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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
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30:トール、マキアが何かを隠している事に気がついている。


マキアは何か隠している。

ここ最近、俺はそれを嫌と言う程悟ったと言うのに、それが何なのか全く分からない。


「……トール……さん?」


手前の方を歩くレナが、不意に振り返り声をかけてきた。

俺が少しばかり離れて彼女について行っているから。


「どうかしましたか? 何か……考え込んでいる様ですけど」


「いや……」


それ以上何も答えない俺。

レナと話すのはやはり緊張するし気がめいる事だった。

ヘレーナの面影はあれど、彼女が何も知らない事だけがある意味救いだ。


今は聖教祭4日の午後だ。

レナがこの国に迎えられ、レイモンド卿が俺を彼女の護衛につけたのは正解だった。

彼女を狙う刺客は実に多い。シャトマ姫がこの国に置く大使という扱いだが、今でも東の大陸との国交を阻止しようとする反東派の連中は多いし、それ以外にも訳の分からない奴も居る。

もしかしたら、レナが異世界からやってきた者だと言う情報も、どこかから流れていたのかもしれないな。


「やっぱり……トールさん、私の事どこか避けてますよね。私、何かしたでしょうか」


「いや……」


いや、しか言えない俺はクールキャラでも装っているのか。

レナはもじもじしつつ、きっとずっと思っていた事を聞いてきたのだろう。俺の態度があからさまに悪いのが良く無い。

目の前の娘はただの女子高生だ。JKだ。子供だ。

俺は自分に暗示をかけていた。


「お前は何も気にするな。これは俺の問題だ」


「気にするなって言われても……」


不満げなレナ。そりゃそうだろうな。

俺は頭を掻いて、少しばかり唸った後、ポンと彼女の頭を撫でた。


撫でたと言うか置いたと言う感じだが、別に悪気があってこんな態度な訳じゃないと言う事を示したかったのだが、これが良く無かった。

レナがカッと頬を染めたから。


「す、すまない……」


クソ。我ながら自分が憎い。

そんなつもりはさらさらないにしても酷い。収まれ俺の右手。


「何だか……トールさんって変ですね。絶対変です」


レナはくるりと反対側を向いて、スタスタと行ってしまった。


「こら、あんまり勝手に動くな」


自由奔放な所もヘレーナ譲りか。

俺は呆れた口調で彼女を呼んだ。








レナをヴァベル教国へ連れて行き、聖教祭の間に執り行われている儀式を見せる事になっていた。

彼女はこの世界の聖域に足を踏み入れ、少しだけ表情を引き締める。

きっと、緊張したのだ。


人が多くいつもの静けさとは何かが違うが、誰もが祈りを捧げている光景は、聖教祭ならではと言える。


レナは初めて触れたこの世界の宗教的な空気に息を呑み、丸いドーム型の天井を見上げていた。

その瞳はどこか遠くを見ている様で、俺は一抹の不安にかられる。

彼女はいったい、何を考えているんだろう。



「トールさん、不思議な場所ですね……ここ」


「……?」


大聖堂を出た後、レナが呟く様にそう言った。

かつてのヘレーナは聖地ヴァビロフォスへ来た事は無いはずだが、何か感じるものがあるのだろうか。


「まあ、聖域だからな。魔力が溢れているんだ」


「魔力……ですか?」


「ああ」


レナはあからさまに不思議そうな顔をした。


「魔法を見た事が無いのか?」


「いえ、シャトマ姫に何度か見せて頂きましたが、何度見ても変な気分になります」


「まあ……地球には無いものだからな」


俺たちとレナの違う所は、記憶を引き継いでいるかいない所だ。

なぜ彼女だけそうなのか分からないが、逆に俺はホッとしている。彼女に記憶があったら、それはそれで複雑だった。ヘレーナとしてしか見えなくなってしまうだろうから。


「トールさんも、魔法って使えるんですか?」


「そりゃあ、顧問魔術師ってくらいだから魔法を使えるんだろうよ」


「そ、それもそうですね」


レナは目を点にして、頭をかいた。

マキアとは違う女性のテンポで、やはりその雰囲気や会話の流れは、ヘレーナを思い出す。ヘレーナよりもう少しおっとりしている感じだが。


「お前だってこの世界に来たんだったら、何かしら魔力があるはずだぞ。だいたい救世主って言われている存在なのに、魔法が使えなくてどうする」


「……そうは言われても、知らない事はやりようも無いですよ。私、習わなければ何にも出来ないんです」


レナは救世主と言う言葉に複雑そうにして、少し恥ずかしそうにした。


「私、親に言われるがまま習い事をしたり、お勉強をしたりしていたから、自分から何かをした事が無くって……」


「……」


「いきなりこんな世界に来て、でもどうすれば良いのか全く分からないんです。今も、流されるままここに居るし……」


「まあ、普通の高校生だったらそんなもんだろ」


「……」


レナは顔を上げ、俺を見た。

誰かに、そう言う事を言って欲しかったかの様に。


「トールさんもそうでしたか?」


「いや、俺たちは前世の記憶があったから、そんな事は無かったが。逆に、記憶があったせいで完全に枯れきってて、浮きまくってたけどな。もうなんか青春なんてとうの昔に終わりました、って感じで」


実際そうだった訳だが、地球での俺たちは完全に燃焼後の燃えっかす。

まあ、まれに文化祭とか妙なイベントもあったが、基本的には静かな余生を暮らすじじいとばばあみたいな感じだった。昔の話や愚痴しか言ってなかったしな。


俺の言葉に、レナは何か違和感を感じたのか首を傾げた。


「トールさんって、何回転生してるんですか?」


「え?」


「だって、地球でも転生してたって事は、地球の前はいったい……」


ぽやんとした顔の癖に案外鋭いな、この娘。

俺は焦る。そこら辺は触れてはならない危険区域だ。



「よお、黒魔王。随分余裕じゃねーか。紅魔女ほったらかして別の女といちゃついてんのかよ。あいつも報われねーなー」


そんな時、ちょうど良いのか悪いのか、エスカが絡んできた。


「……黒魔王?」


レナがまた不思議そうに眉を寄せ、そこの単語に反応している。やばいやばい。

何でこいつがここに居るんだと舌打したくなったが、そう言えばこいつは聖域が我が家な司教だった。


「おい、いい加減な事を言うな。俺は仕事だ。フレジールの“大使”を案内しているだけだ」


「ほー、それは良い御身分で。……そうそう、さっき紅魔女が地下の庭園に来ていたぜ」


「は? あいつ、部屋で大人しく寝てろって言ったのに……っ」


頭を抑えてため息をついた。

あいつは本当に、人の言う事を全然聞きやしない。


「まだマキアは居るのか?」


「さっきまで巫女様と話していたが。……つーかお前、良いのかよ本当に」


「何が」


「……」


エスカが、何か面白く無さそうに瞳を細めた。

小馬鹿にした様に鼻で笑い、肩を上げやれやれと。こいつにこんな態度をとられると数倍腹が立つ。


「別に俺は紅魔女の肩を持つつもりは無いし、あいつは態度がでかいから嫌いなタイプの女だが、まー潔さだけは認めている。……黒魔王、お前、あんまりぐずぐずしていたら、今度はお前が置いてかれるぞ」


「……何の話だ?」


「さーな」


エスカはしらばっくれた。

随分気になる話をしやがった。問いつめてやろうと思ったが、気がつくとレナが居なくなっている。


「……レナ?」


「あー、あの異世界の娘なら、俺たちが話しているうちに奥の聖堂の方へふらっと行ってしまったぞ」


「てめえ……っ、気づいていたんなら先に言えよ!!」


勝手に居なくなるレナもレナだが、エスカもエスカだ。

俺は馬鹿にされているのか? おちょくられているのか?


「……くそっ」


腹の立つ事、気になる事が多くイライラする。

これ以上エスカにかまっていられないと思い、俺はすぐにレナを探しに行った。


彼女がどこへ向かったのか分からなかったが、奥の聖堂の、あの黒い扉の前を通りかかったとき、降ってくる様な嫌な気が。


扉が、僅かに開いている。


「……まさか」


真理の墓へ降りて行ける扉を開ける者は、このヴァベル教国の司教の中でも事情を知る幹部クラスか、魔王クラスのみ。

レナがこの扉を開くとは思えなかったが、その嫌な気はじわじわと体中を襲う。


俺はその扉を開く。

自らも、あの地下へ向かう為に。


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