幸せになって欲しいの。楽しい思いを、たくさんして欲しい。勝手に死んじゃった私の事なんか……背負っちゃダメよ」


マキアの血が、俺に何か命令している事に、俺は気がついた。

そして、歯を食いしばり、世界が壊れる寸前まで彼女に語り続ける。



「……ふざけるな……ふざけるなマキア!! 背負ってやる。追いかけてやる!! 絶対にお前の事を、忘れたりしないからなマキア!!!」



届かない。透明の壁に阻まれた向こう側の、マキア。


叫び、そして、光。空間の崩れ落ちる音より早く、光が駆ける。

赤い光が俺とマキアの間を通り抜けて行く。それは全てを飲み込む一線。

世界と世界を隔てる一本の境界線。



俺たちはとうとう、“世界の境界線”により、分たれた。


こちらとあちら。

もう手の届かない、別の世界に。














マキア……


マキア……マキア……



揺れる赤毛が脳裏を通りすぎて行く。


「……」


ゆっくりと目を覚ますと、見覚えのある天蓋。

だけど、何だかぼんやりとしている。俺はいったい何を……


「目を、覚ましたかい。トール君」


「……ユリ……?」


ユリシスがベッド脇に立っている。何やらホッとした表情だ。

俺は体を起き上がらせようとして、ビリッと走る痛みに顔を歪めた。


「ダメだよトール君。まだ、君はリスクの支払いすら終わっちゃいない。僕の魔法で常に治癒魔法をかけていないと……。ひと月も目を覚まさなかったんだよ。そのくらい、大きな魔法を使ったんだろう、君は」


「……」


そうだっけ。

何をしたんだ、俺は。


ユリシスはぼんやりしている俺を見て、しばらく押し黙っていたが、やがて口を開く。


「……トール君……マキちゃんが、死んだよ」


「……」


「僕たちの……マキちゃんが……っ」


ユリシスは思わず手を額に押し当て、息を殺す様に涙を流した。

とてもとてもとても、我慢する事は出来ないと言う様に。


「マキちゃんは……全部僕らに内緒にしていた。全部、自分で背負ったんだ。……彼女の遺体は、彼女の望み通り、ヴァビロフォスの地下にある棺に納められた。これで、緑の幕は完全な姿を取り戻した……っ」


「……」


「彼女……マキア・オディリールはこの国を、今までもこれからも、これ以上無く守るんだ」


ユリシスは声を絞り出し、俺にそのように伝えた。

俺はただ、ぼんやりと虚空を見つめている。


「なあ……ユリシス」


「……?」


「“マキア”って……誰だ?」


「……え……」


ぽつりと呟いた俺の問いに、ユリシスは絶句する。

瞳を揺らし、瞬きも出来ずに。


しかし、彼は何かを理解した様だった。


「……なんて……ことを……マキちゃん……っ」


ポツリと呟き、そのまま、崩れる様に側の椅子に座り込んだ。



俺はふと手のひらに違和感を覚える。

ベッドから手を出し、握られた拳を開いてみると、自分の胸の上にコロンと何かがこぼれ落ちた。

そっと摘んで、掲げてみる。


「……」


赤い、溢れる様な雫を模した、小さなイヤリングだ。

とても懐かしくて、愛おしい。



そして、もうどうしようもないと言う程に、心が痛み、涙がこぼれた。

俺はそれが何故なのかすら、分からない。



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