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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
202/408

21:マキア(マキリエ)、追憶2。

二話投稿しております。ご注意ください。

約2200年前

西の大陸グリジーン王国内陸の町


マキリエ:12歳







12歳の秋のことです。

私は父に連れられ、森から一番近くの町にやってきました。冬の備えに多くのものを買い揃えに来たのです。


ちょうど収穫祭と重なり、町の市場には穀物に野菜、燻製にした肉や魚、瓶詰めの保存食やお菓子の屋台などが並んでいました。

グリジーン王国は海に接している部分もあるから、魚介類の干物などもこの町に届くのです。


あまり町までやってくることのない私は、この日とてもはしゃいでいました。

父は様々な準備があったから、私は少しのお小遣いをもらい、水飴や焼き菓子を買って自由に見て回りました。


森の中に住んでいたから友達なんていなくて、一人でぶらぶらしていたんだけど、同じくらいの子供たちが集まって遊んでいるのを横目で見ながら、何となく羨ましいなと思ったり。


そんな時、いかにもいじめっ子という風な、ガキ大将の男の子が、数人の取り巻きと集まって一人の男の子に絡んでいました。男の子が貝殻で作った高級な笛を持っていたから、いじめっ子たちが奪おうとしていたのです。


「あらら……」


いじめられている男の子はいかにも細っこくて弱そうで、箱入り坊ちゃんという感じでした。

商人か何かの息子でしょうか。


「ちょっとあんたたち、人から何か奪おうなんて、恥ずかしいことしてんじゃないわよ」


この時の私は12歳ながら、言いたいことをすぐ言ってしまう怖いもの知らずの娘でした。

祖母の影響もあるのだろうけど、世間知らずなところもあり。

見ていられず声をかけた私に、周囲で様子を伺っていた他の子供たちもギョッとしていました。何か見知らぬ子が口出ししたな、みたいな。


図体のでかいガキ大将は「誰だ!!」と振り返り、小さな女の子に文句を言われたことを知るといっそう顔を真っ赤にします。


「お前、俺様を誰だと思っている!! ジョルノ・タリアンだ、この街の町長の息子だぞ!!」


偉そうに自分自身に親指を向け、威張り腐り、勝手に自己紹介。

取り巻きたちは何故か拍手しました。


「町長の息子なら、人様から笛を奪うって、ちょっとみっともないわよね……」


「……」


「あ、でも確かおばあちゃんに聞いたなあ。最近は領主や町長より商人の方が金持ちだって!! 他の大陸とかと、ぼうえき? が盛んなんだって」


手のひらにぽんと手を打ち、あえて煽る。

案の定ガキ大将がカンカンに怒って、私に手をあげようとした時、私は彼が勝手に教えてくれた名前から情報を読み取り、一歩後ろに下がって振り下ろされる拳を避けました。


「ジョルノ・タリアン、14歳。魔力数値は208mg。少なっ。……えっと、父はアルメイ・タリアン、母はフローレイ・タリアン。ここの町長の三男坊。上のお兄さん二人は優秀だけど、あなたは街のゴロツキで、取り巻きを連れて好き勝手にしている。好きな食べ物は子豚の丸焼きで、嫌いな食べ物は祖母の作った瓜の漬物。同様に祖母が苦手……ふふ、図体はでかいけど腕が短いから、一歩下がればパンチは当たらない、と。実はそこがコンプレックス」


「……な」


私は相手が口を挟む隙もないくらい、名前から得た情報をペラペラ羅列しました。

ガキ大将ことジョルノは、だんだんと青ざめていきます。取り巻きが何となく彼の腕の長さを確かめたりしていました。


「おいお前ら見るな!!」


ジョルノは腕を腹に抱え、情けない姿に。


「お前、どうして俺の事をそんなに知ってるんだ!!」


良い歳して、半分泣きそうになってしまったジョルノ。

そんな時、誰かが報告したのか、彼が苦手とする祖母が「こらジョルノ!!」と大声を上げやってきました。


「げっ、ばあちゃん!!」


彼はいっそう青ざめ、その場から急いで逃げ出しました。取り巻きもそれを追う。

ジョルノが苦手としていた彼の祖母は、とても大きな体をしていて、確かに恐ろしい形相をしていたのです。

これは確かに、うちの祖母より怖いかも。



「……ふう」


悪ガキどもがいなくなり、私はまた祭を見てまわろうと思って髪を払い、お菓子を入れていた紙袋を漁りました。

しかしその時、いじめられていた男の子が声をかけてきます。


「ね、ねえ君」


「……」


「ありがとう、助けてくれて」


男の子は私より背が高かったけれど、栗色の髪をして緑色の瞳を持った、ジョルノよりよほど上品な出で立ちをした子でした。


「情けないよ……女の子に助けられるなんて」


「全くもってそのとおりね。もう少し、そのひょろい体をどうにかしたら」


そう言いつつ、私は紙袋から、彼に焼き菓子を一つだけ渡します。

一つだけ。


「沢山食べないからよ」


「……そ、そうだね」


男の子は焼き菓子を受け取り、それをじっと見ました。


「僕の名前はランディ・マルク。僕、知っているよ……君、名前魔女だろう?」


「ええ、よく知っているわね」


「やっぱり、そうだったんだ!!」


ランディは瞳をキラキラさせ、私の顔を覗き込みました。

不意なことで驚きましたが、私は冷静に彼の名前から情報を読み取りました。


ランディ・マルク。13歳。魔力数値は328mg。

港町と内陸部の国を行き来する商人の息子。

気が穏やかで、なかなか見た目が良いけど、何かと不運が続き病気がち。


なるほど……名前が全然、合っていなかったのね。


「僕は、父が旅の途中に出会った名前魔女に、名前をつけてもらったんだって」


「そ、そうなの?」


そりゃあ、相当適当な名前魔女だったんでしょうね。やぶって奴かしら。

私は子供ながらにそんなことを考えていましたが、こればかりは言えずにいました。


ランディはさっきまで、いじめっ子にいじめられていた事をすっかり忘れてしまったように、楽しげに、色々とお話ししてくれました。

私は同じ年頃の子供とこんなに話すことも無かったので、何だか嬉しくて、でも名前から見える妙に不穏な情報に気を取られていました。

情報というか、勘の様な曖昧なものなのですが、彼の運命に影の様なものがかかっている気がしたのです。


ですが、ランディはそんな事を全く知らず陽気に、私に桃色の笛を手渡しました。


「これ、お礼にあげるよ。海辺で売られていた桃色の貝の笛なんだ。綺麗だろう?」


「……でも、これとても高級なんでしょう?」


「良いよ。収穫祭が終わったら、また港町へ行くんだ。そしたらまた買うよ」


「……また港町へ行くの?」


「そうだよ。今年収穫した小麦を港町に持って行って、外国へ行く商人に売るんだよ。港から東の大陸や北の大陸の国々に持って行ったら、高額で売れるんだって。そして、北の大陸から色々な装飾品を買ったり、東の大陸で香辛料を買ったりして、西に持ってくるんだよ。それをまた買って、内陸部の国々に売りに行くんだよ」


「……へえ」


私は彼に貰った笛を胸に抱え、その後も彼に色々な話を聞きました。

その時はあまり理解していませんでしたが、知らない土地の話は子供ながらに興味深かったのです。


私はまだ港町に行ったことはないけど、海というものの話は、父に聞いたことがあります。

私の大好きな魚や貝の干物は、港町からやってきていると。


ランディは自分自身、家族と共にあちこちを移動しているので、なかなか友達ができないと言っていました。


「ねえマキリエ、君はこの町の隣の森に住んでいるんだろう?」


「そうよ。もう少し大きくなったら、若い間は王宮で働かないといけないらしいんだけど、まだしばらくは名前魔女として修行中なの」


「だったら、来年の春、沢山お土産をもって帰ってくるよ」


「……っ本当!!」


私はパッと表情を明るくしました。


「うん。港町には異国のお菓子もあるよ。飴細工の髪飾り、君の赤い髪に似合いそうだね。僕が買ってくるよ」


ランディは私にそう約束しました。

しかし私は、さっきからチラチラ見えるランディの名前にある濁りのようなものを、再び気にしました。


「でも、ランディ……病気なんかには気をつけてね。あと、港町はガラの悪い人も多いっていうし。あんたいじめられやすそうだし」


「はは、そうだね。確かに僕はよく病気をするし、絡まれるけど……。まあ、大丈夫だよ。そのうち、お父さんの仕事を継いで、もっと大きな商売をするんだ」


ランディは案外前向きでした。

こうも前向きだと、私も色々と気になることはあっても、何も言いませんでした。

祖母も、運命を動かすのは名前だけではないと言っていたし。


この時の私は、彼に異国のお土産を買ってきてもらえることより、こうやってまた会いに来てくれると言ってくれる事のほうが嬉しく、初めてできた友人というものが眩く見えたのです。






ランディは、約束通り春になると、森の奥の私の家を訪ねてくれました。沢山のお菓子や装飾品をもって。

少し背が高くなって、秋に会った時よりずっと男の子っぽくなっていました。着ている服がますます高級なものになっていたから、多分彼の家族はとても儲かっていたのでしょう。この頃、三つの大陸での貿易はとても盛んで、西の大陸は農業国が多く、他大陸の国に多く穀物を売っていましたから。




だけどその後、また秋の収穫祭に来てくれると言っていたのに、彼が再び私の目の前に現れることはありませんでした。


風の噂で、港町とこの農村に囲まれた内陸の町を移動中、山賊に襲われ荷を盗まれ、殺された商人の一家が居たとか。

西の大陸と言えど、そういう事件も多くあった時代です。

ランディの一家であったのか、それは分からないけれど、ランディくらいの男の子も居たらしい。


でも、彼の名前から不穏な影を感じ取っていた私は、何となく、ランディは死んでしまったんだなと思っていました。非常に虚しくなったけど、案外冷静にそう考えていたのを覚えています。

そして、彼の運命を変える事は出来なかったんだろうなと。

名前から寿命までわかるのは希だけど、その人の運命を曖昧に察することはよくある事だったのです。それはおばあちゃんには出来ない事でした。

だけど、あくまで曖昧であり、いつどこでどうなるか、なんて事は分からないから、私は無力なのです。


一度付けられた名は変えられません。

名乗る名を変える人、偽名を使う人はいましたが、一度付けられた名前というのは肉体と魂をこの世界につなぐ杭であり、世界が名を記憶します。名付ける事自体、世界への登録の様なもの。

それがメイデーアという世界。



名前から見える情報はあくまで情報で、とても重要で大事なものなのに、無情な程無機質なもの。

私は名前から情報を見ることができても、何かをしてあげることは出来ない。

運命を書き換える事は出来ない。


ただ、見守るだけ。



私は子供ながらに、名前魔女というものの力について、無感情で淡々としたイメージを持っていました。



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