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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
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09:トール、黄金の林檎の術式を解く。

3話連続で投稿しております。

ご注意ください。


教国、と聞いて、俺の中に湧いて出てきた妙な不安。

いったいなぜマキアがそんな所に居ると言うのか。


まさかエスカがマキアを……。


「………」


いや、考え過ぎだ。

マキアの位置情報は確かに教国の“真理の墓”の側であるが、その上階であるようだし、棺に入れられた訳ではないだろう。

いくらエスカと言えど、マキアがそう簡単に負けるはずも無い。


きっと、ペルセリスにでも会いに行っているに違いない。


そうは考えながらも、俺は急いで教国へ向かった。









教国に着くと、夜と言う事もあり司教たちに足止めされた。

マキアがここに居るだろうと言うと、それでも大聖堂の奥へ行く事は出来ないと言われた。

今日の司教たちは、どこかソワソワしていて、それが逆に気になってしまった。


お引き取りをと言われたが、はいそうですかと黙って帰る俺ではない。

俺は空間魔術師だ。忍び込むのは大の得意と言える。


人と会う事無く、結界に引っかかる事無く、大聖堂の奥へ進む。


流石に教国の結界は厚く、複雑であったが、俺はそれを一つ一つ跡の残らない様にくぐっていく。


やはり、と思ったが、教国の奥の間の、黒い扉の前に出た。


「………マキア、地下の庭に居るのか?」


でも彼女の存在を示す赤い点は、地下の“真理の墓”まで降りきっていない。

考えても仕方が無いから、扉を開き中へ入る。


久々にこの階段を下っていく。

王都へ戻ってきてから、俺は教国に訪れる事は無かった。


「………?」


途中、神話の壁画が描かれている空間で、俺はマキアの現在地が自分の頭上にある事を知る。

階段を下る途中、どうにも通り越したようだった。


「上に知らない空間があるのか……」


調べてみた所、真理の墓へ降りていく間に、俺たちが足を踏み入れた事の無い間がいくつも存在するようだった。

マキアは、神話の壁画のある空間の、二つ程上の間に居る様だ。


「……居場所が分かったって、どうやって行けば良いんだよ。教国ってやっぱり謎が多いな……」


司教たちにしか分からない、謎めいた空間があるんだろう。

いったいなぜマキアがそんな所に居るのかと疑問であったが、とりあえず俺は、その神話の壁画のある空間の壁を調べた。

きっとどこかに、秘密の入口でも何でもあるはず。


キューブに抜け道となる隙間や空間が示される。


「……ここか」


神話の壁画は何度か注意深く見た事があったが、これといった情報を得る事は無かった。

真理の墓に降りて行く通路とは反対側の、隠れた場所に描かれる神話の絵は、3人の女神が林檎の樹の下に集っている図。


パラ・デメテリス、パラ・プシマ、パラ・マギリーヴァ……


その図の林檎の一つが、何やら不思議な魔力を帯びていた。

俺はその術式を解読し、鍵穴に鍵を埋めこむように魔力を整える。やたら難解であったが、俺には膨大な術式を処理する術がある。

マキアなら命令で一瞬なんだろうけれど……


しばらく作業し、術式を解くと、壁画の林檎が金色に光った。

すると、驚いた事に俺は一瞬で別の空間に飛ばされた。


「……転移魔術かっ!?」


林檎の術式は、俺を別の場所に転移させる為の魔法が組み込まれていたようだった。







そこは、今までの暗い通路とはうって変わって、明るく白い、植物の多く植えられている間。


どこからか水の音が聞こえ、真理の墓と非常に良く似た魔力を感じるが、人工的に整えられた庭の様で、大樹のあるあの場所とは、圧倒的に何かが違った。


何と言えば良いんだろう。

とても近代的に見えるのだ。


地面は土ではなく、黒く硬質なもの。

壁の窪みを水が伝っているようで、それは何か特別で象徴的なものを描いている様に思えた。


「………マキアは……」


マキアを探していたのに、思わぬ所へ来てしまった。

キューブを見ると、マキアの位置を示す赤い点は見えない。それどころか、ここがどこに位置するのかも分からない。


「何故だ」


俺は頭を掻きながら、ため息をつく。

妙な場所へ飛ばされた。


教国のトラップか何かだろうか。しかしあの複雑な術式を解読してやっと辿り着ける場所であると言うのに、トラップだというのはおかしい。


「………?」


空間は高く、広い。

真理の墓と同じくらいあるだろうか。


黒く艶のある地面を踏みながら、俺はその空間の最も魔力の集っている部分を目指した。








「…………」


息を飲んだ。

この空間の中心にあったものは、白い球体。


多くの植物の蔓に守られる卵の様にも見える。

水はこの球体に集結している様で、白い球体に近い程、黒い地面の窪みを伝う水はきらきらと輝き魔力を帯びていた。


じっとそこに留まる造形物の様に見えるのに、脈打っているのが分かる。

と言うより、起動しているのが分かる。


この球体は、常に“何か”をしている。魔力が緻密に、術式を書き続けている。

その膨大な量に言葉が出ない。


理解出来ない。



「……おい、何をしている」



気配を察知する事が出来なかったが、背後から声をかけられた。

俺に気配を察知させない時点で、そいつが誰なのかすぐに分かった。


エスカだ。


奴は司教服のまま腕を組んで、酷く気の悪そうな表情をして俺を睨んでいた。


「……エスカ」


「おい、どうしててめーがここに居るんだ。どうやってここに来た」


「……どうやってって。マキアを探していたら……いきなりここに飛ばされたんだよ」


「……? ああ、紅魔女を捜して、か。さては“黄金の林檎”の術式を解いたな、てめー」


「黄金の林檎?」


エスカは「ザルだなここも」と、皮肉を言いつつ鼻で笑う。

白と黒の長い衣を引きずって俺の隣まで来ると、エスカは見た事も無い様な恍惚とした瞳を、例の白い球体に向けた。


「素晴らしい……いつ見ても素晴らしい。お前、これが何か分かっているのか?」


「………いや、分からない。膨大な魔力を持った……何だあれは……」


「あははははは!! ははははっ!! ばっかかてめーは。“神器”に決まってるだろうが。……緑の幕を展開し、維持し続ける神器“豊女王の殻”だ」


「……神器?」


俺は驚いたが、すぐさま理解して、納得した。

どうして思い至らなかったのか。これは緑の幕を展開している神器………神話の時代の産物だ。


「言ってしまえば巫女様の神器でもあるが、今これを管理しているのは教国だ。とは言え、巫女様の力が無ければ出来ない事もあるがな。流れてくる水は、大樹の恵。魔王クラスの遺骸から絞り出した魔力の水だ。それは常にこの殻に注ぎ、緑の幕を展開する燃料となっている」


エスカは得意げに説明しつつ、殻の周りを歩いた。


「これがパラ・アクロメイアの泉、これがパラ・クロンドールの泉、これがパラ・ユティスの泉………パラ・プシマ、パラ・デメテリス……パラ・トリタニア、パラ・エリス……」


窪みに溜まり、常に供給される水を指差しながら、奴は名を唱えた。

一つ一つ、泉と言うよりは小川のようであったが、違う魔力が流れている。それは、何となく分かる。


「……ふん、これを見ろ」


「………」


ただ、一つの窪みだけ、水が枯れていた。

俺はそれが何なのか、すぐに理解する。


「……マキアの……」


「そうだ。奴は“パラ・マギリーヴァ”の魂を持った魔女だ。この泉が枯れているのが何よりの証拠」


「……そうなのか?」


「そうなのかって、お前気がついてなかったのか?」


「い、いや……何となく、マギリーヴァかと思ってはいたが、それを裏付ける決定的なものは何も無かったから」


「………」


エスカは妙な顔をしたが「なるほどな」と、意味深な事を呟く。


「確かに、マギリーヴァを決定づけるものは無い。ただ空席の棺がマギリーヴァのものだけだと言う事が、ある意味の証明だ。……いやでも、確かに、マギリーヴァは一番謎であるのは確かだ。本来、神器がそれを証明する絶対的な象徴であったが、マギリーヴァには神器が……いや……」


「……?」


奴は自分で勝手に唸りながら、首を傾げる。

エスカは色々と知っているようだった。神話の時代の、俺たちの忘れてしまっている何かを。



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