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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
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05:マキア、運命の出会い再び。

「マキア様、何だかお元気がありませんね。……カノン様と再会したからですか?」


レピスがドレスの着替えを手伝いながら、私を気にかけてくれます。

今回のドレスは、鮮やかな紅の、金色の装飾のあるドレスでした。金の細工は胸元を上品に飾ります。

金の細工には所々エメラルドがはめ込まれていて、赤をより引き締めてくれるアクセサリーです。

髪飾りも、いつものリボンではなく、耳の上の所にくっつける金とエメラルドの幅の大きなものでした。


私はレピスをちらりと見て、小さく頷きます。


「……そうね。色々あるわね」


「らしくないですよ、紅魔女ともあろうお方が。心配せずとも、カノン将軍はまだあなたを殺そうとはしません。それに、あなたはそう簡単に殺される程、弱い魔女では無いでしょう?」


「……まあ暴力的な面ではね」


確かに私は紅魔女。正直な話、そう簡単に倒させてあげるものですかと思ってなんぼの存在です。


でも、そこじゃないのです。


「別にそれは良いのよ。ただ……何でかしらね。全く勝てる気がしないのよ」


「……はい?」


レピスは私の説明足らずのつぶやきの様なものに対し、不思議そうにしています。










「なあ、マキア。一年前のパーティーを覚えているか?」


「……ええ。私が……ユリシスと初めて出会って、そして勇者と腹立たしいダンスを踊った時の事よね」


「そうそう。俺は教国から抜け出してきたペルセリスと一緒に、木の上で見てたり見てなかったり……」


今、私たちは、一年前に運命の再会を果たした王宮のサロンへ向かっています。

ちょうどこんな、春の穏やかな夜。


私は真っ赤なドレスを着て、トールは真っ黒な服を着ている。


「なんて言うか、一年で立場は随分と変わるものね……。私も一年前のドレスよりずっと豪華なドレスを着ているし、トールなんてサロンにも入れてもらえなかったのに今じゃ王様だもの」


「怒濤の一年だったな……色々あったよ。でも、一年間平和と言えば平和だったな」


「……そうね」


平和、という言葉の響きが、今の私には少し複雑に聞こえました。

それは本当に平和だったのかしら。


ただの、嵐の前の静けさだったのでは無いかと。


「お前、やっぱり勇者の事、不安がっているんだろう」


「……ん? いや、別に勇者の事はそんなに……」


部屋での会話が途中になっていた分、トールはやはり私の表情なんかを気にしていました。


「そもそも、お前本気を出したらめちゃくちゃ強いんだから、怖がる必要も……」


「あのね、だから私は別に勇者を気にしているんじゃなくって……あんたの……」


「俺? なんだよ」


「……」


何も知らないトール。私は彼をチラリと見上げ、そしてまた視線を逸らしました。

トールは、彼女に会ったら衝撃を受ける。どっちに転ぼうが、きっと。


「……大丈夫だよ。お前は俺が、ちゃんと守ってやるから。……たとえお前が強くても」


「トール……」


「お前、体を傷つけないと魔法を使えないからな」


トールが何か格好良い顔をして言いました。

格好良いから無性に腹が立つ。罪な男ってこう言う奴の事を言うんでしょう。



「やあ、トール君、マキちゃん」


「あれ、ユリお前、新婚初日に何パーティーに参加してるんだ?」


ユリシスが私たちを見つけ、駆け寄ってきました。

ちょうどサロンに入ったばかりの時でした。


「だってフレジールのお客様たちも居るんだよ。それに……ほら、カノン将軍だっているんだ。君たちだけを向かわせて、僕だけ新婚を堪能なんて出来ないよ」


「……ユリ」


彼は相変わらず忙しくしています。

ユリシスは私の方を見て、すぐに何かピンと来た様でした。


「あれ、マキちゃん。どうかした? 体調でも悪いの? それとも、やっぱり勇者が……」


「え? あ、いや……あんたって凄いわね。すぐ気づくんだもの」


「何だかいつもと違う気がしたんだよ。大丈夫だよ、僕ら三人が揃っていれば、無敵じゃないか」


「……そうね」


私はふふっと笑って、頷きます。

流石結婚して家庭を持つ男は頼もしいですね……。


「何だよお前、俺が大丈夫だって言っても、なんか『はいはい』みたいな反応だったくせに、ユリが言うと安心するってか」


「あんたとユリじゃ、もう全然違うわよ。安定感が違うわよ」


「何だよそれ」


「もう二人ともやめなって。皆見てるから、ここサロンだから」


私とトールが軽く言い合い、ユリシスが相変わらずフォローにまわっていた時です。

カツンカツンと、ハイヒールの音が近づいてきて、そして私の真横を通りすぎていきました。




ふわり



春の生暖かい風と共に、後ろから横切る薄い色素の、長い髪。

まっすぐで、シャンデリアの下では特に輝いた糸の様。


私はその一瞬から、嫌でも2000年前の、淡い金髪を持った美しい少女の像を思い出してしまいました。


「シャトマ姫〜」


その少女は、サロンでシャトマ姫を捜している様で、あっちへふらふら、そっちへふらふら。

白い着慣れないドレスを着せられたんでしょう。

動きがぎこちなく、周りの視線を集めています。


そう、昼間に見たレナでした。


「あれ、あの子……シャトマ姫と一緒に叔父上の部屋から出てきた子だ」


「何だ、シャトマ姫の親戚か何かか?」


ユリシスは当然ですが、トールはまだその少女が、かつて自分の妻であったヘレーナだとは知りません。

私はドッと冷や汗をかいて、震える両手で頬を覆います。


ああああああ、もう駄目だわもう駄目だわ。


何が駄目なのか、自分でも言葉にできないけれど、私はただただ、青ざめていました。

もしその少女が振り向けば、何かが完全に終わってしまうと、私の中で生まれてこのかた感じた事も無い様な焦りと恐怖があったのです。


そしてこんな時にかぎって、レナはドレスの裾を踏んでしまって、転んでしまうのです。

いえ、分かります。地球の現代日本に居た人間に、内臓を破壊するつもりかと言いたくなる程腰を締め上げる裾の長いドレスを着せた所で、踏んでしまうのはドジでも間抜けでもなんでもありません。

当たり前です。


だけど、レナは注目を浴びています。


「いたたた……」


恥ずかしいのか顔を真っ赤にして、腰を押さえて立ち上がろうとしています。


「あらら……大丈夫かなあの子」


「ちょっと見てられないな」


ユリシスとトール。

二人はその子に救いの手を差し伸べようと、いそいそとそちらへ近づくのです。


「あの、お嬢さん……シャトマ姫をお探しでしたら、きっとあちらの方に……」


ユリシスがそう言いつつ、トールがユリシスより先にしゃがみ込み、立たせてあげようとします。


「……」


「………」


ああ。



トールの顔を見た瞬間のレナの乙女がちな表情は、まあトールですから、で解決。

ルルー王女の時もそうでした。


そして、レナの顔を見た時の、トールの表情。



こればかりは、何と言って良いのか分かりません。

ええ、彼のこの表情は、多分彼女がヘレーナだと分かってしまった表情です。

その黒い瞳を一度大きく見開き、呼吸が止まったのではと思う程、長い間固まっていました。


レナはトールの反応に戸惑いつつ「あの……」と、手を取られたまま。




南無三。御愁傷様ね。


何故か、とっさに自分自身にかける言葉はこれでした。

多分私はとても混乱していたんだと思います。


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