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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
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11:マキア、この中で一番の暇人。

聖教祭二日目は、新王であるレイモンド王の戴冠式でした。

私とトールはその式典に出席し、あの胡散臭いレイモンド卿が王冠を賜る所を淡々と見つめていました。


ああ、これで私たちはあの人の手駒になるのね。

いえ今までもそうだった気もしますが。


粛々とした式典の後、王宮の外で待つ国民の前に出て行った新王のドヤ顔に、乾いた拍手を送る私たち。


「国民の諸君、今日この日より、ルスキアは大きく生まれ変わる。しかし何も心配はいらない。私が王となるのだからな」


レイモンド王は王宮の広場に集まる国民に向かって、発言しました。

確かに、彼が王となる事で、この国は大きく変わるでしょう。より開けた、より改革を求める国に。


国民は不安さえあれど、レイモンド王への期待は大きい様で、大歓声を送っていました。

晴れやかな空には、大きなヴァルキュリア戦艦が並んで留まっています。


この国にはとても似つかわしくない、最先端の戦艦。

まるで地上と空で、世界が違うかの様です。何が違うって、きっと素材でしょうね。


戦艦に見られるフォルムや素材は、この国ではお目にかかれないものですから。

レイモンド王は、ここからこの国を、その素材に近づけようとしているのです。









その日、レイモンド王はとても慌ただしくしていたのですが、スケジュールの合間で、私とトール、ユリシスを自分の元に呼びつけました。その場には、シャトマ姫とカノン将軍、そしてレナが……。


「やあ、魔王様諸君。私も王様だよ」


「……何を今更……」


すでに国王として活動していたくせに、バッと親指を自分の方に向け晴れやかな顔でそう言うレイモンド王。


「こらレイモンド。……無駄話をしている余裕はあるまい」


シャトマ姫がソファーで足を組んで、ピシッと。

レイモンド王は「そうですね」と、王様になってもどこか下手に出ています。


「君たちを呼んだのは言うまでもなく、少し聞いてもらいたい事があるからだ。さーて、私は今とてもそわそわしているよ。私以外は皆、とても貴重で、この世界を動かす力を持つものばかりだからね……。ルスキア国王など、とても小さな存在だ……」


「………」


「さあ、レナさん。こちらへ……」


レイモンド王はシャトマ姫の隣で小さくなっているレナを呼びました。

レナはこの、何とも威圧感のあるメンツの中で、本当に青ざめていましたから。


おどおどしていたレナを、シャトマ姫が「大丈夫だ」と言って立たせます。


私たち三人は、改めて、その“異世界から来た少女”を見つめました。


「もう既に出会っているかと思うが、改めてご紹介させて頂こう。彼女は“レナ”だ。表向きはフレジールからの客人と言う事になっているが、このメイデーアに古くからある伝説……“異世界からやってきた少女”に該当する存在だ」


レイモンド王がそう言うと、私とトールはそこまで驚かなかったのですが、ユリシスが少し瞳を動かした様でした。

しかし特に大きく反応するでも無く。


2000年前、異世界からやってきた勇者を探した、白賢者ですもの。


「さて、ここにいる者たちは、皆この事実をすんなり受け入れる事が出来るだろう。そして気がつくはずだ。とうとう“異世界からやってきた”のかと。……それはこの世界に、何かしら起ころうとしている前触れだとね。2000年前の勇者は、そこに居るカノン将軍だったとしても、この時代の勇者に該当するのは、もしかしたらこの“レナ”かもしれない。それだけ、世界の明暗を掴んでいる存在と言えるだろう。何しろメイデーアの救世主なのだから」


「そ、そんな……私は……」


レナが少し驚いた様に、話に割って入ろうとしたが、この場の空気に負けてしまい、また口をつぐみました。

あら可哀想に。


「レナさん……君がいくら否定しようが、事実そうなのだ。君の存在は、とても大きい。それゆえに、君は諸刃の剣と言える。異世界からやってきてすぐに見つけたのが、フレジールで良かったと思う。敵側にまわれば、君は我々の脅威となりうるだろうからね」


「………」


レイモンド王の、何とも意味深な笑み。

私は悟っていました。ここにいるレイモンド王やシャトマ姫、カノン将軍は、彼女を何かしらの切り札だと考えている。

言ってしまえば、利用出来ると思っているのでしょう。まあ、悪く言えばの話ですが……


「レイモンド王……よろしいでしょうか。まさか、彼女を表に出すおつもりでは?」


トールがすかさず問います。シャトマ姫も、カノン将軍も、スッと彼に視線を向けました。しかしトールも負けていません。

彼の魔力は研ぎすまされ、緊張感の中にあるのです。


「ははは、やはり気になるかねトール君。いや……“まだ”表に出てもらう訳にはいかないよ。こういうのはタイミングが必要なんだ。……って言っても、我々が何をしようが何をしまいが、彼女を導く多いなる世界の意志が、否応無しに表舞台へ引き出すだろうけど……。そうですよねシャトマ姫?」


「ああ、間違っちゃいないな」


シャトマ姫は肩を上げ、ふふっと微笑みました。

トールはとても複雑そう。


「まあ、そう心配しなくても、彼女を守るのは君たちだ」


「……どういう事ですか、叔父上」


ユリシスが眉を寄せ、不審そうにレイモンド王に問います。


「レナさんは非常に特殊な存在だ。ルスキア王国が預かるとはいえ、この国にもすでに連邦の刺客が入り込んでいる。どこで彼女の存在がばれ、誰が彼女を狙ってくるか分からない。そこで、顧問魔術師の君たちには、彼女の護衛を頼みたい」


レイモンド王はレナをちらりと見て、そして再び私たちに満面の笑顔を見せました。


「ははは、予想はしていたけれど、そんな怖い顔を3人に向けられると、背筋が凍るね」


「………」


私たちは瞳を細め、複雑な思いはあれど、何か言う事もありませんでした。ただちょっと怖い顔をしていただけです。

レナは私たちと、レイモンド王、そしてシャトマ姫とカノン将軍を順番に見ては、状況について行けていない様な、不安そうな表情をしていました。


私たち3人はこの世界に“転生”を果たし、平凡な生活からスタートする事が出来ましたが、彼女は違います。

いきなり、自分の存在も立場も、世界さえ変わってしまって、自分の知らない所で救世主だとか持ち上げられたりする。


それはとても、大変な事です。



「そこで、マキア嬢……これから私とシャトマ姫、そしてトール君とユリシス殿下は、公務がある。レナさんに王宮を案内してあげてくれないかな?」


「え」


私はあからさまに、妙な顔をしてしまいました。

別に嫌とか、そう言う事ではなく、単純にびっくりしたのでした。


まさか自分がこうもすぐに、レナと言う少女と関わる事になるとは思っていなかったのです。


確かに、今このメンツで暇人は誰だ! と言われたら間違いなく私になるんですけど……


「駄目ですレイモンド王。マキアは駄目です」


トールがすかさず、否定しました。

それにはユリシスも、フレジールのメンツも驚いています。


「なぜだいトール君」


「………」


トールからしたら、私とレナをあまり関わらせたくないのでしょう。しかも、自分の居ない所で。

気持ちは分からなくもないですが……言い訳も出てきませんよね。


「ま、まあトール。私は別に……」


「マキアは体調がすぐれません。本来なら、今日は休んでいるべきだ」


「……!? おや、そうなのか、マキア嬢」


レイモンド王は驚いた様に私を見たので、私は曖昧に視線を泳がせます。


「いや、別にそんな……。もう大丈夫です」


私は前に出ているトールの腕の服を摘んで引っぱり「ちょっと、私は大丈夫よ」と言いました。


「何が大丈夫なものか。お前、今朝までずっと教国で……」


「い、良いからトール。そんなに心配しなくても」


「お前はいつも自分の事を隠すだろう。大丈夫だって? 昨晩だって、そうやってお前、魔力が乱れたんだろう」


「今度は本当よ!! 何よあんた、過保護も大概よ!!」


トールと私は、この面前で言い合ってしまいました。

ユリシスは「まあまあ二人とも」と、私たちを宥めようとしていましたが、シャトマ姫は「何だ痴話喧嘩か?」と、愉快そうにコロコロ笑っていました。カノン将軍は相変わらずだんまり。


レナはポカンとして、私たち二人の言い合いを見ています。


「あ、そろそろ行かなければ……」


レイモンド王は時間を見て、分国の賓客との会合に向かうようでした。

それには、トールもユリシスも参加します。


「大丈夫だ、トール君。マキア嬢には無理をさせないよ……。レピスにもついてくれる様、頼んでいる」


「………」



トールは最後まで複雑そうな顔をしていましたが、会合の時間が迫っていたので、渋々部屋を後にしました。


「お前、何かあったら俺を呼べよ」


と、最後まで私に念を押して。

ユリシスも、トールの普通で無い態度に違和感を感じたのか、私と彼を見比べ、首を傾げたりしていました。


「……紅魔女、少しの間、レナの話し相手になってやってくれ? 彼女には、親しく話せる者が必要だ」


「は、はあ」


シャトマ姫は、私の肩にポンポンと手を置いて、どこか困った様に笑いながら。

その後をついて行くカノン将軍は、私たちをその鋭い瞳で見下ろしただけで、最後まで何も言いませんでした。




「………」


「………」


ぽつん、と部屋に残された私とレナ。

流石にレナは緊張感から解放された様で、側のソファにボフッと座り込んでしまいました。


「ああ、なんでこんな事に……」


頭を抱えボソッと呟いた言葉が、何となく面白かったです。


「あはは、そりゃあそうよねえ。いきなり異世界に来てもねえ」


「………」


レナは私が小気味よく笑ってそう言ったので、顔を上げました。


「レナ……だったわね。前にも会ったけれど、私はマキア・オディリールよ。よろしく」


「……マキア」


「そう。あなたはどこからやって来たの? 前に着ていた制服から見て、日本のように思ったのだけど」


「そ、そう!! 私、日本から来たの!!」


レナが、目に涙を溜めて、勢い良く私の手を取りました。

懐かしい単語が出てきたからでしょうか。


「私、東京からやってきたの。清南大付属高校の、一年生なの……っ」


「あら、知っているわよエリート進学校じゃない。私も東京に住んでいたのよ。ちなみに、さっきここにいた、トールとユリシスも。私たち、高校一年の冬に死んじゃって、この世界に転生したの」


「………」


レナは瞳を目一杯に見開いて、不思議そうな顔をしていたのに思わずポロッと涙をこぼしました。


「あ、あれ……ごめんなさい。私、何だかとても不思議な気分。まさか、こんな所で、日本を知っている人に会えるなんて……」


彼女は涙を拭って、それでも押さえられない何かがある様でした。


「お母さんも、きっと私の事、心配している………。私、日本に帰りたい……っ」


「………」


レナは、日本に帰りたいという望みを言う事を、我慢出来ない様でした。


私も、とても不思議な気分です。

何ででしょう。目の前の少女の反応は、とても当たり前のものだったのに……。


そう言えば、私もトールも、ユリシスも、地球に……あの世界に帰りたいなどと、一度も言わなかった。


何でかしら。

メイデーアが、本来の世界だから?


私たちにとっては、この世界に戻ってきたと言う感覚が大きかったのでしょう。

メイデーアの膨大な記憶が、そうさせるのです。


レナにはそれが無い。

だからこそ、地球が彼女の中の、一番の世界なのでしょう。


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