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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
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07:マキア、エスカの顔面を砕きたくなる。


「………」


ザーザーと水の流れる心地よい音で目を覚ましました。

一時ぼんやりと高い天井を見ていたけれど、見知らぬ場所であると意識出来たのはすぐの事でした。


「おい、起きたか」


「………」


視線だけ横に向けると、司教服姿のエスカが。

私は思い出します。王宮の回廊で、倒れてしまったのでした。


「……ここ、どこ?」


「教国だ。お前が倒れてしまったから、連れて来たんだ。本当はそのまま地下の棺に放り込もうと思ったんだが……巫女様に駄目だと言われたからな」


「………」


エスカはやれやれと言う様な、腹のたつポーズ。

こいつなら本当に、私を棺に入れかねないなと。


「私どうしちゃったのかしら」


「……お前、体内の魔力の流れがやけに乱れていたぞ」


「……?」


何故でしょうか。体内の魔力に影響が出る程、そもそも最近大掛かりな魔法を使っていないと思うのだけど。


私はゆっくりと起き上がりました。

そこは、壁から水が流れ、床の複雑な窪みを流れている神聖な部屋でした。


「ここは、気を沈め体内の魔力の流れを整える神聖な力のある間だ。下衆な魔女が入れる場所じゃない。巫女様が、おめーにって聞かないから……。いいか、ここは本来紅魔女の様な卑しい魔女が入れる場所じゃ無いんだからな!!」


エスカが何やら大事な事を二度程言った様でした。

私は気にせず、広間を見渡します。


「……通りで。もう全然苦しくないわ。さっきまであんなに痛かったのに」


私はそっと、自分の左胸の上の方を押さえました。


床の細く入り組んだ模様に、絶え間なく水が流れているのは、体内の魔力を示す呪いの様なものでしょうか。

いやはや、何度か教国を訪れているのに、このような場所は初めて入りました。

やはりここは、まだまだ謎が多いです。


「所でエスカ、今って何時? もうパーティーは終わってしまったの?」


「あ? 今は早朝の4時頃だ。ちなみに言うと、俺は一睡もしていない」


「……あんたずっとここに居たの?」


「当たり前だろうが!! お前が目を覚まして、魔力が暴走でもしたら、速攻殺してやろうと思って」


「………」


魔力が暴走か。

か弱い乙女が倒れたと言うのに、なんて物騒な言い分で私を身張っていたのでしょう。


「何しろ、西の大陸を丸焼きにした悪名高い魔女だからな」


「……否定はしないけど」


エスカは私の寝ていた固い寝台の隅に腰掛け、司教用の帽子を取り外し、その帽子の中から黒い亀を取り出しました。

っていうか、そんな所に精霊を!?


「あえて突っ込んであげるわ。なんでそんな所に亀飼ってんのよ」


「は? ちげーよ。こいつが勝手にここに入ってんだよ。すぐ俺の帽子の中に入りたがる。頭が重いとだいたいこいつのせいだ」


エスカはぽいと、亀をベッドの上に置きました。

その黒い亀は、のそのそと私のほうへ近寄ってきます。


「あら……案外亀って可愛いのね」


「おいタータ。そいつんとこ行くなって。食われるぞ。鍋にされるぞ」


「………」


別にコラーゲンは足りてるんですけどね。この男は私をいったい何だと思っているのか。

精霊ブラクタータはのそのそと膝に上ってきて、首を伸ばして私を見たりしています。ちょいちょいとその頭を撫でてみました。


チラリとエスカを見て、私はここぞと思って、さり気なく質問してみました。

こいつと二人きりで、落ち着いて会話出来る機会なんて、そうそうありませんから。


「ねえエスカ。私、少し聞きたい事があるんだけど……1000年前って、あんたと藤姫と、青の将軍が居た時代なのでしょう? その……勇者って居たの?」


「………」


エスカはピクリと眉間のしわを深くして、チラリと私の方を見ました。


「……回収者の事か? はん、1000年前は“勇者”とか言う大層な立場じゃなかったけどな。それでも当然、“奴”は居た。俺たちの居る時代に必ず現れるのが、あいつだからな」


「なら、勇者……いえ、回収者とあんた達は、争っていたの?」


「………違うな。お前たちの時代と根本的に違う所はそこだろう。回収者と俺たちは、むしろ協力関係にあった」


「え? ど、どういう事よ」


「1000年前、それ以上の敵が、俺……そう“聖灰の大司教”と“藤姫”には居た。“青の将軍”だ」


「青の……将軍」


「……特に藤姫は回収者と協力して自国を守っていたし、俺も大司教と言う立場上、緑の幕を正常に動かす義務があった。俺たちは回収者の事情を知った上で、協力関係を築き、最終的に自分の身を捧げる事を条件に“奴”に力を借りていた訳だ。その頃から、北の大国は東や南を侵略しようとしていたからな。移民との混乱や争いに乗じ、青の将軍がそのように画策していたんだ」


「………」


青の将軍。

前に一度、トールが会ったと言っていた。


先日の、魔族襲来事件も、結局の所この“青の将軍”が絡んでいると考えられていますし、連邦にこいつが居ると言う事は分かっています。

しかし驚きました。藤姫が勇者と親密な関係を今でも築いていると言うのは分かっていましたが、まさかエスカまで、奴と協力関係にあったとは。

しかしエスカの立場上、勇者の存在は肯定すべきものなのも分かります。


「だったら、1000年前、勇者はいったい何者として存在していたの?」


「……なんで俺がお前に、そんな事いちいち教えないといけないんだ」


「何よあんた。さっきまでのりのりで教えてくれたじゃないのよ!!」


「別にのりのりじゃねーしっ!!」


エスカはバンとベッドを叩いて、いちいち声を上げるのでうるさい。


「良いじゃないのよケチっ。私だってねえ、色々知りたい事が多すぎて、もう訳分かんないのよ。勇者はいちいち意味深な事を言うし、藤姫は含み笑いだし、あんたは馬鹿だし」


「……あ、お前今、馬鹿って言った?」


「はあ〜……何だかなあ。ヘレーナは出てくるし……」


「お前誤摩化すなよ? 馬鹿って言ったよな?」


「もうやんなっちゃうわよ」


エスカが何やら言っていましたが、私はベッドの上で膝を抱え、はあとため息。


そして今更ながらに気づきました。

昨晩着ていたドレスでは無く、白いゆったりとした教国仕様の服を着ている事に。


「ちょ……え、ちょっと今更なんだけど……まさかあんたが着替えさせた訳じゃ無いわよね?」


「はあああああ? まっさか、嫌がらせか」


「………」


エスカは本気で嫌がり、腹が立つ顔で笑いました。


「白賢者じゃあるまいし、お前の様なガキに興味ねえよ」


「あ……」


やはり、ユリシスってそう言う風に思われてるんですね。

お察しします。


「あんたね……私はガキって言ってもそこそこ……」


「何が? 胸が? 俺巨乳って嫌いなんだよな。巨乳の女って馬鹿っぽいって言うか、ただの脂肪ぶらさげてるだけじゃねーかよ」


エスカは堂々と私の胸元を見てそう言うのです。

顔面を砕いてやろうかと思いました。


流石は司教。見事な禁欲っぷりですねえ。ぶっ殺す。


「……あんたね。言っとくけど、あんたの崇拝する藤姫だって、そこそこ“ある”わよ!! あんた藤姫も馬鹿って言うつもり? あーあ、今度言ってやろー藤姫に言ってやろー。元聖灰の大司教がそう言っていたって」


「あ、お前……ふ、ふざけんな!!」


エスカがガラにも無く焦り始めました。こいつ、本当に藤姫信者なのね。


「お前と藤姫を一緒にすんなクソが。あああ、あの人は聖女なんだよ!!」


しまいにはこれです。

私は肩を竦め首を振りました。


エスカは「ケッ」とか「ハッ」とか言って何かを誤摩化そうと必死でしたが、その様子を呆然と見つつ私は思いました。

こいつは見た目の凶悪さが目立ってしまっているけど、ある意味とても単純で一途なんだなと。要するにやはり馬鹿でした。


「で、あんた私の質問覚えてる? 勇者って、1000年前はどんな立場だった訳?」


「立場? んなもん無い様なものだ」


「はい?」


「あいつは1000年前、本当に影に徹した存在だった。2000年前の様に、歴史の表舞台に出てくる事は無かったんだ」


「………」


私はただ首を傾げただけでした。

いったいどういう事でしょうか。


「だったらあんた、“世界の法則”って知ってる?」


「世界の法則……?」


「ええ。勇者が私に言ったのよ。……世界の法則が最大の敵だって」


「………」


ふいに、エスカが瞳を細め、何やら少し逸らしました。

こいつはやはり、教国の司教と言うだけあって色々と知っているのでしょう。


「それは……あれだろう。神話の時代の話だ」


「……と言うと」


私はゴクリをつばを飲んで、若干前屈み。

ここでエスカを振って、色々と情報を落としてもらわなければ。


「想像と創造の神パラ・アクロメイアが定めた法だ。世界はいまだに、この神の作った法が作用している。……俺も詳しい事は分からないが、レナ? だっけか? あの異世界から来た娘は、勇者より複雑な法則のもと存在する神々への“影響者”だ。お前もあの娘と関わるなら、覚悟した方が良いだろう。詳しい事を知りたかったら、自分で回収者に聞け。神話の時代の事をはっきりと覚えているのは、あいつくらいのものだ」


「………」


さて、聞きたい事を聞いたはずなのに、更に良く分からなくなったのは何故でしょうね。

私はいまだに、自分が何の神様だったのかも意識出来ないのに。


エスカもなぜか少々大人しくなって、タータを膝の上に乗せてかまっています。

ザーザーと、水の流れる音だけが、嫌に耳について離れませんでした。



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