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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
227/408

46:トール、マキアが異常に可愛い。

3話連続で更新しております。

ご注意ください。


「ほら、揚げドーナツだ。それに塩豆も」


「わーいわーい。ありがとう、トール!!」


「……」


マキアが満面の笑みで俺にお礼を言う。

あれ、何かがおかしい。いくらマキアの食い意地が張っているからと言って。


「広場のベンチが空いているな。流石式典中だ。あまり人が居無くて助かる」


「座って一緒に食べましょうよ」


「ああ」


マキアが俺のマントを引っ張って、ベンチに急ぐ。

そんなに腹が減ってんのかな。


二人並んで隣に座る。それはいつもの事であるのに、いつもと違う気がする。


「……」


マキアがかなり体を寄せて来た。

いつもそこそこ近いけど、隙間はある。でも今日は座った後にマキアがちょこちょこと寄って来て、身を寄せたぞ。


おかしい。


マキアは美味そうに揚げドーナツを頬張っていた。


「……美味いか?」


「ええ! 凄く美味しいわ。トールが買ってくれたから」


「……ヴァルキュリア艦でも、どうせ良いもん食ってたんだろうが」


「まあそうだけど。でもお固い品のある食事だから、こういった手軽な屋台のお菓子も食べたくなるってものよ」


マキアはものを食っているときはいつも幸せそうだが、今日はよりそう見える。

ドーナツの後は、塩で炒った豆の袋を開けて、殻を剥いていた。


「うん、美味しい」


「……そりゃ良かった」


「ほら、トールも!」


マキアが俺の口元に豆を持って来て「ほらほら」と。

キラキラと頬を照らし、期待を込めた楽し気な表情で。


「……」


少しばかり照れくさかったが、彼女の手からそれを食う。

そう言えば、あんまりこう言う事してないな、俺たち。


「うまい」


「そうでしょう?」


ふふっと、肩を揺らし微笑むマキア。

その笑顔は、いつもの不敵で無敵な笑みのマキアさんとは違う。


おかしいな……マキアが凄く可愛く見えるぞ……


俺は思わず目を擦った。

いやいや、別に今まで可愛いと思った事が無い訳じゃ無いけど。


何となく、マキアの顔をもっとちゃんと見たくて、かぶっていたフードを取った。


「……?」


マキアは塩豆を食いながら、少し驚いていた。


「いや、ずっとかぶってたから」


「一応身を隠しといた方が良いのかと思って。……でも、そうね。トールが居るのなら、別に必要ないのかもね」


彼女はまた笑って、俺を見る。


「私が悪い奴に狙われたら、トールが守ってくれるでしょう?」


「……え、それは……まあ」


なぜかたじろぐ俺。最近はマキアの上手を行っていたはずの俺が、なぜか彼女に押され気味である。

どこへ行った、戻ってこい、ハーレム魔王の俺!!


そして、ふと気がついた。

今日のマキアはあの高飛車リボンが無い。そして化粧も薄く、少々あどけない。

いつもの高圧的な印象を与えがちな勝ち気な姿は無く、目の前にはただのマキアと言う素材が居るのである。それがまた、俺をどうしようもなく落ち着きの無い男にさせる。


「お前……今日は何と言うか……すっぴんに近いな」


そして出てきた言葉がこれである。

マキアは一瞬「え」と焦りの表情を浮かべ、ものを食う手を止めた。ぽろっと、豆が手から落ちて膝を転がる。


そして彼女はボッと頬を染め俯く。


「だ、だって……どうせ今日も暇で、着飾る意味なんて無いわって思ってたもの。ま、まさかトールに会うなんて思ってなかったもの……」


恥じらいつつもじもじとそう言う彼女が、また憎い。

なぜ? なぜにマキアがこんなに可愛い? だれ、これ。


「ダメかしら」


「い、いや、ダメと言っているんじゃない。別に」


「でもね、トールに貰ったイヤリングはしているの! お守りみたいなものだから」


彼女はパッと顔を上げ、髪を耳にかけて、その赤い小さなイヤリングを俺に見せた。

安っぽいイヤリングが、着飾った華やかなマキアには少し浮くと思っていたが、今日のマキアには何となくしっくり来る。


「……」


思わず、彼女のその耳元に手を伸ばし、触れた。

マキアは不意だったのか、ビクッと体を反応させ、少しばかり恥ずかしそうにする。


「す、すまない。無意識に触ってしまった」


「ううん、良いの。前も、トールがこのイヤリング、付けてくれたじゃない? 私、これでも一応、大事にしているのよ」


「うん。分かってる」


「……ふふ」


彼女はまた、小首を傾げて笑った。

楽しそうだな、マキア。


俺も思わず肩の力を抜いて笑い、彼女の頭を撫でた。


「ヴァルキュリア艦の、魔力を整える装置って言うのは、やっぱり凄いんだな。お前、気分が良さそうじゃないか」


「そりゃあね。とても心地が良いのよ」


「良かったよ。一時のお前は、何だか凄く辛そうだったから」


安心した。マキアが元気になっている様で。

何度も彼女の後ろ髪を撫でた。


マキアはぺろっと指を舐め、塩豆の袋を脇に置く。俺は胸からハンカチを取り出した。


「ありがとう。気が利くわね」


「もう条件反射だから」


いつもの事ですから。

マキアは俺のハンカチで手を拭いて、それを綺麗に畳んだ。


「ねえトール。デートしましょ」


「は、デート?」


「そうよ。一緒にお祭、楽しみましょう」


彼女は立ち上がり、俺の手を引っぱる。

今日はマキアの言う事を何でも聞いてあげ、楽しませてあげたい気分だ。


「仕方が無いな」


しぶしぶと言う様子を装って立ち上がった所、ふっと空気にビリビリとした波を感じ、俺とマキアは周囲を一度確認した後、見つめ合う。

魔力の波は俺たちを通り過ぎて行った。


「……これって」


「ああ。魔導回路が起動したんだ。ルーベル・タワーが」


「……何だか、ザワザワするわ。前にもこんな事、あったわね」


「試運転の時だろう? ああ。何故だろうな」


例えるなら、体中鳥肌が立つ様な、全身の魔力が呼応している様な。

魔導回路は確かにそこらに敷いた回路を伝い、魔力を反応させ合うものだが、俺たちの魔力と響きあうこの感覚は何だろうか。


「……」


マキアが不安そうな表情をしていたので、俺は彼女の手を取る。

その時の、じわりとした魔力の繋がる感覚に気がついた。マキアの魔力の流れが良く分かる。

鼓動の音まで聞こえてきそうだ。


「……ト、トール……っ」


「え、ああ。すまない」


あまりにギュッと握っていたからか、マキアは戸惑っていた。おそらくマキアも同じ様に、俺の魔力の流れを組んだに違いない。


同じ黒魔術師なので害は無いが、俺とマキアの魔法は違うし、魔力のタイプも違う。血液型みたいに。

俺の荒い魔力では、マキアの体には少し刺激が強いかもな。


「痛かったか?」


「いいえ……少しビリビリと来た感じね。魔導回路って、面白いわね。どういった技術なのかしら」


「……」


俺はそれを知っているはずだ。だが、この感覚は未知のもの。

図面や計算、理論や技術云々では知り得ないものが、この魔導回路にはありそうだ。


「ルーベル・タワーが起動したって事は、式典も中盤か」


「……もしかしてトール、もう行ってしまうの?」


マキアがまた不安そうにして、俺の袖を握った。

何なんだよ。何でそんなに可愛いんだよ。


いつものふてぶてしいマキアはいったいどこへ。


「いや……式典が終わるまで、俺は別に」


「なら、早く行きましょう!」


彼女は俺の腕に自分の腕を絡め、くっついた。


「ふふ、私たちって、デートはした事無いわよね」


「……そう言えばそうだな」


「こうやって、くっついて歩く事もあまり無かったわね」


「基本お前の方が先走ってたからな」


「そうだったかしら?」


マキアは目を点にして、覚えがあまり無いと言う様に。


「まあいいか」


なんかもう、マキアの胸元とか、いい感じに当たってますし。

こいつ本当に15歳かよ、と、改めてマキアの実年齢を思い返す。紅魔女は昔から胸だけは誰よりも……


「トール?」


「……いや」


平静を装うため、淡々と返した。






その後、俺たちは二人、祭の出し物を見たり、展示を見たり、また食ったり。

マキアが楽しそうで何よりだった。こんなに楽しい思いをしたのは、俺も久々な気がした。


マキアが海へ行きたいと言うので、式典のあっている魔導研究機関のある港から、少し離れた人気の無い浜辺へ降りた。


「ああ、何だか沢山食べて、動いて、汗をかいちゃったわ」


マキアは羽織っていたマントを脱いで、堤防の上に置いた。

剣を下げていた様で、それも取り外す。護身用に持っていたんだろうか。


赤いドレス姿のマキアだ。

いつもよりシンプルに見えたのは、やはり彼女がチョーカーや腕輪、指輪などの装飾品を身につけていないからか。だから余計、俺の与えたイヤリングだけが特別映える。


キラキラしたものの無い、シンプルな胸元、首筋、指先、髪が、むしろ色っぽいように思える。


海風に髪を押さえ浜を歩く彼女を、海岸沿いの岩にもたれ見つめ、そんな事を考えていた。

今日のマキアの破壊力は凄いな。紅魔女時代、あいつを女として見た事はほどんど無かったのに、どうした事か。


「もう、トールもこっちに来てちょうだい!」


「はいはい」


マキアに寄って行くと、彼女はクスクス笑いながら、俺を見上げた。

そして少しばかり、切ない表情をする。


「ねえトール。……私、黒魔王がとてもとても好きだったの」


「……ああ」


「ヴァルキュリア艦にある魔力装置って、温泉みたいな緑色のお湯に一晩浸かるものなんだけど、その中で寝ているとね、私、色々と夢に見て思い出しちゃった。黒魔王が……死んだ後の事まで」


「……」


マキアは俺の胸元の服を握った。

俺はそんな彼女の手を、上から握る。


「でも大丈夫よ。けっこう元気でしょう? もっと、憂鬱になっちゃうと思ってたけど、むしろすっきりしたくらい」


「……」


「でも、夢から目覚めた時、凄くトールに会いたかったのよ?」


そう言って微笑むマキアの頭を、俺は何度か撫で、そっと抱き締めた。

どうして俺は、いつもマキアが弱っている時に、側に居てやれないのか。


「ふふ。楽しいわ。今日のトール、何だか優しいもの」


「何だよ。いつも言う事聞いてやってんのに」


「それもそうね」


「お前だって、今日は何だかおかしいじゃないか。やけに素直っていうか……甘えたがりっていうか」


「だってトールに会いたかったんだもの」


「……ほら、なんかそう言う所が……」


マキアはその細腕で、いっそう俺にしがみついた。


はあ、調子狂う。

マキアの事だからなんか裏があるんじゃないかと思ってしまう所だが、そう言う風に感じない所がまた。


「あのねトール、私……」


彼女が何か言おうとした時だ。

ふと風の流れが変わったと思ったら、何やら騒々しい音が耳に届く。


「……?」


それはルーベル・タワーの方向からだ。


「何かしら。式典のあっている方から……」


マキアも顔を上げ、そちらを見た。

ドンドンと、銃撃の様なものが聞こえる。祭の余興では無さそうだが……


「……!?」


影。

地上に大きな影がかかったと思い空を見上げたら、ヴァルキュリア艦よりもっと上空、緑の幕外に大きな空間の歪みを感じ取る。そこに転移魔法の術式の描かれた魔法陣が連なるって現れる。


「……あれは」


その空間の歪みから先端を覗かせたのは、横長い銀色の戦艦。

機体の側面に見える紋章は、誰もが知るものだ。


「嘘だろ。あんなでけえ戦艦を転移させるなんて……あんな技術、今のメイデーアには……」


思わず汗が頬を伝う。

俺ですら、あんな事骨だぞ。


「あれはエルメデス連邦の戦艦シルヴィードだ。はは、式典の見学にでも来たってか?」


「……行かなきゃ」


マキアは真面目な顔をして、俺を見上げた。


「行かなきゃ、トール。ルーベル・タワーの方へ」


「……ああ。何かあったんだな」


厳重に警戒していた今日と言う日。

例え戦艦が現れても緑の幕がある以上、あの船がこの大陸を攻撃する事は出来ない。ただの威嚇か嫌がらせか、物見遊山か。何が目的だ。


この胸騒ぎは何だ。


マキアと共に砂浜を横切り、海岸沿いを急ぐ。

波音は静かなのに、張りつめた緊張感がある。


ふとマキアが立ち止まり、海を見た。


「トール、あれ……」


「……?」


戦艦シルヴィ―ドの出現に気を取られていて気がつかなかった。


いつの間にか、海の向こう側、海面上に、ただ突っ立っている何かがある。


「……おいおい、嘘だろ。緑の幕の内側だぞ」


引きつった笑いしか出て来ない。

それは俺たちの知っているものより随分小さい気がしたが、おそらく確実に、あれである。


機械仕掛けのギシギシとした嫌な音が、気がついた後に耳に付く。


「……ギガス」


マキアがポツリと呟いた。

俺たちにとって未知の存在のはずなのに、おそらく俺たちにとって、因縁深い神話の兵器だ。



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