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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
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43:マキア、ヴァルキュリア艦を探検する。

あの良く分からない謎の液体に一夜浸かっただけで、私の体は随分軽くなりました。

もうあちこちの凝りが取れてしまったんじゃないかってくらい。

いやあ……まだ若いはずなんですけどね。シャトマ姫の行っていた通り、なかなか“良い”ものらしい。


だけど私は部屋に閉じ込められ、まるで病人扱い。

真っ白な壁の中央にある、これまたデザインチックで無駄の無いベッドに横たえられ、無駄な時間を過ごすのです。


「ああ……つまんないわー」


勇者には部屋に居ろって言われたけれど、こんな味気ない場所で大人しくしているなんて癪だわ。


そろそろっと部屋を出て、側面に続く透明の壁から外を見下ろします。

聖教祭も今日で6日目。明日が最終日です。

祭りの賑わった音は、こんな所では聞こえて来ないわね。


このヴァルキュリア艦は丸い駒状のフォルムをしているので、私はその側面をグルグル歩きながら、ルスキアの都と、その向こう側の平原、海を見ていました。


「……あ」


不思議とあまり人が通らないと思っていたけれど、どうやら見つかってしまった様。

黒いローブを着た、長い黒髪を持つ見覚えのある顔が、いつの間にやら側に立っていたのです。


「マキア様……駄目です、お部屋で大人しくしていなければ……」


「あら、レピス。どうしてあんたがここに?」


「……お兄様がヴァルキュリア艦に居ないので、私が代わりにこちらへ来ているのです。……マキア様の事も心配ですしね」


「……」


レピス、あんたって子は。

思わずレピスに抱きつきます。彼女の腕が堅くてガシャンって、音がしました。


「やっぱり、あなたの腕は義手なのね」


「柔らかく受け止められなくてすみません」


「いや、良いのよ。これがあなただものね」


レピスは長いローブをめくって、自分の義手を見つめました。

そして、首を傾げます。


「でも、不自由は無いんですよ? 殴る時は何倍もの力がありますし」


「……何を殴るのかな?」


「それに、刃物を受け止めてくれますし。私はこの腕をたまに盾の様に使いますね」


「……」


もう何も聞くまい。


「ええ知っているわ。トワイライトの技術は最先端走ってるもの」


私はニコリと微笑んで、結論。トワイライトの技術って凄いわね、と。


「……はい」


レピスはコクンと頷きます。

どうやら自分の一族の技術には、絶対の自信がある様でした。








私が戦艦の中をうろうろするのを、後ろからついてくるレピス。


「あなた、聖教祭に行きたかったんじゃない? だって残り二日よ」


「いえ、私は……賑わいはあまり。それに、お兄様がヴァルキュリア艦に居ないので、何かあった時の為にここに居るのです」


「ああ、なんかさっき、そんな事言っていたわね。まだこの船の中に、トワイライトの人たちが居るの?」


「ええ。ヴァルキュリア艦から中央海の向こう側までを見張っています。……この国の人たちは知らないと思いますけど……ここ最近の中央海は、巨兵ゴーレムが頻繁に出没しますから」


巨兵ゴーレムねえ……」


「ええ、はい。去年の聖教祭では、意図的にこの国の緑の幕の側まで誘導してきましたが、今回は近づける訳にはいきません。ルスキアとフレジールはそのような協定を結んでいるのですから」


「……ふーん」


「でも、今度あいつらが現れたら、この艦が一体残らず海の藻屑にしますけれど……」


「……」


いきなりレピスの雰囲気が変わったのでゴクリと息を呑みます。ノアもたまに、似た様な感じになりますが……やはり苦労して来ているのね。

ヴァルキュリア艦の開発に大きく貢献したのもトワイライトの一族だと言うし、自分たちの一族が作り出したものを自分たちで壊さなければならない、そうであるべきだと言う強い意志を、レピスからも感じます。


「マキア様……見てください」


レピスがヴァルキュリア艦の透明の壁から見える、魔導研究機関にそびえ立つ魔導波塔を指差しました。


「明日から本格的に魔導波塔の運用が開始されます。ルーベル・タワーと名付けられたそうです」


「へええ。いつの間に」


「ルスキアの母と言う意味らしいのです。私は南の大陸の事はあまり知りませんが、遥か昔、南の大陸がまだ一つの国だった頃の名前から取ったとか」


「ああ……ルーベルキアから、ね」


「明日から、ルスキア王国は新たな時代に入っていく事になるでしょう。……ルーベル・タワーはその象徴となります」


「……」


ルーベル・タワーがルスキア王国の一つの象徴となる。

何だか、日本の東京タワーとかスカイツリーとか、思い出すわね……。


ただあまりに最先端な技術を用いた塔なので、ルスキア王国全体の雰囲気とはミスマッチですね。

あの場所だけ別の文明を切り取ってつけた、みたいな。


レピスが透明な壁に手を当て、指を弾く様に開くと、見えていた景色が一気に拡大されます。港を行き交う人々の顔もよく見えるのです。


「……あ」


トール発見、と思って、思わず透明の壁に顔を近づけます。

トールの隣にはレナが居て、相変わらず護衛の仕事は続いている様。

港から魔導波塔を見上げて、何やら話している様でした。


ただなんか、随分砕けた関係になった様で、お互い妙な気まずさのあった数日前とは全然違うように見えます。

トール……レナと、向き合う事が出来たのね。


「ふーん……何よ、良い感じじゃない。ふんっ」


私は瞳を細め、ちょっと拗ねた様に言うと、レピスが「気になりますか?」と。


「……別に。しっかりやんなさいって言ったのは私だし、良いのよ」


「そういうものですか」


何か言いたげなレピスの瞳。


「何よ、何か言いたい事があるの?」


「……いいえ?」


すっとぼけた様子で肩を上げるレピス。

まったくもうと唇を尖らせ、私は再び透明の壁から下界を見ました。


「……ん?」


トールとレナから少し後方、港に並ぶ倉庫の影から見覚えのある男の顔と大きな帽子がちらちらと見えます。


「あ、メディテ卿だ。あの人今はトールとレナをストーキング中なのね。聖教祭だって言うのに本当、何やってんだか」


「……ああ、本当ですね」


あんなに暇なおじさんも居たものです。

しかもメディテ卿、何故かこちらの視線に気がつき、私に向かってVサイン。

遠く離れたヴァルキュリア艦ですよ?


何者。あの人本当に何者!!


「私……盗聴機でもつけられてんのかしら」


思わずドレスを持ち上げ振ってみたけれど、特に何も出てきませんでした。

位置の特定でもされる変な毒でも飲まされたのかしら。メディテ家で食事をした事など何度もあるので、可能性は無きにしもあらず。

魔王クラスに対して本当にアクティブで、文句すら出てきませんよ。







「……ふう」


本当はヴァルキュリア艦のコックピットと言う所に行ってみたかったけれど、レピスに「駄目です」と真顔で言われたので、大人しく部屋へ戻ってきました。

彼女にお茶を入れてもらい、ほっと息をつきます。


「それはそうと、あんたのお兄様は何でヴァルキュリア艦を出ているの?」


「……明日からのルーベル・タワーの運用に関して、少しお兄様の力が必要でして」


「ふーん」


レピスの兄であり、トワイライトの一族の当主でもあるソロモン・トワイライトの話題を出すと、基本冷めきった表情をしているレピスでも、僅かに乙女チックな所を見せるものです。


「凄いわよね、ソロモンって。まだ20代とかでしょう? あの若さでたいしたものよ」


「……ええ。お兄様は凄いです」


「それに凄く陽気で前向きね。トワイライトの人たちって基本的に落ち着いているから、当主のあの人だけ浮いて見えるわ」


「だから、です」


「……」


レピスは少しばかり視線を落とし、どこか遠く、虚ろな一点を見つめています。


「……前に、お兄様が言っていたんです。“自分たちは確かに体の至る部分が無くなってしまったけれど、豊かな人生を築く事は出来る”、と。我々トワイライトの一族は、覚悟していても力を得る為に体の一部を削られ、心は荒んでしまいがちです。殺伐とした中、お兄様だけは明るく振る舞って、私たちに何度となくこの言葉を投げかけたのです。一番体を失った、お兄様が……」


「……」


“体の至る所を失っても、豊かな人生を築く事は出来る”


ソロモンらしい言葉だと思います。だけど簡単に出て来た言葉ではない事も分かります。

そして、それがいかに、トワイライトの者たちの支えとなっているのか……


レピスも淡々とはしていますが、どこかあっけらかんともしているのです。

兄の言葉を大事にしているからでしょうか。


「ま、仲が良さそうで何よりね。聖教祭が終わったら、ソロモンは帰ってしまうの?」


「……おそらく」


「へえ。それは寂しいわねえ、レピス」


わざとらしくそう言うと、レピスはポッと頬を染め、何だか恥ずかしそうにしていました。

でもやはり、瞳は少し寂し気でした。


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