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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
226/408

45:マキア、そろそろ我が侭を言い出す頃。

3話連続で更新しております。

ご注意ください。


今日は聖教祭の最終日です。

去年の事を思い出すと、この日は運命の日、とも言えるでしょう。


私は結局、お祭りの最後をヴァルキュリア艦で過ごさなければならないのですが。



「マキア様、おはようございます」


「……ああ、おはよーレピス」


私はあくびをして、ぬるま湯の中から起き上がりました。

今日も夜中このお風呂みたいなカプセルで寝ていたのです。


レピスが着替えを手伝ってくれました。


「そう言えばマキア様。トール様がマキア様の事、随分心配しておられました……」


「……ふーん。なんて?」


「元に戻りそうなのか? と」


「へえ」


「でも女の子たちに囲まれてました」


「……へえ」


二階目のへえ、は、少し低ボイス。


「気になりますか?」


「別に〜。私、気が狂った様に嫉妬するタイプじゃないし」


「そうなんですか?」


「そうなんですかって。いったい私の事なんだと思ってんのよ」


レピスはマジで聞いてきていた気がしたので、心に10のダメージ。

やっぱり私ってそう言うイメージなのね……


「だって、だって黒魔王にも沢山奥さん居たし。……自分が仲間はずれじゃなきゃ別にいいのよ、私は」


「そういうものですか?」


「……多分」


まあ、紅魔女はそうでした。

黒魔王を自分一人のものにしたいと言う思いは、あまり無かった気がします。ただ、同じ輪に入れて欲しいと言う思いはあったけれど。


赤いドレスを着て、レピスに髪をといてもらって、いつもみたいにリボンを着けようと思ったけど、何となくやめます。


「……はあ。飾ったって意味無いわよね。今日もどうせ、暇なんだもの」


「マキア様。髪は結いませんか?」


「ええ。そんなにきっちりしている必要も無いでしょう」


「……」


私の腑抜けた様子に、肩を竦めるレピス。

イヤリングだけ耳に付け、後は特別な装飾品を一切身につけず、王宮にいた時の気張り様は何だったのかと言うくらい簡素な姿で居ました。


「ああ、どこか行きたいわ……。お祭行って美味しいもの食べたい」


「いけませんマキア様。カノン将軍に、ヴァルキュリア艦に居る様に言われているではないですか」


「そうだけど〜そうだけど〜」


まるで子供の様に駄々を捏ねる私に、レピスはまた困った様に小さくため息。


「流石にそのような腑抜けたマキア様は見ていられません。カノン将軍に聞いてみましょうか? 少しばかり外出できるかどうか」


「……ほんと?」


私がキラキラした瞳をレピスに向けた、ちょうどその時、扉を叩く音が。


「どうぞ」


適当に答えた所、噂のカノン将軍が部屋の扉を開け入って来たので、慌てて抜けた気を引き戻します。


「な、何かご用?」


「……今日が聖教祭最終日だ。何が起こるか分からない。気を抜くな」


「べ、べ、別に気なんて抜いちゃ居ないわよ!」


私は目を泳がせて、言い訳を始めようとしましたが、カノン将軍は無表情のまま続けました。


「ルーベル・タワーの力を、おそらく連邦は気にしている。青の将軍の能力を知っているだろう。いつどこで、奴がしかけてくるか分からない。それにお前は狙われている。ここに居るのが安全だ」


「あんた盗み聞きでもしてたの?」


「そろそろ、我が侭を言い出す頃かと思っていた」


「……」


やっぱり私ってそう言うイメージなのね!

今回に関しては間違ってないけれど。


「でも、なにか事を起こそうにも、この国にはヴァルキュリア艦が居るし、今日は緑の幕も完全閉鎖だし、今の所海に問題は無いのでしょう? 何かして来る隙があるかしら」


「……無いと思いたいが、その裏をかいてくるのが青の将軍だ」


「あんたでも裏をかかれる事があるのね〜」


からかう様に言うと、カノン将軍がすっと瞳を細めたので、私は「ゔゔん」と低く咳払い。

ああ、怖い怖い。


「……いいぞ」


彼はポツリと呟き、私は一瞬「はいはいそうですよね」と聞き流してしまいそうになって、ん? と。


「何が?」


「外出許可を出そう。ただ、式典の間だけだ。その間は、誰もがルーベル・タワーの式典に注目し、魔導研究機関の側の港に集まる。街は比較的閑散としているだろう」


「……あんた、変なもんでも食べた?」


やけに簡単に我が侭を聞いてくれたカノン将軍に、私は思いきり恐々とした表情になりました。

こいつ、私を何か罠にかけようとしているんじゃ……


「ストレスを溜めこの戦艦を壊されでもしたらたまらないからな」


彼はそれだけを言って、レピスに目配せすると、そのまま部屋を出て行きました。

私はポカンとしてしまって、おもむろにレピスを見上げます。


「ねえ、外、遊び行って良いの?」


子供か。私は子供か。

お母さんお外に遊び行っても良い?? みたいな。


「ええ。式典が始まったら……と」


「レピスも?」


「いえ、私は別に仕事がありますので……。でも、マキア様の護衛は別にご用意致しますから」


「そう。……別に私、一人でも大丈夫よ?」


「そう言う訳にはいきません」


レピスは少しばかり微笑みました。


「それと、“戦女王の盟約”をお忘れになりません様」


「……あんな物騒なもの持ってろって言うの? はいはい、わかったよ」


私は勇者に貰ったばかりの黄金の剣を腰にぶらさげ、その上からマントを羽織りました。







「って、言ってたくせに、誰もいないじゃないのよ」


私はレピスに港まで降ろしてもらい、その後一人になってしまいました。

久々の海風が気持ちよく、気も楽なので良いのですが。もちろんマントを羽織ってフードを深くかぶって、姿と剣は隠しています。


やはり式典が始まるからか、人は皆ルーベル・タワーの方へ向かっていました。

私はというと、一度そのタワーを見上げ、すぐに街の方へ。


お祭なんだからあちこち見て、美味しいもの食べないと。

ヴァルキュリア艦のお料理は美味しいけれど、あの息の詰まりそうな白い部屋がダメね。


やっぱり体を動かさないと。


「おい」


ふと、肩を掴まれ声をかけられました。

思いもよらぬ声でした。


「待てよ、マキア」


「……トール!?」


その主はトールでした。急いで来たのか、少しばかり息が荒いのですが、トールです。


「なんであんたがここに!!?」


私はトールを見上げ、一時驚いた表情そのまま、固まっていました。


「レピスの奴が、俺に教えてくれたんだよ。それで、まあお前の位置情報探って、ここまで来た訳だ」


「でもあんた、式典は良いの?」


「あんな式典、俺は見てるだけだし、退屈で仕方ない。ユリシスに全部任せて来た」


「……」


ほんの数日会ってないだけのトールとの会話が、とてもとても懐かしくて、思わず両手を広げ彼に抱きついてしまいました。


「うぅ〜……トール〜っ」


「は? どうした? おいおい、たった一日か二日会ってないだけなのに……」


「だって、だって……っ」


長い夢を見たせいで、何だかずっとトールに会えていない気分だったのです。

もしかしたら、あのままもう、トールには会えないかと思っていた……


トールの腹部に顔を埋め、腰を思いきり抱き締め、幼い頃から変わらない“トール”の温もりと言うのを確かめたくなったのでした。


「おいおい。お前って本当極端だよな」


何も知らないトールは、当然呆れた様子で居ましたが、フードを被ったままの私の頭をポンポンと撫でてくれました。ああ。やっぱりトールは落ち着くわ。


「トールが良いよぅ……っ」


「何がだ。全く。……ほら、お前どうせ、祭の美味いもの食いに来たって魂胆だろ。奢ってやるから、何でも食えよ」


「……あの揚げドーナツ買って。あと塩豆」


「あ、はい」


私の指差した屋台に、ちゃんと言われた通り買いに行くトール。

私は子供みたいにトールのマントをひしと掴んで、彼の背中にぴったりくっついていました。


今日くらい、素直にトールに甘えてみよう……そんな事を自分に言い聞かせて。


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