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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
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12:レナ、恋に破れた女の話。

二話連続で投稿しております。ご注意ください。


私は“レナ”。

この世界では、ただのレナとして名乗る様、シャトマ姫に言われているので、そうしている。


異世界にやってきた私は、フレジール王国の北端の砂漠でシャトマ姫とカノン将軍に保護され、このルスキア王国にやってきた。


この国では、なぜか救世主と言われ、知らないうちに沢山の事を決められてしまっている。

しかし私がそれに抗う事は出来ず、この世界で生きて行く為には、周囲の者たちに流されて行くしかなかった。



「私、元の世界に帰りたい……っ」


ポッと言葉を漏らしてしまったのは、まだ知り合って間もない女の子の前だった。

マキア・オディリールと名乗ったその少女は、真っ赤な長い髪とアクアブルーの瞳を持った、とても華やかで美しい少女だ。


マキアは自分も、地球からやってきたと言っていた。

とは言え私とは違い、死んだ後に“転生”したらしいのだけれど。


「……どうして、日本に帰りたいの? この世界は嫌い?」


マキアは神妙な表情で、私に問う。


「だって、この世界の人たちは皆、私の事をとても特別な目で見るもの」


「ま、まあ、異世界から来たものが特別じゃなかったら、何が特別なんだと言う感じもするけれどね……」


「でも、カノン将軍なんて、きっと私の事を嫌っている。そんな目でいつも見るの。……あの、黒髪の人もそうよ。どこか私の事、嫌そうに見ている」


「黒髪の人って……トールの事?」


マキアは「あー…」と視線を逸らしつつ、ぽりぽり頭を掻く。思い当たる節がある様な表情だ。

あの黒髪の人、そう言えば“トール”と呼ばれていたっけ。


「いやほら、カノン将軍って元々あんな感じと言うか、私なんてそんな比じゃないくらいめちゃくちゃ嫌われているわよ、ええ。トールに関しては……なんだろう……あいつ愛想が無いから。わ、悪い奴じゃないのよ?」


彼女は一生懸命フォローしてくれようとしていた。

そう言えば、あのトールと言う人と、マキアはどこか親密そうだった。彼女の事をとても心配していたっけ。


「えっと……“マキア”って、呼んでも良い?」


「え? ええ、勿論。私も“レナ”でかまわないわよね」


「うん」


どこかホッとする私。何と言うか、このように平常心で話せる相手など、この世界にはなかなか居なかった。

シャトマ姫は頼れるけれど、畏まってしまうから。それに比べてマキアはどこか話しやすい。


「レナ、王宮の中、見て回りましょう? こんな所に居ても、退屈でしょう?」


「……う、うん」


マキアは困った様に笑い、座ったままの私を立ち上がらせた。


「マキアって、いったいいくつなの?」


「何が? 年齢? 私は15歳よ」


「え」


思わず固まってしまった私。てっきり私より年上か同じくらいだと思っていたのに、まさか年下とは……。

それにしても、15歳でそのスタイルは反則じゃないかな。


「ま、15歳と言っても前世の記憶があるから、そう見えないと言われても仕方が無いけどね」


「………前世の……記憶?」


「ええ」


それ以上、彼女は何も言わなかった。前世の記憶って、日本での記憶と言うことかな。










「わあああ、たっかーい……」


「でしょう。ルスキア王宮は大きく三つの層に別れていて、上層は王族のテリトリーなの。ま、私は別に王族ってわけじゃないけれど、この層に住む事を許されているわ。あ、ほら、あそこに見えるドーム型の建物、分かる? あれがヴァベル教国。ルスキア王国の中にある、ヴァビロフォス宗派の総本山よ」


「へえ〜」


「って言っても、あなたには良く分からないわよね。このメイデーアではとても神聖な場所と言われているの」


マキアは私を王宮の高い場所に連れて行ってくれた。この城は階層の合間合間に空中庭園が設けられていて、それらが円形に王宮を囲んでいるようだ。

美しい緑の庭から見下ろす王都は、とても広く賑わっている。


フレジールも発展した国家だが、色合いと言うものが違う気がした。

何と言うかルスキア王国はとても鮮やかだ。


「あと、あれ、見える? とんがり屋根のあの建物は、とても料理がおいしいの。あ、隣の小さなお店はケーキがおいしいの」


「……??」


高い所から小さな建物を指差されても、何とも判別し難いけれど、マキアは自分の知っている美味しい料理とお菓子のお店を次々に教えてくれた。

細い体をしているのにとてもグルメなのね。


「あのお店で前にトールとお食事したのよね。うーん……話しているとお腹が空いてきたわ」


「トールって……あの黒髪の人?」


「そうよ……」


「マキアと、あのトールって人は、恋人なの?」


「……??」


私はそうなのだろうと思って、当たり前の様に聞いた。

するとマキアは言葉にしがたい妙な表情になって、額に指を当てたりする。


「うーん……何なんだろう。私とトールって別にまだ恋人とかそんなのじゃ……。元々あいつは私の付き人だったんだけど……いやいや、元々は同級生? 敵? うーん」


「違うの?」


「う、うーん……」


「ごめんなさい……何だか迷わせちゃったかな」


「もしかして、気になっているの? あいつの事」


「………え」


マキアは私を探る様に、瞳をこちらに向けた。

青緑色の瞳が、静かに煌めく。


「い、いや……そう言うのじゃないんだけど……。あの人、私の事、何だか避けている様な、嫌っている様な気がしたから。あはは、自意識過剰かもしれないけれど」


「………」


トール……という、あの黒髪の青年。とても整った顔立ちをしていて、落ち着いた声をしていて、何だか懐かしい気がした。初めて見た時は、それは惚れ惚れしたけれど。

だけどあの人が私を見る時、凄く悲しそうな、嫌そうな、複雑そうな……そういった負の意識というのもの感じられる。


私、あの人に何かしたのだろうか。

何だか少しだけ怖い。


「ごめんなさい。私、人の顔を伺ってばかりなの。日本でもそうだったんだけど……。お母さんの顔色ばっかり伺って、お母さんの期待に応えたいってばかり思ってた。うち、母子家庭だったから」


「……そうなの」


「厳しい母親だったけれど、でもお母さんにも私しか居ないから、私が居なくなっちゃったら、きっと悲しむ。……どうしたら、帰れるのかな……」


「………」


マキアは黙ってしまった。彼女にはそのような方法、分からないのだろう。

サワサワと、午後の温かい春の風が、庭園の白い花を揺らす。香りの強い花なのか、花をかすめる上品な香りは、母の香水を思い出す。




母はある化粧品会社のエリート社員であった。

母の実家は貧しかったらしいが、本人が努力して名門大学に入学し、主席で卒業した。その後大手の化粧品会社に勤め、結果を出し続けたキャリアウーマン。勝ち組人生の母だと思われていたが、彼女にとって唯一の“負け”は、女としての負けであった。


母はある資産家との間に私を身籠ったが、その男は別の女性を妻に選んだと言う。

結局の所、恋に破れシングルマザーとなった母は、私に、父とその本妻との間の子供に負けないよう徹底した英才教育を施した。


母の期待に応えたい私は、小さい頃から学習塾と多くの習い事に通わされ、自由な時間など無く、気心の知れた友達も少なかった。

それでも母が好きだったのは、母は私が結果を出すととても褒めてくれたからだ。記念日などにはちゃんと側に居てくれたし、お祝いもしてくれた。母には私が全てで、私にも母が全てだった。


母は常に言っていた。

一人でも生きていける力を身につけろと。学問や教養が重要なのではなく、努力出来るかどうかが重要なのだと。


私は母を尊敬していたし、母の期待には出来るだけ答えたかった。

だけど小さい頃から“努力”を求め続けられた私は、息抜きの仕方も女子高生らしい遊びも知らず、何が楽しいのか、趣味は何なのか考えても、何も出て来ないつまらない人間になってしまった。


同級生たちが恋の話に花を咲かせても、私はその感覚すら分からなかったっけ………



「ねえマキア、会ったばかりの人にこんな事聞くの、おかしいかもしれないけれど………マキアは恋ってしたことある?」


「え? 何よ薮から棒に」


「ご、ごめんなさい」


私が突然そんな事を聞いたから、彼女はギョッとした様に瞳を大きくした。

ごめんなさい……本当にこういった話を切り出すタイミングすら分からないの。私ってつくづくお友達の出来ないタイプだわ。


「そりゃあ……無い事も無いわ。あんまり良い思い出はないけれど」


「そうなの?」


「そうよ。私ってモテないの」


「そんなに綺麗なのに……おかしな事言うのね、マキアって」


「……あはは、それはあなたが、本当の私を知らないからよ」


小気味よく笑う彼女は、やはりとても可愛らしい。本当のマキアって何だろう……


「レナの方がよっぽど、男共には魅力的だと思うわよ。異世界からやってきた少女って、とてもミステリアスで気になっちゃうもの。それにあなた、とても優しい可愛らしい面立ちをしているし。私なんて“キツそうで面倒くさそう”と言われるもの。巨乳は馬鹿っぽいとか!! 酷いと思わない!?」


「……そ、そうなの?」


マキアは段々と私怨が混ざっているのかなんなのか、口調が強くなっていった。

ハッと彼女自身それに気がつき、誤摩化す様にコホンと。


「レナは何でそんな話を? 恋をしてみたいの?」


「……何となく、お母さんの事を思い出していて、パッと思い立っただけなの。ゴメンねいきなり。……恋がしてみたいと言うか、どんな感じなんだろうと思って……。お母さんも、お父さんに選んでもらえなかった人だったから」


「………」


マキアは私を見つめた後、その視線をどこか遠く、空の向こう側に向けた。


「恋ね……。恋をした時の感覚は、とても幸せなものよ。でも、安定はしていないの……。その人が自分の事をどう思っているのか、とても気になるし、次はいつ会えるのか、会ってくれるのか、とても待ち遠しい……。好きになってもらいたくて、滑稽な程に色々ちょっかいを出したりね。思い出すと結構分かりやすいものなの。……でも、その人がいざ、自分の事を絶対に好きになってくれないと知ると、急転直下よ。今でもあまり思い出したくないくらい、とても苦しくなるわ。恋なんてもう、したくないと思ったり………って、っあははははは、私はなーにを言っているのかしらね」


マキアはいきなりボッと顔を赤らめ、手をうちわにして顔に風を送っている。

何だろう……15歳の彼女から、遥か昔の恋の話を聞いた様な気がした。いったいそれは、“いつ”の話なんだろう。


ドクン、ドクン……と、私の中で何かが脈打つ。


マキアは笑い声で誤摩化していたけれど、私に向けるその視線は、どこか切ないものだった。


「変な話をしてしまったわね。忘れてちょうだい。過去の事だもの」


「……ううん。ありがとう。何だか、とてもドキドキする。女の子同士の話みたい」


「女の子同士のはずだからね」


私は自分自身、高鳴る胸に手を当てた。

マキアは困った様に笑って、視線を僅かに落とした気がした。



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