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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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12:御館様、トールが可愛くて仕方が無い。


私はエルリック・オディリール。

オディリール伯爵である。


さて、少し困った事になった。付き合いのあるビグレイツ公爵より、トールを買いたいと言う申し出があったのだ。

私は耳を疑ったが、どうやらあちらのお嬢さんがトールをいたく気に入っている様で、公爵に頼み込んだらしい。


しかし、このような申し出すぐに断るものだし、それは向こう側も分かっていた事だろう。

公爵のお嬢さんを納得させる為にわざわざ申し込み、断られるという形式を取っただけだと考えられる。


しかし、数日後再び申し込みがあった。

今度はビグレイツ公爵が直々にこちらへ訪れ、話だけでもと言う事だ。


「何て事だ………」


当然私は断るつもりだ。


マキアはトールを気に入り、いつでもどこでも連れ回している。

あの子にとって話の合わない友人たちと違って、トールだけは素の自分を晒せる存在となっている。

トールがいなくなったらマキアが一番困るだろうし、あの子を悲しませる事になってしまう。


それにしても、私の目に狂いは無かったと言う事だ。

トールは今やどこへ出してもおかしくない立派な少年となった。

生まれだけをとやかく言う輩はいるかもしれないが、彼は本当に素晴らしい。

とにかく頭の回転のはやい子で、マキア以上に勤勉だ。たまに一緒にチェスをするが、今やあの子は指導する立場で、私は全く相手にならない。


剣や騎乗の腕も素晴らしく、ここ最近はいっそうたくましくなった。幼い頃は痩せた少年であったが、今では随分と鍛えられ男前になったなと、つくづく思う。確かにトールの噂はデリアフィールド以外でも良く聞く。最初は私の物好きを笑っていた者の悪口のネタであったのが、それはだんだんと良い噂になっていったのだ。それはひとえに、彼が優秀だからだ。


私はある種の確信をしている。マキアとトールが居れば、このオディリール家は安泰だ。デリアフィールドはいっそう満たされた土地となるだろう。

出来る事なら、あの二人には一緒になってほしいと思っている。勿論あの二人しだいだが、私はトールに家督を譲りたい。普通ならどこか名家の次男などを婿養子にとって家督を譲るものだろうが、私は周りに何を言われても、これが一番良いと思っている。その為の準備も覚悟もあるつもりだ。


そんな事を考えるようになったこのごろだと言うのに、いったいビグレイツ公爵は何を考えているのだろう。

トールを一度も見た事が無いはずだが、それほど娘にごねられたと言う事だろうか。


私はマキアの目を縫って、剣の稽古を終えた所のトールを呼んだ。






「何でしょう、御館様」


「君に少し話がある。実はな、ビグレイツ公爵がぜひ君を雇いたいと言ってきた。うちから君を買い取りたいと」


「……ゲッ」


あからさまに嫌そうな顔をしている。そして、何やら心当たりがありそうだ。


「思い当たるのか?」


「ええ、まあ。以前あちらのお嬢様に“うちに来ないか”と誘われた事があるので。俺は冗談だと思って笑って断ったんですけれど………まさか本気だったとは」


大きなため息をついて、彼は頭を下げた。


「申し訳ないです御館様。俺のせいで迷惑を……」


「いや、君のせいじゃ無いさ。………むしろ君にとってはチャンスでもある。ビグレイツ家と言えば王家との交流も深く、名高い家柄だ。その令嬢の騎士ともなれば、いずれは王宮に上がれるかもしれない。このような田舎貴族では出す事の出来ない報酬額を示されるだろう。君にその気があるなら私は止めないが…………どうだろう」


実を言えば、内心ヒヤヒヤであった。

私はトールが可愛いし、実の息子のように思っている。もしあっさりと向こうへ行くとでも言われたら一週間は寝込む。確実に。


トールは少し考え込んだ後、子供の頃に良く見せたようなニヒルな笑みを上げた。


「俺は別にキャリアアップしていきたいと思っていません。ビグレイツ家には俺の求めているものはありませんし……」


「ほお。君の求めているものとはいったい?」


平静を装ってはいるが、トールがそのように答えてくれて正直かなりホッとした。


「俺の求めているものは………きっとマキア様と同じものでしょう。マキア様のいく所に俺がいく、ただそれだけですから。その逆もまた然りかもしれませんが…………今、俺はあいつ………じゃない、ゴホン………マキア様のものなので」


私の前で娘の事を“あいつ”と言ってしまった事を誤摩化そうとしている。

そこがまた何か可愛い。


よいよい、仲良しの証拠!!

ニヤニヤ。


「そうか………なら、私もそのように覚悟しよう。何を提示されても君を手放すつもりは無い。まあ、最初からそんな気はさらさらなかったのだがな。もし君が向こうへ行くと言って来たらどうしようかと思ったよ」


「はは、御館様が何か真面目そうな顔をしているから、俺だって少し焦りましたよ。もしかしたら解雇されるんじゃないかって。………それに、俺はこれでも御館様に感謝しています。俺を見つけて、ここへ連れて来てくれたのは御館様ですから………」


とても珍しい言葉が聞けた。

私は少し驚いたが、何だか少し照れた彼の表情に涙腺が緩くなった。


「それにしても、色男は辛いな、トール」


「……まあでも、幼女にモテても……」


「え?」


「いえ、何でも」


前髪を撫でつつ視線を逸らす彼に、私はクスリとおかしくなったものだ。

いつもは飄々としていてどこか大人びた態度をとっているが、やはりまだ14歳の子供なのだと思う。


私は、4年前の自分を褒めてあげたいと思っている。

あの時の直感を信じてよかった。彼をここに連れて来てよかったと。そしてこれからも、それを思い知るだろう。


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