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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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15:ビグレイツ公爵、馬車の中にて冷や汗が止めどない。


私はロベルト・ビグレイツ。

多くの者は私をビグレイツ公爵、またはマルギリアの鷹と呼ぶ。


さて、私は今しがたとても不思議な体験をして来た。

僅か11歳の少女と話して来ただけの事なのに、まるで苦手な取引先の大御所様と上手くいくはずのない無謀な商談をしてきたような感覚でいる。


オディリール伯爵家の外で待たせている馬車の中には我が家の若い女騎士、メルビス・キャロレードが控えていた。彼女はまるで男のような短髪に、眉間にしわを寄せたような仏頂面をして目をつむっていたが、私が帰ってきた事でその瞳を開いた。


「お帰りなさいませ、我が主よ」


「………メルビス。私は少し疲れてしまったよ」


「主がお疲れとは、珍しい事もあるのですね」


「見てご覧よ、この手を。汗びっしょりだ」


私は力無く笑って、メルビスの目の前に自分の手のひらを開いてみせた。

そして、鷹の彫刻の施された杖を脇に置くと、力無く向かいの席に着く。そうすると、馬車はゆっくり動き出した。


「主、やはりオディリールの館からは大きな魔力を感じます。私は先ほどからここら一帯を調べ、稀に木に登って主たちの対談を眺めていたりしていました」


「……まあ、調べろと言った私のせいでもあるが、君は本当に野生児だね。木か〜……そこから見てたのだね」


幼い頃から我がビグレイツ家に仕えている彼女であるから知っているが、この娘は仏頂面で男らしく振る舞っているが、正直それ以上に純粋で天然だ。

それに気がついていないのは本人だけである。


「マキア・オディリール令嬢とトール・サガラームの確認もいたしました所、彼らの名前は本名のようですね。私にはどれほどの“魔力数値マギベクトル”かはっきりとした数値は分かりませんが、大きな魔力は感じられました」


「……ほお。どおりで、威圧感が半端じゃ無い訳だ」


私は過去に何度かマキア令嬢とトール・サガラームを垣間見た事がある。

我が娘の誕生パーティーでの事だ。マキア令嬢は会場に居て、トール・サガラームは控え室に居た。

その際、メルビスが二人を取り巻く不思議な力、そう魔力と言われるものの気配を察知したのだ。


この世の中には当然魔力と言われるものが存在し、一般人の中にもそれなりの魔力を抱えているものが居るのも知っている。

メルビスに居たっては、その魔術師の血族であり、さしずめ魔女騎士という立場だ。かつて世界中に居た魔女は、名前を見ただけでその者の運命を知る事が出来たと言われているが、メルビスも名前と顔さえ分かっていれば僅かな情報が得られるのだ。


「しかしながら、ほとんどの情報がアンノウンでした。これは予想外の事です。大きな魔力を感じられるだけで、それ以外の情報には、まるで鍵でもかかっているような………」


「ほお。そんな事が可能なのかね」


「可能だとすれば、それは私以上の力の持ち主だと言うことでしょう」


「マキア嬢も、トールも、両方ともかね」


「そうです。あの子供たち、二人ともです」


メルビスは首にかかっている宝石を取り出し、その輝きを私に見せてきた。

魔術師が使う道具の一つだ。


「見ていただけますか? 我が家に伝わる魔力感知結晶です。鼓動しているみたいに輝いています。このような事は初めてです」


「…………ほお、これはいったい何の兆しなのだろうか」


「さあ。ただ、昔私の祖母が言っていたのですが、強すぎる魔力を持つ者が、この世界に何一つ影響を与えない事は無い、と。そう言った意味では、あの二人の子供に今後とも注目しておく必要はあるかと思います」


「そうだな。出来る事なら、こちら側に居てもらいたい存在ではあるな。これが敵となった場合、かなり厄介そうだ」


私はこれでも、他人を翻弄したり、手の平で転がしたりと言う事が上手な方だ。

根が正直でお人好しのエルリックとは、正直反対に位置する性格だと自負している。

そんな私が、よりにもよってたった11歳の娘にこの有り様だ。


「百聞は一見にしかず。やはり、実際に会ってみなければな。………良かったよ、君があの日、彼女たちの魔力に気がつかなければ私はここに来ようなんて思わなかっただろう」


「いいえ。しかしいつか、きっと他の魔術師たちも気がつくでしょう。先ほども言いましたが、強すぎる魔力を持つ者が世界に影響を与えないはずは無い。要するに、このような田舎で一生を過ごすような者たちではない、と言う事ですから」


「ふむ」


さて、いち早くあの二人の存在に気がついた私は、幸運だろうか。

今後王宮で繰り広げられる、新たなる時代の為の争いは、王家とも縁深い我がビグレイツ家にとっても大きな意味を持つだろう。

娘、スミルダを後宮に送る以外の手駒があるなら、それはいくつでも欲しいものだ。


もし、あの二人にそのような運命があるとするならば、エルリックには悪いが、二人をこのデリアフィールドに留めておくつもりは無い。




夕暮れのデリアフィールドは本当に静かで美しい。

この静けさと広大な面積、そして、人の少ない田舎であると言う事が、あの二人の存在を隠していただけだ。


「メルビス、私はどうしたらいいんだろうね………まるで、家の敷地のすぐ側で二匹の怪物にうろうろされている気分だよ」


「その怪物を、放置するのも飼いならすもの、主しだいです」


「なら君は、目の前であの二人と対峙した場合どうする? 向かっていくかい?」


「いいえ。私は絶対に、あの二人には向かっていきません。そう言ったレベルの存在です。それだけは断言できます」


「……」


私は、バカ正直な目の前の女騎士に向かって、大きなため息をついた。

そうだ。メルビスがそう言うならば、本当にそういった規格外な存在なのだろう。


これは綱渡り。

誰が王になるかというだけで、この国の、この大陸の未来は変わる。

南の大陸が動けば、世界の形もまた変わってくる。


今の私の目の前には、そんな大きな選択肢の分かれ道が、いくつか見えている。


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