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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
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14:ユリシス、新婚の早朝。

*二話連続で投稿しております。ご注意ください。



色々とありましたが無事結婚し、教国の緑の巫女の花婿として、新婚満喫中の身のユリシスです。


しかし心配な事がありました。

マキちゃんが体調を壊し、ルスキアの顧問魔術師としての聖教祭の公務を、残り全てお休みする事になったのです。


確かに最近、マキちゃんの様子がおかしいとは思っていました。トール君もそうですが、フレジール側がつれてきた異世界の少女レナさんが現れてから、どうにも二人が緊張して見えるのです。


僕はおかしいなと思いながらも、とくに何か聞く事もありませんでした。

二人には二人の事情があるでしょうし、僕だって自分の事情で手一杯な所はありましたから。


だけど、どこか寂しい。

二人は僕に気をつかっているのだと知っていますが、何か悩みがあるなら、力になりたいと思うのが僕らの関係です。









鳥の鳴き声と、白く清々しい早朝の教国の空気。

朝早くに目覚め、一人窓辺でそのような事を考えながらぼんやりしていたら、ペルセリスが起きて僕の側にやってきました。


「どうしたの、ユリシス」


僕らは新婚とは言え、前世の夫婦でもあるので、お互いの事はよく知っています。

ペルセリスは、薄い布の寝巻きを整えつつ、僕の様子に何か思う所があるったのか、表情を伺ってそう聞いてきました。


「ん? 何か変な所がある?」


「……ぼんやりしている。寂しそうよ、ユリシス」


「そうかな」


僕は何事も無い様に笑顔を向けました。

しかしペルセリスはむっとして視線を逸らします。


「どうせ、マキアとトールの事でしょう? 私だけじゃ、やっぱり駄目なんだねユリシスは」


「………」


「分かってるけど。でも、私だけ幸せな気分で、ユリシスがそうじゃないのは、何だかしょんぼりよ……」


ペルセリスは唇を尖らせ、僕への理解も示しながらもゴニョゴニョと呟き、指をちょんちょんと突いています。

むしろ彼女がこのように嫉妬のようなものを垣間見せてくれるのは嬉しい。そしてやはり可愛らしいし愛おしいと思います。


「隣においでよ、ペルセリス」


僕はペルセリスを、長椅子の隣に座る様促し、彼女が薄着だったので自分が肩からかけていた裾の長い教国風の上着を、彼女の肩にかけました。

ペルセリスはその上着をギュッと掴んで、僕にもたれかかります。


「僕だって幸せだよ。君と再び夫婦になれたんだ。これから、ずっと一緒なんだよ。2000年前とは違う。今度は沢山の人が、僕たちを支えてくれるんだ」


「……私の事、好き? ユリシス」


「うん? ど、どうしたんだいペルセリス。いきなりだね」


「……だって」


ペルセリスが僕の腕の袖を掴んで、ゆっくり引っ張りながら「だって、だって」と言うので、あまりに可愛いと思って逆に憎らしい。

彼女はいったい何を不満にしているのか、僕は不安になりました。僕の愛情が伝わっていないのか、と。


「ユリシスは皆に優しいもん。良くわからないわ」


「………」


笑顔で、軽くショックを受ける僕。

確かに、前世の記憶などあり色々と感覚が古くさいので、若々しい愛情表現が出来ないと言うのもありますが。

それを考えると常に若々しすぎる、若気の至りの権化のようなエスカ義兄さんはある意味凄い人だなと思います。


僕は彼女の細い肩を抱きました。


「ペルセリスが一番好きだよ。一番大切だ。それは、信じて欲しいな。……僕はこれから、君と一緒に穏やかで温かい家庭を作るんだ」


「………」


ペルセリスは僕の胸に顔を埋め、ぎゅっと甘えてきます。

その時間は僕にとっても、目まぐるしい日々の癒しの時間で、彼女の小さな温もりを大事に大事に思います。


僕らの寝室は、ほんのり教国のお香の香りが漂い、朝の涼しさと清々しさと相まってとても落ち着きます。ペルセリスと一緒に居ると心安らぐ……それは、2000年前から変わらない事です。



一時そのように過ごした後、ふいにペルセリスが顔を上げました。


「ユリシスは……マキアが心配なのでしょう? 私、知ってる。前も体調が悪そうだったの。……魔力の乱れだとお兄ちゃんが言っていたけれど」


僕が窓辺でぼんやりしていた事について、彼女は見当がついていたようでした。

僕は眉を寄せます。


「……心配だよ。ただの不調なら、まだそれほど不安でもないんだけど……なんだろうね。マキちゃんって、本当にあんまり病気、しない子だったから……」


「………」


タイミングがタイミングで、僕は静かな胸騒ぎにかられていたのです。

教国側に落ち着いた僕がこのような事を考えていいのか、それすら複雑な所ですが、あの地下庭園の空席の水の棺が、いつかマキちゃんを連れて行こうと妙な働きかけをするのではないかと、僕はどこかで恐れています。


白賢者とエイレーティアの子、シュマを大地にかえした事で、棺が空席を憂いマキちゃんに対し手を伸ばし始めるのではないか……

それは、この世界に設定されている法則の発動に等しい。


「ユリシス、聖教祭の間は、ずっと忙しいね。せっかく結婚したのに、まだ一緒に居られる時間は少ないわ」


「ははは、そのうち落ち着いて、一緒に居られる時間も増えるよ。それに忙しいのはお互い様だろう? 君は緑の巫女として、教国の儀式で祈りを捧げなければならない。僕も今日は分国の国王たちとフレジールのシャトマ姫と、ヴァルキュリア艦隊の見学だよ」


「……何だか楽しそうじゃない」


「そりゃあ……まあ興味はあるよね。最新の戦艦だから。仕方が無いよ、やっぱりね、燃えるよね戦艦とかって」


ペルセリスは「良いな私も見たいな」と言って、足をぶらぶらさせます。

彼女は緑の巫女なので、そう簡単に教国から出る事ができないのです。


今日は分国の立場を明白にする機会でもあります。

今後ルスキア王国の立場として、南の大陸の防衛に関する様々な対策を詰めるにあたり、分国の動きをここで把握しておかなければならないと言う目的もありました。


レイモンド王は正直な所、あまり分国を信用していないと、僕は見ています。

当然、ジブラルタ王国はテルジエ家と繋がりのある分国でしたから、前の謀反騒動に手を貸したのではと疑われているし、ギルチェ王国は東の大陸へのレア・メイダの輸出が目立ち、ルスキア王国への依存を絶とうとしているようで、これはルスキア王国にとって少々面白くない事態ではあります。しかし半開国を決定したのはルスキア王国なので、はっきりとした貿易制限がなされていない現段階では文句を言えない状況で、ギルチェ王国はそこにつけこんでいるのです。

ギルチェ王国の貿易相手にはフレジールも入っていますが、それ以外の東の大陸とも繋がりを持ちつつあり、ここは注視せねばならない所だと、レイモンド王は言っていました。



僕はそろそろ王宮へ向かい、まずマキちゃんの見舞いに行こうと思いました。


「僕はこの後、最初にマキちゃんのお見舞いに行くけど、君は何か用があるかい?」


隣のペルセリスに尋ねます。彼女は「うーん……」と頬に指を当て、考え込んでいました。


「……本当は私がお見舞いに行けたら良いんだけど……。そうだ、教国の地下庭園のお花を持って行って。あの場所のお花は清らかな大樹の泉の水を吸って育ったから、きっと魔力を落ち着ける手助けになると思うの!」


彼女は立ち上がり、手を広げそのように言いました。


「………そうだね。少し摘んで行くよ」


僕も立ち上がり、得意げな彼女の頭を撫でました。

オリーブ色の細く艶やかな、まっすぐの髪が、さらさらと指の間を流れていき、とても心地よく綺麗です。


「地下庭園へ行きましょう、ユリシス」


「うん」


僕らは新婚とはいえ、まだ共に居られる時間は限られています。

形式張った緑の巫女の花婿という立場と、王宮の王子である立場と、白賢者という前世を持つ僕の事情が、これからどのように複雑に絡み合い、僕の方向を定めて行くのか。

僕は決して見失ってはいけないものを、常に意識する必要がありました。


一番大切なものは、何なのか……。



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